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最後の地球人♂、仙女や魔女と月の海を航る ~ルナマリアノーツ~  作者: 和泉 健星
4章 散る命、咲く命 ―偽りの楽園―
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♯74 不器用な聖女様と、自分のキモチを自覚した

第74話。

※前半の語り部はイサリ、後半はスズランです。





 ダリアちゃんが暴発させてしまったチカラ、『火山の冬(トバ・カタストロフ)』。

神の財産目録削除者ブラックデイジー・ベル>ハナビを由来とするそれの暴発、岩漿マグマの噴出を目の当たりにしたボクは、島の住人の避難誘導をナズナさんたちに任せ、来た道を一人戻っていた。


「無事でいてくれよ、みんな!」


 宵闇よいやみに覆われた隘路あいろを右に曲がった矢先、進行方向から駆けてくる集団に気付いて「ん?」と足を止める。


「あれは……!」


 間違いない、先頭にいるのはヘレンさんを抱えたヨハネスさんだ! その後ろにはイリヤやツバキの姿もある。それにルーナをおんぶしているアリシアなんかの姿も……。見たところ『トゥオネラ・ヨーツェン』の乗組員クルーは男衆も含め全員無事みたいだ。


 その後ろには宴に参加していた島の住人たちの姿もある。


「あっ、センチョウ!」

「おおっ、旦那様!」

「船長ぉ!」


 向こうもこちらに気付いたようで、地獄で仏に会ったみたいに顔を輝かせて駆け寄ってきた。中には涙を浮かべている者もいる。司厨長コック髭面ひげづらさんに至っては「く~っ! 今だけはおまえさんがメッチャ頼もしいぜ、坊主!」とむせび泣いていた。『今だけは』って…………普段は?


 いや、そんなことよりも、


「ルーナ!? どうしたの、ルーナ!?」


 アリシアにおんぶされているルーナが目を閉じたまま動かない!


「このコ、地震に足を取られて転んじゃってさ。頭を打っちゃったのよ」

「そ、そんな!」


 アリシアの説明に、サア……と全身から血の気が引くのが自分でもわかった。


「ルーナ! しっかりしてルーナ! 目を開けて! お願いだから!」

「ちょ、ちょっと船長!?」

「お、おい、旦那様!?」


 ショックで頭が真っ白になったボクは取り乱し、ルーナの肩を揺らして呼び掛ける。


 が、



『落ち着いてだんなさま!』

『ルーナなら大丈夫ですから!』



 頭の中に直接響くカグヤとマリナの『声』に我に返った。



『わたしたちにはわかるの! このコはちょっと気を失っているだけ! 大した怪我は無いよ!』

『カグヤちゃんの言うとおりです! すぐに目を覚ますはずですから!』



「! ご、ごめん」


 二人が大丈夫だと言うのならそうなんだろう。

 よかった……。このコに万が一のことがあったらどうしようかと……。


「こんなに取り乱すなンて……。イサリ、あなたにとっテこのコはそれほどまでに……」

「? どうしたの、イリヤ」

「……なんでもないワ。自分のキモチから目ヲ背けている場合じゃないなっテ思っただけ」


 なるほど……わからん。何言ってんだこのヒト。


 まあ、いいや。


「いったい何があったのさ、みんな」

「驚かないで聞いてください」


 答えてくれたのはクロエだった。


「この島の住人の気配が足りなかったのは、島長しまおささんの仕業でした」


 !


「ミモザさんの?」

「はい。彼女は島の住人を拉致し、『深きものども』に『改造』していたんです」

「……いったいなんのために」

「殺された旦那さんの仇を討つため――『秩序管理教団』に復讐するためだそうです」

「復讐……」

「もっとも、詳しい『改造』方法は教えてもらえませんでしたが」

「………………」


 方法ならわかっている。

『死の植物』の胞子を寄生させたのだ。


 問題はその知識を彼女がどこで手に入れたのか、だが……。


「しかも、」

「それだけじゃないわ!」


 クロエの説明を遮って――クロエをぐいと押しのけて、アリシアが詰め寄ってくる。


「あの女、『秩序管理教団』のエロ司祭が持っていた……ハンドベル? だっけ? 例の『深きものども』を操れる鈴を持っていたの! さっきの『深きものども』の襲撃もあの女の仕業だったのよ!」

「っ」


 やっぱり……。


「――あのとき聞いたはミモザさんが……」

「でねっ、」


 と、リオンさんは同じ未亡人として思うところがあるのか沈痛な面持ちで、


「ミモザさんったら、悪事が露見した途端オリジナルの『深きものども』をいっぱい呼び寄せて合体させちゃったのっ」

「……オリジナルの『深きものども』を?」

「ええ。私たち、ソイツに襲われて命からがらここまで逃げてきたってワケ」

「なるほど……それでみんな、ボクを見て地獄で仏に会ったみたいな顔をしていたのか」


 ただの人間に太刀打ちできる相手じゃないもんね、『融合体』は……。


「でも、そうか……ミモザさんがすべての黒幕だったのか……」


 リアクションの薄いボクを見て、シャロンが「あ、あれ?」と目をパチパチしばたかせる。


「あ、あの、船長さん。もしかして、ミモザさんが悪いヒトだってわかってたんですか?」

「確証は無かったけどね」




 ――『何が再度のお告げだ! あの大嘘つきどものせいで妻と娘は! そして仲間たちもみんな……!』


 ――『今日はいろいろあったせいでなあなあになっているけれど、本来なら巫女であるダリアちゃんと言葉を交わしていいのは母親であるミモザ様だけってことになってるの』


 ――『ううん。ダリア、そんなお告げ聞いてないよ』




「……でも、何かあるなとは思ってたよ」


 ボクは言って、「カグヤ。マリナ。キミたちもそうだろう? だから宴を中座したミモザさんのあとを追ったんだよね?」と心の中で訊ねる。



『まあね。もっとも、途中でかれちゃったけど』

『それで広場に戻るか、それとも勘を頼りに追跡を続けるか悩んでいたところ騒動に気付きまして、』



 ボクの『変身』に協力するため地球儀もうひとつの姿で戻ってきたワケだ。


「それより旦那様、大変なんじゃ!」

「どうしたの、ツバキ。……ってか、今気付いたんだけど、スズランさんとダリアちゃんの姿が見当たらないのはなんで?」

「あの二人、捕まってしもうたんじゃよ! 『深きものども』が合体した化け物に!」

「なんだってぇ!?」


 捕まっちゃった!? スズランさんとダリアちゃんが!?


「うむ。島長殿はスズランたちも『深きものども』に『改造』するつもりなんじゃ!」

「たち……ってダリアちゃんも!?」


 そんな馬鹿な! ダリアちゃんはミモザさんの実の娘なんだぞ!?


「間違いありません」


 クロエが(お返しとばかりにアリシアを押しのけつつ)断言する。


「――本人がそうおっしゃったんですから」

「ミモザさんが?」

「は、はい」シャロンが頷き、「『自分にとってダリアは、作る気は無かったのに運悪く出来てしまった子供だ』、『ここまで耐えて育ててきたのだから、少しは役に立ってもらわなければ』って」

「っ」


 なんだよそれ……。

 まさかそんな暴言をダリアちゃんの前で吐いたんじゃないだろうな……。




 ――『アンタなんか産むんじゃなかった』




 子供にとって親に拒絶されることがどれほどの絶望か想像できないのかよ……。



『そっか……。あのダリアってコ、それで「火山の冬(トバ・カタストロフ)」を暴発させちゃったんだね……』

『無意識のうちに抑え込んでいた強大なチカラが、心に深い傷を負ったことで決壊してしまったんですね……』



 っ。……ダリアちゃん……。


「イサリ船長。俺からも頼む」


 ボクがスズランさんたちを助けに行くべきか否か悩んでいるように見えたのか、ヨハネスさんが頭を下げてくる。


「スズラン様と聖女様を助けてくれ。おそらく、二人を救えるのはおまえさんだけだ」

「私からもお願いします」


 ヨハネスさんに抱えられているヘレンさん――さっきより顔色が悪い――も頭を下げてきた。


「もうあなただけが頼りなんです。どうか……どうかお願いします」


 ……お願いされるまでもない。


「ツバキ。今、ナズナさんや港にいたヒトたちが島の住人の避難を進めている。みんなと協力してナズナさんたちを手伝ってやってくれ。船内がかなり窮屈になるだろうけれど、島民全員を『トゥオネラ・ヨーツェン』に乗せてやってほしい」

「まあ、あの船の中が一番安全じゃろうしの……。承知した。旦那様が片を付けるまで、わらわたちはあの船で待機していればいいんじゃな?」

「いや、島民全員の収容が完了したら直ちに『トゥオネラ・ヨーツェン』を出航させてくれ。出来るだけこの島から離れるんだ」


 待ち構えている敵が『深きものども』やその『融合体』だけとは限らない。

 なにせこの島には、もっと恐ろしい存在が眠っているのだ。

 もしかしたら、封印したあのチカラを使うことになるかも……。


「なんじゃと!?」

「そんなのダメよ、センチョウ!」


 ツバキ共々息を呑んだイリヤが詰め寄ってくる。


「アナタはどうするノ!? それにカグヤちゃんとマリナさん、スズランさんとダリアちゃんモ、」

「ボクたちのことは心配しないで。港の漁船を借りて脱出するから」

「デモ!」


「ツバキちゃん! イリヤちゃん! どうやら問答している場合じゃないみたいよ!」


 そう言って話に割り込んできたのは、「うう……」と急に呻き始めたヘレンさんの顔を覗き込み、二言ふたこと三言みこと問答を交わしたリオンさんだった。



「早くヘレンさんを『トゥオネラ・ヨーツェン』の船医室へ! いつ破水してもおかしくないわ!」



「「「「「えええええええっ!?」」」」」


 破水!? 破水って……あの破水!?


「いつ生まれてもおかしくないってこと!?」

「何故だ!? 予定日はまだ先のはず!」

「「「「「えらいこっちゃ! えらいこっちゃ!」」」」」


 慌てふためくボクとヨハネスさん、そして男衆を「落ち着きなさいっ!」とまなじりを吊り上げたリオンさんが叱りつける(ボクたちと比べると女性陣はまだナンボか冷静だった)。


「ストレスは妊婦の天敵なのっ! 早産の引きがねになることもあるのよ!」

「「「「「っ」」」」」


 く……っ。


「急げ、ツバキ! みんな! 早くヘレンさんを『トゥオネラ・ヨーツェン』へ運ぶんだ!」

「……ええいっ、致し方あるまい! カグヤとマリナ、それにスズランたちを頼んだぞ、旦那様!」

「ああ、任せとけ」

「行くぞみなの衆!」

「「「「「は、はいっ!」」」」」


 ツバキが意を決して駆け出し、他の面々が慌ててそのあとを追いかける。


「……さてと、」


 ボクはそれを見送ると、大きく息を吐いてみんなとは反対の方向へと駆け出した。


「今行くからね、スズランさん! ダリアちゃん!」






              ☽






 ――まさか『深きものども』を圧倒できる人間がイサリクンの他にもいるとは思わなかった……。

 いえ、そもそも、


「『彼女』は本当に人間なの……?」


『変身』して『深きものども』を謎の格闘術でばったばったと薙ぎ倒すイサリクンは<魔女>以上に人間離れしているけれど。それでも、彼を恐ろしいとは感じなかった。けど、目の前の(何故か全裸な)少女は別だ。



「『全球凍結スノーボール・アース』インヴォーグ――氷瀑牢獄アイスフォール



 全身雪のように白い少女が長い銀髪プラチナブロンドひるがえし、右手をかざしたその瞬間、『彼女』を取り囲む『深きものども』の群れの足元に純白の『♈』の光芒が浮かび上がり、


「――散りなさい」


 異形たちはそこから突如生えた氷の剣山に四肢を串刺しにされ、地面に縫い付けられる。



 ギョ……イイイイイ……ッ!



「フフフ……あなたたちみたいな雑魚じゃあ私には勝てないよ☆」


 虫の息で呻く異形たち――いずれも体色は銀混じりの黒だ――を見回し、サディスティックな笑みを浮かべる少女。


 ……正直、ちょっと怖い。


「さあ、次はどうするの? また雑魚どもを呼び寄せる? それとも、『深きものども』が合体したそのデカブツをけしかける? 別にどっちでもいいよ」


 私とダリアちゃんを鷲掴みにしている化け物を一瞥いちべつし、少女はミモザ様を挑発するが、


「やれやれですね」


 呼び寄せたばかりの下僕しもべを一掃されてなおミモザ様は悠然と構えていた。


 あの禍々しい笑みをたたえていた。


「あなたは四半世紀前のあの戦いで()()()()たおしたはずですが。まさか生き延びていたとは。流石はこの月と地球の造物主の一柱ひとり。驚異的なしぶとさですね」


 ……ミモザ様はなんの話をしているの?


「おっかしいなぁ? なんであなたがあの戦いや私たちのことを知っているの?」


 白い少女はうさぎのような赤い瞳をすがめ、ミモザ様を睨む。

『彼女』から、初めて笑みが消える。


「あなた、本当に人間?」


 少女の問い掛けに、今度はミモザ様から笑みが消えた。


「……当たり前でしょう。人間でなければなんだというのです」


 その表情、声音には、戸惑いの色が浮かんでいた。

 ミモザ様は少女が何を言わんとしているのか、本気でわからない様子だった。


「だってさ。おかしいじゃない? なんで人間があの戦いや私たちのことを知っているの? その上、あの忌々しいトゥハカの名前まで」

「……トゥハカ? 誰ですか、それは」


 え?

 何を言っているの?


「誰ですか……って」少女も呆れ顔だ。「今、自分で口にした名前じゃない。『あなたは四半世紀前のあの戦いでトゥハカが斃したはずですが』って」

「……四半世紀前の戦い? いったいなんの話……いえ、そうか、そうでしたね。私たちは四半世紀前に戦いを繰り広げて…………四半世紀前? 違う、私が『こっち』に流れ着いたのは十五年前で……。これは……この記憶はいったい……?」

「なるほどねぇ」


 掌で額を押さえてうつむくミモザ様を、白い少女は冷たく見据える。


「――ねえ。自覚が無いみたいだけど、あなた、()()()()()()かれてるよ?」

「…………は?」


 は?


「あなたのパーソナリティは『それ』に侵食され、彼我ひがの境界すら曖昧になっている……そのせいで『それ』の知識や経験、記憶まで自分のモノだと錯覚しちゃってるんだ」

「何を訳の分からないことを……」

「じゃあ訊くけどさ、そのハンドベルはどうやって手に入れたの? それの使いかたや、ヒトを『深きものども』へ変える方法は誰に教えてもらったのかな?」

「どうやって……誰に? …………そうだ、私はいったい誰から……。確か私は『メンデル』を脱出する際、みんなとはぐれ、()()()に捕まって……。そして……そして、気付いたらみんなと合流していて……」


 ???


「お母……さん?」

「ミモザ様。さっきからいったい何を仰ってるんですか?」


 ダリアちゃんと私が恐る恐る声を掛けると、


「……なんでもありません」


 ミモザ様は急に顔を上げ、何事も無かったかのようにあの禍々しい笑みを浮かべる。


 ミモザ様ではない何者かの笑みを。


「っ」


 ……やっぱりそうだ。

 さっきも思ったけれど、私はこれと同じ笑みをどこかで見たことがある。


 いったいどこで……。


「あーあ、」


 と少女が嘆息し、


「軋轢と分断を招く教義を世に広めたり、自分を憎んでいる人間を自覚無き協力者として利用したり……。相変わらず悪趣味な連中だなぁ」

「あなたが何を言っているのかサッパリですが、これ以上余計なお喋りに付き合うつもりはありません。私にはやるべきことがあるのです」


 そう言ってミモザ様は手にしたハンドベルを鳴らす。

 すると私とダリアちゃんを鷲掴みにしていた化け物が、少女を牽制するように両手を前へと突き出した。


「下手な真似をしたらこの二人がどうなるか……わかりますね?」

「つまんないハッタリだなぁ。たとえ本気だったとしても、なんで私がそのコたちを気遣わないといけないの?」

「おや。意外とドライですね」

「そっちの赤毛の女の子とは今日が初対面だし、こっちのスズランとかいう女狐には良い印象が全く無いんだよねぇ、私」


 ど、どうして!?

 私、このコの不興を買うようなこと、何かしたかしら!?


「――それに、」

「? それに? なんです?」

「ほら、私、そこの女狐とは比較にならないくらい良いオンナだから☆ ()()の見せ場を奪うなんて野暮な真似はしないんだよ」

「……主人?」



 直後。

 轟音とともに夜空から飛来した何かが、化け物の両手首を撃ち抜いた。



 ――ギャゴォォォォォォォッ!



 両手をがれ、絶叫する化け物。


「「きゃあっ!」」


 私とダリアちゃんは地面に放り出されるも、間一髪、滑り込んできた『誰か』にキャッチされる。


 ……まあ、キャッチとは言っても、吹っ飛んできた人間をボールみたいに受け止めるなんて無理なワケで……。体を張って私たちを受け止めてくれた『誰か』は、私とダリアちゃんの下敷きになる形で地面にひっくり返ってしまったのだけれど。


「あ痛たたた……イケると思ったんだけどなぁ。やっぱこの身体じゃ無理があったか」

「ごめんなさい、スズランさん。ちゃんと受け止めてあげられませんでした」


 見れば、私とダリアちゃんの下で顔をしかめていたのは、巫女装束のような衣装に身を包んだ自称・仙女さんたちだった。


「カグヤちゃん!? マリナさん!? どうしてあなたたちがここに!?」

「決まってるじゃない。あなたたちを助けにきたんだよ。だんなさまと一緒にね」

「流石イサリさんです。宣言どおり、召喚したふたつの隕石をピンポイントで標的の手首に当てるなんて」

「「!」」


 カグヤちゃんとマリナさんの言葉に、私とダリアちゃんはハッと息を呑み、揃って振り返る。


 すると目に飛び込んできたのは、



 ――ギャゴォォォォォォォッ!



「おーおー、ブチギレちゃってまあ。……言っとくけどブチギレてるのはこっちも同じだからな?」


 威嚇する恐ろしい化け物を前に軽口を叩く、勇敢な少年の後ろ姿だった。


「……イサリクン……」


 来てくれた……。

 出逢ったばかりの、部下でもなんでもない私たちのために。

 おのが身の危険もかえりみず。

 駆けつけてくれたんだ……。


「っ」


 視界が涙で滲む。

 胸がきゅうと締め付けられる。


 ああ……もうダメだ。

 これ以上自分のキモチを誤魔化せない。

 今、ハッキリと自覚してしまった。


 私はイサリクンのことが……。


「……お兄ちゃん」


 それはたぶん、隣でポロポロ涙を零している幼く不器用な聖女様も一緒で……。


「イサリクン!」

「お兄ちゃん!」


 私とダリアちゃんは『変身』前の紺色の装束を纏うイサリクンの後ろ姿、頼もしい背中へと手を伸ばし――



「見つけたぁぁぁぁぁぁぁ!」



 ――その手が届くよりも早く、白い少女が私たちをぐいと押しのけ、イサリクンの背中へと抱き着いた。


「「!?」」

「え……ええっ!?」


 目を丸くする私とダリアちゃんを余所よそに、ぎょっとした顔で振り返るイサリクンへと、少女は喜色満面で告げる。


「捜したよっ、『ご主人様』☆」



 …………………『ご主人様』?




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