38 提案
マレガード王国の大聖堂の中庭にある大きな池では重厚なる慣例の儀式が執り行われていた。
ルートンが祈りの後に空へと手をかざすと水柱が5本立ち上がり、観客から大歓声があがった。
「あれ? なんか迫力が少なかったような?」
誰かのつぶやきは歓声の中へと消えていった。
市場ではとある主婦が露店の店主に文句を言っていた。
「最近、塩漬けの魚ばかりじゃないの! 新鮮なものはないの?」
塩漬けの魚は手間と材料費などで生魚より高いし、調理方法に限りがあるので、不人気商品だ。
「漁師から仕入れられるのがこれなんだ。かんべんしてくれよ」
「どうせお貴族様に渡しているんでしょ」
「うちも商売だ。漁師たちにはしっかり言っておくからさ」
「もう! 野菜も小さいし家計が大変だわっ」
主婦はしかたなく塩漬けの魚を購入していった。
湖に面した波止場では漁師たちが愚痴を言っている。
「なんか魚が弱っちぃな。こんなんじゃ氷を入れても王都までには腐っちまぁ」
「なら塩漬けにしておけ。手間取るばかりで割りは合わねぇが、金にならねぇよりはマシだ」
しかたなしとばかりに作業場へ運んでいく。
農村では雨乞いの儀式がおこなわれていた。
「本当にそろそろ雨が降ってくださらんと野菜が育たんぞ……」
最後尾の農夫でさえも深々と神に祈っていた。
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「ナティアナ第一王女殿下は謹慎させられているようです」
ワディンがメイドたちから聞いた話を報告する。顔も見ていない王女殿下が謹慎となったことを不思議に思ったアノスジェンであったが、他の面々が納得したとばかりに首肯しているので黙っていた。
6日後、晩餐会の席には国王、王妃、第一王子夫妻、コンラッド執務次官・第二王女夫妻、キンガース公爵、総務大臣スイプ公爵が列席していた。
この6日間でテーブルマナーを頑張ってきたアノスジェンだが、不安はいっぱいである。隣の席にニール、ヘリン、トビー、ワディンが並んだ。従者であるので本来は同席しないが、隣国の客人ということで列席することになった。
ゲイリック王子の仕切りで自己紹介をしながら食事が進んでいく。
「アノスジェン様は司祭家として過ごしていたため国政についてお詳しくありませんので」というヘリンのフォローで、互いの情勢について話はヘリンと第一王子、スイプ公爵で盛り上がる。騎士団の話を楽しむのはキンガース公爵、ニール、トビー。国王は時折話に加わった。
旅路の話になるとアノスジェンも楽しそうに話に加わった。アノスジェンの声が聞こえたワディンは顔はアノスジェンへ向けないが目線を下げて微笑していた。
食事を終え席を立つと王妃と第二王女以外は談話室へと案内された。談話室は円卓が用意されており、アノスジェンを挟むようにニールとヘリンが着席し、二人は後ろに立った。コンラッド執務次官はゲイリック王子の後ろに立っている。
しばらく雑談をし、アノスジェンの対面に座る国王が本題を切り出した。
「アノスジェン殿の婿入り先であるが、実は希望者が数名おってな、それらの領地をまわって判断してはどうかという話になっておるのだ」
『僕を必要としてくれる人がたくさんいるの?』
アノスジェンは素直に驚きと喜びの表情をしたが、ナティアナ第一王女が謹慎させられている理由を正確に想像できているニールたちは顔には出さないが心はしらけている。
『ナティアナ王女が拒否して、アノスジェン様をたらい回しかよ。姫の一人も御せないのか』
「もちろん、格の低いところへ婿入りなどさせない。まずはこの二人の領地へ行ってみてはどうかな。途中でも他の領地屋敷へ滞在し、交流できるように取り計らう予定だ」
『両家とも公爵か。納得するしかなさそうだな』
ヘリンがアノスジェンに目配せして頷いたので、アノスジェンは国王をしっかりと見つめた。
「ご考慮いただきありがとうございます。この国の一員となる私がいろいろな領主様とお話できるのはありがたく思います。是非、それでお話をすすめてください」
アノスジェンが丁寧に頭を下げると四人も従うように頭を下げた。
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