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衝撃の告白

 時は一時間目の数学の授業中。先程のHRホームルームで縦ロール金髪少女は簡単な自己紹介をしていたが、その間俺は重度の金縛りにあったかのように硬直していた。その後俺に向かってウインクをしてくるものだから少々焦ったが、教室の連中には気づかれなかったようだ。


「さて、どうするか」


 自分にしか聞こえない程の小声で独りごちるが、最善の打開策は浮かばない。

 今思慮すべき問題は現在黒板に表記されている計算式をどのように解くかではなく、どのようにしてACによる“委員長氏がメイドカフェで働いている”という事実の公表を阻止するかである。おそらく一時間目が終了した直後に俺と諏訪部、そして委員長氏の元に来るだろう。その展開を避けられないならば俺単身でACの元へ先に近付き、早めの対策を打つ必要がある。とりあえず今のところはこのくらいしか案は思いつかない。残りの時間で代替案が浮かべばそっちを採用するが、おそらくこの短時間では無理だろう。

 ひとまずの方針を決定した俺は、ゲームをして鬼の高村に見つかり愛用品が没収されても困るため大人しく勉強をするふりをして時を過ごした。


 チャイムが鳴り一時間目の授業が終了。高村が教室を出ていくのを確認すると、その目を次にACへと向ける。

 すぐ行動に移らなければと思い席を立とうとしたが、ACの周りにはハーフへの興味からかそれともお嬢様であるからか、多くの生徒が押し寄せ四方八方から質問攻めの嵐を容赦なく浴びせていた。


「これならとりあえず……大丈夫か?」


 予想外の出来事ではあったが考えてみれば当たり前のことのような気がした。この学校は在籍生徒数こそ多いものの、外国人やハーフの者は俺の知る限りほぼいないと言っても過言ではないだろう。物珍しさからどんな人なのか知りたいという思いで近寄る生徒が大勢いてもおかしくはない。

 突然のことではあるがこれは好都合だ。この間に委員長氏とコンタクトを取り今後の方針を……。

 だが俺と委員長氏にとって好都合なこの状況は長くは続かなかった。


「みんなー、クレミーが困ってんじゃんかよぅ。ちょっと質問するのは構わねぇかもしんねぇけど一人ずつじゃないといくら優しいクレミーだって怒っちまうじゃねぇか」


 その声がしたのは背後。最近聞き慣れた声は普段は変態的な言葉しか発さない諏訪部のものだった。


「クレミーは今日が最初の登校日なんだし覚えないといけないこともいっぱいあるから疲れるだろうさ。それに居るのは今日だけじゃねぇし、これから時間は有り余るだけあんだからよぅ、そんなに焦らなくもていいんじゃねぇかな?」


 あの諏訪部がまともなことを言っている。俺は夢でも見ているのだろうか?これが夢だったら非常に嬉しいのだが、試しに頬をつねってみるものの案の定痛みが走るだけでなんの変化も訪れない。

 熱弁を奮う貴重な変態の顔でも拝んでやろうと背後を振り返る。右手の拳を固く握りしめ、下ろした左手には携帯電話を持っている。目をやったその先に偶然画面に表示されたメールの文面と送信者が見えた。

 送信者は……クレミー!?内容を読むと「皆様の熱いラブコールに耐えきれないので助けていただけませんか?」となっている。

 なるほどな。諏訪部は困っているACを見かねて注意したのではなく、ただ単純に彼女からのお願いであったからこその行動だったわけだ。

 美少女であるACの願いを断ることなど微塵も頭になかったであろう諏訪部には効果的だったってことか。メアド交換していた可能性を考えていなかったのは迂闊だったな。

 ACの周りにいた連中は徐々に散会し始め先程よりも明らかに人数が減っていた。

 やがてACは立ち上がり俺達の方へーーではなく、委員長氏の方へ歩き出した。

 まずい。やはり気づいていたか。いや気づかない方がおかしいか。確信があるのだろう、堂々した足取りでこのクラスのまとめ役、指宿柚奈いぶすきゆなの席へ歩みを寄せた。

 もう駄目だ間に合わない。委員長氏がACに気づき視線を上げる。金髪ハーフは真っ直ぐな瞳で委員長氏を見ると躊躇いなく口を開いた。


「先日は丁寧なサービスの提供を感謝致しますわ」


 お嬢様の綺麗なお辞儀を前に委員長氏は困惑気味だが、クラスの連中は二人の様子に注目しだした。


「あれ?クレミーと指宿さんって知り合いだったの?」


 先程までの熱はどこへやら、いつもの諏訪部の口調で二人の関係について尋ねてくる。その問いに俺とお前も知り合いだ、とは言えず無難な解答を出すため思考を巡らすが、その間にも二人の状況が変わってしまう可能性を考慮し「さあな」と答えるだけに留めた。


「あのお店の中でもあなたは特に輝いていました。お客様に振りまく笑顔や楽しませようとする心意気、その他諸々のの小さな気配り心配りも感じられ、あの場ではとても楽しく過ごさせてもらいましたわ。よければでいいのですけども、またお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」


 クラスに居た全員が二人のやりとりに注目していた。静まり返った教室に許された発言者は何が起こったのか解らない、というようにポカンと口を開いたまま微動だにしない委員長氏だけだ。

 この時が止まったかのような静寂の中、沈黙が破られたのは優に三十秒を越えたあとのことだった。


「あ、ありがとう……ええとお客様……いえ、お嬢様に喜んでいただけたのならば本望です。……ぜ是非今後とも……と当店『まゆうかふぇ』へのお帰りをおおお待ちしております……」


 言ってしまった。まさか自分から自白するとは予想外だった。

 どうするよ委員長氏……。

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