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神魔獣を斬る!

ルナ:『コメットレイン』


 周囲では凄まじい轟音と共にリザードマンやオーガが一瞬で霧散していく。多種多様な魔法を交えながら杖を振りかざす姿に頼もしさと共に闘ってくれる喜びを感じながら、俺は目の前の敵に意識を戻す。


A:んじゃ、さっさと終わらせるか!


 再びスキル『観察』を発動。HPや対象にかかっている付与効果を調べる。


A:やはりな。


 普通のゴッドキマイラより強さが増しているように感じ調べてみたが、案の定攻撃力と防御力に五割増しの付与を観測。だが、どういうことだ?

 基本的に魔獣系のモンスターはフィールドによる効果か魔術師系のモンスターによる支援魔法でしか能力の上昇は得られないはずだが、ここには特殊な効果のあるエリアでもなければ、周りに支援魔法が使えそうなモンスターも見受けられない。つまりは何故ゴッドキマイラが五割も能力が上昇しているのかが不明なのである。出来れば原因を探りたいところだが、現時点では手がかりもない。それにまずは……。


A:こいつをどうにかしないとな。


 神の名を冠する魔獣は俺をねめつけると、口から高温の火炎を吐き出した。何千度という当たれば十分に鍛えられた戦士でさえ生きていられない程の熱さだが、その反面大きな隙ができるのがこの火炎ブレス。すかさず俺は敵の懐に潜り込み弱点である首もとを一閃。呻き声を上げているときにもう一閃。首を庇ったところで背後へと回り、もう一つの弱点である長い尻尾にアビリティ『二段斬り』による斬撃。


A:このまま押しきる。


 だがそうさせまいとキマイラの体が発光。何らかのアビリティか?だがゴッドキマイラはそのような技は持っていないはず。万が一のためここは一度引くか?いや、もしこの技が『発光してから発動する技』の代表である『アースシェイク』であれば後退したところで大ダメージは免れない。


A:ならば……。


 俺は瞬時に思考し、アビリティ『ハイジャンプ』を発動、中空へ身を躍らせる。直後キマイラの両目が赤く光り、魔獣の周りを青白い冷気が包みこむ。範囲内の地面や石などのオブジェクトが瞬く間に氷塊となり、かなり高威力な技だということが窺い知れる。今のは自身の周りを一瞬で凍らせる高威力アビリティ『氷結結界』だろう。先ほど『観察』を発動した時に技の覧を見ていなかったのは失敗だったな。久しぶりの実戦だからだろうか?

 その思考を振り払い眼下の魔獣を見下ろし、右手に持つ剣を振り上げる。


A:これで……終わりだ!


 柄を握る手に力を込め重力と自重で落下速度を更に加速。大気を貫くような勢い、眼前に迫る敵に向かって剣を振り下ろすと同時に俺は叫んだ。


A:『狩獣斬』!


 無防備な首筋に刃を叩き込む。肉を切り裂く確かな感触。ゴッドキマイラはひときわ大きな叫び声を上げると、光の断片を撒き散らし霧散した。

 ゆっくりと周りを見渡しながらエリアが静寂に包まれていることに気づく。数メートル離れたところで、ルナが霧散した光を見つめながら武器を下ろした。


A:そっちも終わったみたいだな。


 魔法少女はこちらに向き直ると笑顔で言った。


ルナ:さすがだね。噂にたがわない実力、見せてもらったよ。


A:噂ねぇ。


 一体どんな噂が飛び交っているのか。俺が現役でプレイしていた頃には聞いたこともない。アリアンロッドなら知ってるかもしれないが、聞いたところで適当に返されるだけのような気がする。


ルナ:エース、何かいいもの手に入った?


 戦闘に勝利したことで貰える報酬を表示するリザルト画面を見ながら尋ねてくる。


A:そうだな……ふむう、神魔獣しんまじゅうの皮か。昔ゴッドコング狩りまくって集めてたから今はもう必要ないな。


 あの頃よく一人で森入ってたなあ。ゴッドコングは猿人系最強のモンスターで、攻撃力が半端なく高く普通に出現する魔物の中で一番上だったはずだ。だが防御がさほど高くないことと一撃に集中する大振りな攻撃が多いため、素早い動きでこまめにダメージを与えていけばソロでも十分倒せる相手だ。とはいえ全て昔のことだから、調整されて今は行動パターンが変わっているかもしれないし、更に強いモンスターがうじゃうじゃいるだろうけどな。


ルナ:神魔獣の皮!


 過去の懐かしさに浸っていると、数メートル先にいた少女がゴッドキマイラもかくやというほどのスピードで俺の目の前に走ってきた。


A:おおう……ど、どうした?


ルナ:すごい!欲しい!


 キラキラとした目で俺を見上げる魔法少女。しかし本当によく作られてるよなあこのゲーム。前はキラキラなんて出せなかったように思うが……。


A:神魔獣の皮が欲しいって?


 コクコクと頷く。


A:まあ、いいけどよ。あんたほどの実力者ならゴッドコングくらい余裕だろ?


 そう言いながら神魔獣の皮をルナに渡す。


ルナ:そうでもない。長い詠唱を必要とする魔法使いには相性が悪い。それに今は昔よりも神魔獣の皮のドロップ率が低くなってるから私一人では難しい。


A:なるほどね……っと、もうこんな時間か。


 時計を見ると既に時刻は七時を回っていた。


ルナ:もうそんな時間になってたんだ全然きづかなかったよ。


A:イベントまでの日にちはまだあることだし今日はこのくらいでいいか。


ルナ:そうだね。そろそろご飯の時間だし、今日はここまでってことで。


 コマンドを開きデータをセーブする。


A:それじゃな。


ルナ:うん。また明日。


 互いに手を振りながらログアウト。パソコンの画面が元のデスクトップに戻るまでの数秒間、最後にメッセージが現れた。


ルナ:ありがとね☆


 ログアウトチャット。ログアウト後に画面が一度暗くなるギリギリのタイミングでチャットを流すと発生する高度なテクニックだ。


「あんたも流石だよ」


 届くはずのない言葉、それでも一言呟かずにはいられなかった。

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