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最後の地球人♂、仙女や魔女と月の海を航る ~ルナマリアノーツ~  作者: 和泉 健星
4章 散る命、咲く命 ―偽りの楽園―
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余談 『子供じゃないもん!』

『余談』第3弾。

♯こどもの日記念。61~62でサシャやクーリエといろいろあった直後のお話です。





 これはまだ<小地球樹エリダーン>を発つ前、『トゥオネラ・ヨーツェン』の甲板デッキで酒盛りをしていた男衆と雑談に興じたり、サシャちゃんやアデリーナさんと危うく一夜をともにすることになりかけたりした、あの夜の話だ。




種を播くもの(シードマスター)>クーリエの試練を無事クリアし、日課の鍛錬を終えて、船長室じぶんのへやへ戻ったボクが目にしたモノ。


 それは、寝台ボンクで丸まってすーすー寝息を立てている金髪ロリ、ルーナの愛らしい寝顔だった。


「……流石だ」


 ボクがとても大事な(このコからすれば不本意であろう)話をしようと手ぐすねを引いて待っていた間は待てど暮らせど来なかったのに……。こりゃ今夜はもう来そうにないなと諦めて部屋を離れ、戻ってきたらコレとは……。


 呆れを通り越して感心してしまう。


「何がなんでもボクと一緒に寝るんだという揺るぎない意志を感じる……」


 聡く、甘えん坊さんなこのコのことだ。「あとで大事なお話があるからね」というボクの予告にイヤな予感を覚えつつも、どうしてもボクと一緒に寝たかったから、ボクが諦めて寝てしまったであろう頃合いを見計らって来たんだろう。

 そしてもぬけの殻になっている部屋を見て、ボクはどこへ行ってしまったんだろうといぶかしみつつも、これはチャンスだと考えたんだろう。


 先に寝てしまいさえすれば、ボクの話を聞かずに済むから。

 そのうちボクも戻ってきて、一緒に寝てくれるだろうから。


「つまりアレか。『大事な話』をするために寝た子を起こすなんて、そんな厳しさ、心を鬼に出来る強さは、ボクには無いと。このコはそう踏んだワケか。……ナメられたもんだな」


 …………合ってる。スヤスヤ寝ているルーナを叩き起こすなんて、そんな非道な真似ボクには出来ない。このコはそれをよーくわかっている。

 普段どれだけボクに甘やかされているか、ちゃんと自覚しているのだ。


「オマケにこのコ、自分の隣に『どうぞここに横になってください』と言わんばかりのスペースまで用意してるし」


 このコにピッタリくっつかないと寝台ボンクから落ちてしまう、そんな絶妙に狭い空間を、だ。


「ルーナ……恐ろしいコっ」


 まだ子供なのにこの計算高さ……。末恐ろしいお嬢様だ。


「まあ、いいや」


 ぶっちゃけボクもルーナをここに置いていくことはもう諦めてるし。今日は開拓やら鍛錬やらで疲れてるし。とっとと寝てしまおう。


「おやすみー」


 ルーナの隣、息が吹きかかりそうなほどの至近距離で横たわり、十歳にして人間離れしているその美貌、愛らしい寝顔をしばし眺めたのち目を閉じる。



 ――直後、ボクの身体に何かが巻き付いてきた。



「…………………。」


 無言でまぶたを持ち上げる。


 すると目に飛び込んできたのは、こちらへと近付いてくるルーナの顔。……の、少しだけ突き出された桜色の薄い唇だった。


 ボクの身体にそっと巻き付いてきたのは、ルーナの両のかいなだったのだ。


 目を閉じる前は『息が吹きかかりそう』だったお互いの距離が、今や『唇と唇が触れてしまいそう』なくらいまで縮まっていた。


「…………………。」


 今宵もまたボクを抱き枕にせんとする十歳児の(はい、毎晩されてます)、徐々に迫る唇に、ボクは人さし指を押し当てる。


「むー……」

「起きてたんだね、ルーナ」


 パチッと目を開けて恨めしそうに人さし指を見下ろすルーナに、ボクがジト目を向けると、


「どうして止めるんですか、イサリさま。イサリさまがいつもみたいに接吻キスをしてくださらないから、わたくしのほうからしようと思っただけなのに」


 ルーナは非難の眼差しを返してきた。


接吻キスじゃないから。『おやすみなさいのチュウ』だから」

「……同じでは?」

「相手が幼女の場合、後者ならまだしも前者はヤバいんだよ。ニュアンス的に」


 言いかたの違いでしかないと言われればそのとおりだけど……。たとえば、『まだ十歳の幼女と毎晩接吻(キス)をしている』と言うのと、『甘えん坊さんな妹分に毎晩おやすみなさいのチュウをしてあげている』と言うのとでは、受ける印象がだいぶ違うと思うんだ。


 ……違うよね?


「っていうかルーナちゃん? お兄ちゃん、寝ているヒトにこっそり接吻キスをするような、そんなはしたないコにキミを育てた憶えはありませんよ?」

接吻キスではなく『おやすみなさいのチュウ』です! なので問題ありません!」

「同じだから」

「さっき、接吻キスじゃない、『おやすみなさいのチュウ』だとおっしゃったのはイサリさまですよ!?」


 ちっ。墓穴を掘った。


 でも、なんだな……「わたくしもあなたに育てられた憶えはありません」と言わない辺り、やっぱヒトが良いよな、このコ。


 まあ、それはそれとして。


「なんで狸寝入りしてたの、ルーナ」

「だって……」

「だって?」

「眠りに落ちる前にイサリさまが戻ってきてしまいましたし……。起きているのがバレたら『大事な話』をされちゃうと思って……」

「…………………」

「イサリさま……置いていかないで……」


 …………ホント聡いコだ。


「確かにボクは、キミに『今回の航海はあくまで物資の補給が目的で、すぐに帰ってくる予定だから、アデリーナさんやサシャちゃんたちと一緒に安全なこの地でお留守番していてね』って言おうと思ってた。……でも、もうその気は無いよ」

「! 本当ですか!?」


 パア……と顔を輝かせるルーナ。


「本当だよ。ボクもキミと離れ離れになるのはやっぱり淋しいもの」


 高1の男が六歳むっつも年下の女の子と離れたくないって、それってどうなんだ? と言われたら、ぐうの音も出ないけれど。


「イサリさま……!」


 ボクが本音を明かすと、ルーナは感極まったように瞳を潤ませ、頬を紅潮させて抱き着いてくる。

 ボクの胸に顔をうずめ、スリスリと擦りつけて甘えてくる。


「――よかった……。これからもずーっとずーっとおそばに置いてくださいね。明日も、明後日も、その先も……わたくしと一緒に寝てください」

「あはは。ホント甘えん坊さんだなぁルーナは」

「……むー。子供扱いしないで」

「だって子供だし」

「イサリさまが思ってるほど子供じゃないもん!」


 頬擦りしながら言っても説得力が無いぞ。

 こころなしか口調も普段より子供っぽくなってるし。


 なんてことを考えていると。


「…………………?」

「? ルーナ?」


 はて、どうしたんだろう?

 ボクの胸に顔を埋めたまま突然ピタッ……と動かなくなっちゃったけど。


 てか、なんでクンクン匂いを嗅いでるの、このコ?


「あ、あの。今のボク、運動したあとで汗臭いだろうから、あまり匂いを嗅がないでほしいんだけど」


 いつもは鍛錬のあとはちゃんとお風呂で汗を落としているんだけど、今夜はルーナが来ていなかったから、お風呂は明日の朝、起きてから入るつもりだったんだよな……。


「…………………」

「ルーナ、聞いてる? いったいどうし――」

「…………イサリさまからサシャちゃんの匂いがする…………」


 ――――――っ!?






 問い・このときの主人公ボクの心情を二十字以内で述べよ。






「きっ、ききききききき気のせいじゃないかなっ!? なんでボクからサシャちゃんの匂いがするのさ!?」

「間違いありません。この匂いはサシャちゃんです。しかもここ一、二時間以内に付いた匂いです」


 なんでわかるの……?


「あとアデリーナさんの匂いもします」

「          」

「どうしてこんな夜中に、イサリさまからサシャちゃんとアデリーナさんの匂いが? ……イサリさま、今までどこで何をされていたんですか? 運動をされてきたとのことですが……いったいどんな運動を?」

「ち……違うんだよ、ルーナ。やましいことは何も無い」


 ボクはルーナに、甲板デッキでのあらましを説明する。


「……なるほど。サシャちゃんやアデリーナさんとは何も無かったんですね」

「当たり前でしょ!? 相手はまだ四歳の女の子と、十も年上の未亡人だよ!?」


 いったいどんな運動をしてきたと思ったんだ、このお嬢様は!?


「――ってか、意外とオマセさんだね、キミ……。『赤ちゃんはコウノトリさんが運んでくるんですよ☆』って本気で信じてそうなイメージがあったんだけど……」

「ですから、イサリさまはわたくしを子供扱いしすぎです。どうすれば赤ちゃんが出来るかくらい、小学校の授業で習って知ってます」


 そりゃそうか……。


 でも、


「だったら尚更ボクと一緒に寝たがるのはどうかと思うんだけど」


 ボクがロリコンだったらとっくに毒牙にかかってるぞ、キミ。


「ぐー」

「都合の悪い話になった途端寝たフリをするのはヤメなさい」

「えへ☆」


 あーもうっ可愛いなぁ。

 この笑顔を見ていると、もうなんでもいいやって気がしてくるよ。


 ……てか、今の舌をペロッと出しながらの誤魔化し笑い、あまりにカグヤそっくりで吃驚びっくりしたんだけど。


「ハア……。もういいから寝なさい。夜更かししてると大きくなれないぞ?」


 睡眠時間が短いと成長ホルモンとかがちゃんと分泌されなくて成長が阻害されちゃうらしい。

『寝る子は育つ』という格言にはちゃんと科学的根拠があるのだ。


「え。でも、まだ上書きしてません」

「上書き!? 上書きってなんの!?」

「マーキングの、です」


 そう言って、もはや密着と言っていいほど四肢を絡ませ、こちらの胸にほっぺたをスリスリと擦りつけてくるルーナ。


「……もしかしてキミ、今、自分の匂いで、ボクに付いたサシャちゃんの匂いを消そうとしてる?」

「イサリさまを慕うかたは多いですから、イサリさまを独り占めできるとはわたくしも思ってません。――けど、どうかお願いですから、ねやにだけは他の女の子の匂いを持ち込まないで」

「…………まだ十歳の女の子のセリフか? それが」

「ですから、イサリさまはわたくしを子供扱いしすぎです」

「…………………気が済んだら寝るんだよ」

「わかりました。では最後に『おやすみなさいのチュウ』をお願いします☆」


 ……結局はそこに行き着くのか。


 でも、いつもどおりのルーナの無邪気な笑顔、子供っぽいおねだりに、ちょっとホッとしちゃったぜ……。

 このコが一瞬だけ覗かせた表情、ゾクッとするような艶っぽい笑みが、あまりに大人びていただけに、余計に……。


「仕方ないなぁ。ほら、ちゅー」

「…………あれっ?」

「こ、今度は何?」


 ちゅっ、と、ルーナの唇に触れるか触れないかという軽い口付けをしたボクは、直後彼女が上げた頓狂とんきょうな声にギクッとしてしまう。


「イサリさまの唇……」

「ぼ、ボクの唇がどうかしたの?」


 なんだ……?

 今度はいったい何を言い出すつもりなんだ……?


「――クーリエさんの匂いがします」


 !

 そ、そうだった……! ボク、アデリーナさんたちと別れたあと、クーリエの試練を受けることになって、最後はクーリエと接吻キスしたんだった!


「だからなんでわかるの!?」

「……イサリさま? どうしてイサリさまの唇からクーリエさんの匂いがするんですか? 接吻キスでもしないと、そんなところに匂いは付かないはず」

「い、いや、それは、その、」

「…………どうしてさっきみたいに『疚しいことは何も無い』って仰らないんですか?」


 疚しいことがあるからです。

 こっちは唇を奪われた側だけど、クーリエと接吻キスしちゃったのは事実だし。

 しかも結構ディープなヤツを……。


「…………………イサリさま?」


 ルーナはニッコリ笑って、ゆっくりと顔を近付けてくる。


「――上書き、しましょうね?」




 その後ボクがどんな目に遭ったのか、えて多くは語らないけども、これだけは言っておきたい。



 窒息死するかと思った。



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