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委員長氏の恩返し②

 委員長氏いいんちょうしに連れられ結局けっきょく学校まで走ってしまった。下駄箱げたばこで靴をき替えていると後ろから彼女がはあはあ、と呼吸を整えている声が聞こえる。


「ふう、久しぶりに走ったわね」


 パタパタと手で顔を仰ぎながら、満足そうにつぶやく。


「全く……朝からなんなんだよ」


 納得がいかない。その思いを眼差まなしに込めジト目を向ける。


「たまにはいいじゃない」


 そう言って満面の笑顔で告げられる。ドキッと胸が跳ねた気がした。


「ま、まあたまにはな」


 動揺を悟られないように早足で教室へ向かった。


  ◇  ◇  ◇


 教室の自席に鞄を置きすぐさまDSPを起動する。さて今日はどうするかな。

 ゲームの世界に入り込もうと精神を整えたところでトントンと肩を叩かれた。誰だよこんな大事なときに。


「エース、おはよ」


 そこに居たのは昨日テオゴニアーオンラインで後ろを任せた、魔法少女のルナもとい日置ひおき渚夏しょかだった。


「リアルでアバターネームはやめてくれ」


「なら、なんて呼べばいい?」


 やはりリアルでは相変わらずの無表情。


「これまで通り枕崎まくらざきでいい」


「わかった」


 ふう、解ってくれたか。物分りがいいのは高評価だな。


「じゃあ、リンって呼ぶ」


「おい! 何故そうなった。今解ったって言ったよな」


 わけが解らない。前言撤回ぜんげんてっかい、物分りは悪いらしいな。


「私のことは渚夏って呼んでいいから、じゃ」


 笑みを向けることなくそう告げると、早々《はやばや》にってってしまった。


「全く……朝からなんなんだよ」


 DSPの電源でんげんを切り机にした。


  ◇  ◇  ◇


 適当に授業じゅぎょうを終え放課後。今日は同好会の活動も休みと言っていたし、委員長氏いいんちょうしとの約束を果たすだけだな。その委員長氏は職員室しょくいんしつにちょっと用があるらしく、俺にはホールで待っていてほしい、とのことだった。

 多くの生徒が下校や部活にと動いているなかただ待っている、というのはどうにも落ち着かない。普段そういうことが無いからなのか妙に他人の視線が気になってしまう。いっそ職員室で待っているか?いやいやそのほうがかえって怪しいか。

 そんなことを考えていると。


「おまたせ」


「お、おう。おう?」


 いつの間にか委員長氏が来ていた。ただいつもの彼女と何か違う。


「ん? どうかした?」


 長い茶色混じりの黒髪は後ろでわれており、普段の真面目な彼女とはまた違った印象を受ける。


「に、似合ってると思うぞ。ポニーテール」


 視線を逸らしながら言うのが精一杯。お世辞ではない、俺にしては珍しい素直な感想だった。


「あ、ありがとう」


 彼女も恥ずかしいのか、顔をこちらへ向けようとしない。


「そ、それじゃあ行くか? 連れてってくれるんだろ?」


 こんなところに長時間ちょうじかん居て、また噂が広がったりしても困る。


「う、うん」


 委員長氏はコクリと頷くと、校門へ向かって歩き始めた。


  ◇  ◇  ◇


 委員長氏しか知らない目的地。その場所へ続くであろう小道を彼女と並んで歩く。


「………」


「………」


 会話がない。いつもなら適当について出る言葉が、先ほど以降一言も発せなくなっていた。

 おだややかな風がほほでる。とりあえず思ったことでも言ってみるか。


「風が気持ちいいな」


「そうね」


「………」


「………」


 会話終了。委員長氏よ、誘ってきたのはあんただろ、と言うわけにもいかない。俺はいつからこんな小物になったのだろうか。


「そういえば」


「ん?」


 悩みながら歩いていると、委員長氏のほうから話を持ち出してきた。


「朝、日置ひおきさんと何話してたの?」


 隣を歩く委員長氏の顔を見るといつになく真剣な顔をしている。ゲームのことは話したくないし、さてなんて言ったらいいものか。


「別に大したことじゃない」


「でもあなた怒ってたじゃない」


「ああ、そうだったか」


 よく見てるな。


「ホントは何か言われたんじゃないの?」


 なぜだ? 委員長氏はなぜこんなに心配そうな目で俺を見ている。


「だいじょぶだっての。大したことじゃない」


「そう、それならいいのだけれど」


 それからはまた無言になり、しばらく鳥のさえずりを聞きながら歩いていた。


  ◇  ◇  ◇


「ここよ」


 そう言って立ち止まったのは一般的な外観の喫茶店だった。


「メイド喫茶っていうオチじゃないよな?」


「そんなわけないじゃない。普通の喫茶店よ」


 どういうつもりだ? 喫茶店なら他にもあるだろうし、行きつけの店なのだろうか? そんなことを考えているうちに委員長氏はさっさと中に入ってしまう。


「あ、おい待てよ」


 おもむきのある茶色い木製もくせいの扉を開け中を見渡す。店内も扉と同じ素材でできており、落ち着いた雰囲気ふんいきかもし出している。

 左奥にカウンター、他に四人用のテーブルが四つ、右の窓側に二人用のテーブルが三つ。客の入りは6人と多いわけではないが、喫茶店の人数としては妥当なところか。

 前を行く委員長氏が迷わず窓際の二人用の席へ移動したため、俺もそれに着いて行く。

 俺たちが席に座ったところで白を基調としたエプロンの店員がやってきた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「はい。Aセットを二つお願いします」


かしこまりました」


 委員長氏が手馴れた様子でオーダーを終わらせる。


「ここのAセットは一度食べておいたほうがいいわ」


 先ほどの心配そうな顔とはうってかわって笑みが広がっている。


「そんなにうまいのか? んでAセットってのはどういうメニュー何だ?」


「それは来てからのお楽しみ」


 ウインク付きで答える委員長氏に思わずドキリとした。

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