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「勘違いですれ違った恋」番外編  作者: 柏木紗月
新婚生活スタート
49/62

事故の話とドレス


「出張?」

「うん、木曜に行って金曜日に帰ってくることになりそう」


 ある日の夜ご飯を食べている時、隼人さんに来週出張があると聞かされた。


「そっか」

「どうする?竜二さんのとこ行く?」

「ううん、大丈夫だよ」

「本当に?」

「心配しないで。事前に出張があるってわかってるんだからこの前とは違うよ」


 隼人さんはまだ心配そうな顔をしてる。


「そうだ、若菜が木曜日休みらしいよ。せっかくだから有給取って遊びにいこうかな」

「え、わざわざ?」

「うん、だって若菜今月も休みはいつといつだよって遊びたいって言ってくれたよ」

「あいつは……」

「今聞いてみよっか」


 携帯で若菜にメッセージを送るとすぐに返事が来た。


「見てみて、若菜こっち来るって」

「小躍りしてそうだね」

「そんなことないと思うけど……でも嬉しそう。明日課長に言ってみるね」

「そもそも休みなんて取れるの?忙しいのに」

「多分大丈夫。その日は特になにもない日だし石橋さんも覚えるのが早くてね」

「そっか。青木さんは大丈夫?」

「うん、悪阻もほとんどないみたいで時短勤務ではあるけどこれまでとほとんど同じように元気だよ。今は石橋さんに教えながらで私が至急のものとか対応してるから忙しいけど」


 青木さんは妊娠したけど仕事を辞める予定はないみたい。安定期に私に教えてくれて、ちょうど3月に出産予定だそうだから私たちの結婚式には来れなくてごめんねって言ってくれたけどそんなこと気にしないで元気な赤ちゃんが生まれると良いですねって言った。旦那さんの家族が近くに住んでるから産休を取ってそのあとすぐに仕事復帰するそうだけど課長が営業事務を1人採用してくれた。石橋さんといって営業事務経験者の27才でチャキチャキした感じの真面目な人だ。青木さんが隣について仕事を教えているけどやっぱり経験者だし要領もよくてイレギュラーがなければもう既に1人でも対応できそう。

 私が入社する前まで青木さんが休んだ時に代わりにやっていた三輪さんが自分がいるから私は気にせず休んで良いからね、忙しかったら間宮さんに全部押し付けたりするしって言ってくれている。

 でも甘えてはいられないから普段は私が残業して青木さんの分も仕事をしているからやっぱり帰りが遅くなってしまって、今日もだけど隼人さんが美味しい節約低カロリー料理を作って待っていてくれた。


「こっちはそんなに忙しくないし気にしないでね。それどう?自信作なんだ」

「うん、美味しいよ」


 隼人さんが作ってくれた美味しいご飯を食べながら今日もいつも通り今日あった出来事を話した。

 そして翌日課長に話したら有給を取れることになって隼人さんの出張の日になった。

 朝にくれぐれも若菜に気を付けてと言われたり注意事項を言われたり昨日も聞いたと思いながら聞いてから隼人さんを見送った。

 若菜との約束の時間、インターホンが鳴ってオートロックを解除する。


「椿ー!!」

「若菜ー!!来てくれてありがとー」


 部屋に入った若菜はキョロキョロと辺りを見渡しながらリビングに入る。


「なんか面白くないねー」

「ご、ごめんね、おもちゃとかなくて……でもジュースは買ってきたよ。アップルジュースとオレンジジュースどっちが良い?」

「じゃあアップルジュース!!」


 私は冷蔵庫からペットボトルを出してソファーに座る若菜に渡して隣に座る。


「どこ遊びにいこっか」


 若菜に秘密と言われてしまってなにして遊ぶかわからないままだった。


「ウェディングドレスを見に行くよー」

「え、ウェディングドレスなら予約とれたのが今度の日曜日だからそこで見に行くよ?」

「椿私と見に行く約束したでしょ!!」

「そ、それはそうだけど会場こっちでドレスもこっちで買うから来るの大変だねって式場決めてきた日に連絡したでしょ」

「見に行かないとは言ってないよ!!それにそこで決まるとは限らないよ」

「2ヶ月前までには決めてほしいって言われてるから1月の16日までに決まれば大丈夫だよ」

「とにかく今日行くよー」

「だから……ま、いっか」

「それに日曜日行く時の下見だよー。先にどういうのが合うか見てみるのも良いんじゃない?」

「うん、確かにそうかも。迷いすぎて隼人さん待たせたら悪いし。でも予約してないよ」

「予約なくても大丈夫なところがあるよー調べたよ」

「なんだそうなの?」


 若菜が調べてくれたお店に行くことにして、若菜は先に家の中探検すると言った。


「隼人さんから伝言だよ。寝室は立ち入り禁止だって」

「ふーん!!直接も言われてるよーだ」

「そうだったんだね」


 若菜は携帯を見せてくれる。


『寝室には入るな。戸棚は不必要に開けるな』


 他にもなにをするなって羅列していた。


「どれから破ろうかなー」

「若菜、駄目だよ」

「お、これを開けてみよう」


 そう言ってワインセラーを開ける若菜。まあ、戸棚じゃないから良いかな。隼人さんもそこまでピリピリしてなかったしいつもみたいな意地悪で言ったみたいだし。


「ふむふむ……」

「すごい、若菜ワイン詳しいの?」

「全然わかんないよー」

「なんだ……」


 真剣に見ていたから詳しいのかと思ったら違った。そして冷蔵庫を開ける若菜。


「ビールが2本……日本酒が1本……ふむふむ」

「どうしたの?」

「琉依さんからの指令だよー」


 若菜はソファーに戻って携帯で何かを打ち込む。


「指令?」

「飲むのは良いけど飲み過ぎてないか調査してくるの。ワインは3本っと……」

「そうなの?」

「禁止されてたわけじゃないから煩く言わないしみんな買ってるから飲むのは良いけどねって。独身の時と違って毎日浴びるように飲んで毎日酔いつぶれてることはないだろうけど飲みすぎてたらまた倒れるよって」

「倒れる!?」


 私は慌てて若菜の隣に座り直して若菜の肩を揺する。


「倒れるってなに!?倒れたことがあるの!?」

「わーん!!椿顔が怖いー揺れ揺れー」

「ご、ごめん……でも倒れたって……」

「飲んでない時に眩暈がして気絶することがあっただけだよー。でも椿見つけられないってなってたのと椿と会ってからも何に悩んでるのか考えてたからだろうってことらしいよ、昴が言ってたよー」

「お医者さんは?行ったのかな……大丈夫かな……」

「入院したとこ……に……行ったとか……行かなかったとか……」

「入院!?」


 まずいと呟きながらあわあわする若菜に私も慌てる。


「言っちゃった言っちゃった……良かったんだっけ……どっちだっけ……駄目だった気がする……隼人にマジギレされるー……」

「怒られたら私も一緒に怒られるから。知ってること全部教えて?」

「うーん……」


 悩み始める若菜。これも隼人さんが私のために話さないでいたことなのかな。病気も怪我もしたことなくて高校生の時に風邪を引いたのが初めてだったとは聞いたけどそのあとになにかあったのかな。入院だなんて大きな病気だったのかな……事故に遭ったのかな……。

 若菜は私を見てまたうーんと唸ってからわかったと言う。


「でも私ちゃんと聞いてないからよくわかんないよ」

「それでも良いよ」

「んーと……隼人が大学4年の時にトラックに轢かれたの」

「そんな……」

「椿探しに行くって泊まりがけで行った先から連絡があってね、3日間を覚まさなくて。足を骨折したのと頭を強く打ったんだって……あわわ、これは私が泣かせた?隼人が泣かせた?」


 話を聞いただけで泣いてしまう。そのまま目を覚まさなかったらと思うと怖くなる。


「止める?」

「……ううん、止めないで」

「横断歩道で小さい女の子を庇ったんだって。隼人なら助けてすぐ避けれたでしょって思ったけど……椿のことを考えてて助けるのが遅れたんだって」

「私……」

「その小さい子が椿に似て綺麗な黒髪だったからもし椿に子供ができてたらあの子みたいに可愛い子なんだろうなって考えてたらトラックに気付くのが遅れたんだって。でも目が覚めてからは普通にいつも通りだったよ。うちからすごい遠くで事故に遭ったから地元の大きな病院に転院して入院して言われてたよりずっと早く治ってお医者さんもびっくりしてたんだって。回復力も尋常じゃないって昴が言ってたよ。視力は微妙だけど」

「もしかして眼鏡ってその時……?」

「そのせいかどうかわからないらしいけど車の運転が駄目なくらいまで下がったんだって。事故の前は全然問題なかったからまあ影響はあるんだろうね。隼人は眼鏡かけたら椿にかっこいいって言ってもらえるかもしれないって嬉しそうに眼鏡買いに行ったよ。お医者さんも心配ないだろうって言って隼人が楽しそうだったからみんなも眼鏡がかっこいいとか椿も惚れるよとか言って、隼人喜んでたよ。みんな昔からそうだから。隼人が嬉しそうにしてるなら気にかけてはいるけど辛気くさくなったりしないでいつもと変わらないでいるんだ。だから眼鏡かっこいいって言ったら隼人喜ぶよ」

「そっか……」


 お義父さんが言っていた通り。みんなは隼人さんに何が起きてもいつもと変わらずに接していたんだ。それはとても難しいことだ。そんなことがあったのにいつもと変わらずにいるなんて私にはとてもできそうにない。


「椿はいつも通り隼人を心配してたら良いよ」

「いつも通り?」

「そうだよ。今椿が泣いて悲しんでるのはいつも通りだよ。隼人のことを考えてるんだから」

「そっか……これがいつも通りなんだ」

「そうだよ。琉依さんも美香さんも普段通り心配して目が霞むっていうのを昴に聞いて入院してた病院に強引に検査受けに行くように言って帰ってこさせたもん。その時に事故の後遺症じゃないってはっきり聞いてとりあえずお酒飲みすぎだから注意してって言われたんだって。だからしばらくは家にお酒置かないであんまり飲まないようにしてたんだって」

「普通に飲んでるみたいだけど……大丈夫なのかな……」

「みんな椿のことでたくさん考えてることがあったのも原因だろうって、結婚して落ち着いてるから大丈夫だろうって何も言わないしお酒買ってるよ」

「そう……でも心配だな……本当に平気かな……」

「心配なら隼人に精密検査しろって言ってみれば?何回やっても異常なしだと思うけど」

「そっか……接待もあるって言ってたけど倒れたりしないかな……大丈夫かな……」

「だから異常はないって言われてるから大丈夫なんだって」

「そ、そう……」

「椿、ウェディングドレスだよ!!」

「え、行く?」

「行くよー!!隼人もウェディング姿の椿を見たら喜ぶよー。帰ってきたら見せたら良いよー」

「う、うん、喜んでくれるよね」


 強引な気がしたけどウェディングドレスを試着しに行き何着か着て写真を撮った。若菜は金曜日の朝早くに電車で帰ってそのまま遅番の仕事に行くというハードスケジュールで、夜ご飯を一緒に作って食べてからお義母さんと優菜さんにと買った布団で2人ですぐに眠って金曜日若菜を見送ってから仕事に行った。

 定時を少し過ぎた辺りで帰り、出張後の色々で遅くなるという隼人さんを家で待った。


「久しぶりの椿だー……」

「おかえりなさい。お疲れさま」


 帰ってきてすぐに隼人さんにぎゅっと抱き締められる。


「すごく長かった」

「隼人さんが寂しかった?」

「寂しかった。椿は寂しくなかった?」

「若菜が一緒だったけどやっぱり隼人さんがいないのは寂しかったよ」

「そっか。今日はたくさん愛してあげるー」

「いきなりエッチなこと言わないで」


 キスをしてから隼人さんの鞄を持って寝室に行く。着替えをする隼人さんの後ろで若菜に料理を教えるのが難しかったという話をして、リビングに行ってから携帯を見せる。


「ウェディングドレスとカラードレス試着してきたよ」

「え……」

「ど、どうしたの!?」


 私から携帯を受け取った隼人さんの目から涙がハラハラと流れて慌てる。


「一緒に行きたかったのとウェディングドレスを着た椿が綺麗なのと……」

「日曜日の前の下見をしようって若菜と……ご、ごめんね」

「ううん、やるだろうなとは思ってたから……」


 そう言って涙を拭う隼人さん。まさか隼人さんの涙を再び見ることになるなんて。


「嫌だった?ごめんね、また私……」

「大丈夫だよ」


 おろおろする私の頭をポンポンして椅子に座って携帯の画面をスライドさせる。


「こっちも綺麗だね。椿はどういうのが良かったの?」

「うん、やっぱりAラインのが良かったかな」

「綺麗だね。こっちも似合うけど。あ、ここからカラードレスだね。可愛すぎる……」

「どれが良いと思う?」

「やっぱりグリーン系が良さそうだね。ま、若菜も日曜行く時に迷わないようにとかって言ったんでしょ。7割嫌がらせだろうけど」

「そ、そんなことないよ」


 ご飯を食べようかと思ったけど若菜に聞いた話が気になってどう言おうか戸惑う。


「若菜が話したっていうのは昴に聞いてるよ」

「え……本当?あの……若菜怒らないで」

「怒ってないよ」


 私はそっと隼人さんの頭に触れてみる。


「心配かけてごめんね」

「ううん……良かった。隼人さん……生きててくれて良かった」

「うん」


 隼人さんは立ち上がって抱き締めてくれた。


「椿に会えなくならなくて良かったよ。話さなくてごめん」

「良いの。今は平気なの?もう一度検査した方が……」

「ついこの前大丈夫って言われたんだから平気だよ。椿もいるし」

「私がいても関係ないよ」

「関係あるよ。精神的に」

「それなら良いけど……少しでもおかしいと思ったらすぐに言ってね」

「もう全然大丈夫なんだけど……わかったよ」

「眼鏡はかっこいいよ。あ、眼鏡はっていうか眼鏡かけてる隼人さんが……かけてなくてもかっこいいけど」

「ありがとう。あれは二代目なんだけどね」

「そうだったの?」

「初代は酔ってる時に椅子で潰しちゃって竜二さんに選んでもらったんだよ。なんとかってブランドの」

「そうなんだね」


 隼人さんは高級店につれていかれて竜二さんに乗せられて買ったらお義父さんや関さんたちの高いブランドものをプレゼントするよ合戦に発展してしまった話をしてくれてご飯を食べながらその話を聞いた。





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