表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生したので、理想のメイドを集めていたら最強の軍団になっていた件!  作者: 廿日 皐月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/51

第26話『貴族の朝食は決意の味』

朝の光がカーテンの隙間から差し込み、頬をくすぐる。まぶたを持ち上げた僕は、ぼんやりとした頭を抱えながら身を起こした。


 その瞬間、視界の端に“何か”が映る。


「……って、うわああああっ!?」


 反射的にベッドの上でのけぞった。

 そこには、茶色い紙袋を頭からすっぽり被ったプルメアが、じっとこちらを見つめて立っていた。


「おはようございます、ご主人様」


 紙袋の中から、くぐもった声が響く。


「ぷ、プルメア……!? 心臓に悪いから! 朝イチでそれはやめて!!」


「ふふ、すみません。驚かせてしまいましたね」


 ひとまず心拍数を落ち着かせながら、僕は頭を抱えた。


 紙袋――。

 それは、ネーヴェから正体を隠すための、苦肉の変装。

 だが、もはや変装というより“常時装備”と化していた。


「そろそろ朝食のお時間になります。ご支度、お手伝いさせていただきますね」


  ニアが屋敷の雑務を引き受けてくれているおかげで、プルメアは専属メイドとして、僕の身の回りの世話に専念できるようになっていた。

 そのおかげで、朝の支度は驚くほどスムーズだ。着替えも整髪も、もはや彼女の手にかかれば瞬く間に完了する。


「それでは、ご主人様が朝食を済まされる間に、お部屋の掃除をしておきますね」


 そう言って、紙袋をかぶったままペコリと頭を下げる。


 貴族の屋敷における“朝食”は、格式と礼儀を重んじる場。

 客人がいれば、当然その場に同席する。――スライムスレイヤー、ネーヴェも例外ではない。

 そんな場にプルメアを同席させるわけにはいかない。少なくとも、今は。


「ごめんね。しばらくの間だけ、ここでゆっくりしてて」


「はい、ご主人様。……お気遣い、ありがとうございます」


 こくん、と紙袋が上下に揺れる。その様子に、つい口元が緩んだ。


「……でゅふ。なんかもう、個性的すぎて逆にアリかもしれない……」


「ご主人様?」


「わっ、な、なんでもないよ! じゃあ、行ってくるね!」


「はい、お気をつけて」


 プルメアの柔らかな声を背に、僕は部屋を後にする。


 廊下に出ると、屋敷の朝の空気がひんやりと肌をなでた。

 足音だけが静かに響く中、僕は食堂へ向かって歩を進める。


 扉の前で立ち止まり、手をかけたまま、ふと深く息を吐いた。


 ――今から、スライムスレイヤーと顔を合わせて朝食。

 そう思うだけで、胃の奥がじわりと痛み出す。


  それでも、逃げるわけにはいかない。

 覚悟を決め、僕は静かに扉を押し開けた。


 


 重厚な扉が音を立てて開くと、朝の光がふわりと差し込んでくる。

 そこには、いつも通りの――けれどどこか張りつめた静けさを纏った食堂があった。


 長いテーブルには清潔な白いクロスが敷かれ、中央には銀の燭台が並ぶ。

 壁には王家から贈られた油彩画が整然と掛けられ、窓際には朝露を含んだ季節の花が飾られていた。


 格式と落ち着きを兼ね備えた空間。その奥に、父上と母上の姿が見える。


「おはよう、クラウス」


 二人が、同時に声をかけてきた。


「おはようございます、父上、母上」


 僕は礼を述べてから席に腰を下ろす。

 それと同時に、料理がタイミングよく運ばれてきた。


 香ばしく焼かれたベーコン。ふわりと立ちのぼるバターの香り。

 その匂いが、少しだけ張りつめていた胸の奥をほぐしてくれる気がした。


 ……だが、視線を向けた先――

 食堂のどこを見渡しても、ネーヴェの姿はなかった。


 その瞬間、胸の奥に張りついていた硬いものが、ほんの少しだけ緩んだ気がした。

 緊張が解けていくのを感じながら、僕は静かに口を開く。


「父上、ネーヴェさんは……?」


「ああ、ネーヴェ殿なら、朝早くに出かけたぞ」


 書簡から目を離さぬまま、父上はあっさりと答えた。


「森の様子を見てくるそうだ」


「……そうですか」


 手にしていたスプーンが、ふと空中で止まる。

 昨夜からずっと張り詰めていたものが、拍子抜けするように抜け落ちていった。


 けれど、それも一時の安堵にすぎない。

 ネーヴェがこの屋敷に滞在している限り、緊張の種が消えることはないのだ。


「父上、ネーヴェさんは……どのくらい屋敷に?」


 そう問いかけると、父上はようやく書簡から視線を上げ、まっすぐに僕を見た。


「実は、森でスタンピードの兆候があるらしくてな。私はネーヴェ殿に、調査の継続と、万が一の場合の戦力として待機してもらうよう依頼してある。――その件が落ち着くまでは、屋敷に留まってもらうつもりだ」


 ――そうだった。


  スライムスレイヤーのことで頭がいっぱいになっていて、スタンピードの件など、すっかり頭から抜け落ちていた。


 僕は自分たちのことばかりで手一杯だった。だが、父上は違う。

 さすがは領主――この地を守るために、何が最善かを冷静に見極め、迷わず選択している。


 緊急事態の兆候が迫る中、偶然にも街に滞在しているのはSランク冒険者。

 その力を頼り、被害を最小限に抑えようとするのは当然の判断だ。


 ――なのに僕は、昨夜あろうことか「なんてことをしてくれたんだ」と、父上を心の中で責めてしまった。


 それは、完全に間違いだった。


 スライムスレイヤーという二つ名を持つ彼を滞在させれば、プルメアを危険に晒す。

 そう訴えようとしていた自分の浅はかさが、今はただ恥ずかしい。


 今さら、そんなことは言えない。……言うべきでもない。


 プルメアのことは、僕たちでなんとかするしかない。

 スライムスレイヤーにさえバレなければ、それでいい。問題は起きないはずだ。


 


 結局のところ、事の本質は――“森の異変”にある。


 それさえ収まれば、ネーヴェがこの屋敷に滞在する理由も消える。

 スライムスレイヤーという名を持つ彼も、自然とここを離れていくだろう。


 つまり、全てはそこに集約されている。


 なら、僕たちがすべきことは――ただ一つ。


 森の問題を終わらせる。

 それが、プルメアを守るための、唯一にして確かな道だ。


 


 僕はスプーンを静かに置き、椅子を引いた。

 父上と母上に一礼し、無言のまま食堂をあとにする。


 扉が閉まる音が、妙に長く耳に残った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ