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14話 「でも、高校のときみんなにインケンノサイコティウスって呼ばれてたのは事実」

 






「かくかくしかじかで俺は昔から人には見えないモノが見える体質で、かくかくしかじかで実は迷宮にはダンジョンマスターなる、迷宮を管理する人たちがいて、かくかくしかじかでシンクは俺の使い魔みたいなものになっちゃったんだ」


 できるだけ正直に、全てを説明する。全てが真実という訳ではないけど……許してくれ。


「にわかに信じられないお話しですわ」


「だよなー。みんなそう思うよなー」


 俺も信じられない。


「でもシンクさんがいるのは本当っすし」


「満は嘘ついてないよ」


 巴がフォローしてくれる。だが、実行しないと信じてくれないだろう。


「百聞は一見にしかずって言うし、取り敢えず来てくれよ。シンク、頼んだ」


 《てをつないで》


 四人で手を繋いだ瞬間、視界がぼやけて、迷宮の中にいた。



「きゃっ! い、いきなり洞窟の中になりましたわ!」


 クラリーヌが驚きの声を上げる。そりゃびっくりするか。


「ほ、本当に迷宮に着いたっす……うわ、魔物っ」


 アキルクの目の前に、コボルトがいた。


「あ、手出し無用だ。この空間に限っては魔物は俺達に襲いかかってこないからな……おー、よしよし」


 その証拠に、とコボルトの頭を撫でる。わしゃわしゃわしゃ……。


「クゥン……」


 あれー、なんで尻尾が足の間にあるんだろー?


「こ、コボルトが震えていますわよ」


「完全に明確化された上下関係っすね」


「コボルトが怯えているのを知っていながら更に上下関係を浮き彫りにさせる行動をとる……死渉家一のサディストの名は伊達ではない」


 巴が変なこと言ってるけど気にしない。


「やっぱりそうだったんすね……」


 ほらー、アキルクが変な勘違いしちゃったじゃん!


「失礼な。そんなの始めて聞いたけど……違うからね、アキルク」


「さっき考えたもん」


「やっぱりな」


「でも、高校のときみんなにインケンノサイコティウスって呼ばれてたのは事実」


「え、始めて聞いた……」


 初耳すぎて逆に辛い。


「やっぱり……」


 くそぅ、誰も俺を庇ってくれない。


『インケンノサイコティウス………すごいしっくりくる……!』


「シンクぅ⁉」


 お前、俺の式神だよなぁ⁉ 俺お前になんかしたっけ⁉


「みんなそうやって、インノケンティウスの事悪く言うなよ! あいつだって一生懸命生きてたんだぞ!」


 好きで、王様を破門したり王様を破門したり王様を破門したりしてた訳じゃないんだからな! たぶん。


「インノケンティウスじゃない。インケンノサイコティウス!

 やり方がえげつないからそう呼ばれたらしいよ。

 教師辞任させたりヤンキー従えたり生徒会長操ったり幼女を誑かしたりしてたもん」


「お前も一枚噛んでたよなぁ! 特に教師のとき!」


「うくっ!」


 よっしゃ、形勢逆転!


「し、しかし計画は満が……!」


「でも、実行は2人で」


「「完璧に遂行する!!」」


「ぐわぁぁぁぁぁ。負けたぁぁ……」


 巴が悶絶しながら敗北宣言をした。


「勝利!」


 いえーい! これは勝った!



「な、なんですの……?」


「さぁ……? この二人、自分たちのペースが独特すぎるっすよね。

 結局なんの話でしたっけ?」


『インケンノサイコティウス……』


「それは忘れろ。

 ここの魔物は安全だって話だろ?」


 全く、それを忘れるなんて世話が焼けるぜ。


「元凶は満だとも思う」


 ボソッと、巴が言う……おうおう、言ってくれるじゃないか巴さん。


「まあ、取り敢えず居住スペース入れよ」


 このままじゃ進まねぇ。


「話を誤魔化しやがった」


「違う、話を進めたんだ」


「物は言いよう」


「それな」


 分かってるじゃねえか、巴。


「満の考えてることくらいすぐ分かるしー」


「えー、俺だって巴の事なら何でも知ってるしー」


 今だって腹減ったしか考えてないんだろー?


「な、何故わかった」


「へっ!」


「仲良しっすね」


 《そろそろ、いきません?》


「「はい」」


 というわけで、居住スペースに入った。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「壁が無くなりましたわ⁉ なんの魔法ですの?」


「特定の人物だけに反応する魔法」


 うーん、魔法の事とかあんまり詳しく知らないから説明しにくい。


「す、素晴らしいですわ!」


 おお、クラリーヌが喜んでる。錬金術師だし、そういうのが好きなのかな?


「迷宮っていうんで、勝手に野宿みたいなの想像してたっすけど、寧ろそこら辺の家よりしっかりしてるっすね」


 アキルクが感心して辺りを見回す。


「でも、この人数で住むのは狭くないっすか?」


「狭ければ広くすればいいのだよアキルク君。君たちの住みたいという意志さえあれば後はどうとでもなる」


 スペース拡張すればいいだけの話だからな。どうやら、二人の部屋を増やす程度なら大丈夫らしい。


「ちょくちょくキャラ変わるっすよね……ご迷惑じゃないなら自分、住みたいっす。もう、パーティっすし」


「はい! わたくしもですわ!」


 おお、住居問題は特に波乱無く終わりそうだ。


「じゃあどういう感じにする?」 


 巴が壁を指差した。


「ん」


「右側の壁に増設するのか」


「うん」


「その説明でよくわかったっすね」


 現在のこの場所の配置は、リビングやダイニングの共用の場所を真ん中にして、左側に風呂やトイレなどの水回り、奥に三人の部屋があるといった感じだ。

 巴は、リビングを伸ばして隣に部屋を作るよりも、右側を打ち抜いて部屋を二つ作ったほうが早いと言いたかったのだ。それでいいだろう。


「あ、クラリーヌは自分の部屋と実験の部屋分けたい感じ?」


「いえ、寧ろ1つにして頂いたほうが都合がいいんですの。移動する手間を省きたいですわ。

 でも、最低限の広さは欲しくってよ?」


 お嬢様の最低限の広さと、庶民の最低限の広さに相違がある可能性がある事について。


「これくらいだけど」


 巴がシンクの部屋のドアを開けた。ベッドと棚だけの質素な部屋だ。


「十分でしてよ」


「よかった」


『わ、わー! 勝手に部屋見られちゃったよぅ。恥ずかしいよぉ』


 シンクがなんか言ってる。恥ずかしがるほど汚い部屋でもないよ。


「なんだ、喜んでんのか?」


『恥ずかしがってるんですよぉ!』


「そうか、元気出せよ。これやるから」


『う、うぅ……ありがとうございます……て、これ縄じゃないですかぁ……!』


 俺が渡したのは、ゴブリンの巣に捕まっていたクラリーヌが縛られていた麻縄だ。


『ひ、ひどい!』


 シンクがむくれる。


「じゃあこっちあげる」


 死渉式兵糧丸をシンクに差し出す。最初は勧めても『ちょっと遠慮します……』とか言って断られていたのに、もう死渉式兵糧丸の虜だ。へへっ。


「わーい! ありがとうございます! もぐもぐ……」


 死渉式兵糧丸一つで元気になるんだから、シンクは大分チョロい。どこのちょろインだよってくらいチョロい。

 普通の人には見えないからカモられる事は無いだろうけど、他の悪いダンジョンマスターとかに騙されないかな?……そんな心配してたらキリないな。




 後に俺は、どうしてこのシンクのチョロさをもっと不安視しなかったのか後悔する事になる。

 俺が、もっと気をつけていれば……と、始まった絶望を、止められたのではないかと苦悩することになる。

 穏やかな日常はまだ、誰も知らない物語へのプロローグでしかなかったのだ……とか言ってみたりして。





「シンクってチョロい?」


 巴が唐突に聞いてきた。


「よく分かったな。チョロさの波動でもしたか」


「よくわかったね。その通りだよ」


 どうやら波動がしたらしい。昔から野生動物並に勘がよかったからな。


「まぁ、朝飯前の準備運動だな」


 ドヤ顔をした俺に、巴が手のひらをピタッとくっつける。


「ハッ!」


 ドンッ、と内側に響くような振動を感じる……発勁だな。普通の人間だったら死なないにしても体調が悪くなるから俺以外はやめとけよ……そうか、分かってるか。


「なに?」


 何をしたか一応聞いておこう。


「満にもチョロさの波動を送り込んだ。これで満はチョロくなった」


 ふんす、と鼻を鳴らす巴。


「な、なんだと!」


 そんなバナナっ!


「気にすんなよ、それよりもこれからについて話そうぜ?」


「キャッ、ステキ! ダイテ!」


「ふっ、満をちょろインにするなど容易い……」


「ハッ、俺はどうして……!」


「そろそろ話進めていいっすかね?」


「「はーい、すんませーん」」


 巴と話してるとつい、な?






 《ふやします》


 シンクが虚空を操作する。すると、にゅっともスッとも言えない感じで扉が出現した。

 いつ見ても不思議だなぁ。


 《すきはほうをエラんで。どちらもおなじ》


 クラリーヌが右で、アキルクが左となった。




「おー、ベッド出す余裕はあるか?」


 部屋を二つ作ったのだ。もし、ポイントが足りなかったらシンクのベッドをクラリーヌのにして俺のヤツをアキルクに貸そう。俺は巴と寝ればいいし、シンクは………しょうがないからその枕元でいいか。それに人間、いざとなったら床に坐りこんでも眠れるのだ。たぶん。


『ありますよ。あと、今なんか悪いこと考えませんでしたか? 顔が邪悪です』


「いや?」


 失礼な、俺をなんだと思っている。





 最低限の家具が部屋に入った。二人とも嬉しそうにしている。


「自分の部屋なんて、始めてっす!」


「ふふ、嬉しくってよ。わたくし、なんだかとっても嬉しいんですの」


「二人とも良かったな。明日、本格的に買い物に行こう。あ……そういえば、アキルクは荷物を持ってきてるからいいけど、クラリーヌはどうすんの? 今日の着替えある?」


 現在クラリーヌは身一つで飛び出してきた状態だ。よく考えたらすごいガッツだよな。


「私のを貸す?」


「………………」


 彼女は静かにそう言った。まるで、それが宇宙の心理の如く当たり前かのことであるように。

 やれやれ、それはどういう事だろう? よくわからないな。

 僕は二人をじっくりと見比べた。あるいは、女性をそのように見るような事は失礼かもしれないが、僕はそうせざるおえなかった。

 人間には好むと好まざるとに関わらず、体格差がある。クラリーヌは子供たちを許す聖母のようであったし、逆に巴は──そのような例えはもしかしたら不適切かもしれないが──その聖母に抱かれぬ可哀想な子供のようであった。

 頭のどこかで『よくわからないな』という声がした。それは自分のものにも聞こえたし、誰のものでもないかのようにも聞こえた。あるいはただの幻聴かもしれない。

 それほどにクラリーヌと巴には共通点と呼べるものはなく、僕を動揺させた。

 僕は、ゆっくりと息を吐きながら言った。


「オーケー、君が服を貸そうと貸すまいとそれは君の自由だ。どちらもいい選択かもしれない」


 ぽかんとした様子の巴に辛抱強く言った。やれやれ、僕は首を横に振った。





「目覚めよ」


「ごほぉ⁉」





 巴にぶん殴られた。軽く吹っ飛び、なんとか体勢を立て直す。頭の中が急にスッキリした。


「ハッ、俺は何を…………」


 なんだかノーベル文学賞を掴めそうだった気がする。


「サイズ・サイズ・サイズ」


 ぼそりと呟く。


「洗脳されてた」


「確か俺は……世界の格差について考えさせられていたはずだ」


「なんかムカつく」


「けばぶっ!」


 巴さんよ、もっかい殴ることなくないかい? そろそろ泣くよ? 純粋な痛みで。いやごめんて。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「革命!」


 巴が誇らしげにキングのカードを4枚出す。


『うっ、くうぅ……革命だから、えぇと……うわあぁぁ、パスで』


 シンクがしょぼしょぼと言う。


「パスだとよ」


 ひと段落つき、親睦を深めるためにトランプ大会を開いていた。今は大富豪。ルールは少し説明しただけで理解してくれた。トランプのような物はこの世界にはあるらしい。しかし、占いに使われる事が多く、それを使った遊びはほとんど無いようだ。

 ちなみにトランプについては、遊ぶ用を作っていたのだ。

 シンクは実体が無いわけじゃないので、ポルターガイスト参加だ。しかし、周りに顔が見えないというアドバンテージを覆すレベルで分かりやすいので、今のところを最弱である。

 だってさ、ババ抜きでジョーカー引くたびにあからさまに震えるんだよ? 持ってるカードが震えて仕方ないわ。


「ふふん」


「えーと、あ! ありましたわ!」


 クラリーヌが5のカードを出す。ババ抜き、ジジ抜き、7ならべとやったが、巴とクラリーヌは安定して運がいい。

 強さで言ったら、巴>俺≧クラリーヌ>アキルク>シンクの順番だ。

 巴は昔からこういう運の介在するゲームが異様に強かった。それも一つの才能である。

 俺もこれまでの経験なんかで同じくらいだが、クラリーヌの引きも相当いい。アキルクは普通だ。シンク? アイツは論外ってくらいに運が悪い。


「5かー。じゃら3で切って……10!」


「8っす!」


 アキルクも順調に手札を減らしつつある。


「5」


『ま、待ってください〜……パスで』


「また、パス」


「シンク弱い」


『えぇん、トモエさんの引きが良すぎるぅ』


「諦めろ、巴の運の強さは一種の才能だ」


「確かに、そうっすよね」


「4ですわ! わたくしも負けていなくってよ」


「クラリーヌさんも運がいいっすね〜」


「俺、パス」


 3とジョーカーは持ってねぇわ。


「自分も無いから、パスっす」


「ふふん」


 すると、巴が自慢気に手札を乗せた。


「ジョ、ジョーカー⁉ 今まで隠し持っていたというのか!」


『なかなか出てこないなって思ってたら!』


「今使うっすか⁉」


「今しかないと思った」


「こ、これからどうなりますの⁉」


 巴が演技じみた調子で両手を広げる。そして、その無表情を一気に笑みの形に崩す。


「ハッハッハ!! とくと見るがいい! この一気にの大勝負をっ!!!」


「こりゃ一本取られたな! まばたきする暇なんてないぜ!」


 こうして遊んでいる間に、夜は更けていく。とても楽しい、一時だった。










 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











「おっはよぉございまぁ〜す!」


 次の日、俺達は都市に入るための門の前に来ていた。

 目的はただ一つ。今まで、放置していた問題を解決するためだ。仲間に迷惑はかけられない。


「あ、ジムさんだ!」


 ここに入ったときに、親切にしてくれた門番の兵士ジムさんに駆け寄る。


「げっ」


「「げっ?」」


 巴と同時に首を傾げる。ジムさんの対応が若干ヒドイ気がしなくもない。


「いやいや、何でもない。それより御用の向きは?」


「いやー、ちょっと相談があって……」


「どんな?」





「俺達の尾行の人たちってもう要らないですよね?」


 ほら、ミッシェルさんとか空気になりつつあるし。説得する道具も見つけたし。













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