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15話 「それは非常に難しい質問だ。人はどこから来たのかもまだ分かっていないのに、どこへ帰るかなんて分かるのだろうか…………やれやれ、非常にナンセンスな質問だと思わないかい?」

ジムさんがわからない人は2話を見てください。とっても出てくる。2話では寧ろメイン。







「うぅむ、尾行を無くすのは確かに構わないけど……」


 オレの名前はジム。王宮の兵士だ。都市の門番兵さっ! 覚えているだろうか。覚えてなかったら哀しい。

 さて、オレは今とある客の対応をしている。“完璧な円(アブソルートサルコウ)”というパーティ名の若い冒険者だ。最近、3人組冒険者パーティになったはずだ。

 そのメンバーの一人、アキルクはいないがパーティリーダーのミツル・シワタリと副リーダー? であるトモエ・シワタリがオレの目の前にいる。

ミツルが、オレの言葉を聞いて微笑んだ。

 いきなりここに来たので、取り敢えず休憩所に通している。


「それは嬉しいです」


 色白で線が細く、女顔のこの青年は、一見して冒険者には見えない。人によってはナヨッとしたイメージを覚え、相手にもしないだろう。

 しかし、その切れ長の目の奥には油断できない光が見え隠れしている。まるで幾つもの修羅場を経験したような、見た目に似つかわしくない光だ。


「そうだな……報告でも大きな問題は起こしていないようだしな」


「やった」


 それまで何も喋らなかったトモエが小さな声で言う。

 前回見たときは、髪もボサボサでどことなく疲れたような印象を受けたが、今は高い位置で髪を結わえていて元気そうだ。そうして見ると、この少女が相当な美少女である事が分かる。

 顔立ちはこの辺りのものではないが、全てのパーツが整っており、バランスもちょうど良く感じる。独特な雰囲気が目を引く。しかし、相変わらず目は死んでいる。

 少女の美しさを褒める言葉を知らないオレが表現すれば、そうなるだろう。

 体も小さく、物静かで運動とは程遠い印象だ。


 だが、この二人は本当に油断できない。ナヨッとしたイメージとか運動とは程遠いとか全部間違い。オレ知ってる。報告書読んだもん。ヤバい。

 大抵の魔物は一発だ。報告によると、A級冒険者に近い能力を持っている。なんだよ、ロックバード一撃って。なんだよ、大規模なゴブリン集落を更地って。この範囲だと、まだありそうな気がしないでもない。しかし、いつか誰も想像しなかったようなことをやらかしそうだ。今はまだ、オレのアテのない勘だけどな。

 そんな力を持っていながら、出自も出身も経歴も不明とか怪しすぎる。目立ちすぎるので、スパイなどの可能性は低いが、訳ありなのは確かだろう。


 それに、この世には自分の欲の為なら何でもする恐ろしい人間とはいくらでも居る。そういう者たちに目をつけられたら……この世界は腕力だけでどうにでもなるような物ではない。

 力が全てだとはよく言うが、力にも沢山の種類がある。この子達は、それに抗えるだろうか。

 余計なお世話かもしれないが、心配だ。


「じゃあ……一個教えて」


「なんですか?」


「今どこに住んでるの?」


「「…………………」」


 そう、急に帰る頃になると姿を消すらしい。


『物影に隠れたかと思うともう居なくなってる、急に目にも止まらぬ速さで走り始める……証拠一つ残さない完璧なやり方です』


 と、ミッシェルから報告を貰っている……()()()()()ー。まぁ、それは置いといて、行き先が気になる。


「それは非常に難しい質問だ。人はどこから来たのかもまだ分かっていないのに、どこへ帰るかなんて分かるのだろうか…………やれやれ、非常にナンセンスな質問だと思わないかい?」


「誤魔化さないで」


 文学の香りがする返答に、オレはスッパリと切り返した。


「プライバシーのしんがいとか、まぢぁりぇないんだけどぉ。。。ぅちら、ぅたがゎれてんの? もぅムリ。。。。。ゥちらズッ友ぢゃなかったの?

 しってた? 血と涙ゎ成分がぉなじなんだって。。。っまり、ぅゆぉ泣かしたら、ケガされてんのとぃっしょってこと。ゎかった?」


「うわめんどくせぇ」


 どこの面倒くさい女だよ。てか、上目遣いうまいな。


「めんどくさぃとか、ぃっちゃダメだぉ」


 トモエも悪乗りするんじゃない。


「二人とも面倒くさい……じゃあ、この件は無しでいいか」


「「ひ、ひとでなしー!」」


 お、急に元気になった。


「じゃ、教えてくれ」


「えー、人には一つや2つ秘密があったっていいと思いまーす」


「そんなこと無いと思いまーす」


「でも、ジムさんはタダの兵士じゃないでしょ?」


 えっと………。


「そんな事ないよ?」


「でも、ジムって偽名でしょ?」


「なんで?」


 え、怖い。


「なんとなく? そういうの分かっちゃうんです昔から。ねぇ、これ他の人に言っていいっすか?」


「別に嘘だからどうとでも……」


「ミッシェルさんってどこの所属? 能力的に一介の兵士が動かせる人じゃないですよね?」


 ニコニコと世間話でもするかの様にミツルが言う。


「それはだな……」


「ミッシェルさんの後ろの人たちも、スパイとしては微妙だけど、戦闘能力高いよね? サックリ借りられんですか? 一卒兵ってそんな力があるんですか? なんで俺達を尾行してるって他の兵士さんが知らないんですか? なんで名字を教えてくれないんですか? なんで……」


 全て疑問形で聞いてくるが、どうも確信を得ている様子だ。

 あと、君たちに付けてたスパイはかなり優秀だったはずなんだけどな……微妙とか言われてるよ。


「もういい、どこまで知ってる?」


「仕事が終わるとギルドから五軒離れた居酒屋のトイレで綺麗な格好に着替えて、でっかいお家入っていくとこまで」


 だいたいバレてる。


「そして、表札にネディールって書いてあったこと」


 ほとんどバレてる。


「今日、本屋で貴族名鑑を買います。ちょっと高いけど」


 完全にバレるわ。展開が急すぎてついてけない。え? どういうこと? つまり、つけられてたの? 嘘でしょ?


「どうやって貴族の住宅地に、侵入(はい)ったの?」


 あそこ、結構兵士の見回り多いし侵入は難しいんじゃないかな?


「別に、あれくらいだったらいくらでも方法はある」


 トモエが事も無げに言う……今日帰ったら、警備の見直しを進言しよう。


「で、他の人に言ってもいいですか? このこと」


 こら、好きな人バラしていい〜? みたいな調子で聞くんじゃありません。


「バラされたくなきゃ、何にも聞くなってこった」


「はい」


「ここで、お前たちを消すって言ったら?」


 少々意地悪を言う。


「上に二人、ドアの前に一人、すぐ側の廊下に二人……」


「っ⁉」


 ミツルが、笑みを深める。


「俺達を殺すには、少なすぎると思いません?」


 ぞわり、と鳥肌が立つ。もしも何かあったら、その5人が2人を殺すより早く、トモエの腰にある短剣がオレを刺し貫く、それを嫌でも理解させられた。

 目の前のトモエからはさっきも何も感じない。多分、簡単にオレを殺すことができるのだろう。


「わかってますよ。そんな気無いんでしょう? 落ち着いてください」


「あ、あぁ」


「顔色悪いですよ?」


 誰のせいだと……。必死で震えを抑える。


「大丈夫だ。はぁ、わかったよ。どこに住んでんかは聞かない。

 その代わり、悪いことはするなよ」


 これだけは、言っておかなくては。こんなのが敵と考えたらだけでも面倒すぎる。


「はい。わかってますよ。俺もこの国は気に入ってますし」


「そうか」


 その様子に、嘘は見られなかった。


「それは良かった」










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「「アキルクー!」」


 ジムさんと別れ、俺達を待っていたアキルクの元へ走る。

 やあ、俺の名前は死渉 満! 元気な冒険者だよ!


「おまたせ。ごめん、待たせて」


「いいっすよ、どうしても合わなきゃなんない人だったんっすよね」


 アキルクは良い奴だな。


「うん……本当によかった。最終手段使わなくって」


「最終手段?」


「いやー、流石インケンノサイコティウス。多分、アキルクも引くよ?」


 巴が俺の作戦をディスる。お前も賛同してたじゃん!


「えー、ひどーい」


 確かに、地の文でも言うのが憚られるくらい最低だなって自分でも思ったけど! だから言わないけど!


「ど、どんな手段っすか?」


 アキルクが、こわごわといった様子で聞いてきた。


「「……………」」


「そろそろギルド行こっか」


「そだね」


「えー! えー! き、気になるっす! 教えてくださいっす!」


 スタスタと歩き始めた俺達を、アキルクが追いかける。


「くっ、歩き方は普段と変わらないのにめちゃくちゃ素早いのがなんか腹立つっす……」


 ふっ、これが、噂の“一見普通だけどめっちゃ早い歩き”だ! 素人には難しい!


「えー、いや、言ってもいいんだけどアキルクは絶対引くしー」


「多分引くけど気になるっす」


「言うようになったね、お母さん嬉しいよ」


 目元を拭うふりをする。


「誰がお母さんっすか」


 アキルクが冷たい。そこは『お母さん……アタイ、間違ってた!』くらい言ってくれないかね。


「お母さん……アタイ、間違ってた!」


「巴が言ったかー……分かってくれて嬉しいよ!」


 流石、俺の相棒。わかってるぅ!


「じゃ、行くか!」


「うん」


 巴の手を取り歩き出す。


「待ってくださいっす〜!」


 後ろから、アキルクの声が聞こえた気がした。









「じゃあ今日は豚カツを目指すぞー!」


 遭遇できれば豚系を狩りたい。


「おー!」


「二人とも、なんか言うこと無いっすかね」


 アキルクがジト目で見てくる。おいおい、巴みたいになってるぞ。勿論、巴のほうが可愛いけれど。

 まぁ、それは置いといて。


「勝手に置いててってごめんなさーい」


「本当に済まないと思っている」


「反省してるみたいなんでいいっすけど、気をつけほしいっす」


 アキルクがまったく、といった調子で腰に手を当てる。見た目が2m超えの褐色スキンヘッドじゃなかったら、完全にオカンだ。ヒーラーだし。


「「反省してまーす」」


「はい、それで今日目指すのは?」


「「できればオーク!」」


 見た目はアレだけど、とっても美味しいと話題だ。


「オークを狩るときの注意事項は?」


「「肉をだめにしない!」」


 焦げちゃあ美味しくないもんな。


「……まぁいっか。忘れ物は無いっすか?」


「タオル、ちり紙、お弁当、水筒、非常食、武器、パーティメンバー!!」


「今日の予定は?」


「「昼までに狩りを終えてクラリーヌを迎えに行く! そのあとショッピング!」」


「合格っす」


「「やたー!」」


 じゃあ行こうぜ!


「うぇーい」


「あ、早い! 舌の根の乾かぬうちに置いてくつもりっすか⁉」


「ちゃんと待ってるよー」


「はやくはやくー」



 俺らのこの様子が、他の冒険者から『完全に子供の引率』と話題だった事を知るのはもうちょっと先のことだ。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「ブヒブヒ」


「いたいた、オークが一匹。オークってどれくらいの強さだっけ?」


 ちなみに、背後を取っているので俺達のことはバレていない。


「ゴブリン10匹分くらいっすかね。オークキングとかになったら話は別っすけど、そんなの出会えるほうが珍しいんで」


 そんな強くないな。


「ほわー、そっかそっか」


 巴が嬉しそうにニヤつく。


「へーへーへー」


「ふ、二人とも悪い顔してるっすよ?」


「巴ー、肉は多いほうがいいよなー?」


「当たり前だよー。そういえば、クラリーヌが一部屋分くらいのスペースなら入る鞄くれたよねー」


 朝、クラリーヌがくれたのだ。本人はまだまだとか言ってたけど、とっても助かるし嬉しい。


「ねー」


 巴と顔を合わせてにっこにっこと笑う。


「跡つけよっか?」


「言うと思ったっす」


 なんだかアキルクが諦めた様子だ。


「まぁ、オークの集落は5匹前後のものなんで大丈夫っすよ」


 そうかそうか、それはいい事を聞いた。


「じゃ、トンテキもできるな」


「ご飯沢山炊かないとね」


「そっすね」


 ふふ、アキルクとクラリーヌには昨日のうちに米を布教しておいたのだ。ふふふ……。








「ここかー。オークハウス」


 オークの集落は、竪穴住居跡モドキのゴブリンとは違い、石でできた堅牢な家だった。


「特に異変も見られないし、攻め込んでいいよね」


「うっす」


「たのしみ」


「じゃあ、いくぞ……」


「「「おおー!」」」


 俺達は、オークの集落に走り出した。











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