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前編・中編・後編の3部作 元、強気女28歳が穏やかな伯爵令嬢に転生!!悲劇の主人公気取りの婚約者を切り捨て・・・新しく恋をします!  作者: 夢叶


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前編


私、リベラル・カートン十七歳は現在、人生最大級の問題を抱えていた。


 “婚約者がクソ”である。


 いや、本当に。





 私は伯爵令嬢に転生したリベラル・カートン17歳。

カートン家は、父アルス・母クレアと5つ年上で騎士団に所属する兄ハンスの三人家族だ。

貴族社会では珍しく、家族仲は比較的良好だった。


一年前の夏――馬車事故で頭を強く打った私は、三日間高熱にうなされ、その間に前世の記憶を取り戻した。


前世の私は二十八歳まで生きた女性で、かなり気の強い性格だった。小さい頃から武術が好きで剣道に空手、合気道を習っていてそれなりの実力者であった。

売られた喧嘩は三倍にして返すタイプ。社会人になってからは表面上こそ穏やかに振る舞っていたが、本質は変わらず、“穏便に三倍返し”へ進化しただけである。

結婚の記憶は無い。おそらく独身のまま死んだのだろう。


もっとも、前世の記憶を取り戻したからといって、“リベラル・カートン”として生きてきた十七年の記憶が消えたわけではない。

だからこそ私は自然に理解した。――ああ、自分は転生したのだ、と。


伯爵令嬢リベラルは、穏やかで控えめな性格をした少女だった。

赤い髪に緑の瞳を持つ愛らしい容姿。そして何より、婚約者までいる。


婚約相手は、侯爵家嫡男エリック・サウラス。

碧海色の髪に澄ましたブルーの瞳。整った顔立ちに上品な微笑み。

学園の令嬢たちが黄色い声を上げる名高い美貌の少年だ。


だが中身が駄目だ。致命的に駄目。



婚約が決まったのは二年前、私が十五歳の頃。表向きは“母親同士の親交”による縁談だったが、実際には財政難に陥ったサウラス侯爵家から、裕福なカートン家へ持ち込まれた政略的な申し出だった。


当時のリベラルは、婚約を純粋に喜んでいた。

未来の侯爵夫人として相応しくあろうと努力し、少しでもエリックの助けになれば…そう思っていたのだ。


だが、エリック本人は違った。

彼は最初からこの婚約に納得していなかった。婚約してからも、まともに私と向き合った事がほとんど無く…リベラルに対して必要最低限の関わりすら持とうとしなかった。

そして婚約後に前世の記憶を取り戻した私は、現実を冷静に見てしまったのである。


――こんな男は無理だ。


そう結論づけるまで、さほど時間はかからなかった。

だが厄介なことに、事故以前の私は両親へ「婚約できて嬉しい」と話していた。

家族思いのリベラルらしい言葉だったのだろう。


だが私は、記憶を取り戻してからのこの一年間、“健気な婚約者”を演じ続けながら婚約解消する為の機会を窺っていた。


婚約者として最低限の交流は必要だと考え、お茶会へ誘い、手紙を書き、関係を築こうともした。

しかし返ってくるのは「忙しい」の一言ばかり。手紙の返事も五回に一度、一行だけ。

半年頑張ったところで、私は手紙を書くのをやめた。ホント半年の間、健気さを出して頑張ったよ!

婚約者を蔑ろにしているってことで婚約解消に持って行きたがったが……無理そうだ。


こんな最低野郎と結婚なんて絶対嫌だ!


デートの誘いはもちろん、エスコートも贈り物も一切無い。

学園内でも、エリックは露骨に私を避けた。 

そのくせ周囲は好き勝手なことを言う。


「あんな平凡な子ではエリック様が可哀想」

「侯爵夫人になりたくて必死なのね」

「釣り合っていないわ」


 ……は?

財政難の侯爵家から申し込んできた婚約なのでは!?

その爽やか笑顔で被害者面してるの最高に腹立つ!コイツ…悲劇の主人公ぶって…キモッ!

もちろん口には出さない。

今の私は“穏やかで優しい伯爵令嬢リベラル”を演じているのだから。


もちろん全員が事情を知らないわけではない。高位貴族の一部は、婚約がサウラス家側からの申し出だったことを理解している。

それでも、表向きには“エリックが望まぬ婚約を押し付けられている”ように映っていた。


その結果、学園内での私はすっかり“悪役令嬢”のような扱いを受けるようになっていたが、実際に何かした覚えは全く無い。

だが周囲から見れば、私は“エリック様を縛り付ける可哀想な婚約者役”らしい。


意味が分からない。


婚約申し込んできたの、そっちらなのだが?

当然のようにエリックを熱烈に慕う令嬢たちからの視線は冷たいし、度々嫌がらせを受けることもあったが、まぁ殆どが言葉による攻撃だったけど……

酷い時には、わざとぶつかられたり、お茶会で露骨に無視されたりもした。

今考えると本当にくだらない。


とある日の放課後なんて……


放課後の校舎裏……私は鞄を抱え、一人通路を歩いていたところに突然、頭上から大量の水が降ってきた。


「……っ!」


冷たい水が全身を打つ。


制服は一瞬で濡れ、赤い髪から雫がぽたぽたと滴り落ちる。

突然のことに反応もできず、私はその場で固まった。 数秒遅れて、状況を理解する。 

……水を掛けられた? ゆっくり顔を上げるが、そこには誰の姿も無い。


人影は見当たらなくて、どうやら私に水を浴びせた犯人は既に逃げ去った後らしい。

私は静かに息を吐いた。


「……はぁ」


濡れた前髪をかき上げる。誰がやったのか、考えるまでもなく、おそらくエリック絡みだろう。

婚約者を“可哀想な被害者”として扱い、私を悪役のように見ている令嬢たちは少なくない。

その中の誰かが、幼稚な正義感でも発揮したのかもしれない。


あまりにも陰湿で、逆に笑えてくる。

私は近くの大樹の側まで歩み寄ると、その幹に軽く背を預けた。

辺りを見回して誰もいないのを確認した瞬間、張り付けていた淑女の仮面が音を立てて剥がれた。


「……何なんだよ、もう」


低く吐き出した声は、自分でも驚くほど不機嫌だった。


「陰険すぎるでしょ……!」


思わず本音が零れる。冷たい水が肌に張り付き、不快感ばかりが増していく。


「直接文句あるなら来ればいいじゃん……」


悔しさというより、呆れが勝っていた。

大きく息を吐き、額を押さえる。


前世でもここまで古典的な嫌がらせを受けたことは無かった気がする。

「……帰ろう」


気にしたところで仕方がない。


犯人を探したところで証拠があるわけでもないし、こんなことで立ち止まっていても意味は無い。

私は濡れたスカートを軽くつまみながら、その場を後にした。




――だが。


彼女が去った後も、その場にはまだ“誰か”が残っていた。

校舎裏から少し離れた大樹の根元。枝葉の影に身を隠すように、一人の少年が寝転がっていたのだ。


先程から一部始終を目撃していて…水を掛けられた令嬢……普段の穏やかな姿からは想像もできない苛立ちを露わにする姿を。

青年はしばらく無言のまま、彼女が去っていった方向を見つめていた。

やがてぽつりと、小さく呟く。


「今のは一体……なんだ?」




――――――



ちなみに前世の私は、売られた喧嘩は三倍で返すタイプだった。

 社会人になって多少は角が取れたが、それでも“穏便に三倍返し”へ進化しただけで本質は変わっていない。

そんな私が、一年間も猫を被って健気な婚約者を演じたのである。

むしろ褒めてほしい。


そんな中、唯一味方でいてくれるのが、同じ伯爵家の令嬢マリアンヌ――マリーだった。


「みんな勝手なことばかり言って! リルは悪くないでしょう!」


と周りからの批判的な目線に怒ってくれる頼もしい友人だ。


そんなある日の昼休み。

学園の中庭でマリーとお茶をしていると、少し離れた場所から黄色い歓声が上がった。


「エリック様よ!」

「まあ素敵……!」


 令嬢たちに囲まれながら歩いてくるエリックが見える。

 そしてその中心で、彼は困ったように微笑んでいた。


「……またやってる」


 私は思わず真顔になる。

マリーが小声でわたしに呟く…

「本当に腹が立つわね。婚約者がいるくせに」


「まあ、人気者だから仕方ないんじゃない?」

にこやかに答えながら、内心では全力で頷く。


しかも次の瞬間、聞こえてきたエリックの台詞に私は紅茶を吹きかけた。


「仕方ないんだ。婚約は親が決めたことだから……僕にはどうする事も出来ないよ…」

 悲しげに目を伏せるエリック。 

それを見て令嬢たちは、


「エリック様は悪くありません!」

「お気の毒ですわ……!」


 などと盛り上がっている。


 ……は???

私、加害者なの? なんで???

婚約者放置されてるの私なんだけど???ピキリ、と額に青筋が浮かぶ。


マリーが慌てて私の腕を掴んだ。

「リル笑顔! 笑顔消えてる! 大丈夫?」


「大丈夫よマリー。ちゃんと笑ってるわ」


「目が笑ってないわよ!!」


当然である。

だって今の私は、人生で一番“婚約解消してぇ……”という感情に満ち溢れていたのだから。


 すると隣のマリーが露骨に顔をしかめた。

「婚約者を蔑ろにしているくせに、令嬢からは同情を得る様な言い方をするなんて…」


心配してくれる彼女に、私は苦笑し淑女らしく――

「私としても、早く婚約解消したいのだけど……」


もちろん本音では、こっちから断れないんだよ。マジで最悪!!

苦笑いしつつも心の中では思いっきり毒吐いてます。



一方、当のエリックは令嬢たちに囲まれながら、困ったように微笑み続けていた。

エリックは悲劇の主人公よろしく

その姿に令嬢たちは同情し、ますます彼を慕う。



――正直、気持ち悪い。




記憶を取り戻した今となっては、エリックはただの“外面だけ良い男”にしか見えなかった。

本当にクソでクズ野郎だと思うし、頑張ってた自分が健気すぎ・・・


こんな奴の何処が良かったのか分からない。

いや、顔が良かったのだろう。それの、落ちぶれていても侯爵だし。

確かに綺麗な顔をしているが今の私からしてみれば全くタイプではない!!


細い。白い。弱そう。・・・要は軟弱体系! 今の私には無理!

もっとガッチリとした鍛え上げた肉体の方が好みなのだ!


実際、五歳上の兄ハンスの騎士団仲間を見た時など、思わず「おぉ……」と感動した。

眼福だった。あれは良い筋肉だった。


それにしても、政略だけど婚約者に最低限のマナーも守れないようなクソ野郎なんて最悪だ。

だからこそ、今のエリックに抱く感情は一つしかない。


キモイ!!早く婚約破棄したい!!





もう耐えられないと…意を決して、私は両親へ現状を打ち明けることにした。

偶然休暇で帰宅していた兄ハンスも参加―― もちろん感情的になどならない。


「お父様、お母様……少しご相談がございますの」


前世で培った社会経験を総動員し、伯爵令嬢らしく穏やかに、慎重に言葉を選びながら説明した。

だが内心は――さぁ聞け! あのクソ婚約者の悪行を!!である。

私は婚約してからの出来事を丁寧に説明した。


お茶会をずっと断られていて、エリックとはほとんど交流が無いこと。

手紙もまともな返事が来ないこと。

学園でも避けられていること。

婚約者としての体裁すら保たれていないこと。


話し始めてからは父アルスも母クレアも、ひどく顔を曇らせた。

二人は最初から薄々気づいていたのだろう。


話せば話すほど、父アルスの眉間の皺が深くなっていく。

母クレアに至っては途中からハンカチを握りしめていた。


「まあ……リベラル……あなた、そんな思いを……」


「それでも私は婚約者として努力しなければと……ですが、これ以上は難しいかと……」

もう限界なんだよ!! そして私は慎ましく視線を伏せるて最後に、静かに告げた。


「……可能であれば、婚約解消をお願いしたく存じます」



沈黙。



最初に父が口を開いた

「薄々感じてはいたが……まさかここまでとは…… 不誠実にも程がある」


静かに感情を露わにする父に、私はちょっと感動した。


母も怒っていて…「酷すぎるわ! リベラルはこんなに頑張っていたのに!」


「はいお母様……」マジ頑張ったよ私。


「コイツ絞めるか?」

ヤッて欲しいところだが、騎士団所属の兄は本気で強い。だから冗談では済まない。


そんな感じで家族会議は“エリック許すまじ”の空気になったのだが――問題はそこからだった。

相手は侯爵家。しかも婚約を申し込んできたのは向こう側…

サウラス家の方が格上であり、父も母も簡単には破談へ持ち込めないのが現状である。



それでも両親は何とか動いてくれた。

「婚約者同士、もう少し交流を増やしてはいかがでしょう」と、やんわり侯爵家へ伝えてくれたのだ。

だが返ってきた言葉は――「まだ若いですからな。時間が必要なのでしょう」


以上。 終わり。 エリックに注意すらしないし…

……いや。改善されて顔合わせるのも嫌だ。 


私は報告を聞きながら、にこやかにお茶を飲んでいた。


「そうですか」


親もクズかーーーい!! いや何その“見守りましょう”スタンス。

お宅の息子、婚約者を二年放置してるんですけど!?

しかも外では“僕かわいそうなんです”みたいな顔して令嬢に囲まれてるんですけど!?



母は悔しそうに「本当にあんまりだわ……」


父も険しい顔で腕を組みながら「カートン家を軽く見ている」


兄ハンスに至っては、「やっぱり一ヤルか?」物理解決へ戻った。


やめて。それ多分一番早いけど後が怖い。

結果として――婚約解消作戦は難航していた。



これまでの私は、“優しく穏やかな伯爵令嬢リベラル”であろうとしてきた。

婚約者に冷たくあしらわれても、周囲に陰口を叩かれても、波風を立てないよう笑って耐えてきた。



だが、もう耐えられない!



もう我慢しない! 


もう遠慮しない! 



3倍返しだ!!









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