やっぱりイチャイチャ
私は悩んでいる。いや、悩んでるというと優しくて心配性な先輩が慌てちゃう。悩んでるというか……ちょっと考えてしまう。昨日の夜のことを思い返す。先輩は私の不安をきっぱり解消してくれた。だけど私は先輩に喜んでもらいたい。昔は若菜のことがあって複雑な気持ちになっていた。それがあるからどうなるだろうと思ったけど実際に先輩にだ……んん、そういうことをすると純粋に幸せな気持ちになる。先輩が優しく触れてくれるから先輩に愛されてるんだって思えてすごく嬉しくなる。普段から先輩の気持ちはすごく伝わってくるけどそういう時の先輩は優しい中でもいつもより余裕がなくなってすごく私を求めてくれるからドキドキするけど嬉しくなってしまう。でも私はそういうことに関して疎い。友達と話をしてるだけ真っ赤になって恥ずかしくなっちゃう。だから駄目なんだろうなって思う。私がもっとちゃんとすれば先輩はもっと喜んでくれると思うのに。先輩が癒されたいっていうからお風呂に入る時湯船に浸かるようにしてもらった。日曜日のドライヤーで髪を乾かしてもらったあとのことを思い返す。
『先輩、先輩も入浴剤があれば湯船に浸かってくれますか?』
『え?なんで?』
『湯船に浸かったら疲れもとれますし癒しになると思うんです。30分で良いので浸かってみたらどうですか?』
『んー30分も何してれば良いの?』
『え?そ、そうですね……。私はぼーっとしてると1時間くらい普通なんですけど先輩は携帯を持って入ったらどうですか?メッセージしたり電話したり』
『そっか。じゃあお風呂に入りながら椿と電話したら良いんだね』
『え!?私ですか!?私はおうちにいるのでリビングと浴室で電話するのはおかしいと思います』
『そんなことないよ』
『いえいえ、私とはお風呂から出てからお喋りしましょうよ。結城くんと電話したらどうですか?』
『あ……そっか、そこで昴と電話したら良いのか』
『できそうですか?私のお気に入りの入浴剤買ってきますよ』
『うん、良いよ』
そうして私が入浴剤を買って試しに30分、それより前に出てきちゃ駄目ですよと言ったら1時間も入ってくれた。ニコニコしてたから癒しになったんだろうなって嬉しくなった。考えたら竜二さんとか村岡さんとか先輩と話してくれる人はたくさんいるんだ。時間を潰す方法があって楽しいんだろうな。そういうわけで湯船に浸かるっていうのは成功した。これで癒されてはいるだろう。でもそれだけじゃな……と思ってしまう。やっぱり、私がもっと積極的になれた方が喜んでくれると思う。き、緊張しちゃうけど調べてみようかな。調べるだけでどぎまぎしちゃうくらいなんだけど。いくら先輩がゆっくりで良いよと優しいことを言ってくれるといってもそれに甘えてばかりではいられないし先輩が嬉しいって言ってくれると私も嬉しいし、それにやっぱり私自身がもっと先輩とイチャイチャしたい。恥ずかしいけど。
そんなことを家に帰って夜ご飯の麻婆豆腐を作ってる間に考えていた。私は定時ですぐにあがって18時半を少し過ぎたくらいに帰ってこれた。そしてなんでも良いと言ってもらえたから私の気分で決めてしまった。多分きっとこれで良いんだ。先輩はさっきもうすぐ帰ると連絡をくれたからあと10分くらいで帰ってくるだろうな。
そして予想通りの時間に帰ってきていつも通りハグとキスをして出来上がったご飯を食べた。今日の仕事のこととかの話をして食器を洗ってからいよいよ村岡さんとテレビ電話だ。
ソファーに座ってテーブルに携帯を置くと画面に村岡さんが映った。
『初めまして椿ちゃん。村岡です』
「は、初めまして。よろしくお願いします」
『はい』
わー緊張する。そう思ってると女性と小さな赤ちゃんも画面に映った。
『椿ちゃーん初めましてー!!沙織です。それから美織です』
『つばきちゃんだー!!』
美織ちゃんというのは翔太くんたちみたいな高校生とかだと思ったけど違った。4才くらいの子だ。お母さんに抱き締められながら画面に近付こうとする。
「うそ……美織もなんて聞いてないんですけど……可愛すぎる」
『椿ちゃんと話せるって言ったら起きてましたよ』
『はやとくーん』
「みおー眠くないの?」
『おめめばっちり!!つばきちゃんとおはなしするの』
「ひぃ……可愛い……」
胸を押さえてる先輩。こんな先輩初めて見る。確かに美織ちゃん可愛い。椿ちゃんと呼びかけてくれて先輩から画面に視線を戻すと村岡さんが画用紙を広げていた。そこには男の人と女の人と小さな子供が描かれていた。
『はやとくんとつばきちゃんとみおー!!』
なんと画用紙に描かれていた女の人は私だったみたい。会ったのは今日が初めてなのにどうしてだろう。
「母さんと優菜さんが椿の写真を見せてたんだよ」
「え!?そうなんですか?」
「うん。美織にはもっと小さい時から椿の話をたくさん聞かせてたんだよ」
「そうなんですか!?」
『つばきちゃんじょうずー?』
「うん、上手だね!!」
『あげるー!!』
そう言って画用紙を握って画面に押し付けようとする美織ちゃん。可愛い。隣にいる先輩も可愛い可愛いと呟いてる。
『美織、テレビ電話だから渡せないのよー』
『わたすのー』
『美織、今度にしよう。もうすぐ会えるから』
「え、まさか美織も来月来るんですか?」
『と、思ったんですけどぐずっちゃうと個室でも迷惑かかっちゃうので私とお留守番してます』
『なので店に来る前にうちに寄ってください』
「行きます。美織ー楽しみだね」
『たのしみー!!つばきちゃんみおすきー?かわいいー?』
「え、え?」
急に言われて戸惑いながらも可愛い美織ちゃんに私も目がハートになってしまう。
「美織ちゃん好きだよー。可愛い」
『えへへーつばきちゃんもかわいーすきー』
キュン……。可愛い。先輩の気持ちがわかる。
「みお、俺は?」
『はやとくんもすきー』
「俺もみお好きだよー」
『ねむーい』
『あらら、椿ちゃんとお話しできて満足して眠くなっちゃったみたいです。寝かせてきますね』
そう言って沙織さんに抱かれた美織ちゃんに先輩とおやすみと言った。
『椿ちゃん、食べたい料理決まりましたか?』
「あ、はい!!」
画面に村岡さん1人になって村岡さんに問いかけられる。私は今日のお昼に急いでWebサイトを見て食べたいと思ったメニューを言う。
『あれ?それだけですか?』
「え、はい」
なにか駄目だったのかな。
「もっと高いやつとかいろいろあるんじゃない?タダだからなんでも言って良いよ」
「え、タダ!?そうなんですか!?」
「そうだけど?」
そんなの良いの!?慌てる私に村岡さんが言う。
『俺の店なので』
「村岡さんのポケットマネーだよ」
「えー!?良いんですか!?」
『もちろんです。というか払わせるわけないじゃないですか』
「竜二さんとか村岡さんとかとご飯食べる時は絶対奢ってくれるの。最初は俺も気が引けてたんだけどどうして払わせてくれないんだって逆に怒られるんだよ」
『椿ちゃんにうちのイチオシを食べてほしいです。これなんかどうです?』
村岡さんはそう言っていくつか料理をあげてくれた。私は昼間に見たサイトの画面を思い出す。
「そ、それ全部段違いに高額……」
『良いんです。嫌いですか?』
「い、いえ!!美味しそうだなって思いました!!」
『じゃあこれもにしておきますね』
「あ、ありがとうございます」
なんだか恐縮してしまう。だけど村岡さんは嬉しそうで、じゃあ来月にと言ってテレビ電話を終了させてしまった。あっという間だった。
「あー美織可愛かった……」
先輩は携帯の画面を閉じてテーブルに置き直してからソファーの背もたれに寄りかかる。
「ふふ、可愛かったですね」
「生まれた時から可愛かったんだよ。こんなに小さくてね」
「生まれた時から可愛がってるんですねー」
先輩は幸せそうな顔で話してくれる。
「喋れるようになったばかりの時はね、はーくんって呼んでくれて、絵本読んであげたり。それで最近は公園で走り回ってるんだ。元気な子でね。それからおままごとも一緒にしたんだ。俺がパパで椿がママで美織が子供なんだよ」
「ええ?私が?」
「うん。ママはお出掛けしてるからってみおがご飯作ってくれるんだ」
「そうなんですね」
「幸せなおままごとだったんだよ。ママは美容院に行ってるから全然切ってなくてなにが変わったのかわからなくても言っちゃ駄目だよって言ったり、だけど俺は気付けるよって言ったりしてね」
「な、なんですかそれは」
だけど先輩が楽しそうで私も笑ってしまう。
「あ、そうだ……そうだー……まずい」
「ど、どうしたんですか?」
「来週美織の4才の誕生日なんだ。椿のことで頭がいっぱいで……そんなことみおに言えないけど……でも誕生日プレゼント買わないと!!なにが良いかな……おままごとセットは去年あげたしお人形はこの前帰った時にあげたし……んー」
悩みだしてしまった先輩。私は思い付く。
「先輩、私も美織ちゃんの誕生日プレゼント考えて良いですか?」
「え、良いの!?美織喜ぶよー!!」
パアッと笑顔になった先輩。本当にこんな先輩見たことない。
「美織ちゃんはなにが好きなんですか?」
「んーと、最近ハマってるのはアニメだって言ってたよ。女の子に人気なんだって」
「わかりました。これですね」
私は携帯で検索した画面を先輩に見せる。
「そうそう、これ!!なんでわかったの?」
「私たちが子供の時からシリーズやってるんです。みんな大好きです。だからそうかなって」
「そうなの?」
「若菜も好きでしたよ?」
「若菜の好きなものなんて興味なかったから」
「もう、酷いんですから……。この誰が1番好きかわかりませんか?」
「確か黄色い子」
「この子ですね。そしたらこれなんかどうですか?変身グッズです」
「こういうの好きかな?」
「わかりませんけど女の子はだいたいみんな変身したいです」
わからないけど。で、でも美織ちゃんは可愛いドレスを着ておめかししていたからこういうのが好きなのかなって。それを先輩に言う。
「じゃあこれにするよ!!わー美織喜ぶだろうなー。椿が一緒に考えてくれたって聞いたら」
先輩は携帯を操作してポチっと通販サイトで買う。
「あ!!」
「ど、どうしたんですか?」
さっきまで楽しそうだったのに急に慌て出す先輩に驚いてしまう。
「ど、どうしよう……なにからどうしよう……」
「な、なんですか?」
これもいつもと違った慌てようでびっくり。
「こ、これは浮気じゃないよ?」
「え、浮気?」
「ロリコンでもないよ」
「ロリコン?」
「うん、小さい子を可愛がるのは浮気にならないしロリコンでもないっておばあちゃんに言われたんだ。だから椿に可愛いって言うのと美織を可愛がるのは別物なんだよ」
私の両手をにぎにぎする先輩が不安そうに言うから私は吹き出してしまう。
「なんで笑うの?」
「当たり前じゃないですか。私だって美織ちゃん可愛いって思いますしさすがに小さい子に嫉妬しませんよ」
「本当?椿嫉妬する?」
「え、しますよ……大人だったら……」
不安そうにしてたのに今度は嬉しそうにしてなんだか可愛い。
「俺は椿だけだよー」
「わ、わかってます。だから大丈夫です。私も美織ちゃんに目がハートになりました。可愛すぎます」
「でしょ。可愛いんだよー!!……は、そ、それだけじゃなくてすぐなんでも買うわけじゃないんだよ。貯金も収入もかなりあるし美織にプレゼントする時は特別なんだ」
先輩が言いたいことにピンと来た。
「気にしませんよ。美織ちゃんの喜ぶ顔が見たいですもんね。今まで通り自由に買ってあげてください」
「でも散財してるわけじゃないからね」
「ふふ、わかってます」
そしてさらっと先輩は年収を教えてくれて思わず驚いてしまう。
「そ、そんなに……さすが先輩」
「だから心配しなくて平気だって言ったでしょ。でも貯金しよ。子供が生まれたらなにかと必要だもんね」
「そ、そうですね」
先輩との子供……先輩の実家に行った時に話した以来だ。
「椿子供嫌いなの?」
「え!?そんなことないですよ。き、緊張しちゃっただけです。子供好きですよ。親戚に赤ちゃんがいるので時々会うんですけど可愛くて」
「良かった。親父が言ってたのは多すぎると思ったけど、でもたくさん欲しいんだ」
「美織ちゃん可愛がってますもんね。子供もたくさんが良いですね」
「うん。それに椿は賑やかなのが好きだし兄弟がいたら椿の帰りが遅くても一緒にお喋りしながらご飯作って待ってられるでしょ」
驚いてしまう。私が昔思ってたことだ。お父さんの作品を見にお母さんが出かけてうっかり帰る時間の電車に乗り遅れてしまうことが何度もあって、そういう時に代わりに作っておいてと頼まれるから兄弟がいたらお母さんには困っちゃうねって喋りながら楽しく料理ができるだろうなって。そうだ、高校生の時先輩に話したことがあった。あった……でも些細な話だ。それを覚えてくれていたんだ。
「椿?どうしたの?」
「い、いえ。嬉しくて。兄弟って良いですよね」
「うん。椿に似た女の子が良い。あーでもそしたらお嫁に出したくない……」
「気が早すぎです……。男の子でも女の子でも可愛いですよ」
「そうだよね。男の子なら俺が出張に行かないといけない時椿を守るんだ」
「え?」
「この前みたいに長いのはもう多分ないかもしれないけど1週間とか2、3日の出張はあるんだ。椿のそばにいるって言ったのにごめんね」
「いえ……いえ、謝らないでください。私大丈夫です」
「椿が1人にならないように竜二さんのとこに行ったりすれば良いけど、でも子供がいたら寂しくないでしょ」
「先輩……」
「もちろん椿との子が純粋に欲しい。けど椿には毎日賑やかで楽しく過ごしてほしい。俺がいなくても」
「先輩が出張に行かないといけない時はそれは寂しいです。でも先輩がそんなに考えてくれてるって知れて嬉しいです。子供が生まれて楽しくて賑やかになってもやっぱり先輩にいてほしいです。きっと子供たちと一緒に先輩が早く帰ってこないかなって話すと思いますよ」
「椿だけ残して行くのも子供たちも一緒にでもどっちでも早く帰りたくなっちゃう」
「そ、それはお仕事に集中できなくて困っちゃいますね。お仕事頑張ってくださいってみんなで唱えてます」
「それ動画撮って送って。頑張れる」
「ふふふ、はい。でも本当に気が早いです」
「将来設計だよ。大事でしょ」
「そうですね。大事です」
先輩がそんなに将来のことを考えてくれてたなんて……。先輩との子供が欲しいとより思う。先輩の大きな愛情に応えたい。私も愛してるって伝えたい。やっぱりまだ恥ずかしいけど由紀とかに聞いて先輩が私に伝えてくれるように私もたくさん愛情を伝えたい。そしてそうした私たちの元に赤ちゃんが生まれてきてくれると嬉しいな。
私は勇気を出してみる。
「は……や……せ、先輩」
「い、今名前で呼ぼうとしてくれた!?」
「やっぱりハードルが……」
「頑張ってよ」
「そ、そうですよね。は……」
由紀に聞くのは明日。まずは名前を呼んで愛してると伝えるんだと思ってもう一度勇気を出す。
「は……やと……さん」
間が開きすぎて失敗だと思ったけど先輩はすごく嬉しそうに笑ってくれた。それで抱き締めてくれようとしたけど私は止める。
「愛してます」
そう言って先輩の頬にキスをする。固まる先輩。ど、どうしよう。引かれちゃった?
「椿……」
「は、はい」
「そこは口でしょ!!ほっぺじゃお父さんが寝る前にキスするのと同じだって言ったの椿でしょ!!」
「えー!?そ、そんなこと言われても……」
「もう一回して」
「え!?」
「名前呼ぶとこから」
「な、そんなもう無理です!!」
「名前も敬語もゆっくりで良いかなって思ってたけど今のグッと来た。早く呼んで欲しい。呼んで?」
「む、無理です……もう勇気が出ません」
「そこをなんとか」
「は……やっぱり無理ですー!!」
「じゃあ明日からね。愛してるからで良いよ」
目を輝かせて待つ先輩。私は深呼吸をする。
「あ、愛してます」
そして目を瞑って待つ先輩の唇にキスをする。
「嬉しすぎる……感動……」
「そ、そんなにですか?」
大袈裟なほど喜んでくれる先輩に私まで嬉しくなる。先輩はお返しと言って深いキスをしてくれた。




