お母さんはすごい
「ゆっくり考えたら良いわよ。ねえ、そしたら話を変えて結婚式の話にしない?」
「結婚式ー!!華やかで可愛くてキラキラするのー?」
「母さんのはよくわからないけど顔合わせといえば結婚式の話だと思ってそれはだいたい決めてきてるよ。ね、椿」
「あ、えっと、うん。それは私が……」
結婚式の話をしようと思って持ってきていたパンフレットを私の鞄から取り出してテーブルに置く。
「30人規模の小規模な結婚式だよ。念のため40人まで入れる会場にしてるけど」
「たくさん呼んでパーってしないのー?」
「僕と美香も優菜と浩一さんの時も招待する人がたくさんいたからね」
「親しい人だけ呼んでアットホームな式にしたいと思ったんだよ」
「披露宴というより会食っていう感じみなさんとお話しできるようにしようと思ってます。私たちがこれまでたくさんの人に見守られてきたので感謝の気持ちを伝えたくて温かい雰囲気にできると良いねって」
「感謝の気持ちを伝えつつ椿と一緒に過ごした時間はまだ少しだからお互いが知らない時のことを写真を見ながらみんなで話したりできたら良いなって。すごくごちゃごちゃして纏まりなくなりそう母さんのせいでって思って今考え中だけど」
「えー!!どうして私のせい!?」
「わかるでしょ」
「けど良さそうねー。なんとなく少人数だと寂しいのかなって思ったけどこういうのでも楽しそう」
優菜さんがパンフレットを手にとって若菜が私も見ると言って横から見る。
「でね、きらびやかな雰囲気より自然の中って雰囲気にしたくて、お父さん今からじゃ難しいよね」
「全然大丈夫だよ。結婚式の演出久しぶりだなー」
「あの膨大なアルバム1つずつ見て選ぶの大変だって思ったんだよね」
「隼人の可愛い写真を選ぶのなら簡単よー全部だものー」
「駄目だこりゃ。親父……」
「みんなで手分けして見ようか」
「椿ーお色直しはー?」
「1回しようかなって」
「ウェディングドレスとカラードレス、どっちも綺麗だろうなー」
「オッケー」
「あ、おい若菜、わかってると思うけど余計なことはするなよ?大事な結婚式だからな?」
「わかってるよー椿とっても綺麗だよーミントグリーンとかーでも他の色でも似合うよー水色も良いよねー」
「あー良いねーすごく綺麗だよー世界一の花嫁さんだねー」
「ふ、ふたりとも……」
若菜も隼人さんも想像の世界へ行ってしまってる。
「そうそう、ママとパパが帰国早めて3月に帰ってくるって。直前に隼人の家に行って椿ちゃんに会うって言ってたわよ」
「げ、なんで……」
「隼人さんのおじいちゃんとおばあちゃん……緊張します」
「普通にしててよ。ちゃんとしてる方が不思議だから。涼子さん要さん、うちのママとパパだいたい1年ママの生まれ故郷のカリフォルニアに帰ってるのよ」
「日本語で大丈夫?」
「たまに、いや頻繁に英語になるけど日本語ペラペラだから問題ないわよ」
「それなら安心ね」
そして結婚式の話をしていると私と隼人さんは帰る時間になった。
「お母さんとお父さんどうする?」
「えー帰っちゃうのー?」
「もっと話していこうよー顔合わせの二次会ー」
お義母さんと優菜さんが言う。
「顔合わせの二次会ってなに……」
「じゃあもう少し話していこうかしら、お父さん良い?」
「良いよ。あ、記念写真!!」
「あら、そうだったわ」
所々で写真を撮っていたけど集まって記念写真を撮ってから帰った。
電車の中で隼人さんは疲れたと言って眠ってしまった。緊張したらしい。そうは見えなかったけどお義母さんが変なことしないかとかうちのお母さんとお父さんに結婚式の案を反対されないかとか若菜と昴を警戒して夜によく眠れなかったから余計に疲れたと言うから肩を貸してあげて眠ってもらった。
楽しくて充実した週末だった。隼人さんの大切なみんなに直接会って話もできて嬉しかった。隼人さんの大学の時の友達とその婚約者さんに会うのも楽しみだな。だけど由紀たちに隼人さんを会わせるのは上手くいくかな。ペラペラ喋るから隼人さん驚くかもしれない。喋る時は1人ずつ、一気に質問しないでって言っておいた方が良いかも。同時に好きなように喋って旅行とかだと好きなようにどっか行っちゃうようなみんなだから心配だ。
いつの間にか私も眠っていたみたいで隼人さんに起こされた。
「首痛くなかった?」
「大丈夫。ごめんね」
「ううん、私も寝ちゃってたし」
「ご飯食べて帰ろっか」
「作るよ。節約しなきゃ」
「そうだった。じゃあスーパー寄って帰ろ」
そう言ってのんびり喋りながら帰ってご飯を食べてから私がお風呂に入り隼人さんも入りにいった。なにしようかなと思っていると着信音が鳴って携帯を見るとお母さんから。
「もしもし、どうしたの?」
『今平気?隼人くんは?』
「隼人さんはお風呂だよ。ゆっくり浸かって疲れを取るって」
『ちゃんと労ってあげないと。優しい旦那さんなんだから』
「してるよーもー。わざわざ怒るために電話してきたの?」
『違うわよ。今日は隼人くんの家族皆さんとお話できて楽しかったーって思って』
「そっか、良かった。隼人さんもいろいろ気を使ってくれたよ」
『本当に良い子ねー』
「隼人さんは素敵な人だよ」
『そんな素敵な旦那さんを家庭に入って支えたいと思ってるんじゃないかしらね』
「え!?」
『迷っていたけど椿の中で答えは決まってるんじゃないの?』
お母さんってすごい。私はソファーに座って思ってることを話す。
「毎日仕事で疲れた隼人さんを明るいお家で出来立てのご飯を作っておかえりって言って迎えたいと思ったよ。けど子供ができたらお金も必要だし隼人さんの仕事がこの先どうなるかなんてわからないから辞めようとは決めたけど不安はあって。それに4人で住むってなったらもっとお金がかかるし……でもそれはお母さんたちが助けてくれて、だけどたった数日でこうやって状況が変わるならやっぱり2人で生計を立てていた方が安心な気がするし……」
『ほら、またぐちゃぐちゃ考えてる。隼人くんもああ言ってくれてるんだから好きにしたら良いのに』
「うーん……それはそうなんだけどね」
『隼人くんは辞めてほしくない寄りに言ってたけど実際は辞めてほしいって思ってるんじゃない?美香さんは専業主婦だから毎日琉依さんを出迎えるって聞いたわよ。親のことを見ていたらそういう理想を持つのは自然なことだしそうじゃなくても椿のことが大好きなんだもの』
「うん、わかってるよ。隼人さんは口にははっきり言わないけど毎日毎食私のご飯が食べたいとか毎日おかえりって出迎えてくれたら良いなとかずっと言ってるもん」
『なら迷うことないじゃない』
「んー……そんな単純じゃないよー」
『椿が迷ってる原因はさっき言ったことだけじゃないんじゃない?』
「え、そんなことないよ」
『そうかしら。椿あなた昔から人に拒絶されたり否定されるの嫌いでしょ。昔から映画もドラマも好きだけど中学生の時同じクラスの子に映画を勧めたら見てもくれなかったって怒ってたことがあったでしょ。それから普通にこの映画が面白かったとは友達と話してはいても勧めようとはしてなかったわよね。その子にだけじゃなくて友達みんな。隼人くんにはなにも気にせず勧めてたみたいだけど』
「そんな昔のことよく覚えてるね……確かに隼人さんにはそのこと考えないで勧めてた」
『それにお父さんと遊びにいく公園や植物園が好きだったから友達を誘ったらお年寄りみたいで嫌って言われてもう誰も誘ったりそういう話もしなくなったでしょ。それも隼人くんには普通に話してたみたいだけど。椿は自分の気持ちを言うのが苦手でしょ。これを言ったら否定される、拒絶されると思って慎重になって。興味のあることに夢中になって毎日楽しく過ごしてるけど一方で周りにどう思われるのか不安になってる。友達が多いように見えて椿が心を開いてるのはごくわずか。別にそれが悪いとは言わないわよ。お母さんだって学生時代の友達で今でも頻繁に連絡とってるのは2人だけだもの。だけど椿が仕事を辞めるのを決断してるのに足踏みしてしまってるのはそういうところがあるからじゃない?いくら優菜さんたちに世間の目なんて関係ないって言われても昔からのそれがあるからいまいち踏み切れないんじゃないかしら』
「すごい……お母さんどうして私より私のことがわかるの?」
『そりゃあ椿が生まれる前のお腹にいた時から母親だもの』
「母親ってすごいんだね……」
『椿、周りにどう思われても良いじゃない。椿と隼人くんの生活を他人に否定されても自分たちがそれが良いって決めたらそれで良いのよ。お母さんは周りにどう思われても気にしなかったわよ。お母さんの周りは結婚したら寿退社する人ばかりで仕事に邁進してる人がほとんどいなかった。けどお母さんは仕事が生き甲斐だしお父さんに会うまでこのまま結婚しないでこの仕事を続けるんだろうなって思ってたくらい仕事が好きだった。周りには応援してくれる人もいたけど女の癖にって陰口言われたりもした。でも全然気にしないでそんな陰口言う人がなにも言えなくなるくらい結婚してからも全力で一生懸命働いてた』
「お母さんそんなに好きだった仕事辞めちゃったんだ……」
『辞めたけど後悔しなかったわよ。これで椿が笑顔になってくれると思ったら何の未練もなくスパッと辞めたわ。実際幼稚園が終わって迎えに来たお母さんと手を繋いで帰る時も家についてからもお母さんのそばで今日の出来事を話してくれる椿を見てたら後悔なんてするわけないわよ』
「そっか……」
『いろんなところから情報を集めてくる分これが世間一般に受け入れられないことなんだって思って、そうしないように上手く立ち回ったりするのは椿の良いところでもあるけどそんなに気にしすぎなくても良いのよ』
「うん……そうだよね」
『椿はどうしたいの?』
「仕事を辞めて隼人さんを毎日お出迎えしたいけど隼人さんやみんなにばっかりお金のこと頼っているのは嫌。でも私の理想の将来像では私は3人の子供たちと隼人さんを見送って子供たちと過ごしながら家事をしてたよ」
『それなら子供ができるまでは家事も仕事もやって子供が生まれたら仕事を辞めて隼人さんと子供のことを一番に考えたら良いじゃない』
「お母さんー答え出たー……」
『はいはい』
「お母さん魔法使いみたい」
『お母さんはお母さんなのよ。けど椿、子供は授かり物だから中々できなくても焦らないのよ。椿のことだからみんなが子供の顔を見たがってるのにできなくて申し訳ないって思うでしょ』
「思いそう……お母さんはすごいね」
『何度もすごいすごいって……そろそろ隼人くんお風呂あがるんじゃない?』
「あ、本当だ」
『じゃあまたね』
「うん、ありがとー」
電話を切ると同時に隼人さんがリビングに来た。
「電話?」
「うん、お母さんと」
「邪魔しちゃった?」
「そんなことないよ。あ、お母さんがね、今日楽しかったって」
「本当?あー良かった。俺たちが帰ったあと結局夜ご飯も一緒だったんだって。断りきれずにだったらどうしようかと思った。いやー良かった」
「大丈夫だよ。お母さんもお父さんも賑やかなの好きだし」
「そっか。良かった良かった」
「隼人さんまだ眠い?」
なんだかいつもよりボーッとしてる気がして聞く。
「自分で思ってたより疲れてたみたい。椿を抱き枕にして眠りたい」
「うん、じゃあもう寝よっか」
お母さんに言われたことはすんなり私の中に入ってきた。深層心理をついてくるなんてすごいお母さんだ。いや、そんな大袈裟なことじゃないか。
隼人さんにはいつどうやって伝えよう。子供がいつできるのかもわからないし辞めたい理由は言うけど隼人さんの仕事がどうなるか不安だからとはさすがに言えないし中々言い出すのも難しい。とにかくもう少し優菜さんとお義母さんに専業主婦の話や仕事をしながら家事をする彩華さんがどうやってるのかの話を聞いてみよう。
週明けの月曜日、青木さんからおめでたの報告を聞いた私は自分のことのように嬉しい気持ちになった。だけどまたしても悩みだしてしまうことになった。




