25:更なる力
Vatican VCSO headquarters
準決勝第1回戦、帝釈天対タナトス
フィールドの外側に出された二人、二人が体験した内側は閉鎖的な空間で気味が悪いが、外側というのも底知れぬ闇、こっちも気味が悪いのに変わりない。
帝釈天は久しぶりに興奮していた、確実にタナトスはシンクロを使う、何故なら一度、帝釈天に完敗しているからだ。
恐らくこの戦い、己の限界という壁を超えなくては勝利はない、そこに運など存在しない、極限、それを自分で線引きしない事だけだ。
「帝釈天さんよぉ、俺様はテメェに負けてる、そこで質問だ、最初からシンクロ使って欲しいか?」
タナトスはふざけているように見えるが、コレはは勝利を確信しているから言える事。
帝釈天もヘリオスで体験している、ホーリナーを超えた、対戦相手からしたら絶望的な力。
「貴様に負ける気など毛頭ない、貴様がどれだけ強くなったのか知るのもまた一興だ、本気で頼む」
帝釈天は腕輪に触れた、得物はクレイモア、名は髭切。
そして髭切に指を当てる。
「コラプス」
二振りにすると構えた、それは臨戦態勢、タナトスに対する意思表示。
タナトスも口角を上げながら腕輪に触れた、得物は大鎌、名はスケイル。
タナトスは上目使いでタナトスを睨み、スケイルの切っ先を自分に向け、そのまま突き刺した。
「シンクロ!」
その瞬間、スケイルから黒い布が現れてタナトスを包み込む、タナトスは空中に浮くと一回転した、黒い塊はローブとなり、腕が突き出されると瞬時に二振りのスケイルが顕現される、そしてタナトスのフードの下は闇に染まった。
「アイカワラズコノスガタハスキニナレネェ」
「プロテクティブ」
帝釈天の体は薄い透明の膜で覆われた、まさに人外の戦い、最強レベルのホーリナーが最強レベルの力を使いぶつかる。
「サッサトオワラセヨウゼ?」
「そうだな」
タナトスは空中から真っ直ぐ帝釈天に向かう、対帝釈天はそれを待ち構えるように構える。
タナトスがスケイルを振り下ろし、帝釈天が防ごうとしたが、髭切はいとも簡単に斬れてしまい、スケイルは帝釈天に当たり止まる。
「そういう事か、面倒だ」
帝釈天は髭切を投げ捨て、再び腕輪に触れた、そして今度は一振りのまま両手で握り、タナトスを睨んだ。
タナトスは再び間合いを詰める、しかし今回はタナトスの体から紐が伸び、それが帝釈天に襲いかかる。
帝釈天は瞬時に判断して、伸びて来た紐を斬り伏せてタナトスとの間合いを詰めた。
タナトスの右からの振り下ろしをを何とか避け、左の横薙の斬撃は刃に触れず髭切で止め、そのまま顔面に蹴りを放つ、しかし、蹴りは紐に足を掴まれてしまい、更に、そのまま空中へと吊されてしまった。
タナトスはそのまま両手のスケイルを帝釈天を挟むように振る、帝釈天がこの戦いで初めて見せた動揺する顔。
帝釈天は髭切を捨て、両手でスケイルの柄を掴んだ、しかしじりじりと顔に近付く切っ先。
「コラプス!」
スケイルは壊れてしまう、その間に髭切を顕現して足の紐を斬って何とか脱出した。
しかし帝釈天の眉間にはスケイルが当たった傷、明らかにタナトスの優勢、そして帝釈天もタナトスも感じていた、プロテクティブの限界。
「ヤッパリ、プロテクティブにゲンカイガキテイタラシイナ」
「否定しない」
帝釈天は自傷気味に笑い、髭切を片手で持つと得体の知れない笑みを浮かべ、空中にいるタナトスを見上げた。
「先に謝っておこう、つまらない戦いになったらすまん」
帝釈天は頭を下げた、タナトスにその意味が理解出来なかった、恐らく今までにないくらい高度な戦いのはず、なのになぜ、という疑問が頭を埋め尽くす。
帝釈天は顔に手を当て、指の隙間からタナトスを睨んだ。
「コラプス」
「オイ!テメェナニシテヤガル!」
「ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
帝釈天はそのまま膝を着き、叫びながら吐血した、そして体が激しく痙攣し、悶え苦しんでいる。
しかし、帝釈天には苦しみだけではなかった、徐々にだが、少しずつ、髪の色が変化している、真っ黒だった髪の毛は、灰色を経て、白くなり、輝くような銀色へと変化した。
そしてもう一度吐血すると、ゆっくりと立ち上がり、タナトスを睨んだ、その瞳は瞳孔だけが真っ白に染まっている。
会場は騒然としている、タナトスの不気味な神技、そして帝釈天の異常な変化。
驚いているのはホーリナーのみならず、元帥と元老の二人も同じだった、特に大きな反応を見せたのは毘沙門天、椅子を倒して立ち上がり、画面を食い入るように見る。
「あれも阿修羅ちゃんと同じような力なの?」
「不可視、毘沙門天、退」
「巫女と同じ力ぁ!?そんな力が2つもあるわけねぇだろ!
あれは天竜の伝説となった力だ!最大の禁忌、一族を滅ぼす力としてな!」
毘沙門天の興奮は最高潮に達した、実際毘沙門天もコレを見るのは初めてだからだ。
「“天竜の巫女”ってのは外側の人間が付けた名前だ、天竜の人間は“紅蓮の剣”と呼んでるんだぜ?
そんで、“紅蓮の剣”と対を成すのが今の帝釈天、“白銀の盾”だ、だがあの力は過去に一度、一人じゃねぇ、たった一度だけ発現された力だ、それも、無理矢理脳みそを薬でいじって、リミッターを解除するんだぜ?
女系な天竜にとって、男は貴重な存在だった、しかしその男が薬物実験で数々死んで、一時期天竜は滅亡しかけた、だから“白銀の盾”は伝説になったんだけどな。
まぁ帝釈天は血が濃いからあり得ないとも言い切れないんだかな!」
「確か毘沙門天って天竜の分家だっけ?」
「あぁ!実力至上主義の天竜だから阿修羅との結婚がゆるされたようなもんだぜ!」
帝釈天は体を確認し、異常が無いことが分かると髭切を握った。
阿修羅と似た変化、しかし、確実に違うであろう能力、タナトスにはそれを探る時間などなかった、ならば、圧倒的な力でねじ伏せるのみ。
「ソノチカラハナンダ?」
「分からない、だから試させてもらおう」
帝釈天は普段と変わらないスピードでタナトスとの距離を詰めた、タナトスも真っ直ぐと帝釈天に向かって降下する。
先に攻撃に出たのはタナトスだった、薙払うようにスケイルを振るう。
「迂闊に攻撃するとは、愚かだ」
スケイルは空中に現れた盾に当たり、砕け散ってしまった、タナトスに驚く暇も与えず、帝釈天は髭切を振り上げる、タナトスは瞬時に攻撃から防御に移る。
しかし帝釈天の腕が籠手を纏い、スケイルを掴むとスケイルが砕け散る、タナトスは何とか後ろに避け、髭切の振り下ろしによる致命傷は避けたが、胸を斬りさかれてしまった。
空中へと間合いを取り帝釈天を見下ろすが、相手に対してコレほど恐怖を感じたのは初めてだった。
「デタラメナチカラダゼ」
「貴様に言われたくはない」
「オレサマノホウガデタラメカモナ」
帝釈天は空中にいるタナトスを睨み、そのまま足を踏み出すとそこに盾が現れる、そしてそのまま階段を駆け上がるように盾を足場にしてタナトスに近寄る。
タナトスはどういう力か判断するために一振りのスケイルを振り下ろした、しかし、帝釈天は横に避けて攻撃を仕掛けて来る、タナトスは横薙にスケイルを振るうが、帝釈天は足場を無くして下に逃げ、盾に着地した。
その行動でタナトスはたった一つだが、帝釈天の能力を理解した。
「テメェ、ソノタテヤラコテヤラハイチドニヒトツマデシカケンゲンデキナイラシイナ」
「だとしたら何になる?」
「オレサマノコウゲキハヒトツヤフタツジャナイッテコトダヨ!」
タナトスは両手にスケイルを握り、体中から紐を出し、その紐が一気に多方面から帝釈天に襲いかかる。
紐は帝釈天に触れる瞬間、盾に阻まれてしまう、そして盾が爆発して周りの紐をも燃やしてしまう、近くまで来たのは斬り伏せる。
全く帝釈天に触れる気配はなく、むしろ帝釈天はタナトスの動きを見れる程の余裕すら見せている。
「サスガニコレダケジャハナシニナラナイカ」
タナトスは自らも帝釈天に向かう、紐とスケイル、様々な攻撃、帝釈天はその攻撃を時に盾で防ぎ、時に斬り伏せ、時に避けて器用に体に当てないようにしている。
「ソウダナ、コレナラドウダ?」
タナトスはスケイルを複数顕現させ、それを紐が巻き付いて自由自在に動かす。
「神に近付き、摂理と対等になれた故の複数顕現か」
帝釈天は苦笑いを浮かべた、帝釈天はイリーガルなホーリナー、しかしタナトスは神と同等、つまりその時点でフィールドが違う。
帝釈天は紐が操るスケイルを掴み、そのまま他の紐を巻き込んで周りを一掃し、他のスケイルは盾で破壊する。
しかし明らかに先ほどとは違い、帝釈天自体に余裕がなくなっている。
そして何とか帝釈天が防ぎきっていると思っていたその瞬間、帝釈天の膝がガクリと落ちる、それにより腕を紐に掴まれてしまう、紐を斬ろうとすれが、それよりも早くもう一方の腕も掴まれてしまった。
それを皮切りに両足を掴まれてしまい、全く身動きが出来ない状態になる。
「ソノノウリョク、ボウグニナッテモブキニハナラナイラシイナ」
タナトスは帝釈天を上空にまで連れて行った、まるで公開処刑のよう、死神に楯突いた者の末路。
しかし絶体絶命の状況にも関わらず、帝釈天の顔は何故か笑っている。
「マダナニカアルノカ?」
「いいや、何もない」
帝釈天が嘘をついているようには思えない、何故なら既にその瞳から戦意や殺気は消え失せているからだ。
「ただ、貴様はシンクロを使いこなしていた、だが、俺はこの力に振り回されていただけだ。
宣言しよう、次に戦う時は確実に俺が勝利を収める」
「ツギガアレバナ」
タナトスはスケイルを振り上げた、それは帝釈天が負けを認めた訳ではなく、ただたんに戦意を失ったから、そして次に繋げるために、帝釈天の“敗北”ではなく、タナトスの“勝利”で終わらせるためだ、それを帝釈天も望んでいた。
「1勝1敗だな」
スケイルは迷いの無い一閃を描いた。
バチカンに戻った二人は地響きのような歓声が鼓膜を揺らした、今までにないくらいの盛り上がり、それもそうだろう、あそこまで人外な戦いを繰り広げれば、それは本当にスクリーンの中だけの作られた戦い。
しかしそれが現実として目の前にいる人間により作り出されたとならば、自分達は異次元のレベルでの戦いの生き証人となる。
『信じられねぇ戦いだぁ!こんなもんホーリナー対ホーリナーの戦いじゃねぇ!まさに神同士の戦いだぁ!
そして世のホーリナー共が見たくてたまらなかったタナトスの本気!そしてそれを迎え撃つ帝釈天は己を超えやがった!
この超ハイレベル、いや、異次元の戦いを制したのはタナトスだぁ!
コレで決勝戦に歩を進める奴が一人決まったな!』
帝釈天はタナトスの方を向き、手を差し出した、タナトスはそれを拒む事なく、握り返す。
「あの力はなんだ?空中に盾が現れたと思ったら爆発したりこっちの得物を破壊したりしやがって」
「盾は恐らくディアンギットの鉄であろう、後はあの力で盾に神技の概念、つまり、破壊や爆発を付加するだけだ」
「こりゃ使いこなされたら勝ち目はねぇな」
タナトスは手を離して自傷気味に両手を上げた、勝利と言えど、それは力を使いこなせたかどうかの差、帝釈天が“白銀の盾”の力を使いこなしたら、それは難攻不落の城のごとき守りとなる。




