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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
9/62

新しい生活



 晴れて夫婦になった私たちは先輩の家……私たちの家に帰っている。


「向こうが駅であっちが家……って椿?聞いてる?」

「き、聞いてます聞いてます!!」

「じゃあ家はどっち?」

「えっと……向こうですか?」

「向こうは駅だってば」

「……聞いてなかったです」


 家に帰りながら道案内をしてくれていたのにうっかり聞き逃していた。私たちの家だなんてくすぐったい響きに喜んでる場合じゃなかった。私が反省していると先輩はクスッと笑う。先輩はいつも落ち着いててしっかりしててすごく頼りになって素敵な旦那さんだ。なのに私はこんなんでちゃんと奥さんができるんだろうか。


「夜ご飯どうする?昼みたいにまた食べていっても良いしテイクアウトして家で食べても良いよ」

「そうですね……あ、まだ時間ありますし、私作りますよ」

「疲れてるでしょ。明日からで大丈夫だよ」


 料理ならできる、奥さんらしいことができると思い付いたのに。でも私は諦めない。


「疲れてるのは先輩ですよ。私は乗ってるだけですもん」

「乗ってるだけでも長い時間乗ってたら疲れちゃうでしょ」

「……」

「椿?」

「作りたいんです」

「作りたいの?それなら良いけど無理しなくて良いんだよ?」


 そういうことじゃないのに。確かに作りたいけど先輩は手料理が食べたくないのかな。昨日の朝はあんなに喜んでくれてたのに、と少し不満に思う。


「先輩が外で食べたいならそれで良いですよ」

「そういうことじゃないんだけど……怒ってる?」

「怒ってないです」


 こんなことで怒るわけない。でもこれじゃわがままになっちゃう。先輩が優しいからどんどんわがままになってる気がして自分が嫌になってきた。


「……ごめんなさい」

「謝らなくて良いんだってば」

「……そうでした」

「どうしたの?気に障ること言った?」

「言ってないです」

「それじゃあやっぱり料理したかったの?」

「……だって先輩は落ち着いててしっかりしてて素敵な旦那さんなのに私は全然駄目なので奥さんらしいことをしたくて」

「ひぃ……抱き締めて良い?」

「え、運転中なので駄目です」

「わかった。椿はすごくすごく良い奥さんだよ」

「そんなことないです」

「だって今の言葉だけで今週仕事頑張れるよ」

「今のだけでですか?」

「そうだよ」

「そんなはずないです。私はお義母さんみたいな奥さんになりたいんです」

「母さんみたいになっちゃ駄目だよ。ただの天然馬鹿なんだから。俺が子供の時よりはちょっとはマシになったかもしれないけどそれでも馬鹿だよ」

「そんなことないです。酷いこと言わないでください。お義母さんは私の目標です」

「若菜だけじゃなくて母さんまで……。そうだ、奥さんは旦那さんを癒せる人が良いんじゃない?そう聞かない?」

「確かに聞きますね」

「でしょ。だから椿は今のままで十分良い奥さんだよ。椿がいたらすごく癒される」

「うーん……そうですか?」

「そうだよ」

「そうなんですね……。じゃあ今日は夜ご飯作りますね」

「え!?急に話が戻った!!しかも作るの?」

「はい。夜ご飯を作って先輩に癒されてほしいです」

「嬉しいから良いや。じゃあスーパーに寄ろう。駅から家に帰る途中にあるんだよ」


 そう言って先輩はスーパーに寄ってくれた。車を駐車場に停めてシートベルトを外してドアに手をかける。


「椿」

「なんです……わっ」


 名前を呼ばれて振り向こうとするといきなり抱き締められて手で頭を撫でられた。恥ずかしい。


「せ、先輩!!見られちゃいますよ!!」

「運転中じゃなきゃ良いんでしょ?」

「運転中じゃなくても車では駄目です!!というか外では駄目です!!」

「ケチだなー」

「そんなこと言っても駄目です」

「わかったわかった」


 そう言ってまた頭を2回ポンポンとしてから離れてくれると思っていたら離れ際に頬にキスをされた。


「全然わかってないです!!」

「真っ赤だよ。可愛い」

「可愛くないです!!抱き締めるのもキスをするのも駄目です!!婚姻届を出す前みたいなのも駄目ですから!!」

「えー駄目?」

「そ、そんな顔しても駄目です!!」

「ふふ、じゃあ家でたっぷり可愛がることにするよ」

「な、な……」


 呆然としてる間に先輩は車を降りてしまって慌てて私も外に出た。


「手を繋ぐのも駄目?」

「……それくらいなら良いです」

「やった」


 手をぎゅっと繋いで歩き出した。嬉しそうな先輩を見て私は幸せを感じていた。手を繋ぐのにオッケーを出しただけでこんなに喜んでくれるなんて。もっと先輩に喜んでほしくなる。外でのハグやキス以外のことで。


「先輩は癒されたいんですよね?」

「え?んーそうだね」

「それなら私癒し系奥さんになれるように頑張りますね!!」

「いや、だからもう癒されてるんだってば」

「癒し系ってどんなことをしたら良いんですかね。あとで調べておきますからね!!」

「だから……。あ、そうだ。うん、あとでね」

「ん?はい!!」


 戸惑いの顔をしていた先輩が急に笑うからなにかと思ったけどまあ、良いかな。

 スーパーに入るとすぐに先輩がかごを持ってくれた。


「先輩はお義父さんと同じで優しいですね。荷物持ってくれたり車のドアを開けてくれたり」

「あーまあ……ね」

「どうしたんですか?」

「ううん、なんでもないよ、ついね。教育の賜物みたいなものかな」

「へー素敵な教育方針ですね。そしたらお義父さんはお母さんに教わったんですかね。アメリカ人ってすごくスマートに優しいイメージしますし」

「んー、まあそんな感じかな」


 お喋りしながら歩いてると卵が目に入った。……そうだ。


「先輩、夜ご飯親子丼はどうですか?」

「え?あー優菜さん?」

「はい。作りなれていないので優菜さんみたいには上手く作れないと思いますけど」

「そんなことないよ。椿は料理上手だからなんでも美味しく作れるよ」

「き、期待しないでくださいね」


 きっと美味しくなくても美味しいと言ってくれそうな先輩に気後れしてしまう。けど楽しみにしてくれるなら頑張らないと。

 そして親子丼を作るための食材を買っていると明日の朝はどうしたら良いのかと思った。先輩は朝はパン派かな、それともご飯派かな。和食が好きみたいだからご飯派かな?でもご飯の方が時間がかかるしパンかもしれない。


「先輩先輩」

「ん?」

「先輩は朝はどっち派ですか?」

「どっちでも良い派かな」

「あ、そうなんですね。じゃあどっちにしましょうか。私が早く起きれば良いだけですしご飯にしましょうか?」

「え?」

「ん?」

「どういうこと?」


 先輩が立ち止まるから私も足を止める。今の話のどこに疑問を持つんだろうか、と首を傾げる。


「朝はパン派かご飯派かって話でどっちでも良い派なんですよね?」

「あ、そうだったの?朝は食べるのか食べないのかって聞かれたのかと思った」

「え、食べないって選択肢なかったです」


 でもそう言えば朝は食べない人もいるって聞くよね。自分が必ず食べるから全然考えもしなかった。


「先輩食べない時もあるんですね」

「平日は基本的に食べないかな。休みの日は時間があるから食べるけど。あ、でも朝昼一緒になることもあるしいろいろだよ」

「そうなんですね……。あれ?でもお義母さんは毎朝作りそうですよね?」

「うん。だから実家にいた時は食べてたけど一人暮らしだと食べなくて良いかなってなっちゃって」

「ハッ!!これからは毎朝ご飯を食べてください!!」

「なに考えたかわかるよ。母さんを見習ってとかでしょ」

「先輩の健康は私がちゃんと管理しますよ!!お義母さん!!」

「……うん、椿の手料理は食べたいから食べるよ」

「食べたいですか?」

「もちろん」

「ふふふ、じゃあ決まりです。ご飯が良いですか?パンが良いですか?」

「椿はどっち派なの?」

「私はパン派です」

「じゃあパ「どっちもにしましょうね」……うん、良いよどっちでも」

「私に合わせなくて良いんですよ?」

「そんなんじゃないよ」

「そうですか……?とりあえず平日はパンにしてみましょうか。和食の方が好みに合うなら逆にしてみたり、様子見ですね」

「うん、そうだね」


 なんだかこれから毎日一緒に生活するんだって改めて思えて少し恥ずかしくなった。だけど先輩が嬉しそうだから私も自然に笑顔になる。

 レジでお金を払おうとしたら先輩に先に出されてしまいあたふたしてる間にお会計が済んでしまった。


「あ、あの……お金」

「え?もう結婚したんだから全部払って良いでしょ?昼もそうだったし」

「そ、そういえばお昼も……。でもどうしましょう、若菜と結城くんみたいにしますか?」

「んー……」

「あ、珍しいですね。そこまで考えてなかったですか?」


 普段あまり考え込まない先輩が眉間にシワを寄せる。


「考えてないっていうか椿が働いても働かなくてもどっちでも良い想定でいたから全部俺のお金で払っていくつもりで」

「駄目に決まってるじゃないですか。ちゃんと考えましょう。家に帰ってからで良いですよね」

「うん。……そうだ」


 買ったものを袋に入れ終わって持ち上げようとしたら先輩がまた持ってくれて嬉しいと思っていたら先輩はなにか思い出したみたい。


「どうしたんですか?」

「いまさらだけどこの上に布団とか売ってるんだけど今日買わなくて良かった?仕事帰りで良い?」

「あ、そうなんですか?んーでも明日とかで良いですよ。お義母さんたちがどういうのが好きかわからないですし」

「どういうこと?」

「え、だからお義母さんと優菜さんの好みですよ。可愛いピンク系が好きとかあるじゃないですか」

「そんなのなんでも良いでしょ」

「でも好みのお布団の方が良いに越したことないですよ?」

「たった2日寝るだけでしょ」

「これからも泊まりにくるかもしれないじゃないですか。それにたった2日でもどんなお布団かでテンションが変わりますよ。あと枕も、固めが良いとか柔らかめが良いとか。そういう好み先輩知ってます?」

「知らないよそんなこと」

「もう……。だと思いました。だから聞いておきますね」

「どうでもいい……」

「そんなこと言わないでください。たった2日だとしてもゆっくり休めるように好きなお布団にしたいじゃないですか。私も今のベッド買う時こだわりましたよ」

「そうなの?じゃあうちのベッド買い替えようか」

「え、見てなかったですけど小さいですか?」

「んー多分。セミダブルだから」

「大丈夫だと思いますけど」

「でも好きなベッドで眠りたいんでしょ。好きなの選んで良いよ」

「いやいや、小さくなかったらそのままにしましょうよ。夫婦のベッドの大きさって普通なんなんでしょうね?これも調べておきます」


 私がそう言うと先輩は納得してない感じながらも頷いてくれた。

 そして私たちはスーパーを出た。






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