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うたいびと  作者: 元帥
第二章~消失~
22/25

6

 カノンを連れ帰ると妹の姿は無かった。変わりに机の上に書置きがあり、それを読むとどこに行ったのかが分かった。

 日本支部に徴集がかかったらしい、副局長というだけあって多忙なのだろう。だというのに律儀に朝御飯まで作られていて嬉しくなった。

 トーストにハムと目玉焼きが置かれた簡単な朝食、近くにあった珈琲メーカーの電源を入れて珈琲を作る。

「ノノ……カノンも飲むか?」

「良いですか?」

 了承してロウは二つの珈琲を作る。ふと、うたいびとは人間と同じものを食べられるのかと疑問に思った。

「そういえば、うたいびとは人間と同じ食事はできるのか?」

「食べなくても生きることは出来ますけど、やっぱり私は人と同じものを食べているという実感が持てるので食べます」

「実質、人と変わらないという訳か」

 自分だけ食べるのも寂しい物なのでパンをもう一枚トーストで焼いている間に卵とハムを焼く。後ろでカノンがちょろちょろとロウの手元を見ていた。

「なんだ?」

「あ、いえ、面白いなぁって思っていました」

「面白い? ただ飯を作っているだけだぞ?」

「ロウさんにとっては馴染みのある行為かもしれませんけれど、私には初めての事なので面白いんです」

「そうか、なら勝手に見ていろ」

 じっと後ろで見ているだけ、邪魔をするわけでもなくロウがカノンの為に朝ご飯を用意しているだけの行動に、カノンは嬉しそうにロウを見つめる。

 出来上がった朝ご飯を二人で食卓を囲む。この二日間、二人でご飯を口にしたことは無かった。人がいる、そしてそれが愛していた人の面影を持った者なら尚更だ。

「美味しいですねロウさんが作ってくれたご飯」

「パンにマーガリンとハムと卵を乗っけただけの奴だぞ?」

「それでも、美味しいものは美味しいです」

 美味しそうにパンを頬張りながら口を動かしている姿は、同じ物を食べている身としても笑みを浮かべてしまいそうだった。

 残りの六日間、ロウは京都に行こうか迷っていた。うたいびとを殺すことが出来るというカノンの能力を実証できるか確認をしたかったからだ。

 だが、彼女もうたいびとだという事を忘れてはならない。下手に行動を起こせば日本支部の連中たちに捕獲されて色々と実験をされるかもしれなかった。今から日本支部に戻った所で何かが得られるのかと考えるが、昨日の時点で手に入った者はアリアの写真ぐらいだろう。

 ふと、思い立ったロウはアリアの顔写真を取り出して机の上に置いた。珈琲を飲み切ったカノンは少しだけ苦そうな表情を出した後、置かれた写真へと視線を向ける。

「あれ? アリアちゃんだ」

「やっぱり分かるのか?」

「それは分かりますよ。お姉さんですから。顔も見たことありますから」

「ふむ、なら聞くが、この国にこのうたいびとがいる。それは知っていたか?」

「そうですね、実の所、私たちはどんなに遠く離れていても居場所が分かります。ただ、今回は私がここに来たかった訳で、アリアちゃんに会いに来た訳ではありません」

「俺はこのうたいびとを殺すが良いのか?」

「…………」

 カノンの表情は暗く落ち込んでいく。それも当たり前の話だろう。同じうたいびとであり、そして姉と彼女は口にしていた。言わば家族同然の存在を、ロウは殺すと宣言しているのだ。

いずれ他の姉や、カノンを作ったという母親すら殺すこと、そして、下手をすればカノン自身も殺すと脅しているような物だ。

「もしかすれば、俺はお前をも殺すことになるんだぞ?」

 はっきりと口に出して言う。俺はお前を殺す事になると。カノンはロウの言葉を何度も頭の中で繰り返して考えているのだろう。深呼吸をしては思いつめた様に吐き出したり、過呼吸でも起こしたりしそうな呼吸の仕方をするぐらいだ。沢山考えているんだろうと思った時にカノンが意を決したように口を開いた。

「それでも、私はこの星に希望を持ってほしいです。それはロウさんでもです」

 決意は相当のもので。ロウも頷いて了承した。

「君の本気は分かったが、本当に良いんだな?」

「はい」

「分かった、それならまずは、このアリアの場所を教えてくれ。君たちはうたいびとの居場所が分かるんだろう?」

 居場所が分かれば次に取るべき行動はアリアの殺害だ。うたいびと同士なら殺すことが出来るという話なら、彼女を連れていくことは必然になる。後は、どうやって殺すのか知れば早い話なので、作戦を立てやすくなる。

 カノンは目を閉じて、耳を澄ませるように集中し始めた。部屋の空気が一変し無音だけが支配する。額に汗を滲ませるほどの集中力を出したカノンはカッと目を見開いた。

「場所が特定できましたが、行きますか?」

「いや、行くのは一週間後だ。残りの日数は君を日本支部に紹介する。もしかすれば力を貸してくれるかもしれない」

 だが、その逆でカノンは捕えられて日本支部で実験台にされてしまうかもしれない。それはさせないとして、どう説得をするかが問題だ。

 彼女自身がうたいびとを殺すことが出来ると言えば、少なからず誰かは賛同してくれるはずだ。局長はどうだろうか? 顔を思い浮かべて、交渉している時の自分を思い浮かべ、握手をしている姿を想像する。

 安直かつ酷い妄想だと考えながらロウはカノンの手を繋いで外に出た。ロウが日本支部から持ってきた車に二人は乗り込み、車を走らせる。向かう場所は言うまでも無く日本支部だ。

「凄いです、走っています!」

「当たり前だろう、車なんだから」

 一瞬だけ見せたノノカの片鱗は何だったのだろうかと思わせる程の変わりようにロウはちらちらと少女の横顔を見ながら考えていた。

 容姿が似ているのは、死んだ人間を器にしているとこの少女は口にした。だが、ノノカが死んだ年齢の事を考えると約十年の月日を遡っていることになっている。そこの説明が無かったのは、カノン自身も把握していないのだろう。

 流れる景色を子供の様にはしゃぐ。

星屑の塔が出現したのは五年前、この五年の間に見つかったうたいびとはアレルヤ、キリエ、アリアの三人だ。出現した年代は大体一年周期で見つかったという報告が、本国の書物に記されている。五年目に突入したから彼女が作られたのだろうか。もしそれなら、年を越すごとにうたいびとが量産されてしまうという過程を立てれば、人類の勝ち目はなくなるだろう。

しかし、カノンは他のうたいびとを殺すと誓った。人類側を味方すると約束してくれたのだ。直前になって反旗を翻すかもしれないが、今はその気がない事を祈ることしか出来ない。

数時間かけて到着した議事堂は昨日見た時となんら変わりなく佇んでいる。駐車場に車を止めてカノンを下し、門前の組員に挨拶をした。

「こんにちはロウさん。副局長がお待ちしております。会議室にてお待ちしております」

「そうか、分かった」

「ところで、そちらの少女は?」

「気にするな。海で拾ったんだ」

「はぁ……分かり、ました。そういうことにしておきます」

 ロウはそれ以上反応する訳でもなくカノンの手を握って会議室へと向かう。

「拾ったって、酷くないですか?」

 案の定カノンが反応するとロウは軽く鼻で笑った。

「拾ったことには違いないだろう?」

「まあ、そうなんですけど……なんだか、納得いきません」

 頬を膨らませて怒っていることを主張しているのだろうが、行動一つ一つが愛らしくて心が痛くなる程度だ。なんら問題はない。

 副局長が待っているという事はカナンが待っているという事なのだが、局長であるコウはどうしたのだろうか。大方外出しているのかもしれないと結論付けたロウはコウについて考えるのは止めた。

 会議室のドアをノックし、扉の向こう側からどうぞという声が返ってくる。扉を開けて中に入ると不機嫌そうな顔を浮かべているカナンが椅子に座っていた。

「どうしたんだ?」

「これを見てください」

 机の上に置いてあった、パソコンをこちら側に向ける。映し出された映像はどうやら、とある場所を撮影しているようだった。

「これは清水寺か?」

「その通り、そしてこれが昨日起こった出来事です」

 目を凝らすと清水の舞台から、その下には大勢の死体が転がっていた。その連中達をロウは知っていた。

 ここを出る前に、マサヒロの取り巻きとしてたむろしていた連中は、一日の間に死体となって転がっているのだ。一体、誰があの後に死体に変わるのだと考えるのだろうか。

「マサヒロが金でつるんでいた連中なんですけど、一応日本支部の連中でもあります。まさか一日でこんなにもやられるとは思わなかったのですが……」

 アリアは京都に陣を構えていたが、日本支部はアリアが住んでいた居住区域を破壊した。だが、うたいびとを殺すことが出来ないために、今もどこかで生きているとは思われる。

 近くにアリアがいて殺されたのだろうか?

 状況が分からないため、現場に急行したいところだが、到着する頃には夕方になってしまうだろう。ふと、アレクの顔が脳裏に過ったので連絡を取ろうかとも考えるが、先ずは日本支部の全員にカノンの事を知ってもらおう。

「なあカナン、コウさんは何処にいるんだ?」

「分かりません、多分武器を調達しに地方へと行っているのだと思いますけれど、何かありましたか?」

「ああ、そうだな、一先ず冷静に聞いてほしいのだが、うたいびとを拾った」

「うたいびとを?」

「そうだ」

「悪い冗談では?」

「無い、俺は冗談を言わないだろう?」

 カナンは納得したように腰掛に凭れ掛かり、それなら早く見せて欲しいと言うようなため息を吐き出す。ロウの影に隠れるような位置で立っていたカノンは恐る恐る顔を覗かせ、二人の視線が交差した。

 一瞬の沈黙が会議室を包む。カナンの反応は自分も体験した事と同じだ。死んだはずの人間が甦ったかのような感覚。呆けた表情で見ていると思えば、カナンは怒りを表したように目を吊り上げ、銃口をカノンへと向けた。

「これはどういう冗談ですか義兄さん!」

「冗談も何も、これが現実なんだよカナン」

「でも、これは、私を馬鹿にしているとしか思えない!」

 銃を下さないカナンに対応するため、瞬発的に抜いていた銃をチラつかせ、カノンを後ろ手に下がらせる。

「銃を下せ、カナン」

 それ以上を言わせるなと無言の圧力を叩き込むが、カナンの怒りはロウの圧力をも凌駕している。じりじりとロウの背後に隠れているカノンを追いかけるように回り込もうとするが、ロウはカノンを守るように物陰として守るだけだ。

「無理ね、早くそこを退いてください。そんな、姉さんの偽物みたいな奴!」

「偽物ではない、彼女にはノノカの意思がある!」

「呆れたわ、うたいびとを拾ったから、何かと情報が貰えるかと思ったけれど、こんなオチだなんてね」

 カナンはロウの背後で隠れている少女に照準を定めるのを止め、銃口はロウの眉間を狙い定めるかのように留まった。

「貴方には失望しました」

 引き金を引こうとカナンの指に力が入った瞬間。

「駄目ぇぇ!!」

部屋中に響き渡る轟音、ロウを庇うように躍り出たカノンの声に重なるように銃弾はカノンの小さな体を捉えた。突き飛ばされた様に床に倒れ込み、横たわった体からは血が流れ始めていた。

「ノノカ!!」

「……あ」

 苦悶の表情を浮かべているカノンにロウは寄り添って抱き上げる。その近くでカナンは自分が行ったことに関して罪悪感を抱き始めていた。銃を落として机に凭れ掛かり、両手で顔を覆う。

 カノンの顔が姉と類似している事で、自分が今、何を撃ったのか混乱しているのだ。

 あれはうたいびとの筈だ、あれは人類の敵だと自己暗示を掛けるように言い聞かせながらも、指の隙間から少女の顔をもう一度見るが、何度見ても自分の姉に似ている事に変わりない。

 銃弾はカノンの脇腹を抉っていったが、うたいびとの特性なのだろう、ロウが抱え上げた時には既に傷の修復が始まっており、逆再生をするように床に飛び散った血液がカノンの体に収まっていく。

 抱きかかえられていたロウの腕から離れ、顔を伏せていたカナンの下へと向かう。ロウはカノンの行動を止めようと思っていたが、彼女の背中がそれを拒んでいた。寧ろ、今のカノンはカノンでないように思えたロウは、手出しが出来なかったのだ。

 カノンは俯いていたカナンの頭を抱きかかえた。

「大丈夫だよ、気にしなくていいから」

「や……だ、なん……で?」

 外見だけではない、声まで瓜二つだった事にカナンは知らずに涙を流していた。

「カナン、分かってくれたか?」

 静かにロウはカナンへと問いかけると、うんうんと二度三度と頷いて答えた。

 涙を拭ってカナンは再び椅子に座って状況を整理し始めた。

「本当に貴女はうたいびと達を殺すことが出来るの?」

 カナンの問いかけにカノンは頷く。

「その方法はお前たちだけしかできないのか?」

「はい、出来ないです。私たちうたいびとを殺せるのはうたいびと同士でしか出来ません。ですが、私自身は姉さんたちに太刀打ちが出来ません」

「それはなんでだ? うたいびとは声と歌で攻撃が出来るのだろう?」

 申し訳なさそうにカノンは頭を振って否定する。それが私には出来ないのだと言うように。

「私は姉さんたちが出来ることが出来ません。なので、もし私が姉さん達と戦うことがあれば、簡単に殺されてしまうでしょう」

「それなのに、お前は戦おうとしていたのか?」

「それでも、私は世界中に希望を持ってほしいです」

 姉と戦えば自分が殺される事を分かっていた。だが、カノンは自分の願い、夢を秘めているのだ。滅亡していく世界に希望を与える事が使命だと言うように。

「方法はあるの?」

 うたいびと同士であれば殺すことができるというカノンの情報にカナンは問いかける。

「一つだけありますが……」

 カノンは少しだけ何かを躊躇うかのように口篭もる。二人は疑問に思って顔を見合わせるがすぐにカノンへと向き直る。

「ロウさん、銃を貸してください」

 ロウから銃を受け取り、重さでよろけるので心配になりながらも、カノンは銃を持ってぶつぶつと呪文を呟き始めた。白光を帯び始めた銃はやがて元ある黒い色に戻り、ロウに銃を返す。

「私の歌の力をこの銃に付与しました。これでうたいびとを殺すことが出来ます」

「本当か?」

 にわかにも信じられない事だったがカノンが嘘を言っているようには到底思えない。態々嘘をこちらに言う必要もない。見た目はいつも通り使い慣れている銃だが、一目見て変化したようには感じられない。

「試しに私を撃ってください」

 カノンの言葉に二人は一瞬固まった。少女は何を口に出しているのかと理解するのが遅れた。

「そんな……こと、やらないと駄目なのか?」

「そうしないと分からないじゃないですか?」

「いや、でも……俺はお前を撃ちたくはない」

「そんな、流暢なことを言っている場合ですか? ロウさんは私たちに復讐することを誓ったのでは無いのですか?」

 確かに口にした。だが、今彼女を撃つことなんて考えてもいなかった訳で、この一撃がカノンを殺してしまうのだとすれば、また悪夢を見る羽目になってしまう。

「ねえカノン?」

「何でしょう、カナンさん?」

「その歌の力は銃だけしか付与することは出来ないのかしら? 他にも出来ないの?」

 そう言って、カナンは手持ちのナイフを取り出した。刃渡り二十cm程のサバイバルナイフだ。カナンの手から受け取り、ロウの銃にしたことと同じ事をカノンは行った。同じように白光したナイフは光を失った。

「これでこのナイフにも歌の力が付与されました」

「見た目は余り変わっていないようだけど……」

 カナンは力が付与されたナイフと、もう一本、何もされていないナイフを取り出した。

「ごめんねカノン、ちょっと痛いかもしれないけれど」

 付与されていないナイフをカノンの人差し指に薄っすらと筋を引いた。一文字に引かれた傷跡からは血が滲み始めたが、その傷は直ぐに治り始めて消えてしまった。

「本当に傷が無くなっているわね……」

 人類がどんな強大な敵と戦っているのかを再度確認するようにカナンは息を飲む。そして、カノンの手によって歌の力が付与されたナイフを同じように指の腹に筋を立てる。

 血が滲む所までは同じだったが、普通のナイフが傷を付けた所は数秒で癒えた傷だったが、歌の力が付いたナイフで付けられた傷跡は一向に治る様子が見られなかった。

「これが、私たちが私たちを殺すための処置として施された力です」

 絆創膏を張って処置をした所で二人は今、この瞬間に人類はまだ希望があることを悟った。

「これなら、うたいびと達を倒すことが出来る! 人類はまだ滅亡しなくて済む!」

 喜んでいるカナンの隣でロウは複雑な表情を浮かべていた。

 うたいびとを殺すことは、彼女を殺すことになるのだ。今の実験で判明された結果は、ロウの中でまた一つ悩みの種として残ってしまったのだった。

「効力はいつまでなんだ?」

「多分ですけど、一回使用すれば効力が無くなるかもしれません。銃は銃弾の数だけ、ナイフのような武器は、一度傷を付ければ効力が無くなります」

 カノンは歌の力が付いていた方のナイフを手の平に突き立てるが、何事もなかったように傷は逆再生を始めた。

 数回分が使える銃なら、ストックが出来るという考えを持てば早い話だ。だが、うたいびとを殺すためには、一撃で息の根を止める必要がある。カノンが体を張ったお蔭で、うたいびとも人と同じような構造だという事が判明した。頭や心臓に傷を与えることが出来ればうたいびとを殺す事が出来る筈だ。

 不意に会議室に響き渡る電子機器の音に体をビクつかせたが、その音はカナンから発信しているのだと分かった。腕に巻いていた電話機のボタンを押して通話を開始した。

「やあカナン、あれは見たかい?」

 受話器から聞こえる声の主は日本支部の局長、コウだった。コウが言うアレとは清水寺で起こった出来事の事だろう。

「はい、確認いたしました」

「今ね、私も京都に来ているのだが……ふむ、彼の死体がない事が気がかりだな」

「彼? というと」

 コウはこちらにも聞こえる位に高笑いを上げた。

「まあ、そんなに毛嫌いするなよ。マサヒロの事だよ」

「あぁ……それが、どうしたんです?」

 露骨に声のトーンが低くなり、コウとロウはお互いに鼻で笑う。マサヒロがカナンに求婚をしているのは聞いているため、同じ反応をとる。

「舞台から落とされたのはアイツの取り巻き達には間違いない。見たことがある顔だからな。だがなぁ……この手口はうたいびとではなさそうだ」

「それは、どういう意味です?」

「うむ、アリアは確かにおちびと達を使役して人類に仇なす性質だ。だが、このやり方は、彼女のやり方ではないなぁ」

「じゃあ、一体、誰が?」

「そりゃあ、人間だろうよ。鋭利なもので突き刺された死体や、弾痕がある死体など、おちびとが出来ることを凌駕している。なら、考えられることは一つだろうさ?」

 生きている人間同士が殺し合っていると、コウは口に出すまでも無くカナンとロウはその答えに行き着いた。

「そんな、一体誰が?」

「ははっ、分からんが、俺は心当たりがある人間がいる。出来れば予感が的中しなければいいのだがな? なあ、カナンよ。そこにロウはいるか?」

「え、はい、いますけど」

「なら少し変わってくれないか? 二人だけで話がしたい」

「分かりました」

 カナンはコウと繋がっている回線をロウに繋ぎ直し、会議室から二人は退出する。一昔前の携帯電話を取り出してロウはコウと会話を始めた。

「よく、俺が近くにいると分かりましたね?」

「なぁに、長年の勘だよ。年長者を舐めないでほしい」

「ははっ、それで? 俺に何の用です?」

「いやな? 君はカナンの事を知っているのだろう?」

「ええ、まあ、付き合っていた彼女の妹だったので。それが?」

「カナンの事はどう思っているのか聞きたくてね?」

 コウの言っていることに理解が遅れる。どう思っているのかと聞かれれば、恋愛関係には発展しない程度の仲ぐらいだろう。

「好きですが、俺はノノカ一筋なので……」

「死んだ彼女を今でも思うか……一途だな」

「彼女以外に愛することが出来る女が俺には出来ない。守ることが出来なかった俺は、人を愛することを止めたんです。もう、これ以上悲しみたくないんだ」

「そうか、それが君の意見ならそれでいい。だが、カナンはな? 君が国外から離れた時も、片時も忘れていなかったようだぞ? この組織に入ったのも、君を追いかけるためだとか?」

「それは、彼女が勝手にしたことでしょう? 俺には関係がありません」

「はは、まあ、君がそういうならそういう事にしておこう。とりあえずだが、私は敵の本拠地に向かう。場所は天橋立だ」

「橋立? なんであんな場所に?」

「さあねぇ、うたいびとも人間と同じ感情を持っているんでないかい? 綺麗な場所に住みたいだとか、人間と同じ感情を抱いているのかもしれない」

「はあ、だけど、単身で向かうのは無茶すぎませんか? もう少し準備をしてからでも……」

「君は鈍い奴だな、この惨状は人間が引き起こしているのだぞ? うたいびとだけではなく、第三者の介入があると思いつかんのか?」

 第三者、それはつまり、人類とうたいびとの二極だけではなく、人類でありながら、人に仇なす三者という訳だ。簡単に言えば、同じ人類でありながらも、人類を滅ぼそうとするうたいびと側の人間という事だ。

 それはおちびとよりも性質が悪い奴らだ。人であるのだから無論、意志を持ってこちらを殺そうとするだろう。

「コウさん、あんたまさか死ぬ気なのか?」

 一呼吸の間があり、ロウの問いかけにコウは鼻で笑った。それは肯定として同意義の事柄だ。

「老獪となった身だ、今まで生ききたが些か疲れたのかもしれん。だがなロウ? 私は同じ組員が殺されたとあれば、それを許すことが出来ない性質でな? 殺されようとも、一太刀でも浴びせることが出来たのならば、私は本望だよ」

「コウさん……」

「残り五日間だが、君たちだけでやり遂げてくれ、どうせ君の事だ、何か掴んだのだろう?」

 コウの含んだ声音にロウは口角を吊り上げて応じる。

「はい、うたいびとを殺すことが出来るカードを手に入れました」

「ははは、これはまた嬉しい知らせだったな。そうかそうか、怪物を殺すことが出来る銀の銃弾を手に入れてくれたか。私も同じ人として鼻が高い」

 銀の銃弾、それはつまりカノンの事だ。コウがどこまで察したのかはロウには思いつかなかったが、この人の事だ、全てを悟ったのかもしれない。

「なあロウ? 一時でもいい、カナンの事を愛してやってくれ。それが私の願いだ」

「コウさん? 何を――」

 言っているのかと言おうとした時だった。急な銃撃戦が始まったのだ。

「ふん、奴さん、私と一騎打ちがしたいらしい。じゃあなロウ。カナンを幸せにしてやってくれ」

 電話は途中で途切れて通話は途絶えた。もう一度リダイヤルボタンを押しても反応は帰ってこない。今頃京都は死地になっているに違いない。

 東京から京都までは半日も掛かる距離だ。今から出発したところで応援要員にはなることが出来ない。だが、ロウは居てもたってもいられずに会議室から飛び出した。

「義兄さん!? どうしたんですか?」

 扉の外で待っていた二人はお互いに飛び出して来たロウの姿を見て目を丸くしていた。

「今から京都に向かうぞ。コウさんが危ない!」

「え、一体何が?」

「敵だ、誰か分からないが、第三者による襲撃を受けている」

「今から向かっても、局長が生きている保証は――」

「それでも、行かなければならないんだカナン!!」

 ロウは強引にカナンの手を引っ張って議事堂の外に出た。息を切らして遅れてやって来たカノンも同行して車に乗り込んだ。

 第三者、それが一体誰なのかは分からない。だが、コウが体を張ってやっている事を無駄には出来ない。人が管理していない高速道路に上り、三人は京都へと向かうことになった。



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