第11話『猫耳メイドは、贖罪の道を歩く』
今日は待ちに待った、おやすみの日ニャ!
でも、いつもの休みとは違って少しだけ気が重いのにゃ。 今日はかつて、あたしが“ちょっとだけ”悪さしてた場所。ローエンブルクの街に行くと決めてたんだニャ。 いつかはちゃんと自分の足で、自分の意志で迷惑をかけた人達に謝らないといけない。
あたしがスリを働いた店、盗みをした果物屋やパン屋まで……いろいろ、やらかしてたニャ。
でも、もうあたしは“あの頃のニア”じゃないニャ!
クラウス様の専属メイドとして、ちゃんと、ちゃんと誠意を見せるニャ!
そう自分に言い聞かせながら、あたしは果物屋の前で深呼吸した。
(……緊張するニャ。怒られたらどうしよう……いや、逃げちゃダメニャ)
ギュッと握った銀貨を確かめて、ようやく一歩を踏み出す。
「……こ、こんにちはニャ。前に……その……リンゴを、勝手に持っていっちゃったニャ……」
店のばあさんは、一瞬びっくりした顔をしてから、目を細めた。
「あなた……猫耳の……」
「はいニャ! えっと……これ、あの時の分と、あと少しだけど……銀貨で返すニャ!」
あたしは懐からぎゅっと握りしめてた銀貨を差し出した。小少ないけど、屋敷でちゃんと働いてもらったお給料ニャ。
なのに、おばあさんは受け取らなかった。
「クラウス様のメイドさんなんでしょう? もう聞いてるよ。ちゃんと改心して、今は一生懸命なんだって」
「えっ……でも……ニャ」
「その気持ちだけで、十分だよ。返すつもりで来てくれたことが、何より嬉しいよ」
そっと頭を撫でられて、耳がぴくって跳ねた。ちょっと、恥ずかしいニャ。
でも、なんか……あったかいニャ。
パン屋でも、八百屋でも、みんな優しかった。
あたし、昔のこと謝りに来たニャって言うと、みんなが笑って許してくれた。
中には「ニアちゃん」なんて名前で呼んでくれる人もいて……街の人が、あたしのことをちゃんと見てくれてたんだって、気づいたニャ。
クラウス様のおかげニャ。どうしようもない変態のご主人様だけど、あたしを見つけてくれて、怒らず、ちゃんと名前で呼んでくれて……
だから。だからこそ、誓うニャ。
この街を、この屋敷を、この居場所を―― あたしの“第二の故郷”にするために。
もっと、がんばるニャ。
そう思いながら、夕暮れの市場通りを歩いていた。
もうすぐ日が沈む時間で、人通りも少なくなってきてた。パン屋の角を曲がった、その時だった。
通りの先を歩いていた黒いフードの男――
そのフードの隙間から、ちらっと見えた横顔に、ニアは息を呑んだ。
(……その顔……その傷――!)
頬に走る鋭い傷跡。
あたしの村が襲われたあの夜、闇の中で命令を出してた男。
逃げる時、一度だけ振り返って目にした、あの顔。忘れるわけない。
心臓がドクンと跳ねて、足の裏が熱くなった。
「待つニャ……!」
叫んだ瞬間には、もう駆け出してた。




