アフタヌーンティー
「椿ちゃんバイバーイ」
「また来てねー」
「毎回来てくれて良いからね」
「うん、ありがとう。バイバイ」
練習が終わり隼人さんの運転する車で翔太くんの家に向かう。
「私運転代わろうか?」
「ん?大丈夫だよ」
「疲れてるでしょ?」
「いろんな意味で疲れたけど平気だよ。椿の方が疲れたんじゃない?知らない人ばっかりで」
「ううん、楽しかったよ」
「なら良かった。お母さんたちとなに話してたの?」
「隼人さんは良いお父さんになりそうだって話だよ」
「えーそうなの?」
「うん。素敵なお父さんだったよ」
「だったよ?なんの話?」
「あ……いや、えっと、こっちの話」
「なになに?」
私はさっき想像した未来のことを話す。途中で隼人さんに止められそうになったけどこのあとが可愛いんだからと最後まで一気に話した。
「……椿椿」
「現実になるかなー」
「うーん……とりあえずなんで若菜になっちゃったの?」
「だから隼人さんを女の子にしたら若菜でしょ」
「なんで性格まで若菜になっちゃうの?っていうかなんで未来予想で椿の予想外の出来事が起きるの?」
「不思議だねー。でもうさ耳可愛かったよ」
「うーん……それは可愛いけど。椿に似た子は?」
「だからその次男が私に似て寂しがりだって」
「それは可愛いけど顔。みんな俺じゃおかしいよ」
「え、そんなことないよ。ちっちゃい隼人さんが1人、ちっちゃい隼人さんが2人、ちっちゃい「あーもう良いよー」」
「ふふ、私に似た子はお腹の中にいたよ。4人めは私にそっくりで隼人さんみたいに優しくて優秀な子になるの」
「そうなの?それなら良いね」
「って想像だけどね」
「うん、でも楽しそう」
「楽しくてとっても幸せだよ」
「そうだね」
「あ、そうだ。あとね、誠司さんって木下さんだよね?」
「え?そうだけど知ってるの?」
「んー知ってるというほどじゃないよ。私が隼人さん見に放課後に体育館覗いてたらよく目が合ってたの」
「覗いてた?」
「うん。数回だしほんの少しの間だけどバスケしてるとこ見たいと思って」
「え!?そうなの!?」
「け、けどあんまり意識してなくて、時間ができたからちょっと見ようかなっていうので。そうそう、そのことと昴くんと結構いろいろ隼人さんの話をしてたなっていうのも土曜日に隼人さんとの思い出と一緒に思い出したの」
「そうなんだ」
「バスケしてる姿が忘れられないって思ってたのに最初に見た練習試合だけってすごく印象に残ってたなって思ってたけど違ってたよ。でもだからなんだって話だよね」
「いやいやいや、嬉しいよ」
「そうなの?あ、それでね、壮行会とかでバスケ部の部長として話したりしてた人だって思って。部活の邪魔してると思われたら大変だと思ったよ。それに練習試合の後に隼人さんと初めて渡り廊下で会った時に一緒にいたのもそうだよね」
「え、そんなことまで覚えてるの?」
「う、うん。私そういうの覚えてるから。思い出したらわりといろいろ覚えてるよ」
「すごいね」
「隼人さんほどじゃないよ。さらっと見ただけの雑誌に載ってる住所とか覚えられないし」
「俺は必要ないことは覚えてないよ」
「そんなこと言って若菜を助けにいったことは覚えてるんでしょ?誘拐されたって若菜じゃなくてって聞いてたし」
「あーあれか。誘拐もどきか。でも助けになんて行ってないよ」
「もどき……」
「あれはいつも偉そうな優菜さんが珍しく憔悴してたから覚えてるだけだよ。あれは酷い目に遭った。車の下にも草むらにもいなくてね。木の枝でつついていて」
「うう……若菜はねこちゃんじゃないよ」
「でも結果的にねこと一緒にいたって言ってたから一緒に遊んでたかもしれないよ」
「それは結果論でしょ。けどそうしてる小学生の隼人さんって可愛いかも」
「可愛くないよ!!」
「そ、そうだね……」
「それから動けないからおぶれって言ってきてね、冗談じゃないと思ったけど仕方なくおぶったら豚みたいに重くて重くて」
「もー!!酷い!!そんなこと言わないで」
「本当のことなのに。それで酷いんだ。家の近くまで来て浩一さんと親父を見つけたから若菜の足を離したら首を絞められた。離すなら声をかけろとか騒いでたけどそんなの知らないって」
「それは若菜が正しいよ。いきなりそんなことされたら驚いちゃうでしょ」
「椿との子にはしないよ」
「もう……」
「ああ、そうだ。若菜のクッキーでも酷い目に遭うんだ。椿に渡そうとしたっていうクッキー俺の部屋に放ったまま出ていくから食べたんだけど甘過ぎで砂糖の塊って感じで酷かった」
「え……そ、そうなんだ。あのクッキー隼人さんが食べてくれたんだね」
「全部じゃないよ。昴も食べた」
「そっか。ありがと。私食べてあげられなかった」
「あんなの食べない方が良いよ。味覚がおかしくなる。それに高校の卒業式今度は全く甘くない味のないパサパサしたクッキーを投げつけられたよ。なんて言ったんだっけな……そうだ、若菜が椿を大切に思ってる分甘くて美味しいクッキーを作ったって聞いたから、この甘さの分だけ若菜が大切に思ってるってことなんだなって俺が言ったって昴に聞いて甘くないクッキーを作ったんだって。あいつはどうしてああも嫌がらせばかりなんだろ」
「どうして隼人さんはそう曲解するかな……。若菜は隼人さんありがとって思ったんだよ。隼人さんが優しいって若菜は知ってるからね」
「そうだとしたら思ってることとやってることがちぐはぐだよ」
「なんだかなあ……」
「恩を仇で返されてばかりだ。俺が可哀想」
「うーん……若菜もちゃんと隼人さんのこと考えてくれてるよ」
「どう嫌がらせするかでしょ」
「そうじゃないよ。ちゃんと落ち着いて思ってること話したらもっと上手くいくんじゃないかな。ね、若菜と昴くんと一緒に住むの考えてみよ。落ち着いて話し合えばお互いに良いことだと思うよ」
「なんでその話に……住まないって言ってるのに。それに一緒に住んだらさっきの想像と違っちゃうよ」
「あれは単なるイメージだから違って良いんだけど。そうだなー……あ、玄関を別にしたらどうかな?そしたらそれぞれお見送りできるよ」
「それなら一緒に住まなくて良いよね」
「でも楽しいと思うなー毎日賑やかで」
「だから子供ができれば賑やかだってば」
「若菜と昴くんと2人の子供と一緒ならもっと楽しいと思うよ」
「うーん……」
「考えてくれる気になった?」
「椿がそこまで2人と住みたいなら考える」
「な……まあ、考えてくれるならいっか」
そして16時前、私たちは翔太くんの家にお邪魔する。
「さー隼人くんは上、椿ちゃんはこっちにいらっしゃい」
「早くないですか?もっとゆっくり」
「椿ちゃんいらっしゃーい」
「翔太くん、こんにちは。勉強頑張ってね。隼人さんも早く教えてあげて」
「えー……」
佳代子さんに呼ばれてリビングに行くとびっくり。ホテルのアフタヌーンティーみたいなセットがテーブルに置かれていた。
「隼人くんは食べれないでしょ。2人で食べましょ。美味しいのよ」
「い、良いんですか?洋子ちゃんは?」
「洋子は友達と遊びに行ってるの。遠慮しないで全部2人占めよ」
「は、はい。ありがとうございます」
甘酸っぱい紅茶を飲んでからまずショートケーキを食べる。
「んー!!このふわふわスポンジ!!この上品な甘さ!!これはただのアフタヌーンティーじゃないですね!!」
「一流ホテルのアフタヌーンティーを作ってるパティシエにさっき作らせたの」
「なんてセレブ……」
「元々昔からの知り合いだったのよ。椿ちゃんに食べさせてあげたいって言ったら良いよーって」
「な、なんてセレブ!!これは現実ですよね!?」
「そうよー。椿ちゃんがお金持ち嫌いなわけじゃないっていうから」
「す、すみません。特売が好きな普通の庶民なので高級なものは気が引けちゃうっていうだけです。こういうお高いスイーツもボーナスが入ったら自分にご褒美で買って食べてます。村岡さんのお店の料理も本当に楽しみです」
「村岡くんもすごく楽しみにしてるって沙織ちゃんが言ってたわよ」
「そうなんですね!!」
「あ、マカロンも美味しいわよ」
「んー!!美味しいー!!」
「なんて可愛いのかしら。隼人くんずるいわ」
「え?なんでですか?」
「いえ、なんでもないの」
私は勧められるままパクパクと食べていく。うう……夜ご飯前なのに。でも誘惑に勝てない。
「今日バスケクラブについて行ったんでしょ?楽しかった?」
「楽しかったです!!子供たちは可愛いしお母さんたちは面白い人たちでしたし隼人さんはかっこよかったですし」
「かっこよかったのね」
「な……それだけじゃないですって!!」
「ラブラブで良いじゃない」
「んー……でも本当にそれだけじゃないですよ。お母さんたちは面白いんですけどなんだか圧倒されました」
「隼人くんも言ってるわよ。あそこのお母さんたちは圧がすごいって。逆ナンしてくる女の子とはまた違って強く出れないみたい」
ドキリとした。女の子に囲まれてただろうとは思ってたけど逆ナンされるんだ。高校時代のデートしてた時も話してたしああいうことやっぱり多いんだ。かっこいいからそれはそうだよね。
「そうなんですね」
「相手にしなきゃ良いのにって思うのにそれは可哀想で、だからって言葉できついこと言うのも振り払うのもできないらしいわ。うちの人とかみんなのことをよーく知ってるからそれを聞いて驚いちゃった。うちのだったら喜んでついていくわよ」
「え、そんなことないですよ!!」
「まあ私がさせないけどね。ひっぱたいて引きずって連れ帰ってくるわ」
「わあ……」
やっぱり佳代子さんも怖い。けどさっきのお母さんたちもそうだしお母さんになると強くなるのかな。
「結婚するとそうなるんですか?お母さんになるとですか?」
「んー……一般的に母親になるとやっぱり強くなるかしらね」
「やっぱり。よく言いますもんね。私もなれますかね」
「椿ちゃんは変わらなそうだわ」
「……今日お母さんたちにも言われました。無理ですか?」
「無理というか椿ちゃんは優しくて穏やかなままってこと。それも素敵なお母さんよ」
「そうですか?えっと、一般的にっていうのは?」
「私は結婚する前に強くなったわ」
「結婚する前から菜箸折ってたんですか?」
「あら……そうね、それに携帯も折ったし」
「え……」
佳代子さんは雰囲気穏やかなのに物騒だ。
「椿ちゃんは真似しちゃ駄目よ。けど私だって最初からこんなじゃなかったのよ」
「そうなんですか?」
「そうよー」
「佳代子さんと竜二さんのお話聞きたいです」
「んーそんなに良い話じゃないわよ」
「え?どういう意味ですか?」
「純粋な椿ちゃんには縁遠いってこと」
「んん?……あ、でも私ドロドロ系の話も修羅場系の話もなんでもドラマ好きですよ」
「……なるほど、そうだったわ。でも自重しながら話すわね」
そこまで言われると逆に気になる。佳代子さんは紅茶を飲んでから話し始めてくれた。そして話を聞き終えた私はいろんな意味でお腹がいっぱいになった。
「恋は女の子を大胆にさせるんですねー」
「そうねー。椿ちゃんは真似しちゃ駄目よ」
「私もう結婚してます……」
「あら、本当ね」
ふふふ、と笑う佳代子さん。私はふと思い付く。仕事を辞めることをどう思うか聞いてみるのはどうだろう。まだ考えたばかりでお母さんたちに話を聞くのもみんなに広まって困るしお義父さんと彩華さんにも時期尚早な気がするし。よし、佳代子さんに話を聞いてもらおう。




