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うたいびと  作者: 元帥
第二章~消失~
21/25

5

 京都府京都市東山区、敵地は清水寺だった場所に居住を決めていたらしい。流石に時代の流れとうたいびとの事もあり、その姿は見るも無残な容姿に変わり果てている。

 観光地で有名だったであろう寺も銃弾の跡や砲撃の跡が惨たらしく傷だらけだ。

「ここにいたのか三人目は?」

 アレクの問いかけに隣にいたタスクは応じる。

「はい、日本支部は総動員して清水寺を破壊しました。おかげでこの有様ですが」

 やれやれといった風にタスクは日本支部がやらかしてくれた行動に肩を竦めて建物に触る。

「アレク殿はうたいびとと交戦したんでしたかな?」

「ああ、彼女たちは良い奴らだ。人類の事を滅ぼそうと考えてくれているからな」

「それは重畳、有り難い事です」

 タスクの物言いにアレクは笑みを浮かべる。

 アレクは人類の事は滅んでしまえばいいと思っている。そしてタスクもその一人なのだ。だがタスクの考えは人類が滅んでしまえばいいという事ではなく、人を殺したいという考えなのだ。

 滅ぼしたいためにアレクは人類を、我欲の為にタスクは人を殺すのだ。同じ意見のようで少しだけ違うが、行き着く先は人の殲滅なのだ。

「声は聞こえるか?」

「微弱ながら生きておるが……だがここではありませんな」

「お前も、大分人間離れしてきたな?」

「はは、完璧に人としておられるアレク殿と比べられたら、私などまだまだですよ」

 ずっと目を閉じているようにしていた瞼は、実の所とある物を隠すために閉じていたのだ。瞼を開けた眼球は空洞があるように思わせるが、本来白い部分である強膜が黒く染め上げられており、瞳孔を中心に金色に輝きを帯びている。

 彼もまた、本国で訓練を受けた人間だった。四段階目のテストで彼の脳は完全におちびとへと変化し、廃棄処分されるところまで行き着いた。闇に葬られた筈の人間だったがアレクが拾い部下にしたのだ。

 タスクの事情を知っているのはアレクしかおらず、本国の人間で彼の事を知っているのは誰一人としていないだろう。いや、見逃しているふりをしていそうな男がいることをアレクはその顔を思い浮かべる。

 彼だけが、アレクの中で唯一心境を読めない男なのだ。線が細い優男の癖に、妙に頭がキレる男がクラウスなのだ。

「ところで、彼らは如何いたしましょうか?」

 アレク達と一緒に着いてきた集団はマサヒロを筆頭に付いてきていた。二人で京都に行こうとしたところに因縁を付けられたタスクは面倒そうにあしらっていたのだが、マサヒロとその取り巻きは逆上したのだ。

 日本支部に来たのは我々の方が先だとか、外国人は出張るんじゃないなどと、軽い差別を言われた二人だが、ロウが居れば瞬く間に半殺しにされていたのかもしれない。

 その場にいたアレクは丁重にもてなし、京都へと連中たちを同伴させていた。

「あの狸は?」

 アレクが言う狸とは日本支部の局長の事だ。顔見知りという程ではないが、昔本国にいた男でもある訳だ。タスクと同じ四段階を突破し、日本で支部局長を任命された猛者でもある。元々、日本でも活動をしていたので色々と銃火器の流通ルートを持っていたようだ。だから今の日本支部には銃火器が山ほどある。自衛隊から貰ったのか盗んだのかはあまり興味もなかった。

「多分ですが、岐阜の方かと」

「なぜ岐阜なんだ?」

「刀が有名なので、武器を調達しにいっているのかと」

「ああ、なるほど。なら、短時間では京都までは来られないな」

 そう言ってアレクはマサヒロたちの方向へと向き直る。

「さてと、それじゃあ、まずお前、こっちに来い」

 先頭に立っていた男を呼ぶが、男は足を震わせたままで二人に向かおうとしない。見かねたアレクは近寄ろうとした時、タスクが静止させた。態々アレクが出張る必要が無いと無言で男の下へと歩み寄った。

「な、なんだよ! やる気かてめえ!?」

「そうですな、殺る気満々ですな」

 タスクはニヤリと口角を吊り上げて、腰に下げていた刀を男の手の甲に突き立てた。

「ぎゃああああ!!?」

 タスクは絶叫を心地よさそうに聞き惚れながら、男の頭を掴んで舞台上まで引きずり出す。何をするのかとマサヒロ達は恐れながらその経緯を眺めるだけだ。

「さーて、人は飛べると思いますかな?」

「は? 飛べる訳が、止めろ、止めてくれぇ!?」

 これから自分の身に起こる事を察知した男は、動かない手を振り回しながら抵抗をする。だが、大の男を片手で運んでしまうような力の持ち主にどうやって抵抗することが出来るだろうか?

「ほーら、飛んでみろ!」

「うわぁぁぁ!」

 鈍い音が舞台下から響き渡る。誰もがその光景に息を飲んだ。

「ま、待てよ、タスク!? なんで俺たちを殺そうとするんだよ!?」

 恐怖の余りにマサヒロはタスクへと話しかける。数年間だけだが、タスクとマサヒロは同じ仕事場で働いていた者同士だ。

 どうして彼は人を殺そうとするのか、どうして自分たちが殺されなければならないのかと主張する。

 だが、タスクはマサヒロの言葉に疑問符を浮かべるだけで、マサヒロの言葉こそ理解できないと言うように目を丸くする。

「何故と言いますか? 笑える冗談ですなマサヒロ殿」

 カラカラと、マサヒロの前では一度も笑った事のなかったタスクが日本刀を掲げて笑う。その質問には応じる必要が無いと無言の圧力で二人目に手を掛けた。

「止めてくれぇ! 死にたくない!!」

「見てくださいよこの表情を、すごく良い表情をしていませんか? 絶望に引き攣った顔は、見ていて心が躍りませんか?」

 刀を男の首筋に這わせて少しずつ切り裂いていく。線を引いたように赤い筋が生々しく浮かび上がる。

「悪かったよ! 今までの事は全部撤回するから、だから止めてくれよ!」

 金で雇ったとはいえ彼は健常者だ。おちびとになった人間を銃器で殺したことがあるとはいえ、生者を玩具の様に取り扱うタスクの行為は恐怖を倍増させていく。

 今までの事というのは、タスクが日本支部に送り込まれてから、数々の陰湿な虐めを行ってきた事を話している。だが、タスクはそれこそマサヒロの言葉に笑うだけしか出来なかった。

「いいえ、撤回なんて必要がありませんよマサヒロ殿。それは貴方自身の性格だというのは重々承知しておりますし、権力と言えばよろしいのかな? 金で人を集めて如何にも自分が猿山の大将だと誇張するのは、それもまた力です。なので、撤回する必要もございませんし、そもそも貴殿の言葉など初めから耳に届いておりません」

 タスクの刀は男の首を開くように何度も引いては押しての繰り返し行動を行う。

「おっと! しまった、首を切り離してしまった! まあ、良いでしょう。玩具はいくらでもある」

 男の頭部を放り投げて下へ落とす。残った胴体からは血が流れだし、死体の場所を血だまりで浸らせた。

「お、おいアレク!? いや、アレクさん!? こいつを何とかしてくれよ!?」

 タスクの耳には届かないと思ったマサヒロはアレクへと話しかけるが、煙草を吹かしているだけで彼の言葉を無視していた。

 紫煙を吐き出し、冷たい視線をマサヒロに浴びせると、やれやれというように近づいた。

「悪いな、俺たちは人間の事が大嫌いなんだ。本質はうたいびとと同じなのさ」

 火が付いている煙草をマサヒロの目に押し付けて消し、もう一本箱から取り出して吸い始める。

「うぎゃあああ! 熱い! 熱い、痛いぃぃ!!?」

 転げまわる姿をアレクは鼻で笑い、近くで他人事のように傍観していた男の膝に銃弾をぶち込んだ。

「おいおい、自分だけが助かるとでも思っているのか? とんだ阿呆だな?」

 襟元を締め上げて舞台まで引きずって、タスクと同じように突き落として殺害した。

 全員がこの二人の行動は異常だと思うのと、自分たちは助けを請うたとしても生きて帰るこが出来ないと悟った。

 そこから先は何が起こったのかを語るまでも無い。屈強な男たちもいたが、腕を縛られ、相手が武器を持っていた以上、手を出す暇もなく殺される羽目となった。

 マサヒロだけを残し、金で雇われていた男たちは残すこと無く清水の舞台から突き落とされて殺されてしまった。

 マサヒロに手を出そうとしたアレクに、タスクは初めてアレクに希望を出した。今まで命令だけを聞くだけだった男が、自分から意見を言うのは珍しいと感じたアレクはタスクの要望を聞いてマサヒロを殺す事を止める。

「マサヒロ殿、貴殿には我々と行動を共にして貰いましょうか?」

「な、なんでお前たちなんかと!?」

「拒否権は御座いませんのであしからず」

 そういってタスクはマサヒロの手を取って簡単に指を逆方向へと曲げた。

「あがああああああ!!?」

「了承するまで全部折りますよ?」

「ひぎっ、だれが、お前らああああああああ!!?」

「拒否権はありませんと、先に言った筈ですよ? はい、次は薬指です」

「がああぁぁぁぁ!!」

「ひひっ! 良いですねぇ、貴方痛みに慣れていないでしょう? 良い表情で泣きますね」

  薬指まで折られた所でマサヒロは悲鳴を上げるのを止めてタスクの要望を聞き入れた。

「分かった!! 行動する! お前たちと行動するから!!」

「なんだ、意外と物分かりが早かったですね。もう少し粘るかと思ったのですが。まあ、中途半端なので全部折りますね?」

「はがぁぁぁぁぁ!!?」

 苦痛で蹲っているマサヒロに興味が無くなったのかタスクは立ち上がってアレクへと体を向ける。

「満足か?」

「もちろん、さてと、それでは本命のうたいびとの所に行きますかな?」

「そうだな、こんな所で時間を潰しても無駄だが、こいつは何かに使うのか?」

「ええ、アリア様に献上させます。いい道化が手に入ったと聞けばお喜びになります故」

「なるほどな。おい行くぞキノコ頭。さっさと立て」

 蹴り上げられてようやく立ち上がり、アレク達が乗って来た車に乗り込む。後ろの席にマサヒロは座り、恐怖で歯をカチカチと鳴らして震えていた。

 二人は興味なさげに淡々と車を動かして目的地へと進路を決める。

「私も一度見にいったのですが、なかなか綺麗な場所でしたよ」

 カーナビを慣れた手付きで地図上に進路を決める。ナビ独特の棒読みのナビゲーションがその目的地の名前を言った。

 それは日本三景と呼ばれていた物の一つ、天橋立だった。


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