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☆★ハロウィンスペシャル★☆

 肌寒い時期になってまいりました。

 そこそこ栄えている街に到着した私ですが、金も名誉もなーんもないので、ただひたすら、大通りの隅っこで体育座りで空を見上げています。

 ボロボロの服と汚れた顔で通りの端に座っていると、本当にホームレスなんだなと改めて自覚しちゃいます。

 道行く人々も、「うわ、なんかいる。知らんぷりしとこ」みたいな視線で私をチラ見しています。


「お腹へったなあ」


 子供たちの騒がしい声が聞こえてきた。

 オオカミや吸血鬼のコスプレをした子たちが「お菓子お菓子〜」といろんな大人たちに強請っています。


「そっか、そんな時期なんだ」


 とそのとき、


「お嬢様」


 専属メイドのくっちゃんが声をかけてきました。


「どこ行ってたの! 主人をほっといて」


「トイレです。ところでお嬢様、今日はなんの日か知ってますか?」


「え!! お菓子くれるの!?」


「……なんの日か知ってますか?」


「ハロウィンハロウィン!! もったいぶらないでよ〜」


「ちなみに、ハロウィンではお菓子をあげない人にはイタズラしていいルールですが、お嬢様なら私にどんなイタズラをしますか?」


「え? うーん。闇金で借金作って、くっちゃんの親に連帯保証人になってもらう」


「おお! なんという人間失格っぷり!! 心は未だ悪役令嬢ですね!!」


 あ〜、はい。どうも。

 で、お菓子は? お菓子食べたいよ。この際ファーストフードとは程遠い、めちゃくちゃ手間のかかる食べ物でいいですよ。食えればなんでもいいのです!!


「くっちゃん早く! 早くお菓子!!」


「ははは、餌を前にテンションが上がってる犬みたいですね。無様」


「くぅ〜ん。私は犬です。くっちゃんからお菓子もらいたい犬ですワン!!」


「では一つ条件を出します。私が納得するイタズラを実際にしてきてください」


「はあ?」


「これも立派な悪役令嬢に戻るためです」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「てなことがあったんですよ、アコさん」


 街で偶然悪役令嬢ハンターのアコさんと遭遇し、先程言い渡された条件について相談してみました。


「どう思います?」


「誰よアコって!! 私の名前は『アム』だっつーの!!」


 そうでしたそうでした。久しぶりの更新だったので準レギュラーの名前を忘れてました。

 てへへ。


「ていうか何フレンドリーに話しかけてんのよ!! 友達かっての。……ふん、まあいいわ。今日こそあんたを捕まえて報酬を貰うんだから」


「そんなことより、楽にできるエグいイタズラないでしょうか。できるだけ苦労せずに美味しいもの食べたいので」


「あんた、前に一緒に働いたときの気持ち忘れちゃったの? 苦労は最高のスパイスになるのよ」


「でも、アムさんだって働かずに楽して暮らしたいですよね?」


「……」


「楽してお菓子食べたいですよね?」


「……」


 そんなこんなで、私はアムさんを仲間に引き入れイタズラを結構することにしました。

 どんなイタズラをするかって? 聞いて驚け見て驚け。

 公衆トイレのトイレットペーパーを全部水で濡らす作戦、です!

 濡れたトイレットペーパーじゃ使い物にならない。でも実質ウェットティッシュなので案外便利かもと思わせ、濡れトイレットペーパーを必死に慎重に使わせる、悪魔的な計画ですなのです!!


 やっぱり私って天才? あぁ〜、神と崇め奉られたいです〜。


「じゃあアムさん、作戦開始です!!」


「私もあんたのメイドからお菓子貰えるんでしょうね?」


「モチのロンですよ!!」


 私はデパートのおもちゃ売り場に来た子供のような足取りで最初の公衆トイレを目指しました。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 補導されました。

 警察にこっ酷く叱られました。

 久しぶりにガチ泣きしちゃいました。アムさんもしょんぼりしてます。

 アムしょんぼり。


 で、でもイタズラを結構したのは事実。

 私はアムさんと大急ぎでくっちゃんにお菓子を貰いに行きました。


「どうよくっちゃん。私のイタズラは」


「ちょっと、私が発案したんだからね」


 二人でドキドキワクワクしながら、くっちゃんを見上げます。

 アムさんもお菓子が大好きなようですね。ガキです。


「お嬢様、アム様。大変ご苦労さまでした。では、ご褒美を差し上げます」


「「わーい! なになに〜?」」


「カレーパンです」


 ……え?


「カレーパンです」


 ……は?

 あ、いや、う、嬉しいです。美味しそうだし、食べたいです。

 でも、あれ? 今回ハロウィンスペシャルじゃなかったでしたっけ?

 もし私が教科書に載ったら、ハロウィンの日なのにわざわざカレーパン食うために奔走した最初の人間って書かれてしまうじゃないですか。


 アムさんも微妙そうな顔をしています。

 アムしょんぼり(二度目)。


「いらないんですか?」


「……いります」


 カレーパンをパクっと一口。

 おっ! カリカリの生地と、中に隠された熱々のカレーが組み合わさって美味しいです。

 やっぱカレーには炭水化物なんだなって思い知ります!!

 しかもパン生地はナンより薄いので、よりカレーの味が舌に広がりやすいです。

 ていうかこのカレーパン、ちゃんとじゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉が入ってます!!

 ルーだけじゃない、ガチカレーじゃないですか!!

 

 あぁ〜、また一口食べて実感。このサクッと感の素晴らしさ。なんでこうサクサクしたものって音だけで食欲を促進させるんでしょうかね。

 はうあっ!! 舌にピリリと来ました。これこれ、歯ごたえが良いものばかりの歯ごたえ祭りだけじゃなく、しっかり旨味が口内を染めるのがカレーの一番良いところ。

 それがこんな手軽に食べれるカレーパン、自分、リスペクト良いっすか?


「な〜んか、お菓子だろうがカレーパンだろうが、美味しければなんでもよくなっちゃいました」


 全国のカレーパン業界のみなさま、本当に申し訳ございません。

 好き嫌いをしないお利口な私に免じて、許してください。


 ふとアムさんを見やると、まだカレーパンを食べていませんでした。


「食べないんですか?」


「私、カレーアレルギーなの」


 そんな珍しいアレルギーがあるんですかい。

 てことはアムさん、ただ無駄にイタズラして警察に怒られただけじゃないですか。


「アムさん、なんかごめんなさい」


「……うん」


 こうして、今年のハロウィンが幕を閉じました。

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