26:不穏
Vatican VCSO headquarters
準決勝第2回戦、ヘリオス対阿修羅
二人は前の戦いとは打って変わってキューブの内側、完全に閉鎖された密閉空間の中へと放り出された。
阿修羅は居心地が悪いのか顔をしかめる、閉鎖的な空間、逃げ出せない空間というのが嫌いな阿修羅にとって、これは戦いの勝敗よりも気を取られる事だ。
ヘリオスは体をほぐしながら阿修羅との戦いに備える、前にも一度戦った事のある二人、そしてお互いの本気を知っている、そして、同じような二人の戦い、タナトスと帝釈天の戦いを見ている、それによりヘリオスは僅かながらに勝利というものに対し、確信を得ていた。
「タナトスも最初から本気出したんスから、俺らも本気で行っちゃって良いッスよね?」
「はぁ、やる気満々みたいね」
「そりゃそうッスよ!ワクワクしないッスか?こんなギリギリの戦いが出来るなんて思っても見なかったんスからね」
子供のようにはしゃぎっぱなしのヘリオス、確かに阿修羅にとってここまで運動(戦い)出来るのは願ってもない事だった、しかし、それを見せ物にされる事に対して若干の違和感を感じずにはいられない。
そして何より、阿修羅はこの戦いの先が見えていた、何故かやる気が起きないのもそれ故だ。
「何か阿修羅元気ないッスね?」
「はぁ、そりゃそうじゃない」
「何でッスか?」
「はぁ、分からないの?」
「阿修羅の思ってる事なんて分かるわけないじゃないッスか」
ヘリオスは不貞腐れながら口を尖らせる、いつもよりため息が多い阿修羅にとって、戦いたくてしょうがないヘリオスは厄介だった。
「先の見える戦いに興味はないのよ」
「だったらどうなるんスか?」
阿修羅は鼻で笑うと手を挙げた、ヘリオスはその行為に対して首を傾げる。
「棄権します」
早々に、戦わずにバチカンに戻った二人、会場は動揺によるざわめきで異様な空気を作り出していた。
ヘリオスもまた同じ、理解が出来ずにただ阿修羅を見ているだけしか出来ない。
『アンビリーバボー!阿修羅は何を考えてるんだ!?“天竜の巫女”とやらの力をどれだけのホーリナーが期待してたと思う!?それをことごとく裏切りやがって!謎にするのはその意味の分からないへんちくりんな服装だけにしやがれ!力を出し惜しみしたからって何も良いことないぜ!?
とりあえず不満たらたらだとは思うが、今回の戦いはヘリオスの不戦勝という形で終わりだ!』
阿修羅はヘリオスに向き直ると、ヘリオスのその力の抜けた表情に呆れてしまった、ヘリオスのやる気は目一杯の空振り、その行き場を無くしたやる気が、未だに不戦勝に対する疑問になり渦巻いているのであろう。
「な、何でッスか?」
やっと紡ぎ出した言葉がその一言、しかし、阿修羅に対してはそれで充分だった、何故なら、聞かれる事など容易に推測出来るからだ、否、推測ではなくこの流れならば至極当然の一言であろう。
「今の力じゃヘリオスに勝てる見込みなんて1%もないわよ、貴方の力はそれくらい強大なんだから、私だって無様に負けたくないじゃない?」
「確かに阿修羅とは戦いたくなかったッスけど―――」
そうではないとつっこみかけて、阿修羅は何とか飲み込んだ。
「せっかくの機会を無駄にしなくても良いじゃないッスか?」
「どうせ今後ホーリナーは自由に使えるようになるんだから、気が向いたら相手を頼むわよ。
神選10階も私がなりそうだし、クソ元帥の思う壺よ」
阿修羅は自傷気味にヘリオスに背を向け、そのまま日本支部の方へと帰って行った。
それを見てヘリオスは追いたい衝動にかられる、何故だか分からないが、阿修羅の背中が凄い遠くに感じられ、目を離したらいなくなってしまうんじゃないか、そんな恐怖が胸をよぎった。
そこはバチカンからそれ程遠くはないビルの屋上、そこには軍用ヘリがあり、総結いの男性と、その後ろには天照、素戔嗚、月夜見がいる。
総結いの男性は電話をしているが、徐々に表情が険しくなっていった、それにつられ、天照達3人も自然と体に力が入る。
総結いの男性が携帯を閉じると、3人は男性に向かって説明を求める視線を送る。
「お前ら、帝釈天は当然知っているな?」
「お兄様でよね?」
「兄ちゃんがどうかしたのか?」
口々に帝釈天の事を兄と言う3人、つまり帝釈天と双子である阿修羅は姉となる、つまり、いわじもがなこの3人、そして総結いの男性は阿修羅に関係のある、しかも直接的に関係のある人間となる。
「お前らには話していなかったが、天竜には阿修羅様が使う“紅蓮の剣”と対を成す“白銀の盾”という力がある、しかし“白銀の盾”は禁忌となった―――」
「まさかお父様………」
天照と月夜見が表情を曇らせた、その表情の理由が分からず、素戔嗚は男性に詰め寄る。
「どういう事だよ父ちゃん!何が言いたいんだよ!」
「帝釈天が、天竜の最高権力である阿修羅様と同等の力を身に付けたという事だ」
素戔嗚が一歩退いた、既に阿修羅が巫女として開眼した時点で、阿修羅は否が応なしに天竜の最高権力者となっていた、そして、それに匹敵する者が現れた。
「どうなさるのですか?」
「そうだぜ父ちゃん!拙者達は“姉ちゃんの奪還”だけしか聞いてねぇよ!」
3人の姉、つまり阿修羅の奪還、それがここにいる4人の目的、最高権力者である阿修羅を天竜に連れ戻す、それがこの4人に課せられた任務だった。
「止む終えん、天照!素戔嗚!月夜見!頭首代理に代わり命を授ける、阿修羅様奪還に加え、帝釈天を討つ!やれるな?」
「余裕に決まってるだろ!なぁ!?姉ちゃん、月夜見!」
「兄上、落ち着いて、下さい」
「お父様、生殺与奪ではなく、お兄様を亡き者にするのでよろしいのですね?」
「お前らには兄を殺すというのは少々荷が思いかもしれんな」
天照は表情を強ばらせ、男性の表情をしっかりと見据えた、そこには確かな覚悟だけがある。
「いえ、お兄様は叔父様に刃を向ける恐れがある危険因子です、遅かれ早かれこの時期が来ると思っていました」
「姉ちゃんは気にするな、帝釈天は拙者が殺してやるからよぉ!」
素戔嗚からは既に殺気が出ている、天照の表情も臨戦態勢というのを訴えかけている、月夜見は心を落ち着け、ただその一瞬のみを待っている。
「準備が整いました」
男性の横に片膝を着く男性、その言葉を聞いて男性は3人を見据える。
「行くぞ」
4人はヘリコプターへと乗り込んだ、阿修羅を天竜に連れ戻すために、そして、新たに現れた危険因子、帝釈天の排除へと。




