第4話『ツンツン猫獣人がツンデレメイドになった件』
ニアを捕獲し、転移魔法で屋敷へと連れ帰った僕は、真っ先にメイド長のエリーゼを呼び出した。
「エリーゼ、彼女を僕の専属メイドとして雇おうと思う」
目の前で腕を組み、睨みつけてくる猫獣人――ニアを指さしながら告げると、メイド長は優雅に一礼する。
「かしこまりました、クラウス様」
「はぁ!? ふざけるニャ!! 誰がメイドなんかになるかニャ!!」
ニアは即座に叫び、尻尾を逆立てながら飛び退った。
だが、メイド長は落ち着いた様子でニアを観察し、一言。
「なるほど……洗い甲斐がありそうですね」
「……ニャ?」
ニアがきょとんとした次の瞬間、複数のメイドたちが一斉に彼女を取り囲んだ。
「ちょ、ちょっと待つニャ!? 何する気ニャ!!」
「もちろん、お身体を清潔にするため、お風呂にご案内いたします」
「お断りニャ!! あたしはお風呂嫌いニャ!!」
「坊ちゃまの専属メイドとなる以上、まずは清潔さを保つことが必須です」
ニアの抗議も虚しく、メイドたちは手慣れた動きで彼女の手足を押さえ込み、そのまま風呂場へと運んでいく。
「ニャーーーー!? くっ、放せニャ!! ちょっと、本当にやめるニャーー!!!」
ニアの断末魔の叫びを背に、僕は満足げに微笑んだ。
しばらくして、メイド長が満足げな表情で戻ってきた。
「クラウス様、お待たせしました。準備が整いましたので、ご確認を」
そう言って、メイドたちが連れてきたのは――
メイド服に身を包んだニアだった。
紫色の髪は丁寧に整えられ、肩のあたりでふんわり揺れている。毛並みの良い猫耳はぴんと立ち、少し不機嫌そうにピクピク動いているのが愛らしい。
着せられたメイド服は白と黒のコントラストが美しく、特に胸元のフリルや袖口のレースが、普段のワイルドな雰囲気とは正反対の“清楚さ”を演出していた。
腰からふわりと伸びる長い尻尾にはリボンが結ばれており、歩くたびに揺れるその姿は、まさに“猫耳メイド”の理想形。
細身ながらも引き締まった脚線美に、しなやかに伸びた太もも――どこをとっても完成度が高すぎる。
これは……最高では???
「でゅふふふふ……!」
僕は思わず歓喜の笑みを浮かべ、近づく。
「いやぁ、いいね! 最高に可愛いよ、ニア!!」
「だっ、誰が可愛いニャ!!///」
ニアは顔を真っ赤にして尻尾をブンブンと振り回す。
リボンの付いたヘッドドレスが揺れ、ぷっくり膨らませた頬にちょこんと八重歯が覗くのも、なんだかもう最高だ。
「……そもそも、わたしはメイドなんかやるつもりないニャ!!」
そう言うと、ニアは僕をギロリと睨みつけ、いつものように口を開いた。
「お前なんか、やっぱりガキンチョニャ!」
……が、その瞬間、メイド長がすっと立ちふさがる。
「ニア様、言葉遣いについてですが、ご主人様に対して“ガキンチョ”は不適切です」
「はぁ!? でも、コイツはガキンチョニャ!!」
「“ガキンチョ”は禁止です。“ご主人様”とお呼びください」
「ぜっっったいに嫌ニャ!!!!!」
ニアは尻尾を逆立てて全力で拒否した。
「そもそも、無理矢理連れてこられてメイドにさせられるなんて違法ニャ!! こんなの奴隷と変わらないニャ!! そんなぐらいなら死んでやるニャ!!」
メイド長が「それは困りますね……」と冷静に呟く中、僕は深く息をつき、ニアの目を見つめた。
「本当に嫌なら、やめてもいいよ」
「……ニャ?」
ニアは驚いたように目を瞬かせた。
「でもね、これは奴隷契約じゃない。君はちゃんと雇われるんだ」
僕はゆっくりと言葉を選びながら、彼女に伝える。
「ちゃんと給金も払うし、休みも与える。食事も住む場所もちゃんと用意する。今までみたいに、誰かに疎まれたり、こそこそ隠れたりすることなく、普通の暮らしができる」
「……」
ニアはじっと僕の目を見つめ、尻尾をピクピクと動かした。
「それでも、今までみたいに盗みを働き、人から物を奪い、人間に疎まれて、こそこそ隠れて生きる方が良いって言うなら……止めはしないよ」
僕は静かに言いながら、少しだけ距離を取る。
「ここから出て行くのも、君の自由だ」
「……」
ニアは耳をピクリと動かしながら、迷うように視線を彷徨わせた。
そして、しばらく沈黙した後――
「……本当に、奴隷じゃなくて、雇ってもらえるのニャ?」
「もちろん」
「給金も、休みも……あるのニャ?」
「あるよ」
「……」
ニアはしばらく黙っていたが、やがて小さく息をつき――
「……しょうがないニャ……」
頬を赤らめながら、渋々と呟いた。
「メイドになってやるニャ……ご主人様」
その最後の一言は、まるで小さな声で呟くように、しおらしく。
おお……これは……!
「でゅふふふふ……! これは良いツンデレメイドの誕生だ!!」
「ニャッ!? な、何でそんなに嬉しそうニャ!!!」
僕の満面の笑みに、ニアは尻尾を逆立てながら抗議する。
しかし、もう彼女は僕のメイド。
ツンデレ猫獣人メイドの誕生を祝い、僕は満足げに頷いた――。