♯79 死を冠する植物と、新たなる姿で戦った(前編)
第79話。4章もいよいよクライマックスです。
これはまだ<小地球樹>を発つ前。シャロンとクロエ、二人の<魔女>を四柱目の造物主サマと引き合わせたあの日に、ボクとマリナ、そして四柱目の造物主サマとの間であったやりとりだ。
「四大兵装?」
「そ。四大兵装」
聞き慣れない単語に思わずキョトンとするボクを見て、四柱目の造物主サマこと<種を播くもの>クーリエは、額を掌で押さえ、これ見よがしに溜め息をついてみせた。
「……マジかよ。カグヤの奴、それすら説明してねーのか。なんのための水先案内人だよ」
「まあまあ☆ 現状、イサリさんが使用可能な兵装は限られているワケですし。それについて説明するのは時期尚早だというカグヤちゃんなりの判断があったんじゃないでしょうか」
今この場にいない(シャロンやクロエと一緒にみんなのところへ先に戻った)双子の姉を妹が庇う。
それはいいとして、だ。
「四大兵装ねぇ」
言われてみれば……、
「――以前カグヤがそれっぽいことを口走っていたような気もするな。確かあれはスーザンによって第十一<神域>ロストワールドの内側に引きずり込まれる直前だったかな?」
――『あなたの作った檻と鎖が、もうそう長くは保たないことはわかってる! でも、だんなさまは最近「こっち」に来たばかりなの! まだわたしと「あのコ」にしか認められていない……たったのふたつしか神威を宿していないのよ! 今のだんなさまに「あれ」の相手はまだ無理だわ! あなたが一番よくわかってるでしょう!? 「あれ」は四つの兵装全部で挑んだとしても勝てるかわからない強敵! だからこそ十一番目の試練の相手として――』
「……うーむ」
そのあと怒涛の展開が待っていたとはいえ、こんな気になる発言を今の今までスルーしていたなんて……。いくらなんでも能天気すぎないか、ボク。
「いくらなんでも能天気すぎんだろ。なあ、マリナ」
「能天気なイサリさんも素敵ですけどね☆」
…………………。
「逆にマリナはボクのどういうところがダメだと思う?」
「素敵すぎるせいで、わたくし以外の女の子も片っ端から惹きつけてしまうところでしょうか☆ ――まあ、この世にイサリさんよりも魅力的な殿方が存在しない以上、イサリさんがおモテになるのは宇宙の摂理とでも言うべき必然なワケですけれど」
「ルーナでもしないぞ、そこまでの過大評価! ……たぶん」
…………しないよね?(汗)
「てか、ボクがいつモテたってのさ? 十六年生きてきたけども、ボクに好きだと言ってくれたのはカグヤ・ルーナ・サシャちゃんの三人だけだぞ。全員ロリだぞ」
いや待て。合法ロリ(?)のカグヤと微妙なお年頃のルーナはともかく、サシャちゃん(四歳児)をカウントするのはどーなんだ自分……。
……って、イカン。話が脱線した。
「察するに、ボクがいつも『変身』しているあの姿も、その四大兵装とやらのひとつなのかな?」
「ああ。――バージョン<ボーダーガード>。守人の基本形態とでも言うべき姿で、<創造と再生の地球意思>であるマリナとは『魂』で、<破壊と修正の地球意思>であるカグヤとは『魄』で深く繋がった姿だ」
「『魂』と……『魄』???」
タマシイとは、精神を司る『魂』と肉体を司る『魄』を指す言葉で、これらは天地や陰陽と結び付けられ、月の満ち欠けにも関わるという話は、ボクも何かの本で読んだことがあるけれど……。
「『月火憑神』は、」とマリナが補足する。「わたくしのチカラ『星核構築』を使って、四大兵装のいずれかを具現化し装着するワケですが。その際イサリさんは、その身に宿す造物主、『魂魄の婚姻』を結んだオーバーロードのうち誰か二柱と、『魂緒』を介して深く繋がることになります」
「誰か二柱と……『魂緒』を介して?」
「はい。それぞれの兵装の動力となるふたつのチカラ、その供給源となる二柱と、です。バージョン<ボーダーガード>の場合はわたくしとカグヤちゃんですね。つまり『魂緒』は供給パイプのような役割を果たすワケです」
ふむ……。
「で、だ」クーリエは人さし指を立て、「肉体錬成のチカラである『地球系統』と、物体形成のチカラである『星核構築』。このふたつの供給源となる二柱と深く繋がることで『変身』可能なバージョン<ボーダーガード>の最大の特長は、ズバリ、鉄壁の防御力だ」
「防御力」
「ああ。特に防御特化形態だと、兵装に『星核構築』由来の自動修復機能が備わることもあって、装着者自身がダメージを負うことはほとんど無え」
うーん……。
「その自動修復機能も、攻撃特化形態になると消失しちゃうみたいだけどね……」
「その代わり、肉体が傷付いた際はたちまち治癒・再生するだろ。『地球系統』由来の自動治癒能力でよ」
「そりゃそうだけども」
痛いものは痛いんだよな……。
キロウスに右腕を噛み千切られたときは、あまりの激痛にショック死するかと思ったし……。
「――最初から最後まで防御特化形態で戦えればそれに越したことは無いんだけどなぁ」
「つっても、双聖の神器が使えねえ防御特化形態は攻撃手段が限られちまうからなぁ。痛し痒しってヤツだな」
「別にプラズマの刃が無くてもボクには神威体現闘法<漁火の拳>があるし……」
「……宙を漂っている『地球系統』を妙な呼吸法で体内に取り込み、魂魄を種火代わりにして爆発・燃焼させ、拳なんかに乗せて叩き込む例のトンデモ技法か。マジでなんなんだよあれ。意味わかんねーんだけど」
あ。クーリエの目から見てもトンデモ技法なんだね、あれ……。
「それに、」とマリナはニッコリ笑って、「双聖の神器を使えば、『魂魄の婚姻』を結んだオーバーロードのチカラを借りることも出来ますしね」
「そういえばそうだったね」
「はい。いろいろなチカラを使えることによる汎用性の高さ――防御特化形態と攻撃特化形態の使い分けによって、どんな戦況でもそれなりに対応できる使い勝手の良さ。それもまたバージョン<ボーダーガード>の特長のひとつです。この特長はわたくしとカグヤちゃんが八十八柱いるオーバーロードのリーダー格であることを由来としています」
と、いうことは……、
「マリナとカグヤ以外のオーバーロードと深く繋がって『変身』する他の兵装には、兵装の自動修復機能や肉体の自動治癒能力はもちろん、この身に宿るオーバーロードのチカラを借りる機能も備わっていないワケだ」
「はい。他の兵装の場合、使えるチカラは『魂』と『魄』で深く繋がった二柱のオーバーロードのチカラだけです」
「ほーん」
「しかも防御特化形態と攻撃特化形態といったバージョン内での換装もありません」
ふむ。
「要するに、だ」とクーリエが総括する。「マリナやカグヤと深く繋がって『変身』するバージョン<ボーダーガード>は、基本形態なだけだって万能な兵装なワケさ。敵のデータが無い場合は、とりあえずこれを使っておけば間違いは無え」
……そうなると、ボクが『デイジーワールドの実』を食べて得た『星核構築』のチカラだけで『変身』していたころのバージョン<ボーダーガード>は、本領には程遠かったんだなぁ……。
というか、
「ふと思ったんだけどさ。バージョン<ボーダーガード>があれば他の兵装は要らなくない?」
万能と呼ばれるだけあって欠点らしい欠点も見当たらないし……。
「そんな甘く無えんだよなぁ、実戦てのは」
え?
「どういうことさ、クーリエ」
「さっきマリナが『汎用性の高さと、どんな戦況でもそれなりに対応できる使い勝手の良さがバージョン<ボーダーガード>の特長だ』って言ったけどよ。極めて特殊な条件下での戦いや、一芸に特化した敵が相手の場合なんかだと、他のピーキーな性能の兵装のほうが案外戦いを有利に運べたりもするんだわ」
……ピーキーな性能?
「もしかして、残るみっつの兵装は長所と短所が両極端だったりするの?」
ゆえに、極めて特殊な条件下での戦いや一芸に特化した敵が相手の場合は(長所が上手くハマれば)バージョン<ボーダーガード>より楽に戦えるってこと……?
「そういうこった。特撮番組でよくあるパターンだな。パワーに特化した鈍重極まりない形態とか、スピードに特化したイマイチ火力に乏しい形態とか。そんな感じの……所謂『派生形態』?」
「なんで特撮番組のあるあるパターンなんて知ってるのキミ!? 仮にも月と地球の造物主の一柱のくせに! 特撮番組を観たことあんの!?」
「なんだよ造物主サマがウ○トラマン好きだったら悪いってのかよ!? オリジナルの地球はもちろん、共時性によって数多の平行宇宙、幾多もの模造地球で生み出されてきた人類最大の発明だぞ、ウル○ラマンは!」
「キミ的にはウルトラ○マンが人類最大の発明ってことでいいの!?」
「仮面ラ○ダーも捨てがたい」
あ。そっちも知ってるんだね……。
でもって、その二択なんだ……。
ボク的には戦隊ヒーローもお奨めなんだけど……。
でも、そっか……。ウルトラ○ンや仮面ライ○ーって、オリジナルの地球でも放送されてたんだ……。
共時性……。共時性か……。
難しいことはわからないけれど、ひょっとしてオリジナルの地球もまた、日本という国が存在したり、ボクが生まれ育った地球と同じような歴史を辿っていたり、似たような偉人が似たような時代に似たような発明をしていたりするんだろうか。
……と、思索に耽るボクの鼻先に、クーリエはビシッと人さし指を突きつけ、
「とにかく、だ。――イサリ。おまえにはこれから、残るみっつの兵装のデータを叩き込む。いずれそれらの知識が役に立つ日が来るだろうからな」
「でもさ。バージョン<ボーダーガード>がカグヤやマリナと深く繋がることで『変身』可能な形態であるように、残るみっつの形態、兵装も、『変身』するにはチカラの供給源となってくれる造物主サマと深く繋がる必要があるんだろう?」
現状ボクが深く繋がれる……『魂魄の婚姻』を結んだオーバーロードは、カグヤとマリナを除外すると<種を摘み取るもの>スーザンくらいなのだけれど。
使えない兵装の知識だけあってもなぁ……。
「いいから聞いとけ。いずれは必要になる知識なんだから」
渋るボク(基本勉強が嫌いなので)を見て、クーリエはニヤリと笑う。
そして、こう言った。
「それに、残るみっつのうちひとつは、そう遠くないうちに使えるようになるさ。おまえならきっと、な」
「……え?」
「そう、その日はすぐに来るはずだ。――守人としての使命を自覚することでおまえの魂魄が今よりも研ぎ澄まされ、カグヤとマリナ以外のオーバーロードとも『魂緒』で繋がれるようになる日が」
「使命を自覚することで……」
ボクの……守人としての使命……。
「その兵装の名は、バージョン<メテオストライカー>」
「<メテオストライカー>……」
「『魂緒』で繋がるオーバーロードは、アタイの妹、<種を摘み取るもの>スーザンと、そして―――……」
☽
キィィィィィィィ……ン――
キィィィィィィィ……ン――
「これは……」
ユラユラと陽炎のような蒼炎を立ち昇らせて、ボクの左腕に装着された籠手が『共鳴』していた。
ボクの中にいる――この身に宿る二柱の造物主サマの闘志に応えるように。
やはりこれは――
「促しているのか……あの二柱が。バージョン<メテオストライカー>への再変身――全換装を」
死角から襲い掛かってきた『死の植物』の蔓、その先端の顎を左腕の籠手でガッチリと受け止めつつ、ボクは籠手の表面に浮かんだ文字列をもう一度確認する。
――『守人としての使命の自覚を確認。
新たな兵装が使用可能となりました。
新たに使用可能となった兵装:Ver.<Meteor striker>』
「……守人としての使命……」
そうだ。
……この魂魄に課せられた使命を果たすため。
……月と地球、そこに住まう愛し子らを護るため。
今こそ。
「チカラを貸してくれ――スーザン! クーリエ!」
右手を頭上に掲げ、吼える。
「全換装! <メテオストライカー>!」
瞬間。
煌! と夜天から眩い光の柱が降ってきて、ボクの視界を包み込んだ。
同時に、青生生魂と呼ばれる神秘の金属で出来た全身防護服に変化が生じる。
ベースとなるカラーは、幻想文学の世界から飛び出したかのような美しい留紺から夜空を翔ける流星のような鮮やかな紅へ。
所々に浮かび上がる光芒の形は、純白の白鯨から翠色の箒星へ。
全体的な形状や黄金色の金属彫刻はバージョン<ボーダーガード>の攻撃特化形態そのままに、ボクの身を覆う全身防護服が、その色と光芒をガラリと変貌させていた。
……否。よく見れば、形が変わっているところが一か所だけあった。
左腕だ。
装束同様、紅へ変色した両腕の双聖の神器――その左腕に装着されたほうだけが、その形状を大きく変化させていた。
まるで弓のような三日月状の突起が展開していたのだ。
「そうか……。確かクーリエの説明によれば、バージョン<メテオストライカー>の得意とする戦法は――」
変化していたのはそれだけではなかった。
『全換装! <ルナマリアノーツ>!』
『バージョン<メテオストライカー>! 起動!』
ボクの頭の中に響く『声』も、カグヤとマリナのそれではなくなっていた。
当然だ。今ボクと『魂緒』深く繋がっているのは、地球の化身、分霊である双子ではなく――
『――終息を齎し!』
<種を摘み取るもの>スーザンと、
『――息吹を振り撒く!』
<種を播くもの>クーリエの姉妹なのだから。
……そして。
ブウ……ン……!
『衝突の冬』と『宇宙播種』。星を降らせるチカラを持つ姉妹の認証を受けて、コートの表面を翔ける箒星の形をした光芒が閃光を帯び、各種機能が起動。戦闘態勢へと移行し、再変身が――全換装が完了する。
「バージョン<メテオストライカー>……」
ボクの背後で、両脇にスズランさんとダリアちゃんを抱えた<神の財産目録保存者>ロッカがポツリと呟くのが聞こえた。
「――対巨獣、そして遠距離戦闘を得意とする流星の射手……。その戦闘スタイルは――」
ギョイイイイイイイッ!
シャギャアアアアアアアッ!
そんなロッカの独白を掻き消すように、もう残り少なくなっていた『深きものども』の群れと無数の『死の植物』の蔓が一斉に襲い掛かってくる。
『――させん』
直後、頭の中でスーザンの『声』がした。
同時に、地中から幾条もの鎖から飛び出してきて、異形たちを捕縛する。
あの巨大な『月棲獣』の自由すら奪うことが可能な、スーザンの神威で構築された紅い光の鎖だ。
『任せろ!』
次いでクーリエの『声』がして、彼女の意思で召喚された隕石の雨が、身動きできない異形たちを次々と脳天から打ち砕く!
「す……すごい……」
ロッカに抱えられているスズランさんが、バージョン<メテオストライカー>の本領、もはや自動迎撃能力と呼んでも差し支えないスーザンとクーリエの連携を目の当たりにして、感嘆の声を漏らし――
「…………………!」
そして、気が付けば。
こちらを包囲していた異形たちは、一匹残らず殲滅されていた。
『深きものども』はもちろん、次々と生えてくる『死の植物』の蔓も、クーリエによって何度でも召喚される隕石を前に、余すことなく蹴散らされていた(バージョン<ボーダーガード>の自動修復機能や自動治癒能力同様、バージョン<メテオストライカー>の自動迎撃能力にも、インターバルといった制限は無いようだ)。
飛来した隕石に撃ち抜かれ、粉々になって炎上する『深きものども』の群れ……元はヒトの子だった者たちの最期を無言で見届けるボクの頭の中に、
『……赦せ』
『……安らかに眠れ。いつの日か、もう一度ヒトとして生まれてこられるように』
再度スーザンとクーリエの声が響く。
が、そんな造物主たちの祈りにも似た独白を引き裂くように、
ギャオオオオオオオンッ!
『死の植物』の咆哮が大気を震わせた。
見れば、全長80m近い植物型生体兵器は、正面、約50m先までいつの間にか迫っていた。
こちらとのサイズ差を考えれば、もうほとんど目と鼻の先と言っていい距離だ。
その全身もまた、スーザンの神威で構築された紅い光の鎖によって雁字搦めにされ、地に縫い付けられていた。
ただし、『月棲獣』すら軽く凌駕する巨体を押さえ続けるのはやはり難しいのか、鎖には早くもヒビが生じ始めている。
「さあ、」
こちらを脅威と認識したのか、巨体の頂上部に咲いたラフレシアのような花から威嚇するみたいに黄色い花粉を撒き散らしている化け物を見上げ、ボクは冷徹に告げた。
「――残るはおまえだけだぜ、化け物」
決着の瞬間が近付いていた。
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