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下駄箱の手紙

 枕崎静恵の変死事件の概要は結局全てが謎のままだった。知り得た情報を元に自分なりに調査しようかと思ったが、現在の母親である厳島竜華から制止を受けたため今は日常を過ごし期を待つことしか出来ない。

 昼休みにでも図書室へ行って毒物や化学薬品について調べてみるか……。


「枕崎くん?」


 休み明けの月曜日登校中、後ろから誰かに話しかけられたが人違いだろうと思ってそのまま歩き続けた。


「ちょっと無視しないでよ!」


 その聞き覚えのある声に思わず振り返る。


「ああ、委員長氏か。おはよう」


 誰かと思ったぜ。


「お、おはよう」


 ん?なんか落ち着きないな。どうしたんだ?


「まさかあなたから朝の挨拶をされると思わなかったから少し驚いただけよ」


 俺の顔から読み取ったのかそう付け加える。一日ぶりのはずなのに何故かとても懐かさを覚える。


「ど、どうかした?」


 まじまじと委員長氏の顔を見ていたからだろう。戸惑いの表情を浮かべている。こうしてじっくり見たことはあまりなかったがやはりこいつ可愛いな。


「別に大したことじゃない」


「そ、そう」


 数秒の沈黙。俺は目線を彼女の顔から逸し先ほど思い出したことを話してみる。


「そういやあんた《まゆうかふぇ》でバイトしてたんだな」


「ええ。どこで働いているかくらい言っておけばよかったわね」


「結果的にバレなかったなら御の字じゃないか?ただ委員長氏の行動が迂闊過ぎたのは否めないがな」


 ニヤリと意地悪く委員長氏の顔を覗き込む。


「うっ……そ、それはごめんとしか言いようがないわ」


 委員長氏の萎んだ表情を楽しんだところでふと違和感に気付く。普段登校中に会わないのに何故今日は一緒になったんだ?


「なあ、あんたの家ってこっちだったのか?」


「そうよ。言ってなかったかしら」


 聞いてねえよ。


「じゃあ今まで会わなかったのは?」


「たまたま……じゃないかしら?」


 そうなのだろうか?まあ別に不都合があるわけでもないしいいか……いや、いいのか?だって委員長氏だぞ。いつも口うるさく説教したり監視と称してくっ付いてくる委員長氏だぞ。だが何故だろうか?今隣にいる少女とは一緒に居ると不快感を抱くどころか、なんだか心地よく感じる。


「まあ何にせよバレる心配がないならよかったんじゃないか?」


「確かにそうね」


 これでまたしばらくは平和な時を過ごせるか……。

 それから程なくして学校に到着した。


「それじゃ私は職員室に用があるけら先に教室に行っててくれない?」


「了解」


 何か良いことでもあったのかスキップでもしそうなテンションで鼻歌混じりに職員室に向かっていった。


「さて俺も教室行くかあ」


 いつものように上靴に履き替えるべく下駄箱を開けたところで俺はフリーズした。


「これは……なんだ?」


 ラブレターのような白い封筒が一つ置いてある。ご丁寧にハートのシールで留めてあるため一瞬ラブレターなのではと疑念を抱くが、直ぐにその可能性はないなと思考を現実に戻す。俺に告白なんてよっぽどの物好きでないとしないだろう。


「だったら何の手紙だっていうんだ?」


 その答えはこの封筒の中にあるのだろう。間違えて俺の下駄箱に入れた可能性も否めないが開封しないことにはその事実の確かめようもないというものだ。


「これが新たなるクエストの始まりだった、なんてな」


 ははは、と乾いた笑い声を上げながら白い封筒を破らないように慎重に開ける。


「冗談じゃなくクエスト始まったじゃねぇか」


 そこに書いてあったのは誘いの内容だった。ただそれは単なる誘いではなく……。


「オピニンクス(レベル523)との決戦場でメリアの時に待つ……って完全に俺へのメッセージだな」


 オピニンクスは俺がやっていたTOテオゴニアーオンラインに出てくるモンスターの名前だが、種類が多数存在し色や見た目が同じなため区別するにはレベルや出現場所で判別するのだ。今この文章を見た瞬間に封印していた記憶が蘇り脳を満たしていく。

 もう一つの用語“メリアの時”というのはゲーム内の時間を表す単語だ。どちらも相当やりこんでいないと解らないことだ。


「図書室に行くのは明日にするか」


 手紙の内容から時間と場所と聞かれるであろう内容に関しては把握したが……。


「肝心の相手が何者なのかが解らないな」


 おそらくは俺がこの間保健室でアリアンロッドのメールを読んでいた時に聞き耳を立てていたやつだろう。


「それと目的も解らないな。俺にどういう交渉を持ちかけるつもりだ?」


 何があってもあの世界には二度と戻らないと決めたのだ。


「適当に話を流して帰ってもらうか」


 そう呟くと手紙をズボンのポケットに突っ込み、何事も無かったかのように再び歩き出した。

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