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コスプレの一歩

「みんなー、元気かー!」


 快活な挨拶と共に現れたのは我が同好会のおさ串木野王子くしきのおうこ会長である。


「おや?」


 オーコさんが訝しむのも無理ないだろう。この前入部した二人以外に知らない二人が居るのだから。


「今日転校してきた姶良君と成績優秀者の日置君じゃないか」


 知らないわけではないのか……制御室のディスプレイで監視してるもんな。っていうかゲーマー娘、成績優秀者だったのか。

 会長の登場により、俺は先程までの考察を中断し気持ちを切り替えて紹介する。


「会長も知ってるだろうけど二人共今日から入部するってさ」


 この前まで敬語で話していたがこの人には不要な気がしたのだ。


「あれ?日置さんも入部するの?」


「うん」


「無理やり入れられた訳じゃないわよね?」


 再び睨んでくる委員長氏。


「人聞きの悪い」


「無理やり入れられたら、って指宿君もいやらしいな」


 会長が言葉尻を捕らえる。


「そ、そういう意味で言ったわけじゃありません!」


 顔を真っ赤に染めて否定する委員長氏に追い討ちをかける。


「そういう意味ってどういう意味だ?俺にはさっぱり解らないんだが」


「な、ななな……と、とにかく……えと、それぞれ自己紹介を」


 どうぞ、と小声で呟く。早口な話題転換は少々強引だったが、面白いものを見れたのでよしとしよう。


「イタリアから参りました姶良・C・クレメンティーナと申します。気軽にクレミーと呼んでくださいまし」


 ここでもACは気持ちのいい笑顔で深々と綺麗な一礼をする。


「名前から分かると思いますけども、父親がイタリア人と母親が日本人の所謂ハーフですわ」


 はあああぁぁ、と委員長氏とオーコ会長はあまりの美しさに目を奪わていた。


「じゃ、次」


 このままではずっとACのターンになりかねなかったため、仕方なく俺が進行した。


「……自分は日置ひおき渚夏しょか……枕崎に誘われたから……来た」


「ほお」


 君も隅に置けないなあ、などと言いたげな目で会長がこちらを見る。


「部員を増やしたかったのは会長もだろ。これは単なる部員勧誘だ」


 オンラインゲーマーの仲だ、と言う気はさらさらない。


「ふむ、まあ確かにおかげで新たな部員が増え在籍人数は五人になった。感謝するよ枕崎君」


「俺は自分のためにやっただけだ」


 単なる偶然で増えただけだしな。とはいえ人の巡り会いなんて偶然の繰り返しではあるな。


「第一段階をクリアしたので私たちの活動を第二段階に進めようと思う」


 会長は宣言し部員ぶいん各々《おのおの》の顔を見回していく。


「会長、そこは第二フェーズと言った方が盛り上がるぞ」


「ん?そうか。……では改めて私たちの活動を第二フェーズへ移そうと思う」


「「「……………」」」


 その二度目の宣言は場に沈黙をもたらした。


「……全く盛り上がらないぞ」


「言い直しはないわー」


 提案した当人である俺ですらどうかと思う。


「……それで第二フェーズって具体的に何をなさるのですか?」


 凍りついた空気を少しずつほぐすようにACが口を開く。


「姶良君よく聞いてくれた」


 先程までの空気が嘘だったかのように、会長は自信に満ちた笑みで言葉を続ける。


「はっきり言ってまだ君たちはわかっていない」


「何をですか?」


 委員長氏がジト目でもっともな疑問を上げる。


「コスプレの素晴らしさについてだ」


「いや、別にどうでもいいんだが……」


 個人としてやりたいことをやるのは構わないが、それを俺達に布教されても困る。


「何を言っている。君たちもコスプレ同好会の一員なら、その素晴らしさを知り、世のため人のために伝えていかなくてはいけないだろう」


 入部する前に言ってたことと違うじゃないか。快適なゲームライフを送るために入部したっていうのに。


「会長、まず座る場所が無いんだが」


「そこは問題ないだろう。なあ姶良君」


 期待に満ちた目でACを見つめる。


「余っている家具で良いのならありますわよ」


 ヨシッ、とガッツポーズを決める会長。


「これで第一関門突破だな」


 計画性ないなこの人。


「話を元に戻すぞ。世にコスプレの素晴らしさを知らしめる前にまずは自分たちがコスプレしようではないか」


「断る」


「何故だ?」


「他人がするのはいいが自分がするのは面白くない」


 コスプレをするなんて、あまりいい思い出がないのだ。


「ふむ?君なら似合うと思うのだが……」


「似合う似合わないの話じゃない」


「グアンならわたくしも似合うと思いますわ」


 会長の意見にACも賛同してくる。


「日置君、君はどう思う」


「枕崎は……いいと思う」


 何がいいんだよ。


「そうか」


 会長も納得するな。


「では指宿君はどうだい?」


 ここでお前がどう答えるかによって俺の運命が決まる。頼むぞ委員長氏。


「枕崎君がコスプレするなら私もします」


 なんだそりゃ、答えになってないだろ。


「よし決まりだな」


「何が決まりなんだよ」


「指宿君が反対しようとも既に過半数は取っている」


「ちっ」


 どうやら覚悟を決めるしかないらしい。


「なら、俺がコスプレするなら全員コスプレしないとな」


「元よりそのつもりさ」


 会長が快活な笑顔で答える。


「さてと、全員がコスプレすることに決まったため」


 他は確認しなくていいのかよ。


「衣装を用意しなくてはいけない」


「衣装についてはわたくしの家にいくつかありますのでそちらをご用意致しますわ」


 ACも乗り気のようだ。


「それは助かる。私は王子の衣装を着るから問題ない」


 この前の衣装となんとなく違うような王子服の会長が言う。


「自分は、あるから」


 ゲーマー娘は魔法少女の衣装があるしな。どこで手に入れたんだか。


「あら、そうですの?では私と指宿さんとグアンの分ですわね」


「男物の衣装なんてあるの?」


 と委員長氏。無かったら女装ってことだぞ。そうなった場合は全力で逃亡してやるさ。


「ありますのでご安心を」


 と言ってさりげなく俺にウインクをしてくる。何なんだあいつは。


「よし今後の方針も決まったし、今日の活動はこれにて終了とする。明日の活動は休みとし、各自この部屋を便利にするため何か持ってくるものを考えてほしい。では解散!」


 そう宣言すると委員長氏はため息をつきながら、ACとゲーマー娘は無言で部屋を出て行った。

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