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18話 「心配性だなお前……クラリーヌなら大丈夫だよ。ゴブリンなら素手でなんとかなるくらいまでになったし」

今回は、アキルクサイド!

 






「「あっさごっはんっ、あっさごっはんっ!」」


 元気な二人の声が耳を打つ。

 朝からテンションが高いっす。ミツルさん、トモエさん。


「まだっすよ。何がいいっすか?」


 あ、自分の名前はアキルクっす。完璧な円(アブソルートサルコウ)という冒険者パーティのヒーラーっす。

 メンバーが強すぎて、ヒーラーとして働く機会は少ないんすけどね。代わりに接近戦の力が最近上がってきた気がするっす。


「何があるー?」


 そう言われて、食糧庫を覗くとパンと野菜がいくつかあったっす。コメは昨日全部食べちゃったっすね。


「あの野菜とパンを挟むやつ……サンドイッチができるっすね」


「「おおー」」


 二人が同時に同じ調子で手を叩く。本当に、この二人は仲良しっす。前にそう言ったら、『当たり前だろ』って言われたっす。



「おはようございますわ。皆さま起きていらして?」


 クラリーヌさんも起き出したっす。この人は、錬金術師で、今は“冷蔵庫”とやらを作ってるらしいっす。自分、魔法に関してはよく分からないんで、尊敬しちゃうっすね。


「いや、シンクがまだ」


 ミツルさんがそう言った瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っす。


 《おはようございます》


 そして、黒板が浮き出したっす。


「おはようっす」


 でもそれは、怪奇現象でも何でもなくミツルさんの使役するシンクさんっす。

 シンクさんはダンジョンマスター?とやらで、ミツルさんにしか見えないっす。

 ミツルさんはどうやら幽霊とか、普通の人には見えないものが見えるらしいっすね。

 たまに、虚空に向かって笑顔で話してるっす。


「おはよう。あ、それつけてるんだな」


 黒いリボンがふるえ、ミツルさんが笑う。


「うん大丈夫、よく似合う……あ、巴ー。今日クラリーヌの冒険者登録ができる日だっけ?」


「うん」


 そういえば、今日は一ヶ月に一回10日間だけある冒険者登録と昇進試験の日っした。


「大丈夫そうか? クラリーヌ」


「今日は絶好調ですわ。いつでも平気ですわよ!」


 クラリーヌさんが胸を叩き、朗らかに言うっす。

 今日まで、クラリーヌさんは護身術程度の武術をしたいたっす。その隣で自分は地獄を味わってたっす。

 自分はそれを『洗濯物干し場の惨劇』って呼んでるっすよ。


 自分達は洗濯物干し場で訓練をしてるんすけど、あそこ凄いっすよね。太陽とかあるし。迷宮ってすごいっす。







『クラリーヌはまず、準備運動から。巴、絶対ムリさせんな』


『うん』


『が、頑張りますわっ』


『アキルクは…………お前ヒーラーなんだから多少の無茶はできるよなぁぁぁ!! 取り敢えず準備運動だぁぁぁぁぁ!!!!』


『うそぉぉ!! その拳なんすかっ! 準備運動ってまさかぁぁぁ………!』


『実戦が準備運動ぅぅぅぅぅぅ!!』


『いやぁぁぁぁ! 地面抉れたぁぁぁぁ!!! なんでテンション高いんっすかぁぁぁぁぁ!!!』


『ワハハハハハハ!!!!』


『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ…………』



 いや、成果も効果もあるんで文句言えないっすけど、“死にものぐるいでやったらできるレベル”を見極めるのが上手すぎて毎日ヘトヘトっす。

 ただ、今までで一番やりがいがあるっす。






「アキルク、おーいアーキールークー!!」


 ペンペンと腕を叩かれる感覚で意識が現在に戻る。


「どうした? 遠い目をして」


 ミツルさんがこっちを見上げる。

 切れ長の瞳で、可愛らしい女顔の彼は黙ってれば物静かな文学少年で……いや、女の子っすね。

 でも、中身は真っ黒っす。真っ黒な脳筋っす。


「何でもないっす。ぼんやりしてただけっす」


「ふーん」


「あの、つかぬ事を伺ってもいいっすか? ミツルさん、トモエさん」


「「なに?」」


 二人が、同時にこっちを向く。いや、いつの間にそうなったんすか。


「なんで、そんな姿勢してんすか?」


 ミツルさんの膝の上に、トモエさんが抱っこひもの赤ちゃんのように乗っかってるっす。

 で、お互いの首に手を回すようにして密着しながら、ミツルさんは読書、トモエさんは武器磨きをしてるっす。


「「えー、何故と言われても…………。昔からこうだったし…………」」


 息ぴったりっすね、おい。これが、二人の故郷では普通だったんすかね……。


「そうっすか、もしかして、昔住んでた所ではそれが普通なんすか?」


 そう聞くと、二人は顔を見合わせて


「「そーそーそうだねー」」


 と言った。


「う、嘘くさいっす………」


「仲良しですのね。羨ましいですわ」


 クラリーヌさんが上品に笑う。この人ははお嬢様で、なんかホワホワしているっす。悪い人に騙されないようにしなくては……という決心を勝手にしてしまうっす。


「そんな事よりアキルク、早く朝ごはん作ってー。あ、俺も弁当作んなきゃだわ」


 トモエさんを降ろしながら、ミツルさんが立ち上がる。


「話を誤魔化されたっす……まぁいいや、台所一緒に使うっすか?」


「そうだな。なんの肉が残ってたかなぁ〜〜」


「鳥肉っす」


 自分も、ミツルさんの後に続いて台所に入る。


 自分、料理はまだまだ勉強っす。









 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「やあっ!」


 掛け声と共に、ミツルさんに向かって全力で拳を振るう。自分よりずっと小さいミツルさんに殴りかかるこの姿は、傍から見れば弱いものいじめっすけど、ここで言えば自分の方がよっぽど“弱いもの”っす。


 全力で素早く、少しの無駄もなく放った攻撃は簡単に避けられる。

 そんな事は想定内。次は蹴り、避けられ、突き、駄目、また拳、そして拳、今度も拳と見せかけて蹴り、……全ていなされる。

 首に手を伸ばす。逆に手を取られ投げられる、受け身。一瞬でも動きを止めた瞬間、ミツルさんに()()()()()()()()

 動きを止めるな思考を止めるな……。勝ちを諦めるな。


『死にたくなければ動け。考える前に動け考えなくてもその場で一番効果的な動きができるようになれ──そして、それができるようになるまで動きを体に叩き込め。寝てても攻撃された瞬間、最適な動きが取れるようになれ』


 あまりにも苛烈であまりにも脳筋すぎる言葉っす。でも、それくらいじゃないと追いつけない。


 受け身の直後、掴んだ砂を投げつける。間伐入れずに鋭く蹴り。

 何かに当たる感触。これは……………。





「良くなった。前よりずっと良くなった。でも…………おそい」





 目の前には、自分の足首を掴んだミツルさんがにっこりと笑いながら立っていたっす。決して、嘲笑などではなく満足そうで……でもまだ、物足りなさそうな笑顔。


 あぁ、まだ敵わない。


 だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、『動かなくても余裕』


「遅い、まだ遅い。だいぶ良くなったけど動きが単純。読める。受け身の後に隙がありすぎ、相手が殺す気なら死んでる。でも、砂を投げるのは良かったかな。

 足技もまだ遅い。足技は威力が高いけど、一瞬バランスが不安定になる上に、掴まれたらおしまいだ。注意しろ」


 自分の動きを完全に真似……いや、改良しながら口を動かす。

 自分はそれを瞬きすら惜しんで見つめるっす。それを頭に叩き込むっすよ!

 あー、そこでそうすれば………いや、まだ早いから無理っすね。地道に頑張るっす。





「はい、準備運動おわり」


「うっす」



 そして、信じられないことにこれ準備運動なんすよ。次は基礎訓練っす。


「筋トレー」


「腹筋! 腕立て! スクワット!」


「反復横跳びー」


「はっはっはっ!」


 地味にキツイ!!


「走れ走れー」


「目指せおりんぴっくぅぅぅーー!」


 なんすか! おりんぴっくって! それに、あり得ないんすけど、ダッシュの本数をサイコロに任せるって!


「避けろ! 話はそれからぁっ!!」


 ミツルさんとトモエさんが投げる石やら枝やらトランプやらを避けながら地面に立っている旗を取るっす!! い、痛い! これは痣になるっす、あ! またぶつかった! くそぅ。


「総合格闘技じゃー!」


「えっさ! ほいさ!」


 技の反復練習をしたり、新しい技を習得したりするっす!


「全力でかかってこい!」


 禁止されていた身体強化も使ってミツルさんに挑むっす!


 結果は惨敗。




「ぜえっ、はぁっ」


 自分の訓練が終わる頃には疲れ果ててるっす。


「我は祈る、この身に力を戻したもう。届け、祈りよ聞き給え、我が祈りを──」


 疲れきった体に活力が戻る。


 自分の称号である“祈る者”は、“祈る”事によってヒーラーと同じか、それ以上の事ができるっす。魔力も殆ど使わないから、いい称号だと思うっす。

 珍しい称号で、大した訓練も無く並のヒーラー以上の事ができるっす。


 “称号”とは、そういうものっす。“剣士”の称号を持っていれば、まるで階段を駆け上がるようにして力を得るっす。



 自分の目では追いつけない速度で模擬戦をしているミツルさんと、トモエさんを見る。


 あれ? そういえばこの二人、称号はアレというか……言葉を選ばなければ大したことないものっすよね?“紙使い”と“奇術師”………戦闘用の称号では無いし、紙使いに至っては何がなんだか分かんないっす。



「うわぁ………」


 と、いうことはこの二人は持ち前の身体能力だけでここに辿り着いたんすね………。


「頑張らないと………」


 道のりはまだ、険しいっすね!




 あ、ちなみに模擬戦の方はミツルさんが完膚無きまでに叩きつぶされてたっす。

 強すぎて自分には分かんないっすけど、トモエさんの方がずっと強いらしいっすね。一回も勝てないってミツルさんがぼやいてたっす。











 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー













「今日はね〜、南に寄り道しよーう」


 朝の準備を終えて、ギルドに向かって歩き出す。移動用の“くるま”とやらは、クラリーヌさんが制作途中らしいっす。


「はーい」


 トモエさんが南に歩き出す。


「あの、たまにこの方角に行っちゃいけないとか言うっすけど、どういことっすか?」


「あ、それはわたくしも疑問に思っておりましたの」


 ミツルさんには何が見えてるんすかね?


「方違え!」


「「カタタガエ?」」


「あー、なんか分かるんだよ。今日はよくない方角とか。うん、故郷の風習だね」


「へぇー」


 他の土地の風習って面白いっすよね。


「当たるよ、ミツルの方違えは。避けた方角で事件が起こったりしたし」


「すごいですわね!」


 ミツルさんは強いだけじゃなくて、そういう事もできるんすね……。








「久しぶりですわ! 冒険者ギルド!」


「付き添いしなくて大丈夫?」


 トモエさんが、心配そうに言う。


「大丈夫ですわよ」


「心配性だなお前……クラリーヌなら大丈夫だよ。ゴブリンなら素手でなんとかなるくらいまでになったし」


「えっ」


 クラリーヌさんに何してくれちゃってんすか⁉


「そうだね」


「はい! いってきますわ!」


「「「いってらっしゃい!」」」










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「で、俺達は昇進試験か」


「うっす」


「どれくらい上がるの?」


「たしか……自分よりも上のランクの冒険者と戦って、最終的に倒せた冒険者のランクになれるんだったっけ?」


「そうだぞ。お前たちには期待してるから頑張れよ」


「うわっ!」


 突然背後から声が聞こえてきたっす!


「「あ、ギルマスさんだ! おはようございます!」」


 え? ギルドマスター?


「あ、ホントっすね。おはようございます」


「おう、挨拶ができていい子だな。あの錬金術師はお前たちのツレか?」


「クラリーヌの事ですか? そうですよ」


「だったらすげぇ逸材だな。魔力量が桁違いだ……ゴブリンの巣から保護したらしいが、どこの出身だ?」


 クラリーヌさんは、貴族のお嬢様で家出してきたんすよね。それを言ったら不味いかもしれないっす………。


「それは〜内緒ですよー。プライバシーの侵害ですぅ。

 きゃー、ギルマスさんのえっち! やめてよ! 俺に乱暴する気でしょう⁉ エロ同人誌みたいに!」


「エロ同人誌みたいに!」


 ……自分、ミツルさんとトモエさんのそういう所いつもヒヤヒヤしながら見てるっす。

 ギルドマスターにそこまで言える人っていないっすよ、なかなか。

 あとなんすか、えろどうじんしって。


「やめろぉ! お前が無駄に女顔のせいで完全にそう見える!」


 なんでこの人達がギルドに来ると周りがざわざわするんすかねぇ。


「そろそろやめるっすよ。ギルドマスターが困ってるっす」


「ありがとう、これからもコイツらの暴走を止めてくれ」


 最近、変な信頼を勝ち取った気がするっす。

 自分、ここら辺にはない大きさと見た目で珍獣みたいに遠巻きにされてたっすけど、あの二人の方が“珍獣”だったんで最近、話しかけてもらえるようになったっす!『あの二人よりこの厳ついやつの方が話通じそう』みたいな感じっすけどね。


「うっす。頑張るっす」


「まぁ、お前たちは必ず昇格するとは思うが油断するなよ」


「「「はい!」」」


 さて、どこまでいけるか力試しっす!!










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「っ!」


 今、自分はB級の冒険者と戦ってるっす。E級とD級とC級の人は敵じゃ無かったっすけど、ここが問題っす。

 やはり、想像以上に強いっす。ミツルさんに修行をつけてもらわなかったら、一瞬で負けてたっす。いや、C級で躓いていたかもしれないっす。


「はっ」


 繰り返される突きを、避けて避けて受け流して……こっちから攻められないっす。


 自分を苦戦させている理由の一つに、相手が槍使いだというのがあるっす。

 やっぱり、リーチの違いは無視できないっす。こっちが近づこうとする間にあっちは攻撃する事ができる。勝機は見つからない………でも!


 動け。動いてから考えろ。


 ミツルさんが頭の中で邪悪な笑みを浮かべながら言い続けるっす!!


 負けないっすよ。こんな所で躓いていたら、いつまで経ってもあの二人には追いつけないっす!!


 相手を観察する。どんな人間にも隙があって、それが糸みたいに小さくても見つける。

 勝ちのビジョンを見つけろ、動きを絶やすな、最後まで負けを受け入れるな。相手の乱れた瞬間を見逃すな!


 受けて、避けて、見つめて、考えて────!!!


「今っす!」


 今までは避けていた場所への攻撃を受けて、相手の一瞬の、瞬きにも満たない動揺を作る。

 ほんの一瞬、誤差のように止まった隙を見つけて槍を掴み一気に振り回す!!


「うおおおおおお!!!」


 身体強化により産まれた、爆発的な力で相手を吹き飛ばす!


「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」





「勝者! アキルク!!」


「やったっす!! ありがとうございました!!」


 B級に昇進する事ができたっす! あの二人からしたらなんてこと無いかもしれないっすけど、自分にとっては大躍進っすよ!!










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 もう、試験が終わっているであろう二人とクラリーヌさんに報告しようと走る。嬉しいなぁ。



 が、




「汚い手でクラリーヌに触ってんじゃねぇよゴミ」



 そこに居たのは、いつもよりワントーン低い声で怒りと侮蔑と嫌悪をその顔に全面に押し出したミツルさんと、なんとか理性を保ちながらも武器を握りしめて相手を刺す気まんまんのトモエさんが、3人のおちゃらけた格好をした男を見つめていたっす。




 どういう事だからわからないんで、誰か説明してくれないっすか?

 そういえばミツルさんって、キレるとその前とのテンションの振れ幅がすごくて怖いっすね! 見てても怖い! 今まで笑顔しかしてこなかったから怖いっ!




 ………あはは、今日も良い天気だなぁ〜。あ、ちょうちょが飛んでるっす〜。











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