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顧問登場!

 俺はお嬢様が作った料理――ストルゥーデルを美味しくいただいた後、狂気なメイドが淹れた紅茶で一息ついていた。

 そのメイドの視線は相変わらず冷たいが、あるじが傍に居る以上下手な真似はできないと踏んだのか、特に悪態もつかず三人分の紅茶を用意した。

 ACがアニメのような絵柄が表紙に描かれた本を鞄から取り出す。ライトノベル――通称ラノベを読み始めると隣に座る使用人は俺から視線を外し立ち上がる。その足でどこかへ行くのかと思いきや部室の隅へ移動し、佇んだまま微動だにしなくなった。

 俺はそれを確認するといつも通り携帯ゲーム機を鞄から取り出しプレイする。

 静かな時。聞こえるのはゲームから流れるBGMと効果音、そして部室に一つだけ存在する時計の針が時を刻む音。

 妙に集中できるその空間、これだけゲームに意を注いだのはいつ以来だろうか。

 どれだけの時間そうしていただろう。

 俺たち三人の無言の空間は彼女の介入によって断たれた。


「諸君元気か!」


 俺はその介入者、オーコ会長をチラリと見やる。

 だが視線をすぐに画面に戻し意識を集中させた。

 正面に座る金髪少女は一瞥もくれない。当然のごとく隅にたたずむ使用人は一言も発さずにどこかを見つめている。


「無反応は冷たくないか?」


 珍しくうろたえるオーコさんは一人のメイドに目を向ける。


「メイドが居る……」


 無言を貫くつもりだったのだろうが、存在を認識されてしまった使用人は、仕方なくというようにオーコさんに会釈をする。


「ワタシはクレメンティーナお嬢様の使用人、ソノラ・フローレスと申します。あなたがこの同好会の長、串木野くしきの王子おうこさんですね」


「私のことを知っているということは、私のファンかな?」


 虚をつかれたように動揺していた会長だったが、一変して余裕の態度で切り返す。


「ファンではありません。お嬢様に関わる方を独自の情報網によって調査しただけでございます」


 ほほう、とあごに手を当ててと関心するオーコさん。おそらく〈独自の情報網〉という単語が気になったのだろう。


「なるほど。では他のメンバーについても既に?」


 使用人は首を縦に振ることによって肯定する。


「そろそろ全員集まるだろうから、それまでくつろいでいるといいでしょう」


「ワタシは使用人ですから、どんな事態にも対応できるようここで待機させていただきます。それとワタシには敬語でなくて構いません」


 もう一度会釈し、再び隅のほうで待機の姿勢に直った。


「メイドの鏡だな」


 満足げにうんうんと頷いているオーコさんから目を逸らし、ゲームに集中する。


 それからしばらくし、久しぶりに同好会のメンバー全員が集合していた。


「よし! 全員集まったな」


 俺、会長、委員長氏、、AC、ゲーマー娘、中二病、そしてメイド。


「それで、改まってどうしたんですか?」


 俺はゲーム、無表情娘もゲーム、ACは読書(先ほどとは別のラノベ)、メイドは待機(一ミリも動いていない)、中二は壁に向かってなにやらぶつぶつ言っている。

 各々が趣味(?)に没頭している状況の中、真面目な委員長氏だけはわれが道を切り開かんとオーコさんに訊ねていた。


「今日は諸君に紹介したい人がいる」


「紹介したい人?」


 反応したのは委員長氏だけだ。


何方どなたでしょう?」


 一拍遅れてACが本から顔を上げオーコさんに意識を向ける。


「ほう。新たな志願者か? だが、力無き者はこの場で即刻消えてもらうぞ」


 魔界の叛逆者はいつもの中二アクセル全開。漆黒のローブをバサリと翻し、不敵な笑みを浮かべる。

 そんな中、ゲーマー娘と不動の使用人は堂々と胸を張る会長を無言で見つめる。


「部員ではない。我がコスプレ同好会の顧問だ」


 この同好会に顧問が居たとは初耳だ。


「確かに顧問が居なければ同好会は作れませんが、コスプレ同好会の面倒を見ようなんて思う人居たんですか?」


 ニヤリと口元を歪めるオーコ会長。


「ふっふっふ、それが居たのだよ。最も適した先生が」


 俺は頭の中で考えてみる。

 コスプレしそうな人なんてうちの教師の中に居ただろうか?

 毎日教壇に立つ大人を思い浮かべてみるが、最適な存在は思い当たらない。


「そんな先生居たかしら?」


「思い当たりませんわねぇ」


「何らかの術によって己の気配を消していてもおかしくはないな」


 委員長氏、金髪、黒ローブも解らないらしい。


「ふむ、そういう風に見えないのか、それとも単に影が薄いのか」


 当然のごとく無口娘と直立メイドは一言も発さない。


「それではそろそろ登場してもらおうか」


 会長は廊下に続く扉を豪快に開く。

 いつから待っていたのか、くだんの当人の足音が聞こえてから直ぐに姿を現した。

 その瞬間、俺は驚愕の事実にゲーム機を取り落としそうになる。


「みんな~、元気……かな?」


 委員長氏はパクパクと口を開閉させ言葉が出ない様子だ。


「なぜ? なぜ先生が……ここに……?」


 やっとのことで出た言葉は状況ができていないことを表すには十分だった。


「ま、まあ驚くのも無理ないよね。何も言ってなかったし」


 その先生は居住まいを正し、改めて自己紹介をした。


「どうも~、一年一組担任、国語担当の……加護菜々子です!」

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