委員長氏の恩返し
10万文字まであと少し! 皆さんのお陰でここまで来れました。引き続きよろしくお願いします!
TOへ久々の帰還を果たした翌日。ふわああ、と大きな欠伸をしながらいつもの通学路を歩いていると、道路の向こう側に見知った顔を発見した。
彼女も俺に気づいたらしくこちらに笑顔で手を振っている。それを見た俺は、知らない振りをしてそのまま学校へ向かう。
「ちょっと! 何無視してんのよ!」
数秒後、車も走っていないのに律儀に横断歩道を渡ってきた委員長氏がお怒りの様子で追いかけてきた。
「おっ委員長氏か。無視をしたなんて失礼な」
わざとらしく惚けてみせる。
「はあ……まあ、いいわ」
明らかに納得していない様子でそんなこと言われてもなあ。
「今日もむかつくほどいい天気だな」
雲一つない青空にギラギラと地面を焦がすように照り付ける太陽。快晴以外の天気を忘れてしまったかのようにここ最近はこんな気候が続いている。いつも通りの適当な発言に委員長氏が何か言ってくると思い、チラリと横目で顔を覗う。
「……………」
どうしたんだ? 俺の発言にいよいよ呆れてものも言えなくなったのか、無反応という意外な結果に眉を細めて訝しむ。
「どうかしたのか?」
「え? な、なななな、にが?」
目を逸らし中空に視線をさ迷わせ、たった三文字の言葉も噛みまくっている。動揺してるのが丸分かりだ。朝から珍しいものが見れたな、と心のノートに書き留めて気になったことを聞いてみる。
「俺の発言に何も反応しないから、朝から恥ずかしい妄想でもしてるのかと思ったんだが……違ったか?」
「な、ななな……そんなわけないでしょ! あなたじゃないんだから、は、は恥ずかしい、もも妄想なんて朝から……あ、ありえないわ!」
ふむ、別に体調が悪いわけではないか。
「朝からじゃないってことは夜はしてるのか?」
「よ、夜? 夜なら……そうね、少しは……って何言わせるのよ!」
けらけらと笑ってごまかす。もう少しで更に面白いものを聞けそうだったのに非常に残念だ。さて、いつもの調子が戻ってきたみたいだし本題に入るとするかね。
「んで、悩みでもあんのか? クラス委員長なんて何かとイソガシソーだし」
口元に仄かな笑みを浮かべながら訊ねてみる。委員長氏は言うか言わないか躊躇っている様子だったが、一秒ほど目を閉じ、再びその両目を見開いた時には既にいつもの真面目な眼差しに戻っていた。
「この前の『まゆうかふぇ』のお礼」
「まゆうかふぇ?」
さてそんなカフェあっただろうか?と最近のことを振り返ってみる。
「ああ! 委員長氏がバイトしてるメイドカフェ!」
その瞬間彼女の小さな手が俺の首に伸びる。
「ぐはあ! く、苦しい、いいんちょうしタイムタイム」
睨みながら手の力を緩めようとしない委員長氏。息の根を止められそうになりながら、俺は必死に死を免れようと彼女の腕をバシバシと叩く。意識が遠くなり始めたところで手の力が緩み、ようやく開放された。
「はあ、はあ、死ぬかと、思った」
体内に酸素が供給される。はあ美味い。酸素最高。
「あなたがこんなとこで秘密をばらそうとするから強行手段に打って出ただけよ。心配しなくても殺しはしないわ」
「強行手段って他にもやりようあるだろうが、口ではいくらでも言えるだろうが絶対殺す気だったよな、あんた」
朝から殺されかけるとか冗談じゃない。肺が正常運行に戻り、落ち着いてきたところで言葉を発する。余計な注目を浴びていないか心配になり周りを見渡すが、幸い俺たち以外に人は居なかった。
「さっきのは悪かった。んでお礼ってのはなんだよ」
いつまでも殺されかけたことを引きずっても仕方ない。そう自分に言い聞かせ無理やり話を進める。
「だから諏訪部君と姶良さんに秘密を隠してくれたこと」
「ああそのことか。別に気にしなくていい、もう終わったことだしな。だが結局、諏訪部はどうなのか知らんがACにはバレてるじゃないか」
あの時に敢えて全て説明した上で納得させていればまた未来は変わっていたのだろうか?
「そうだけど……お礼はさせて欲しいの。そうしないと私の気が治まらないから」
委員長氏の目は真剣だ。おそらく何度断っても承諾するまで諦めないだろうし、また殺されかけたら堪ったものではない。
「わかった。好きにしてくれ」
彼女の表情は忽ち明るくなり真面目な顔から花が咲いたような笑顔に変わった。
「ありがとう。それなら放課後に一緒に帰ろ。連れて行きたいとこがあるから」
ふふふ、と笑いながら登校を再開。そんな委員長氏を見て俺まで嬉しくなってしまう。……いや待て、何故俺は今嬉しいんだ?
「枕崎君どうしたの?」
前を歩いていた委員長氏が振り返りきょとんとした顔で聞いてくる。
「早く行かないと遅刻しちゃうわよ」
そう言うと彼女は俺の手を掴み学校へ向かって走り出した。




