金髪の転校生
「おっ!リンおはよう!」
教室の扉を開けてから開口一番に耳に届いてきたのは、メイドカフェで委員長氏に気づかなかった諏訪部の挨拶だ。
「随分元気だな。一時間目から鬼の授業だってのによ」
横目で諏訪部に目線を投げながら、自分の席につく。
「そりゃあ鬼の授業はテンションがた落ちだがよぅ、それでも今日転校生来るっていうじゃねぇか。可愛い子だったらいいな」
満面の笑みを向けて来るが、そこまで楽しみなのだろうか?気持ち悪いのでやめてほしい。
「まだ女子かどうかも解らないだろ。っていうかこの時期に転校生なんて珍しいな」
そもそも転校生事態珍しいか、と後に付け加える。俺的にはコスプレ同好会の新入部員の条件を満たした逸材が来てくれれば、成果の芳しくない部員勧誘の手間が省けて楽なのだが……。
「あ、そうそう土曜日のメイドカフェよかったよなあ。メイドさんも可愛かったし、また行ってみるかなあ?」
今聞き捨てならないことを言ってなかったか?その発言について問いただそうと諏訪部に向き直りかけたところで、委員長氏が教室に入ってきた。
委員長はやはり人望があるのか日頃の行いがいいからなのか、近くに居た生徒だけでなく窓際にいる生徒や掃除用具ロッカーの辺りで会話に花を咲かせている生徒からも挨拶を受けていた。彼女もそれが苦にならないのだろう、一人一人に笑みを向けて挨拶を返している。
「どうした?指宿さんに見惚れてたのか?」
「そんなわけないだろ」
呆れ気味にそう返したが内心では若干動揺していた。それを面に出さないよう努めチラリと委員長氏を見ると、仲のいい友人と少し話した後俺の方へと歩を進めてきた。
「指宿さんおはよー!」
朝から五月蝿い挨拶のリプレイを目と耳で受ける。
「諏訪部君おはよう。別にわざわざさんなんて付けなくいいのに……」
土曜日のメイドカフェでのことが気にならない訳ではないだろうが、委員長│指宿柚奈はそれをーー事情を知る俺にも解らないくらいーー臆面に出さず違和感のない対応をしている。
「それは……オレとしてのケジメみたいなのがあるっていうか人のものを取らないための線引きというか……そんな感じでねぇ。そう言う指宿さんこそ義徳く~んとかヨッシーとか呼んでくれて構わないんだよぅ?」
さすが変態。そういった話題へ転じた瞬間に己の主張というか理想を語り始める。
「諏訪部君って義徳っていう名前だったんだ?」
「うわっ!指宿さんまでそれ言っちゃう!?うわマジでかぁ~委員長の指宿さんにまで言われるとは思わなかったあ!」
「じょ、冗談よ」
苦笑気味にそう言っているが本当は知らなかったじゃないのか?なんか怪しい、特に目の辺りが。
「委員長氏は転校生の話聞いてるか?」
先程の話題を委員長氏に投げかける。
「転校生?誰か来るの?さっき職員室行った時は特にそれらしき人は居なかったけど……」
「指宿さんでも知らないのかあ」
変態は目を閉じてうむむと考えている。
「諏訪部はどこでそんな情報得たんだよ」
最近こいつは俺の知らない所で何か動いている節がある。おそらくそれと関係しているのだろうが……。
「悪いがそれは教えれねぇなぁ」
どや顔でそう返してくる変態にイラついたため腹でも殴ってやろうかと思ったが、委員長氏の声によってそれは中断せざるを得なかった。
「そろそろチャイムが鳴るから皆席に着いてー!」
委員長氏は今時計を見ずにそう言った。体内時計かそれとも後ろに目でも付いているのか意見が分かれるところだな。
「それじゃ私も席に戻るから」
わざわざ言わなくてもいいことを丁寧に告げていくのも委員長氏らしいと言えばらしいか。
程なくして聞き慣れたチャイムが校舎全体に鳴り響く。
「なあ、やっぱり指宿さんって可愛いな。お前じゃないけど見惚れるかと思ったぜい」
周りに聞こえないよう配慮してか俺の耳元に口を近付けてくる。
「だから俺は見惚れてたわけじゃないって言っただろ。お前の脳みそは空っぽか?スカスカなら代わりに最近のゲーム雑誌でも突っ込んでやるよ。きっとゲームの良さが解るようになる」
日頃を鬱憤を晴らすかのようにある程度の分を言葉に乗せ暴言を吐く。
「そういうこと言ってるときのお前ってホント生き生きしてるよなぁ」
はあ、とため息を吐く諏訪部を見て俺は更に広角を上げる。
チャイムが鳴り止むとガラガラと戸が開き国語教師で担任の加護先生が入ってくる。
「みんな~おはよ~」
ゆっくりした動作でひらひら手を振りながら間延びした声で挨拶をする眼鏡教師。この間ゲームしているのを注意したのもこの加護先生だ。その時は結局適当にあしらったが。
「ええと、きょ~は皆さんにとてもとてもとても大切なお知らせが有りま~す」
クラス中がざわざわと色めき立つが、俺は黙ってその続きの言葉を待つ。
「はい、では言いますよ~。ジャカジャカジャカジャカジャカジャカじゃん!なんと転校生が来ていま~す」
無駄な効果音によりそこで再び教室が騒々しくなる。委員長氏はこの騒ぎを収めたいのだろうが空気を読んでか今は両の瞳を閉じ必死に耐えているようだ。身体が小刻みに震えているのが妙に面白い。
「それでは転校生さん張り切ってどうぞ!」
まるでテレビ番組のスゴ技披露のような掛け声で促す担任教師。
「皆さんおはようございます!」
“彼女”の登場にそれまで余裕で構えていた俺は絶句。見覚えのある流麗な金髪、太陽の光によって更なる輝きを放つ白い肌。お辞儀や溢れる笑顔からも育ちの良さが伝わってくる。
見間違えるはずもない。つい二日前に出会った少女がそこには立っていた。
「姶良・C・クレメンティーナです。どうぞよろしくお願いしますね」
本日二つ目のクエスト発生の瞬間だった。




