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13話 「冒険者パーティ完璧な円は錬金術師を探していました。そこに貴女が現れた!つまり、これは天命!」







「起きろー。えいっ」


 やる気のない声で巴が手を叩く。そして、その声とは裏腹にパァンッッ! という、大爆音が辺りに響いた。

 うるせー。咄嗟に耳を塞ぐ。隣を見ると、アキルクも耳を塞いでいる。

 一番近くでそれを聞いていた少女は、1番煩く感じるだろう。鼓膜破れてないかな?


「ん……なに……?」


 お、少女が目を覚した。警戒させないよう、そーっと近づく。


「だ、誰ですの⁉ あなたたち!」


 自分のおかれている状況に気づいたのか、少女が身を起こした。

 翠の美しい瞳が警戒心を顕にして俺達を睨みつける。

 かなりの美少女だ。


「怪しい者じゃない。ただの冒険者です。

 それより覚えてないんですか? あなた、ゴブリンに捕まっていたんですよ?」


 冒険者カードを差し出しながら、ゆっくりと言う。


「そうでしたわ! わたくし、急にあのけだもの達に捕まってしまって……。

 あなた達、助けてくださってのね? ありがとうございますわ」


 随分と理解の早いお嬢様だ。


「いえいえ、偶々ですので……ゴブリンには何もされていませんか?」


「ええ。連れて来られたまま放置されましたの。ご飯も与えられずにいたので、わたくし疲れて眠ってしまったのですわ」


 どうやら無事だなようだ。運がいい。


「自分、体力回復もできるんすけどするっすか?」


 忘れてしまいがちだが、アキルクはヒーラーだ。


「いいんですの? お願いいたしますわ」


 それにしても、警戒心がないな。お嬢様って不審者とかにすぐ付いていきそう。


「うっす……」


 そうしてアキルクがむにゃむにゃと呪文を唱えながら手を揉み始めた。


「よっ!」


 そして、手を広げる。その手にはちっちゃい元○玉みたいなのがあった。


「はあっ!」


 そして、その玉をお嬢様にぶつける。


「わっ⁉ な、なんですの⁉ あれ? 疲れが飛んでいきましたわ!」


 ○気玉はホントに元気○だった。


「自分の魔法ってちょっと特殊なんすよ」


 とだけアキルクは言った。


「ありがとうございますわ! おかげで元気になりましてよ!」


 瞳を輝かせてお嬢様が言う。しかし……。


 きゅるる……と、可愛らしい音がした。

 お嬢様が顔を赤らめてお腹を押さえる。


「あの、わたくし昨日捕まったときから何も食べていませんの」


 そういえばそう言ってたな。気が回らなかった。


「食べる?」


 それまで黙っていた巴が、袋から死渉式兵糧丸を取り出して言う。


「な、何ですの? これは……」


「食べ物。おいしいよ」


 それは確かに美味しいし、お腹に溜まるけど見た目がでかくて丸いねり消しなんだよな……。


「食べ物ですの……?」


「うん」


 そして、それを示すように自分で一つ食べる。


「市井の方々はそんな物を口にしていらしていらっしゃるの?」


「うん。そうだよ」


 こら、巴。しれっと嘘をつくんじゃない。


「なら……いただきますわ」


 お嬢様がそう言って、死渉式兵糧丸を口にした。


「お、美味しいですわ……」


「ふふん」


 死渉式兵糧丸が認められて嬉しそうな巴。俺も嬉しいよ。


「水いる?」


 巴がリュックからお昼で使おうと思っていたコップを取り出した。


「いただきますわ」


「わかった」


 巴がコップの上に手を翳すと、コップに水が溢れた。


「はい」


「!? 無詠唱……⁉ ありがとうございますわ……えぇと」


「ん?」


 巴が首を傾げた。


「お名前はなんですの?」


 そういえば誰も名乗ってなかったな。


「トモエ・シワタリ」


「トモエ様は魔法使いなんですの?」


「んーん。ちょっとしか使えないよ。魔法使いはアキルク」


「ヒーラーっすけどね。あ、自分の名前はアキルクっす。姓はないっす」


 アキルクが少しだけ頭を下げた。


「俺はミツル・シワタリ。そこのトモエとは従兄妹です」


「そうでしたの! わたくし、クラリーヌですわ。姓は少し訳があって……」


 いかにも貴族っぽい名前だが、何があったのだろうか。


「もしかして、ゴブリンに連れ去られたのもそれが原因で?」


「そうではありませんことよ。だけどわたくし、一昨日に勘当されてしまいましたの」


「え?」


 こんな品行方正そうなお嬢様を勘当するなんて、何があったのだろうか。


「それは困ったっすね。こういう場合は速やかに家に戻すんすけど……」


「家はありませんの。お金も持っていませんわ」


「どうしてそのような事に?」


 とりあえず、話を聞いてみることにした。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「わたくしの家はブレシェ家という子爵家ですの。わたくしは、生まれた時からどこかの殿方に嫁ぐ事が決まってましたわ」


 お嬢様、もといクラリーヌは、本当にお嬢様だったようだ。


「でも、少し問題があったんですの」


「わたくし称号が“錬金術師”でしたの」


「!!」


 なに、錬金術師⁉ ついこの前、『錬金術師ほしーなー』と思っていたところだ。立ち上がりかけたが、まずは話を聞こう。


「それで、わたくし錬金術を嗜んでいましたの。

 それはそれは、得意でしたわ。称号のおかげもあるけれど、わたくし本当に錬金術が好きでしたの。唯一の趣味ですわ。

 でも、婚約する方が……自分と結婚するなら、錬金術は禁止だと言い出して……」


 どうやら、錬金術は男のものであり、女のクラリーヌが錬金術をするなどはしたないと考えられたようだ。

 また、男尊女卑的な考え方の人間でもあったようだ。


「わたくしが抗議しても聞き入れてもらえなくて……相手のお家は伯爵家で結納金も沢山貰えるから御父様も味方になってくれませんでしたの。

 そして、錬金術が許されないならと、婚約破棄しましたの。

 相手も強情な女は嫌いだと同意してくれましたわ。

 でも、それによって御父様が大激怒してしまいましたの。

 そして、わたくしもカッとなって喧嘩をしてしまいましたわ。

 それで、勘当を言い渡されてしまって……でも、わたくし後悔はしていませんわ!」


 なるほど、つまりクラリーヌはフリーなのか。

 錬金術師が欲しいと思い、しらべてみたんだけど、錬金術師は冒険者にはおらず、大体の場合は貴族のお抱えか、自分の見せを持っているらしい。

 そのような錬金術師のヘッドハンティングは難しいだろう。


 ……………。




「貴女のような人材が欲しかった!!」


 気がつくと、俺は全力でクラリーヌの勧誘を始めていた。


「え?」


「どうしたんすか?」


「んふっ」


 こら、笑うな巴。お前にとっても大事な事なんだぞ。


「冒険者パーティ完璧な円(アブソルートサルコウ)は錬金術師を探していました。そこに貴女が現れた! つまり、これは天命!」


 何いってんだと思いながらも、口は勝手に動く。


「素材は用意します狩ってきます! 貴女だけの工房も作りましょう!

 家はひろびろ! 三食保証! お金も弾みます!」


「あの……? それは本当ですの?」


「本当です! もしも、万が一にも俺が詐欺師だった場合、世界に訴えて構いません!」


「どうして錬金術師が欲しいんですの?」




 そこからはもう、正直に全部話して真摯に説得した。

 新人冒険者であること。でも、稼ぎは十分だということ。住居は少し特殊であること。などなどなど。


「古参の中で一人は不安? ご安心を! このアキルクも、最近知り合ったばかりです!」


「え、自分も完璧な円(アブソルートサルコウ)に入っていいんすか?」


「もちろん! アキルクがいいなら」


「やったぁ!」


 よっしゃアキルクゲットォォォォ!!


「前のような生活はできません。家事も分担制です。しかし! 少なくとも貴女の元婚約者よりは充実した錬金術師ライフだけは約束します!」


「約束します!」


 プレゼンは終わった。さぁ、どんな反応だ⁉


「わたくしでいいのなら……」


「「やったぁ!!」」


 いつの間にかプレゼンに参加していた巴と手を取り合う。


「ほんと! ホントですか⁉」


「本当ですことよ」


「な、なんで?」


 自分で説得しておいてアレだけど、こんなにトントン拍子に進むとは思わなかった。


「第一に、わたくし本当に行く宛がありませんの。それに……こんなに、わたくし自身を求められたのは初めてですわ! 感動今しましたの」


 クラリーヌは嬉しそうに言った。


「じゃあ、改めて自己紹介。俺は完璧な円(アブソルートサルコウ)のパーティリーダーのミツル・シワタリ。称号は紙使い。戦闘要員だ。

 ミツルって呼んでくれ。仲間になったんだし……敬語は無くていいか?」


「勿論ですわ!」


 クラリーヌが目を輝かせる。巴、この目を見習え。


「トモエ・シワタリ。称号は奇術師。完璧な円(アブソルートサルコウ)最強……!」


「アキルクっす。故郷ではダドワジグーのアキルクって呼ばれてたっす。称号は祈る者っす。ヒーラーっすけど、戦闘もできるっす」


「クラリーヌです。家名はありませんわ。称号は錬金術師ですわ」


 四人で名乗りあい、握手する。後に世界に名を轟かせる事になるパーティ完璧な円(アブソルートサルコウ)誕生の瞬間だった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「あ、てことはクラリーヌも冒険者に登録しなきゃって事か?」


「そうっすね。戦闘要員ではないんで、絶対にって訳じゃないっすけどクラリーヌさんは今、なんの身分証明もない状態っすし持っといたほうがいいっすね」


 だよなー。


「でも、募集期間終わったよな?」


「でも、月始めの10日間に募集期間を設けてるんですぐ登録できるっすよ」


 今は、月末ぐらいだ。


「そうでしたの。冒険者なんて、わたくし楽しみですわ。

 三人も冒険者ですわよね? ランクはどれくらいなんですの?」


「さっきも言ったけど、俺達本当に新人だから、まだ最低ランクだよ」


「でも、新人冒険者募集と同じ時期にランク査定もあるんすけど、たぶんそれで昇格するっす」


 え、そうだったの? 楽しみだなぁ。次はD級だよね?


「とってもお強いのですね」


「二人はともかく、自分はまだまだっす」


「その中でも最強は私」


 巴がさり気なく自慢する。キライじゃないぜ、お前のそういうところ。


「まぁ、女の子なのに強いんでして?」


「うん」


「すごいですわ!」


「へへーん」


 調子に乗る巴。


 そうやって喋りながら、冒険者ギルドまで戻った。







「今日は大人しくゴブリンを狩ってきました」


 昨日と同じ受け付けのお姉さんだったので、ドヤ顔で言う。


「アキルクさん、どういう事ですか?」


 何故アキルクに話をふる。ゴブリンの巣って潰しちゃ駄目だった?


「ゴブリンの巣を殲滅してきたっす。彼女は捕らえられていたっすけど、幸い何もされていないっす」


「それはよかったです。大変でしたね」


 安心したようにお姉さんが言った。


「ありがとうございますわ。おかげで元気そのものですのよ」


 クラリーヌが言う。本当によかったな。


「でも、完璧な円(アブソルートサルコウ)のお二人は“大人しい”の意味を辞書で調べ直したほうがいいかと」


 お姉さんが言う。


「えー」


「な、何故ですか」


 ゴブリンじゃん! ゴブリンだよ⁉


「確かに、ゴブリン数匹なら納得したんですけど、なんですか! このゴブリンの魔石の山は! 明らかに新人冒険者パーティがやった量じゃありませんよ⁉」


 お姉さんに、鋭いツッコミを入れられてしまった。そういうつもりはなかったんだけどなー。

 あと、実はそれはまだ一部です。クラリーヌの錬金術用に持ってるのがあります。なんて言えなくなってしまった。


「そんなー」


「まぁ、功績は素晴らしいものですし、咎めるつもりはありませんけど。

 お二人はとにかく、常識をつけていただきたいです」


「常識ってなんだろう? 普通ってなんだろう? みんな違ってみんないい」


 お、ちょっと名言っぽいんじゃないか?


「今、そういう話はしていません。仮パーティ期間だけでも頼みましたよ、アキルクさん」


 アキルクの信頼度が異常な件。


「あ、その事ですけどアキルクと正式にパーティ組むことが決まりました」


「……おめでとう御座います」


 その日は、お金を受け取って手続きをして帰った。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「俺達の住んでるところ、借家じゃ無いからそこに住む?」


 そうしてくれると非常にありがたい。


「そうなんすか? ちょっと待ってくださいっす。すぐに今のところ引き払ってくるっす」


 身一つで飛び出したクラリーヌはともかく、アキルクは今住んでいる宿屋をどうにかしなくちゃいけない。


「あ、いいよ。一緒に行こう」


 シンクはどこからでも呼び出せるし、俺達に付いている見張りを巻くのも面倒くさい。

 アキルクの部屋から迷宮(お家)まで転移しよう。


「どういうことっすか?」


「見ればわかるよ」






「ここがアキルクの部屋か」


「うっす。さっさと荷物を纏めるから待ってほしいっす」


 荷物、といっても着替えなどの必要最小限の物しか持っていない。

 うし、シンク呼ぶか。


「おーい、シンクー」


「な、なんすか⁉」


「満の奇行は今に始まった事じゃない」


 巴がひどい事を言う。奇行っていったらお前も相当してるだろ。


『はーい……誰ですか? この人……』


 すぐにシンクは出てきた。宙に浮いている。


「この前話したアキルクだよ」


『その隣の女の人は?』


「急で悪いけど、この人も一緒に住むことになった。錬金術師のクラリーヌだよ。いい?」


『んん、本当に急ですね……全然いいですけどね。人が増えるのは嬉しいですし。お部屋、作るんですか?』


「ポイント足りる?」


「やってみない事には分かりません」



「どうしたんすか? 急に虚空に向かって話し始めて……」


 おつむが病気の人を見るような目で俺を見るアキルク。


「満はね、こころが病気なの……」


「変なこと言うな巴」


 巴の頬を引っ張る。もちろん優しく。

 シンクが他の人には見えないぶん、そういうことを言うと信じちゃうだろ。


「わー、満がいじめるー! うー、ウソウソ、気配感じない?」


 巴よ、普通の人は感じない。


《シンク・ラビリンスです》


 自分の存在を証明するようにシンクが、小さな黒板を取り出した。おい待て、今どうやって取り出した?


「宙に黒板が……」


「嘘じゃないんすね……!」


《シンク・ラビリンスです》


「そう言ってるだろ。そう、シンクは俺の式神……使い魔みたいなものだ」


 式神なんて言っても分かんないと思い、咄嗟に使い魔と言う。


「うわー、訳分けわかんないっす。やっぱり、普通じゃないっすよ」


「そこに人がいるんですの⁉」


「うん。で、俺達の住んでるところは迷宮なんだけど、シンクはそれに深く関わっていて……」


「「め、迷宮に住んでる⁉」」


 そう言った瞬間、アキルクとクラリーヌが同時に言った。仲いいな。

 さて、どう説明したもんか。











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