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神の制御装置

 放課後。俺は一人でコスプレ同好会の部室へ向かっていた。委員長氏はACに学校の案内をするため二人共遅れてくるとのことだ。

 昼休み屋上を去る前に無口少女とは、今日家に帰ったあとにTOテオゴニアーオンライン内の央都で落ち合うことにした。とりあえず互いの能力や弱点などを知っておかなけば連携も取りにくいからだ。

 ただ俺は彼女にこうも言った。TOに戻るのは今回だけだと。それでも構わないという返答が返ってきたことに安堵し、もう一つ頼みごとをしてみた。

 それに対する返答は部室に行けば解ることだ。俺も掃除当番で少し遅れたため、先に誰かが来ていてもおかしくはない。

 入部してからまだ数度しか訪れていない部室の戸を開けた。その先には……。


「来てたのか」


「うん」


 魔法少女ではなく制服姿のゲーマー少女が何もない殺風景な部室の端でちょこんと体育座りをしていた。

 俺が最後に言った頼みとは、良ければコスプレ同好会に来てみないか、ということだったのだ。誘っておいてなんだが、まさか本当に来るとは思わなかった。

 視線を辺りに巡らせ思う。そういえば最近色々あってこの惨状をすっかり忘れていた。はあ、と溜め息をついたところであることをふと思い出した。


「なあ、ここの三つ部屋だが」


「右の部屋には馬がいた」


「ああ、この同好会の会長の馬で名前は……まあ、いいか。その真ん中の部屋についてなんだが」


 制御室の戸を指差す。


「この中は制御室になってるらしいんだが、あんたなら解らねぇかな?」


 単なる希望的観測だ。別にこいつが機械に詳しいかどうか知って言ってるわけではない。


「見てみないことには、なんとも」


 俺も入ったことはないが、もしかしたら何か他に面白いものがあるかもしれない。二人で制御室の前に立つとゆっくりと戸を開けた。


「暗いな」


 その先は一切先が見えない暗闇で支配されていた。窓もついていないのか、戸を開いたことで差し込んだ光だけが部屋の中を照らす。


「電気はどこだ?」


 壁伝いに手を伸ばし探っていくがそれらしき物になかなか触れられない。そんなことをしているうちに暗闇に目が慣れてきた。

 おおよそのこの部屋の広さを把握する。どうやら俺が想像していたものより広く、十畳くらいはありそうだ。

 静かな部屋の奥に何か見える。目を凝らし電気を点けることも忘れ、誘われるように奥へと進んでいく。漆黒の闇の中でも解るくらいの存在感を“それ”は放っていた。


「これは……」


「ディヴィーナ・デレクトゥス。ラテン語で神の選択という意味の制御装置」


「何故知ってる?」


 それは彼女だけではなく、自分への問いでもあった。

 既視感。なぜかは解らないが俺はこの制御装置に見覚えがあった。


「本で読んだことがある」


 いったい何なんだ、これは……。


「その本には未来を変えられる機械として登場していた」


 解らないけど、多数のディスプレイが備え付けられているため、これでオーコ会長はこの装置を使って校内の監視をしていたようだ。ただ、今は起動していないのか全てのディスプレイが黒くなったままだ。起動するため手を伸ばす。

 会長が普段使っているのなら俺が使っても問題ないはずだ。そのはずなのに、なぜ……。何故装置を触ろうとする手が震えている?


「何も、問題は……ない」


 自分に言い聞かせるように呟くと、震える手をなんとか制御しゆっくりと伸ばしていく。

 暗闇の中、導かれるように謎の制御装置ディヴィーナ・デレクトゥスに触れた。


 刹那、脳内に無数の映像が駆け巡っていく。これと似た感覚を最近どこかで経験している気がする。だがそんなことを考えるいとまさえ与えられない。頭痛と同時に全身に激痛が走る。

 映し出される映像に覚えはない。どれもこれも見たことのないものばかりだ。過ぎ去った景色を思い出そうとするものの、次々に押し寄せる多種多様な映像群により思考を支配される。

 ただ流されるままにされるまいと抵抗を試みるが、全身が鉛になったかのように自由が利かない現状ではどうすることもできない。

 いつまでも続く未知の感覚の連続に身体は既に限界が訪れていた。このまま死を迎えるのでは、と半ば諦めかけていた時、今までのものとは別種の映像が流れてきた。


「これは……?」


 実際に声が出ていたどうかは定かではないが、疑問を抱いたのは本当だ。ようやく見覚えのある光景だと思ったが、それが間違いであることに気付く。

 場所はコスプレ同好会部室。物が溢れる部屋で歓談している委員長氏、会長、AC、無口少女まではいい。だがその他の、隅に控えるメイド、漆黒のローブを纏った少年、笑ったり怒ったりと喜怒哀楽の激しい少女、この三人には覚えがない。

 砂嵐がかかったように映像が切り替わり、次に映し出された光景はその七人が……血塗ちまみれで倒れている惨状だった。

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