♯60 志を同じくする者たちと、『協定』を結んだ
第60話。新章突入です。
※今回の語り部は前半はイサリ、後半はツバキです。
「そろそろ頃合いじゃな」
開拓が始まってから六週間が経ったころ。
『トゥオネラ・ヨーツェン』の食堂で一緒に夕食を取っていたツバキが、突然そんなことを言い出した。
「頃合いって?」
野菜スープに入っていたアンモナイトの剥き身を渋面で見下ろしていたボクは、スプーンをいったんテーブルに置いて向かいの席のツバキへ問い掛ける。
偶々(?)食事の時間が重なった他の仲間たち――カグヤ、ルーナ、アリシア、シャロン、リオンさん、クロエ、イリヤ、そしてマリナも、口にこそ出さないものの「なんの頃合い?」と言いたげな視線をツバキへ送っていた(ちなみに家を倉庫として提供してくれたマリナはちょっと前に『トゥオネラ・ヨーツェン』へ引っ越してきて、カグヤ、ルーナ、ツバキと一緒に副長室で寝泊りしている)。
「ここに着いた初日に言ったじゃろ。一ヶ月ほどしたら『トゥオネラ・ヨーツェン』は一度ここを発つ必要があると」
「ああ……補給のためだね」
確かにそろそろ食糧の備蓄が心許なくなってきたもんな……。ロウガさんが偶に漁に出て海の幸を獲ってきてくれるけれど(このアンモナイトもそうだ)、消費される量のほうがずっと多いし。海の幸しか口にしないというワケにもいかないし。何より、食糧以外にも必要な生活必需品はごまんとあるしね。
「一昨日ようやく住居がみっつ完成した。灌漑の整備も一段落し、畑への種蒔きも滞りなく進んでおる。ここまで来れば、妾たちがいったんここを離れても大丈夫じゃろ」
「……でもさ、」
と。
そこでアリシアが口を挟んできた。
心配そうな表情で。
「『トゥオネラ・ヨーツェン』が出航したら、ここに残るみんなが寝泊りする場所は完成したばかりの住居しかなくなるワケよね? マリナの家は今、食糧なんかを保管しておくための倉庫になってるし」
「うむ。ここで『凍月の実』が手に入ったのは幸運じゃった。あの実は『トゥオネラ・ヨーツェン』にはひとつしか無かったからの。お陰でマリナの家を氷室として使える」
『凍月の実』というのは冷気を放出するチカラがある実で、『トゥオネラ・ヨーツェン』の食糧庫では『アルカディアの実』と一緒に使われている(『アルカディアの実』は害虫や害獣を駆除するチカラがある実だ)。
何気にこの『凍月の実』、かなり貴重な代物だったらしく、そのレアリティは『デイジーワールドの実』と同じURだそうだ(ちなみに『アルカディアの実』はNらしい。あれはあれでなかなか強力だと思うんだけど)。
……本当は「不思議なチカラには極力頼らず、自分たちの力で自分たちの安住の地を築き上げたい」という思いが特に強い面々からは、安易に『凍月の実』を使うことに反対意見もあったのだけれど……。あくまで『極力』だし、最初のうちはある程度不思議なチカラに頼るのもやむなし、という結論に落ち着いた。
まあ、こう言ったら身も蓋も無いけど、この場所自体が不思議なチカラの塊みたいなモノだしね……。
なお、飲み水に関しては、例の果樹園で採れる『ザナドゥの実』を使用するという案も当初あったが、滝の水が極めてクリーンな真水だったので、普通にそれを使っている。
マリナの話によればここの水には美容効果の他に、生殖能力を高める効能もあるとのことだったが……。今のところその影響は見られていない。この件について、ボクがみんなに注意喚起したときの(特に<魔女>のお父さんやお母さんたちの)あの空気ったらもう……。
「みっつしかない住居に全員寝泊りするって……キツくない?」とアリシア。「ここにいるメンバーを除外したとしても、今この地にいる<魔女>とその身内って、何十人もいるのよ?」
確かに……。アリシアと一緒に『秩序管理教団』の横帆船から救出されたのがアデリーナさんとサシャちゃんを筆頭に二十人ほど。シャロンやリオンさんと一緒に救出されたのも同じく。それにロウガさん、ターニャさん、ロビンさん、オリガも加わるワケで……。総勢五十人ほどになる計算だ。
「大丈夫じゃない?」
干し肉を千切りながらアッサリ言うリオンさん。
「完成したみっつの丸太小屋はどれも大きめで、部屋数も多かったし。今建ててる二棟も、あと半月もあれば完成するでしょうしっ。案外『トゥオネラ・ヨーツェン』の狭い船室よりよっぽど寛げるかもしれないわよ?」
それも確かに……。電動ノコギリも無しに、よくもまあこの短期間であんなデカい建物をみっつも建てられるものだと感心したくらいだしな。
いくら丸太小屋が比較的建てやすい建物だとは言っても、ホントすげえやロビンさん&ダイアンさん。ルーナを人質に取ったりボクの額に貝殻をぶつけて負傷させたりした件については、この功績に免じて水に流そう(実はちょっと根に持ってた)。
「私としては早めに家畜を増やしておきたいところねっ。特に豚っ。お肉をもっと気軽に食べられるようにしたほうがいいと思うのっ。旦那様もそう思うでしょ?」
「まあ、そうですね。ボクもお肉は好きですし」
ボクと一緒に木の伐採に専念していたお父さんたちの一部を、そろそろ家畜用の柵と小屋の製作に回そうかという話になっているしね……住居用の建材ならもう充分確保できたから(なお、残りのお父さんたちはロビンさん&ダイアンさんのサポートに回る予定だ)。
余談だが、家畜たちは未だ放し飼い状態である。今のところそれが原因で大きな問題は起こっていない。……が、鶏があちこちに卵を産んでいるみたいで、発見した場合は都度回収し、みんなで美味しく頂くことにしているのだけれど、誰も発見できなかった卵が孵化してしまうことも多々あり、気付いたら結構な数のヒヨコが生まれていた。ボクが知る限り、既に二十匹くらい。
いつの間にか足元にいたヒヨコを踏んじゃいそうになったときは焦ったぜ……。ルーナやサシャちゃんは「可愛い~☆」って目を輝かせていたけど。キミたちのほうが可愛いよ。
「家畜たちの管理に関しては、オリガに任せておけば問題は無いでしょうしね」
「確かに……」
ボクの言葉にシャロンが何故かこちらをチラリと見、少し複雑そうな表情を浮かべる。
「現状、オリガさんのチカラが一番お役に立っていると思います……」
牛耕で大活躍してるもんなぁ。
ターニャさんやロビンさん、ロウガさんと既に食事を済ませてしまったから今この場にはいないけど、いたら今頃「ふふーん。もっと褒めてくれてもいいんですよー?」と鼻高々だったろうなぁ、オリガ。
……てか、どうしたんだろう、シャロン。なんか表情が暗いけど。シャロンだってみんなと一緒に種蒔きや水やりを頑張ってるんだから、ちゃんと役に立ってるのに。
「わたしもリオンさんの意見に賛同します。干し肉じゃないお肉が食べたいです」
ボクの左隣に腰掛けているクロエが、スープに入っていたグリンピスを選り分け、しれっとした顔でボクの皿に移しつつ言う(ちなみにグリンピスというのは地球で言うところのグリーンピースのことだ)。
「あと、昼間この船の主計長さんが備蓄の在庫を確認していたので計算を手伝ったのですが、近くの有人島まで行って帰ってくるのに必要な日数のことを考えると、早めに動いたほうがいいかもしれません」
……うん。主計長のオッサンを手伝ったのは偉いけど、嫌いなモノをボクに押し付けるのはヤメなさい。サシャちゃんでもしないぞ、そんなこと。
こうなったらアンモナイトの剥き身をお返ししてやる。……あ、喜ばれた。
マズい、右隣に腰掛けているルーナが「わたくしもっ! わたくしもイサリさまと取り換えっこがしたいです!」とか言い出した。
落ち着いてルーナ! これは取り換えっこやイチャイチャといったそーゆー微笑ましいアレじゃない! お互い食べたくないモノを押し付け合ってるだけなんだ!
「……それで?」
クロエの向かいの席で、ボクとクロエ、そしてルーナのやりとりを見て「やれやれ」といった感じの溜め息をつきながらカグヤがツバキに問い掛ける。
「いつ出航するのかな? 明日?」
カグヤの問い掛けにツバキは「いや」と頭を振り、
「ここに残る連中へいろいろ引継ぎもせねばならんから、明後日じゃな。――で、じゃ。マリナ、お主に確認しておきたいんじゃが」
自分の隣、ルーナの正面に腰掛けているマリナを見遣る。
「お主の家を倉庫にしておいて今更こんなことを訊くのもアレなんじゃが、本当に一緒に来るつもりなのか? というか、ここを離れて大丈夫なのか?」
「もちろんです☆」
マリナの答えは簡潔明瞭だった。
「わたくしは長いこと待ち続けました。もう離れるつもりはありません」
マリナは何を待ち続けたとも、何から離れるつもりはないとも言わなかった。
……が、頬に紅葉を散らしてはにかむ彼女の視線を辿れば、誰の目にも明らかだっただろう。
「あ痛っ! 何するのさクロエ!?」
クロエの奴、今思いっきりボクの脛を蹴ってきたんだけど!
なんで!? なんでボクが蹴られなくちゃならないの!?
ボクは涙目でクロエを睨む。が、プイッとそっぽを向かれた。
くっそー……。多少は心を許してくれたのかとも思ったけれど、これっぽっちもデレる気配が無いなこのコ……。
それとも、これがこのコなりの甘えかただったりするんだろうか……。
「ふむ。マリナについてはわかった。――あとはお主らじゃな」
ツバキは次いで、クロエと、その左隣に腰掛けているイリヤを見遣る。
「旦那様から聞いた話によると、お主らもこの船の正式な乗組員になることを希望したそうじゃが……。真か?」
「本当です」
クロエが目線だけをツバキへと向けて頷く。
「イサリ兄さんはわたしに『この帆船に乗っている限り決して淋しい思いはさせない。キミの人生に楽しいことや嬉しいことをいっぱい用意してあげる。必ずキミを孤独から救ってみせる』と約束してくれました。その約束を守ってもらうため、わたしはイサリ兄さんについていきます」
その言葉にアリシアとシャロンがピクッ……と肩を震わせ、「………………。」と無言でボクを見てきた。
……な、何? なんなの、その目は? ボク、また何かやっちゃいました?
「…………ということはイリヤ、やはりお主も?」
「ええ。ワタクシはクロエのお母さんに、クロエのことヲ頼まれていルから」
一人、黙々と食事を続けていたイリヤが手を止めて淡々と答える。
まだたどたどしいこっちの言語で。
「それに……」
「それに? なんじゃ?」
「イサリは『何かあったら遠慮なく自分を頼ってほしい。キミの重荷を自分が半分背負ってあげる』っテ言ってくれたしネ。この際、お言葉に甘えようかと思っテ」
「「「「「「…………………。」」」」」」
だから何!? なんでみんなしてそんな目でボクを見るの!?
「……あのね、だんなさま。八方美人も程々にしておかないと、いつか刺されちゃうよ?」
「八方美人て。ボクはただ『キミは一人じゃないよ』って、そう伝えたかっただけで、」
「なんじゃかなぁ……。以前も言ったと思うが、下心が全く無いのが余計に質悪いんじゃよな、おまえ様は。この天然ジゴロめ」
「助けて髭面さん! ボク、何も悪いことしてないのに責められてる!」
ボクはたまらず、厨房で洗い物をしていた司厨長さん(この場で唯一の同性)に助けを求める。
髭面さんはボクをチラリと見、こう言った。
「坊主。俺はおまえさんがいつ女に刺されるかって賭けで半年以内に賭けてるんだ。刺されるんなら早めに頼む」
このヒトが一番ヒドイ!
☽
「……よし。行ったの」
食事を終えてトボトボと食堂から出ていく旦那様の後ろ姿を見送り、妾は旦那様に続いて離席しようとした女性陣へ「待て」と再度の着席を促す。
「アリシア、シャロン、クロエ、イリヤ、あとリオン。お主らは残れ。話しておきたいことがある。――ルーナ、カグヤ、マリナ、お主らは旦那様を追いかけて励ましてやってくれ」
「「「?」」」
カグヤたちは怪訝そうな顔をするも、素直に旦那様のあとを追いかけてくれた。
空気を読んで三人の姿が完全に通路の向こうに消えてからアリシアが口を開く。
「何よ、話って」
「うむ。実はの、例の計画についてじゃが、ここにいる連中には話しておくべきかと思っての」
「え? ……ああ、なるほど。そーゆーことね」
「あ、あの。計画ってなんの話ですか?」
きょとんとした顔で挙手し、おずおずと訊ねてくるシャロン。まあ、こやつにはまだ「この船の正式な乗組員になりたいのなら旦那様のことはちゃんと船長と呼べ」としか言ってなかったからの。
「今から話す。――まずひとつ確認しておきたいんじゃが、今この場にいる者は、リオン以外は皆、旦那様に本気で惚れとるよな?」
「「「っ!」」」
妾の言葉にシャロン、クロエ、イリヤが息を呑み、
「ちょっとぉ! なんで私だけ仲間外れにするのよぉ!」
リオンがブーブー文句を言う。
「私だって旦那様が望むのなら、あーんなことやこーんなことをしてあげる覚悟があるわよっ」
「ちょっと黙っとれ三十二歳。妾は今、真面目な話をしとるんじゃ」
「私も割と真面目に言ってるんだけど……。あと年齢で呼ばないでくれる?」
真面目に言ってるのなら、それはそれで問題じゃろ……。
どこまでが本音なんじゃ、この女は……。
「ちょ、ちょっと待っテ!」
と、そこでイリヤが立ち上がり、妾とリオンの会話に割り込んできた。
「ワタクシにとってイサリはあくまで弟みたいな存在ヨ! 決して彼を異性として意識していルなんてことは、」
「嘘をつくでないわ。旦那様をチラチラ盗み見ては溜め息ばかりついとるくせに。バレとらんでも思っとったのか。生憎、クロエを含め周りはみんな気付いとるぞ。気付いとらんのは旦那様だけじゃ」
「!?」
イリヤは弾かれたようにクロエを見、クロエが頷くのを見て「嘘でショウ……」とテーブルに突っ伏し頭を抱え始める。
意外とポンコツじゃよな、こやつ。
旦那様はもっとポンコツじゃけど。
……まあでも、こればかりは旦那様を責められんか。
旦那様からしてみれば、イリヤは本来『昔から知っている、自分よりもずっと年上なお姉さん』なワケじゃし。そんな相手が(運命の悪戯で同い年になってしまったとはいえ)自分に好意を寄せているとは夢にも思わんよな。
「……あ、あの」「だとしたらどうだと言うんですか」
ふむ。どうやらシャロンとクロエは自分の恋心を隠すつもりは無いようじゃな。正直、意外と言えば意外かもしれん。この二人の性格を考えると、照れや気まずさから否定しそうなもんじゃが。
まあ、こちらとしては話が早くて助かるがの。
「単刀直入に言うぞ。皆もう気付いとるじゃろうが、旦那様はルーナとともに地球へ帰還し、あの娘を家族のもとへ送り届けることを最終目標に行動しとる。妾やお主らが告白したところで、『自分はルーナのためにもいずれは地球に帰還しなければならない身だから応えることは出来ない』とフラれるのがオチじゃ」
「「「「!」」」」
妾の言葉にアリシア以外の全員が顔を顰める。
「そこで、じゃ。妾とアリシアは一計を案じることにした」
「「「「一計?」」」」
「うむ。旦那様はあの性格じゃ。おそらくこれからも行く先々で<魔女>と出逢っては漏らさず救おうとすることじゃろう。シャロン、クロエ、お主らを救ったようにな」
「それは……」「そうでしょうが……」
「そして今後も旦那様に惚れる者が現れると妾は予想する」
「「「「!」」」」
「そやつらは妾たちの恋敵なワケじゃが、同志でもある」
「「「「同志?」」」」
「そうじゃ。『旦那様にこっちに残ってもらうためならなんだってする』――そんな同じ志を持ち、一緒に外堀を埋めていってくれる仲間じゃ」
「「「「外堀?」」」」
「妾は旦那様に、いずれここの郷長になってもらうつもりじゃ」
「「「「郷長?」」」」
……どうでもいいがこやつら、同じ男に惚れとるだけあって息ピッタリじゃな。
「そう。仲間たちとの紲。彼らから向けられる信頼。そういったモノで、責任感の強い旦那様に『ここに残らないワケにはいかない』と思わせるためにな。――そしてその上で、妾たちの想いにイヤでも応えざるを得ない状況を作るつもりじゃ」
「それって要は……」「既成事実狙い……?」
シャロンとクロエが顔を赤くする。
「察しがいいの。沢山の女子を傷物にした上、子供までこさえてしまえば、責任感の強い旦那様にここを去るという選択肢は完全に無くなるじゃろ」
「……つまり、これはあれ?」
ははーん、という顔をするリオン。
「旦那様を確実に追い詰めるに足る数の同志が集まるまで、お互い抜け駆けは無しにしましょうって提案ねっ?」
「そのとおりじゃ。言わば『協定』じゃな。誰かが焦って告白したり、強引に押し倒したりして、旦那様に逃げられでもしたらそこで終わりじゃからの」
「『協定』ね。でもそこまでする必要ある? みんなで身体を張る必要が。ツバキちゃんが言うとおり、旦那様は責任感が強いわ。あなたたちのうち誰か一人でも旦那様とそういう関係になれれば、それで充分って気もするけれどっ」
まあ、当然の疑問じゃな。……けど、
「旦那様を一人で落とすのはまず無理じゃ。――残念じゃが単騎ではルーナに勝てん。誰もな」
自分で言っておいてなんじゃけど、なんて悲しい事実……。
「その言いかたは誤解を招かないかしらっ。まるで旦那様とルーナちゃんが相思相愛みたいじゃない!」
「相思相愛みたいなもんじゃろ、ある意味」
「ていうか、自分以外の女の子も旦那様とそういう関係になっちゃってツバキちゃんは平気なワケ?」
「確かに自分が旦那様の『たった一人』になれるのならそれが理想じゃが、カグヤの『だんなさま』である時点でそれは叶わぬ願いじゃからな。……残念じゃが、カグヤ以外の者は最初から『二番目』以降が確定しとるんじゃ」
カグヤならルーナに勝てるのか? と訊かれると微妙なところじゃが……。
「かと言って旦那様以外の男なんて今更考えられないし?」
「うむ。それに旦那様は良くも悪くも一人で支え切れるような男ではないしの。贅沢は言ってられん」
「ま、待っテ!」
とイリヤがそこで立ち上がり、異を唱える。
「この話、ワタクシは賛同できないワ! 不誠実すぎる!」
「じゃがお主と旦那様は元いた時間軸が微妙に違うんじゃろ? お主が旦那様と結ばれるには、他に方法は無いと思うぞ。旦那様に地球への帰還を断念させる以外、何もな。まあ、お主自身も諦める必要があるワケじゃが」
「わ、ワタクシは地球に未練なんて無いワ! ただ、それだトあのルーナってコにも迷惑を掛けることに、」
「ルーナにはちゃんと地球へ帰還してもらう。一人でな。流石にあやつにまで地球への帰還を断念させるのは酷じゃからの」
「……そうは言うケド、イサリを置いて自分だけ帰還するト思う? あれだけイサリに懐いているコが」
「逆に訊くがの。肉親との再会を諦めてまで、ここに残ることを選ぶと思うか? まだ子供なんじゃぞ、ルーナは」
「…………とにかく、ワタクシは反対だワ」
「なら、お主は旦那様を諦められるのか? その恋心を封印できるのか?」
「言ったでショウ、ワタクシにとってイサリはあくまで弟みたいな存在デ……」
「本当に? 『自分は地球に未練なんて無い』と断言までしておいて? 妾にはルーナを『旦那様を諦める理由』に使っているようにしか見えんがの」
「………………っ」
あからさまに「痛いところを突かれた」みたいな顔をしおったな、こやつ。どうやら自覚はあったようじゃ。
「話はわかりました」
クロエはそんな姉貴分を気にしつつも眼鏡をキラリと光らせ、
「わたしに異存はありません。そうすることで最終的にイサリ兄さんの子供をもうけることが出来るのであれば、『協定』でもなんでも結びましょう。一夫多妻も、自分が二番目以降であることも、わたしにとってはどうでもいいことです。ええ、大した問題ではありません。いつか、あのヒトとの子供に『お母さん』って呼んでもらえるのであれば」
……なんなんじゃろ、こやつの異様なまでの母親になることへのこだわり。
こやつ、確かまだ十四だか十五だかじゃったよな?
なんか怖いんじゃけど……。
まあ、いいじゃろ。
「シャロンは? 異存はあるかの?」
「え、ええっ!? そ、そう言われても、」
「無いわっ! ねっ、シャロン!」
「ちょっ、お母さん!?」
「よし。では詳細を詰めるぞ」
「ま、待ってくださいツバキさん! わたしまだふんぎりが、」
「詳細とは? 具体的には何を詰めるんですか?」
「細かい『協定』の中身じゃな。『旦那様に自分のことが好きなのかと訊かれたときはちゃんと否定する』とか、『旦那様のことは名前で呼ばず船長と呼ぶ』とか、そーゆー取り決めじゃ。今はまだ旦那様にこちらの恋心、目論見を悟られるワケにはいかんからの」
「まずはその『協定』に名前を付けたほうがいいんじゃないの、ツバキ」
「ふむ。確かにアリシアの言うとおりじゃな。よし、では『<魔女>協定』とでも名付けるか」
「待っテ! その名前はどうかと思うワ! ワタクシのような<漂流者>モいるのよ!」
「あ、あれっ!? イリヤさん、あなたさっき『賛同できない』って、」
「諦めなさいシャロン! もはやあなた一人が反対したところでどうなるものでもないわっ」
「お母さんは黙ってて!」
「……ところで、妹分としてイサリ兄さんにベタベタするぶんには構いませんよね? 要は異性として慕っていることに気付かれなければいいワケでしょう?」
「ちょっとクロエ! アンタ何さっそく抜け駆けしようとしてんのよ!?」
「ああ……イサリ、ワタクシはどうしたラ……」
……とまあ、グダグダながらも議論は進み、『<魔女>協定』は程なくして完成。
まだまだ穴だらけの取り決めで、今後同志が増えていったら中身を見直したり、名前自体を変えたりする必要性が出てくるかもしれんが……ま、そのときはそのときじゃな。
※評価、ブックマーク、感想等よろしくお願いします!




