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19話  「……合格」



なんか胸糞っぽいかもしれません。でも大丈夫! そういう展開は作者が苦手すぎですぐ終わるから!

 







 昇進試験が終わった瞬間、ダッシュでクラリーヌのいる試験会場まで行く。


 子供のおつかいを見守る親御さんの気持ちで、そうっとクラリーヌを見つめる。

 俺の背中には巴がしがみついてくる。巴も気になるんだな。

 アキルクにはあんな事言ったけど、やっぱり心配だし気になるわ。


 クラリーヌの戦闘をじっと見つめる。


 相手は武器はない。でも、油断ならないな。拳にオーラを纏わせるかもしれない。


 クラリーヌは錬金術師だし、魔力量の検査でスーパー高い値を叩き出している。そもそもこの戦闘試験もかならず勝たなければいけない訳ではない。というか、勝てないのが普通らしい。

 よく考えたら、片方はプロで片方は素人だもんな。

 だから、冒険者にはなれるだろうと思う。だけど! それとこれは別! 気になるし心配なの!



 で、クラリーヌに戻ろう。


 最初、俺達はクラリーヌの事を見誤ってた。

 フラスコより重いもの持ち上げた事が無さそうだし……俺達はクラリーヌは最低限だけ教えるつもりだった。受け身とか受け身とか受け身とか。あと、体力付けてくれたら良かった。

 だって、攻撃とかした事無さそうなお嬢様にいきなり『殴れ』なんて言えないだろ?


 でも、よく考えたら甚だ見当違いだった。まず、クラリーヌは運動神経が良かった。お嬢様=運動神経があまり良くないみたいな固定概念に囚われていた俺らのミスだ。

 そして、お嬢様といってもただおっとりしてるだけじゃない。これまたよく考えたら、錬金術ができないと分かった瞬間を家を飛び出すようなガッツと行動力と思い切りの良さを兼ね揃えた娘だクラリーヌは。

 順応力も高い。いい意味で、お嬢様らしくない。

 そして、素直だ。言うことは素直に聞いて素直に吸収する。

 体力も案外あった。そういえば、錬金術って実は体力も使うらしい。自然とつくわ、体力。


 成長しない理由がない。


 故に、楽しくなっちゃった巴に魔改造を施されたのだ。ええそりゃもう初 始めて1ヶ月も経ってないとは思えないほどの成長速度でございます。

 成績の悪い子が、真面目に勉強を始めた瞬間、最初はグングン点数が上がるのと一緒だ。


「はじめ!」




 といっても、相手はベテランの冒険者。暫くしたらクラリーヌは負けてしまった。


「……合格」


 しかし、合格のサインはもらった。


「ありがとうございますわ。良かった、わたくしも冒険者になれるんですのね!」


「おめでとう」


 目を輝かせるクラリーヌを満足そうに見て、試験官のおにいさんは消えていった。


「くく、巴さんよ……今夜は宴じゃ」


「へへ、当たり前でさ満さんや」


 巴と目を合わせ、悪い笑みを浮かべる。ふふ、いいお惣菜を買うんだ………。


「おめでとう御座います。お二人共、B級になったんですよね?」


 後ろから声が聞こえてきた。


「あ、受付のお姉さんだ! ありがとう御座います!」


 そういえば、B級の冒険者になったんだよ俺ら。A級から先は、今じゃなれないんだって。


「ありがとうございます」


 俺達を担当してくれる(押し付けられたらしい)お姉さんだ。


「いつものように一瞬だったと聞きました」


「巴はそうだったけど、俺はB級の人にはちょっと時間をかけちゃいました」


 これじゃあまだまだだ。


「それでも、倒すまでに10数える暇もなかったですけどね……で、あの方も完璧な円(アブソルートサルコウ)に入れるのですか」


「「もっちろん!」」


「でも、その方勧誘されているようですが」


「「うそぉ!」」


 お姉さんと向き合ってたら、クラリーヌがいつの間にかガラの悪そうな奴ら3人に囲まれていた。新手のナンパ?


「いーじゃん、一緒にパーティ組もうぜぇ? おいらが手取り足取り腰取り教えてあげるからさぁ」


 クラリーヌの肩を馴れ馴れしく触り勧誘する。


「新人同士仲良うしようよ〜」


 別の男もヘラヘラと笑いながらクラリーヌに迫る。


「お、お断りいたしますわ。生憎、もう入るパーティは決まってますの」


 クラリーヌが震えながらもハッキリと断る。


 …………おいおいおいおい、何してくれちゃってんの? 戦か? バトルするか? お? お?


 よし、俺は落ち着け……。


「………」


 巴も当然だがキレてる。死んだ目に闘志を漲らせて武器のチェック中だ。


「巴、俺が行くから」


「………」


 不満そうな顔すんなや。


「お前が行っても絶対殺傷沙汰だし」


 そんな、物騒なことばっかりしてても煙たがれるだけだし。


「………………………………うん」


 なんとか納得してくれた。




「あの〜すいませんね、もうウチに入る事が決定してんですわ、彼女」


 笑顔を取り繕いながらクラリーヌと男達の間に割って入る。ついでに、クラリーヌの肩に置かれた手をそっとのける。ケッ、気軽に触ってんじゃねえ。


「あ? なんだよてめぇ」


「冒険者パーティ“完璧な円(アブソルートサルコウ)”のパーティリーダー、ミツル・シワタリです」


「は? 聞いた事ねーな。どこの弱小だよ」


 お前らよりはランク高いわ。ばーか。


「あっはは、ついこの前できたばかりなんでね」


 表面上は穏便に穏便に………。


「てか、お前がパーティリーダーとかマジ? こんなほっそい女顔………いや、女じゃなくて男だよな?………男だ。

 ガキが冒険者できんの? あ、後衛とか?」


 ガチ迷いやめて! 今、女顔とか、関係、ないだろうが! かなり母さんに似ただけだし! 筋トレしても筋肉量に比例しないだけだし! 筋力はちゃんとつくし!


「そんなもんですかねぇ」


 あっはっは、コイツらになんて思われたっていいじゃないか。


「えー、でも残念だなー」


「あっはは、すいませんね」


 はい、これにて解散。かいさーん。肉食おう! なんかモヤっとするけど、これも大人の解決法の一つだよね!


「じゃあさー。楽しんだら貸してよ〜」


 男がまた、クラリーヌの肩を抱きながらほざいた。


 は? 貸す?


「はい?」


「だーかーらー? どうせ、カラダが目的でパーティに入れたんでしょ?

 こっちはお古でもヘーキだからさぁ〜」




 反射的に殴らなかった俺を褒めてくれ。




「汚い手でクラリーヌに触ってんじゃねぇよゴミ」





 ただ、大人の解決法はやめることにした。俺はまだ未成年なんだよ。



「え? なにどうしちゃったの急に」


 俺にはたき落とされた手を振りながら男が理解できないように言う。

 クラリーヌは避難させとこう。巴に目配せをして、クラリーヌを逃がす。


「下手に出たら好き勝手言ってくれてさぁ。

 ね、気付かない? 俺の温情で無傷なのお前たち」


「何言ってんだコイツ」


 お前のほうが巫山戯たこと言ってんだよ。大したことないな、相手の力量も測れないなんてな。


「後衛で歯向かうつもりかよ? はっ、イキんのも大概にしな!」


 剣を抜きながら男の一人がニヤニヤと笑う。


「お前らこそ俺に歯向かうつもり? その実力と装備で? 面白すぎ。調子乗るのも限度があるぜ。

 靴の裏を舐めたら許してやるよ」


 剣抜いたってことは()()()()()()()()()()()()()()

 時代劇のチャンバラじゃないんだから、ごめんなさいだけ言っての逃げは許さない。

 でも、俺は優しいから靴裏をベロベロ意地汚く舐めながら許しを乞うんだったら許してあげる。


 どこかで、『うわぁ………』という声が聞こえるけど気にしなーい。


「てめぇっ! ふざけるのも大概にしろっ!!! ぶっ殺してやる!!」


 おうおう来やがったな。頭に血が登るのが早すぎる。ちょっと煽っただけなのに。


 振りかざされた剣を掴み、半ばからへし折る。やわい鉄使ってんな。


「へっ?」


「へっ?じゃねえよトンマ」


 冒険者だったら動けよ。武器の破損くらい想定内だろうが。

 折った剣を、無造作に丸める。


「はっ、え………」


「どうすんの? 武器向けてきたって事は覚悟はしてんだよね?」


 刃を伸ばして丸める。


「かく…………ご…………」


 人が変わったように戦意を萎ませた男に、失笑を禁じえない。


「返り討ちにあってもいいって覚悟があっから剣抜いたんじゃねぇのかよ。なぁ」


 仲間の2人はいつの間にか逃げていた。


「可哀相になぁ、お仲間さんどっか行っちゃったよ」


 一歩、近付く。丸めた剣の刃を伸ばす。


「ひいっ」


「俺は覚悟できてるよ」


 伸ばした刃を丁寧に畳み、そこら辺に投げ捨てる。ザクッと男の隣の地面に刺さった。


「たす……たすけ…………」


 空気が抜けたような声で、男が何やら呟く。


 俺は棍棒を腰から抜き、調子をつけるためにぶぅんと振った。掠った地面が抉れる。


「ヒドイなぁ、そんな怯えないでよ。殺すつもりはないしさ。

 でも、仲間を散々コケにされて黙ってるとかあり得なくない? パーティリーダー的にもさぁ」


 クラリーヌにあんな事言いやがって、ふざけんじゃねぇ土下座して消え失せろとは思ってるけど、別にパーティのメンツとか関係なく殴りたいとか思ってる訳じゃないよ。ホントダヨ。


「ご、めんなさい……ごめんなさい」


 男は堪えきれないようにへたり込んだ。


「え、なに? 聞こえないなぁ」


 棍棒を振り回しながら、男に近づく。棍棒が地面に掠る度にそこが抉れる。


「ごめんなさい、ごめんなさい…………あ、くつなめますだから、ゆるして、ゆるして………」


 男の側にしゃがみ込む。


「うん。いいよそんな事しなくて」


 だいじょーぶだいじょーぶ。そんな事を要求するわけ無いじゃんジョークだよ。という気持ちを込めて、にっこり微笑む。


「はひっ、ふへっ、ありがとう…………ございます」


 そして、男の首にそっと触れた。貴様はもう逃げられない…………誰がタダで逃がすかよ。




「んひいっ……」


「冒険者同士の決闘って認められてるらしいじゃん。

 だからさ、ね? やろ、決闘」


 それで甲乙つけようよ。靴がお前のヨダレで汚くなるのも勘弁だしさ。


「ひあぁ、ら…………ごめんなさ……い………」


 そう言って、男は気絶してしまった。あーあ、漏らしてる。きちゃね。

 気絶しちゃったし……俺は掴んでいた男の首を、ポイと投げた。



「よし、帰るか」





「どちらかって言うとミツルさんが悪役に見えるっすぅぅぅぅぅう!!」





 すると、アキルクが耐えかねたように叫んだ。


「どうしたアキルク。元気だな、試験合格した?」


「したっすよ!」


「「おめでとー」」


 お、巴が戻ってきてる。


「あざっす!! いや確かに、聞いたところによるとあっちが元凶でミツルさんの怒りは当然なんすけどぉぉ!! やってくれちゃって全然構わないし、自分がその立場だったらおんなじようにキレると思うんすけどぉぉぉぉ!!!」


 ハイテンション・アキルクはそこで言葉を切る。


「なんか怖いっす! 殺気がすごかった! 殺気が! 殺気こわいっす!」


「ほら、満は論理的な会話が可能な理知的な人間と見せかけて鬼畜脳筋だから」


 巴が静かに呟く。


「アキルクのせいで俺のガラス細工のような繊細な心は修復不可能なダメージを負ったから〜。

 あー、読んだことない本と美味しい肉が無いと立ち直れなーい」


「嘘っすよね?」


 何故バレた。


「ともえもーん。アキルクが信じてくれなよぉ」


 近くにいた巴に抱きつく。


「まったくもー。みつた君は……本当の事を言ったのかい?」


「大ウソ言いました」


「正直でよろしい」


「自分は今、何を見せられているんすかね……」


 俺も分かんない。




「満のサイコパス。結局殺傷沙汰じゃん」


 巴が俺の頭を撫でくりまわしながら、不満げにいう。自分が出ても一緒だったと言いたいのだろう。

 というか、俺はサイコパスじゃない。


「血は一滴も流れてないだろ」


 流れた液体は涙と尿だけだ。


「心の血液は流れたよ」


 巴がうまいこと言い始めた。


「よっ、座布団一枚!」


「我こそは笑いの頂点」


「流石は巴さん!! よっ、日本一!」


「ハーハッハッハッハッハ!!」


「なんかもうどうでも良くなってきたっす」


 アキルクが苦笑した。よかった。そんなに引かれてないみたいだ。



「おう、楽しそうだなぁ」


 あ、ギルマスさんだ。何でだか、額に青筋を立てている。


「こんにちはー。クラリーヌはどうですか?」


「こんにちは」


「こんにちはっす」


「ギルドの職員と休んでるから安心しな……それはともかく、またやらかしやがったな」


 トントン、と抉れた地面を足で叩く。


「そりゃ良かったです。あと、言い訳いいですか」


 これには海よりも深く山よりも崇高な理由があってですね……。


「話は聞いた」


「どこまでですか?」


「ふざけた絡み方をした新人冒険者にお灸を据えた所まで」


「俺の正当性は理解していただけたはず」


「理解した。“女性が安心して冒険者進出できるギルド”に目を向け始めたギルドとしても、人間としてもああいう連中はいない方がいい」


「でーすーよーねー」


 女性が安心して冒険者進出できるギルドって、女性の社会進出みたいな……地球も異世界も考えることは一緒だなぁ。大事だよね、男女平等。


「だが、ギルド試験場の地面を抉っていいとは言ってなぁい!」


 おこだ。ギルマスさんがおこだ。


「ここを元に戻すまで帰るなよ!」


「ええー。アキルクだってワザとやった訳じゃあないんですよ!」


「なんか自分のせいになってるっす!」


「満がクズいこと言ってる」


「お前な……」


 非難の集中砲火を受けてしまった。冗談なのに。


「ジョークだよジョーク……分かりましたー。早急に終わらせますぅ」


「よろしい」











 仲間の協力もあり、昼下がりまでには地面の整備作業は終わった。


「いやー、あざっした! 本当に、手伝ってくれてありがとう!」


「うっす。でも、ギルドマスターも太っ腹っすね。途中でおやつくれたっす」


 なんか、せっせと地面を埋めていたらおまんじゅうみたいなのをくれたのだ。美味しかった。


「元はといえば、わたくしのせいですのに……申し訳なく思いますわ」


「いや、クラリーヌは悪くないって」


 クラリーヌが落ち込む要素は無いはずだ。うん、無い。脳内会議の結果、クラリーヌは悪くないという結論に至りました。


「うん。あの冒険者が悪い」


「そうっすよ」


「そう。全てはあの冒険者が悪いってことでそろそろ帰るか! 絶対シンクが『ええん、遅いですよぉ〜』とか言いながら待ってるぜ」


「そうですわね。お昼までには帰るって言ってましたもの」


「お腹も空いたっす」


「ん。行こう」


 巴のその小さな温かい手が俺の手を握る。それを握り返しながら、俺達は帰路についた。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











『ええん、遅いですよぉ〜』


 シンクは、涙目で迷宮の前に座り込んでいた。黒板に書かれた《おかえりなさい》の文字が少し、歪んでいる。


「ビンゴじゃん」


「満すごい」


「へへっ」


 やったぜ巴に褒められた。


『何がビンゴですかあ。心配したんですからねぇ〜』


 ポカポカと俺を叩きながらいじけてるシンク。さてはお前、寂しがりやだな?


「やーいシンクのさみしんぼー」


『ううぅ、ひどいですー』


 また殴られた。痛くない……こら、黒板を振り回すんじゃないったら。


「ほらミツルさん、そんなにいじめたら可哀想っすよ」


「満だって寂しがりやのくせに」


 アキルクと巴に諭される。はーい、分かりましたー。


「ごめんて、ほらお土産も買ってきたから」


 シンクの頭を撫でながらお土産を渡す。


『へーん、お土産なんかで釣られるような軽い式神じゃあないんですからね! お昼までには帰るって言ってたのにぃ』


「はいはい、ただいま」


「ただいま」


 巴がシンクのいる辺りをわしゃわしゃする。


「ただいまっす」


「ただいま帰りましたわ」


 そして、しばらくみんなでシンクをわしゃわしゃした。









『ひどいです! ミツルさん、ちゃんと成敗したんでしょうね⁉』


 《おこりました!》


「ちゃんと精神的に潰してきたから安心して」


「そこまで潰してないはずだよな?」


 今、リビングでお土産を食べながらお茶を飲んで談笑中だ。


「わたくし、その時あの場から離れていたから分からないですわ。ミツルさんってば、どんな事をしましたの?」


「クラリーヌのミツルに対する意識改革が行われないように避難させた」


 前抱きにした巴がVサインをしながら誇らしげに言う。


「まぁ。お気遣い頂きありがとうございますわ」


「それがいいっす。それにしても、なんであんなに怖いんすかね。ミツルさんが悪役にみえたっすよ」


「まぁ」


「説明しよう!」


 アキルクのその言葉に、巴がメガネクイッのポーズをしながらなんか言い出した。


「どうしたDr.トモーエ」


「ふっ、特殊被検体No.1ミツールを研究し続けていた私には分かる!」


「この調子にも慣れてきましたわ」


 《なれないと、やってけない》


「そうっすねぇ」


「つまりね、全ての原因はミツールの顔なのだよ!」


「かお……」


 顔て……顔……。


「ミツールの第一印象って大体“弱そう”なのだよ! 外ヅラも良いからみんな騙される!」


「あぁ〜」


 アキルクが納得したような声を出す。


「確かに……! 言われてみれば!」


 クラリーヌまで!


「なのに中身は脳筋ゴリラだし、声が急に低くなるし……ギャップ差がこわいのだよ! 人間、予想外のものに出くわすと、必要以上にビビるのだよ!」


「「『なーるーほーどー』」」


 《わかりやすい!》


 やんややんやと拍手喝采。


「中学のときバッカルコーンがあだ名だったのはそのせいだよ」


 クリオネの捕食があだ名とか知りたくなかった。


「初耳なんだけど。俺のあだ名ヒドすぎない?」


 インケンノサイコティウスとかさぁ……でも、お前のあだ名とか聞いたこと無いんだけど。


「ほら、私はぼっちだったから……」


「寂しいこと言うなよぉぉぉぉぉぉぉ」


「わ、わたくしがお友達ですわよ……!」


「クラリー!」


「トモエさん!」


 熱い友情が、この夏、始まる──!!


『あ』


「どうした」


 そういえばお前もぼっちだよな。


 《きゃくです》


「客? お前、俺達以外に知り合いとか友達いたの?」


「冒険者っすか? なんでここに……?」


「珍しいですわね……」


「ギルドでも知らさらてた筈なのに……ここが旨みのない迷宮だって……」


『う、うわぁぁぁぁん』


「泣くなよ。ほら、お菓子あげるから」


『わあい』


 ちょっろ! ちょろい! シンクちょろい!


 《ほかの、ダンジョンマスターです》


「「「「ダンジョンマスター??」」」」


 《いいようじでは、ないはずです》


「居留守する?」


『できません……』


「出るしかないか……いいか。俺達の存在は内密にしておけ。あまり手は晒すなよ」


『は、はい!』


「そうしたら、俺が話を聞けないのがアレなんだけど……」


「これは……盗聴器を使うしか無いようですわ」


「クラリーなにしてんの?」


 巴のツッコミは最もだ。え、何? 盗聴器って。初耳なんだけど。


「この前ミツルさんが、ここの防犯をしっかりしたいと申しておりましたので手始めに……完成してからお伝えしようと思っておりましたの」


 原因は俺か。


「あ、ありがとう」


 え、でも盗聴器とか作っちゃったの? あ、あれかー。前にポロッと盗聴器とかそういう事言った気がするわ。原因は俺だ。


「あと、遠くから声を伝える機械も……これもまだ未完成ですの」


 トランシーバーか……。

 巴がサッと目をそらす。原因はお前か。

 すげぇや。クラリーヌが優秀だわ。


「すげえ。でも、前もって言ってくれよな。次からは」


「申し訳ございませんわ。未完成品を見せるのは恥ずかしくって……次からは気をつけますわ」


「よし、じゃあ早速準備してくれ」







 クラリーヌがアンティキティラ島の機械をきれいにしたみたいな道具を操作すると、微かなノイズ音と魔物の声が聞こえてきた。


「よかった。成功しましたわ」


「どこが未完成なのクラリー」


「映像も付けたかったんですの」


「こ、志が高いっす!」


 シンクがそわそわと耳の辺りを触る。今、シンクの耳には無線のイヤホンみたいな物が付いている。髪で誤魔化しているから傍からは分からないはずだ。


『うぅ、緊張するぅ』


「大丈夫だ。俺もついてる…………聞こえるかー」


 俺も、トランシーバーをファンタジックにしたような物を持っている。ドラゲナイ。


『わ、聞こえますー!』


「聞こえるって」


「良かったですわ」


「準備はいいな」


『はい!』


「行くぞ!」






『お、おまたせしました……』


『遅い!』


 聞こえてきたのは、男の声だ。


『わざわざ来てやったのに、もてなしの1つもできないなんてな!』


 何様だよおまえ。


『ごめんなさい』


『ふん、ショボい迷宮だな。経営はうまくいってるのか?』


 経営自体してないな。


『ええと……』


「ご察しの通りです」


『……ご察しの通りです』


『あ~はっはっはっ! まぁ、“出来損ない”のおまえにはおあつらえ向きの迷宮だなぁ! 特長もオツムも無い! 無い無い無い無い!!! 空っぽの出来損ないが、まだ生きてることに驚きだよ!』


 なんだコイツ、急に人ん家に来て。もしや、電波系か?

 あー、見ては無いけど既視感があると思ったら……じしょゆうか、お前じしょゆうそっくりだな。俺と巴を召喚してきた傍迷惑な自称有者。アイツになんか似てるわ。


『…………』


『そんなお前にチャンスをくれてやる』


『チャンス……?』


『この僕と! ダンジョンバトルしろっ!!』


『ダンジョン……バトル』


「ダンジョンバトル? なんだそりゃ」


 ゴッ、とぶつかる音がする。


『いっ……!』


「シンクっ!!」


 悲鳴を堪えるような声が聞こえる。


 シンクにぶつかった。今の音は人肌に鈍器がぶつかった音だ。くそっ、何してくれやがる……! シンクはどうなった? 怪我したのか? 無事なのか? 痛くないのか? シンクはあんなに弱いんだぞ。

 もし何かあったら許さないからな……。


『知ってるか? これはダンジョンバトルを強制的に受理させる道具だ! 一週間後、結構だ』


「待て!」


『まっ、待って』


『どうした?』


 あ、そうだシンクは俺の言ったことを言ってしまうんだった。思わず引き止めてしまった。どうする……?


「勝利の条件は? 勝利した場合、得られるものは?」


『勝利の……条件は? 勝利した場合、得られるもの……は?』


『そうだな、条件は相手の“迷宮の石”に触れること。得られるもの? お前、勝てるはず無いのにそんなこと確認するのか……ふん、滑稽だな。

 まぁ教えてやろう。“相手への絶対服従”だ』


『……はい』


『ハーハッハッハ、一週間後を楽しみにしている! さらばだ!!』




「シンク!!」


 男の声がいなくなった瞬間、住居スペースから飛び出る。そこには、呆然とシンクが座り込んでいた。


『ごめんなさい、ミツルさん……』


 シンクの髪の間から、赤いものが見える。血だ。傍らには拳大の宝石のようなものがある。そこには、血がこびり付いていた。

 これを、シンクにぶつけたというのか。


「アキルクッ! 治癒魔法だ!」


「は、はいっす!」


 ダンジョンマスターにも効けばいいけど……。


 光の玉がシンクに触れ、傷は癒えていった。シンクにもアキルクの治癒魔法は効いた。良かった。


『ごめんなさい。私が、出来損ないのダンジョンマスターだから……特長も何も無い、出来損ないの……』


「馬鹿、あいつの言葉に影響されてどうする」


 涙を流すシンクを抱きしめて、落ち着ける。


『でも、でも、わたしはダンジョンバトルなんてしたら負けちゃいます。ごめんなさい……全部奪われちゃいます……。どうしよう……。

 ごめんなさい、皆さんは見逃してもらえるやうに頼みます……』


 それでも、シンクは俺にしがみつきしゃくり上げる。


「満、ダンジョンバトルって何? シンクはどうなっちゃうの?」


『ダンジョンバトルは、お互いが迷宮を攻略し合う、ゲーム、ですっ。

 負けたら、たくさんのものをうしない、ますっ』


「地球の漫画と変わんねぇな」


「つまり、シンクに挑んで来たやつの迷宮をぶっ潰せばいいんだね」


 巴の眉間には皺が寄っている。そうだな、怒ってんのは俺だけじゃないよな。


「そうだよ」


 シンクと向かい合い、優しく頭を撫でその涙を拭う。


「もう泣くなよシンク。安心しろ、お前は一人じゃないし、俺達は負けないからさ。勝つための作戦会議しようぜ」


 誰だか知んねぇけど、俺の式神を泣かせやがって傷つけやがって。



 泣いて喚いてみっともなく命乞いしたって許さない。完膚無きまでに叩き潰してやるから、覚悟しとけよ。


 シンクにあんなの投げつけて貶したんだから、自分が百倍で返されても文句は言えねぇよなぁ?













1章終わりです! ここまで読んでくださってありがとうございます!

 安心してください、すぐ2章に入りますよ! 章を作る機能が働いてくれないだけです。


 次章、始まりしダンジョン回!〜敵のダンジョンマスター、死す(多分だけど死にはしない)〜


お楽しみに!!

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