表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/68

12話 「傷ついた。ちょー傷ついた。辛辣すぎない? 自分が本読まないからって。これは、俺に出店の焼きリンゴォを奢るしかないな」







「どこじゃどこじゃ、本屋はどこじゃ」


 巴が地図を片手にうろうろ歩く。やめい。


「こっちだよ」


 真反対の方向に行こうとした巴の手を引っ張る。何してんだ、お前は。


「ふぃーん。でも、本屋なんてあったんだね。

 なんか、紙とか貴重なイメージあるけど」


「SO☆RE☆NA」


 でも良かった。本屋がちゃんとあって。色々あったらほしい本あるし。ふふふ……。


「テンション高っきもっ」


「傷ついた。ちょー傷ついた。辛辣すぎない? 自分が本読まないからって。

 これは、俺に出店の焼きリンゴォを奢るしかないな」


 この世界で林檎のようなものはリンゴォと呼ばれている。

 出店の焼きリンゴォ美味いんだよな。


「おいおい冗談言ってんじゃないよ。オレたち財布は共有だからオレが払ってもお前が払っても一緒だぜ? 分かってんのかコンコンチキめ」


 ここでアメリカンなノリを選んでくるか巴……!


「何言ってんだよ。お前の金だって思うだけでも気分がいいんだよこのオカリナ野郎」


 だったらアメリカンに対応するまで!


「それもそうか」


「「HAHAHAHAHAHA☆」」


 あー、楽しい。

 そんな馬鹿な無駄話をしながら本屋へと向かった。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「おお、星占いの本もある!」


 これで陰陽師の基本スキルたる易ができる……!


「ねー、まだー?」


 巴が大量の串焼き肉を抱えてなんか言ってるけど気にしない。それ食って待ってろ。


 ここに本が()るのだ。



 俺は活字が好きだ。この世界に来てからは日々の生活に一杯々々だったから、趣味を解禁させる事は無かった。

 しかし! 金は貯まったし住処も得た! 紙も気軽に流通しているとなれば我慢する理由などない! 活字パーティーじゃワレ!


「かっつじ! かっつじ! かっつっじ!」


 それに、俺が活字を読み知識を得るのは大切なことだろう。今日は知識の得られる本ばっかり買うつもりだったし……あ、面白そうな小説がある。







「あざっーしたぁ!」


 コンビニのバイトじみたお兄さんに見送られて、俺達は本屋を出た。

 結局、ギルマスさんオススメの魔物の本と、星の本、占いの本、伝承や伝説の生物とか妖怪をまとめた本、薬草の本と小説を買った。


 どうやらこの世界、紙みたいな材式の草が生える見た目がキモい木があるらしい。

 それを毟って終了という訳にはいかないけれど、加工をしたら簡単に紙になるようだ。触った感じは、辞書にある、ぬめりけのある紙の材質に近い。


「沢山買ったね」


「うん」


 巴と一緒にテクテク歩く。俺は本を、巴は夕食の材料を抱えて歩く。

 監視として俺たちについているミッシェルさん達は悪いけど巻かせてもらった。


「何故かもう夜だよ」


 夕飯遅くなんじゃねーかよ、と巴の死んだ目が語ってくる。あ、目が死んでるのは元々か。


「気付いたらこうなっていた。反省は然程(さほど)していないし、後悔も全くしていない」


 お前は散々肉食ってだろ、という思いを込める。

 でも巴はあれじゃあ足りないと思っているに違いない。


「などと意味不明な供述を犯人はしており、現在は事件との関係性を調べています」


「以上、ニュース速報でした……巴も読む? 小説あるけど」


「国語の物語文より長い文章は眠くなるからいい」


 これだから脳筋は……。どうせ面倒くさいとか思ってんだろう。


「裁判長、満も人のことは言えないと思います。満も脳筋です」


「静粛に! 物的証拠を見せなさい。あと心を読まない」


「小3の時」


 巴が静かに語りだす。


「ウッ」


 何故それを出す!


「教室のスライド式のドアをパキッてやった」


「ぐぅ……」


「高1のとき」


「グハァッ!」


 やめろ、それは決定的証拠になってしまう!


「クソ教師1人をえげつない手で辞職させた。このインテリヤ○ザめ」


 ひどーい、傷ついたー!


「異議あり! あれらは仕方がなかった。それに巴の方がもっとやらかしていました!」


 あれは……仕方がなかったんだ! それにお前のほうが酷いからな! こら、下手くそな口笛吹くんじゃない!


「異議あり! 証拠がない!」


 死んだ魚の目で主張してくるけど、たんまりあるぜ、証拠なら。


「小学校入学早々に机壊した。学校の屋上から飛び降りた。公園の桜の木を蹴り飛ばして折った。体育館破壊した。鉄棒曲げた。不審者を5人はボコボコにした。いじめっ子も土下座させた。関わんなって大人に言われたスパイに接触して結局ボコボコにした。他にもエトセトラエトセトラ……」


 やらかした回数は巴の方が多いんだよ!


「グハァッ!」


 ともえ は こころ に だいダメージ を おった!


 お互いがお互いのやらかしを知っているのに、証拠の提示を求め合うのはご愛嬌だ。

 しかし、掘り返せば掘り返すだけあるな、互いの黒歴史。


『何してるんですか? 迷宮の目の前で』


 巴と寸劇を繰り広げていると、外の様子が気になったのかシンクが出てきた。

 そうだ、迷宮(お家)の前についていたんだ。


「いやー、諸事情によりちょっとね」


『そうだったんですか……?』


 そして、一度困惑したような顔をしたけど、シンクが小さな黒板を取り出す。シンクの姿の見えない巴と会話するためだ。


《おかえりなさい》


「「ただいま!」」


 

 







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










《そんなことがあったんですね》


 夕食の席で、シンクに今日あった事を話す。

 今日の夕食は、出来合いの肉の塊とパンだ。やはりこのパンは硬い。この世界のパンは全部硬いのだろうか。

 問題なく噛み千切れるけど、柔らかいパンも食べたい。

 あと、調味料も少ないぞこの世界。スパイスかけとけば美味しくなると考えているフシがある。この肉の塊も、胡椒をドバドバかけた形跡がある。

 フォークで胡椒を削ぎ落としながら食べた。

 やっぱり、自分たちで作った方が美味しいな。


 閑話休題。



「そのアキルクってやつなんだけど中々に鍛えがいがある」


 体格にも恵まれているし、才能も感じる。

 巴も乗り気だ。大方、強くして自分の練習相手にしたいのだろう。


《ナカマになったらカレもここにスムのですか?》


 シンクは器用に、片手で食事、片手で文字を書いていた。大変そうだな。


「まだ分からない。信頼できる奴だったらいいかなって思ってる。勿論、シンクが嫌なら考えるけど」


 冒険者パーティのメンバーは、大体同じところに住んでいるらしい。その方が都合がいいからだ。


「うん」


《いえ、ヒトがふえるのはウレシイです》


 そう黒板に書くシンクは本当に嬉しそうにしていた。


「ならよかった」



『あっ、そういえば話があるんですけど……ご飯が終わったあといいですか?』


 すると、シンクが困ったような顔をして言った。


「ん? いいよ」


 何だろうか、迷宮関連なら大変だ。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「で、話って?」


 夕食も終わり、俺はシンクに話を聞く。

 巴はそこらへんで筋トレしている。


『あの、私がダンジョンポイントで色んな物を貰えるのは知ってますよね?』


「ああ」


 シンクはダンジョンマスターだ。貯まった魔力をダンジョンポイントとし、迷宮を拡張したり、物や魔物を召喚できたりする。


『それが……なんかすっごく主張してくるものがあって……思わず召喚してしまったんですけど、なんだか分かりますか?

 うぅ……硬いし匂いもあんまり無いし……全く分かりませんよぉ』


 そう言って、困り顔のシンクが空間から何か、布袋のようなものを取り出した。

 それを受け取ると、ザラザラとした感触がした。

 これは……もしかして……………。



 そして、中身を見て俺は感動に打ち震えた。




「こ、米だぁぁぁぁ!!」


 米だ、紛れもない米だ。そして精製米。

 日本人のソウルフード。これがなければ食事は始まらない。

 確かに、麺もパンも美味い。それは認める。しかし、米だ! 米が無ければ何も始まらないんだ! 米の無い食事なんて喋るネズミの居ないのいない千葉県にある某夢の国だよ! 俺は、それを異世界に来て初めて実感した。

 やはり日本人の原点は米であり、米を超える主食は未だかつて存在したことがないとニーチェとかソクラテスも言ってた!(嘘)

 とにかく、米が手に入った。これさえあれば大抵の料理は美味しく感じる!!


「米ぇぇぇぇぇぇぇ⁉」


 俺の叫び声に、巴が反応して秒でこちらに駆けつける。


『はやっ、こわっ。え、ていうかさっきの動き何ぃ……? キモチワルイ……』


 シンクがなんか言ってるけど気にしない。


「ありがとぉぉぉぉぉぉ! ありがとぉぉぉぉぉぉ!!」


 つーかこれ見つけたのシンクだよな! 流石だシンク! よっ、世界一!


「神様仏様シンク様ぁ!」


 巴も同じ事を考えていたようだ。シンクの方に向かって、祈りを捧げている。


『え、え、何⁉ 怖いよぉぉ……!』


 俺達の行動についていけていないシンクは怖がるだけだけど、この感動は止められない。

 当たり前のようにあったのに、無くなって初めてその大切さに気が付いた。

 ありがとう、ありがとう。


「よーし、よし。いい子だ、シンク。ナデナデさせろ。異論は許さん」


 シンクの頭をワシャワシャと撫で回す。よーしよし、埼玉県に(うごめ)く数々の動物を虜にしてきた俺の撫で技を味わうがいい……!


『うっ、くうぅ……屈さない、屈さない…ひあぁ……ううぅ』


 シンクが落ちた。


「フハハハ!!」


「シンクの位置はここか……!」


『わー! わー! 気持ちいいのとくすぐったいのが同時に……! うにゃ、ひぁぁぁ……!』


 ビクリ、とシンクが目を開ける。

 巴もそれに混じって、シンクの位置にアタリをつけてくすぐったからだ。

 なんと、たまたま足をの辺りだった。さすともだ。


「米ー!」


「米ー!」


『こ、こめー⁉』


「イエス! 米!」


『こめ!』


「エビバディセイッ! 米っ!」


「「『米ー!』」」



 そうやって三人で遊びまわり、夜食には米を炊いて食べた。

 米釜は召喚できたので、それで炊いた。付け合せも何も無かったけど、釜で炊いた炊きたてのご飯は、最近食べた食べ物の中で1番美味しく感じた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「と、いうわけで俺達は常識を一つ身につけたんだ。アキルク」


 今日はアキルクとのパーティお試し期間2日目だ。


「安心してくれ。私達は生まれ変わったんだよ、アキルク」


「そ、そうっすか……」


 次の日、俺達はアキルクにドヤ顔で魔物図鑑を買ったことを報告した。


「ゴブリンは弱い!」


「常識っす」


「ロックバードって、一人で挑む魔物じゃないんだよ。知ってた?」


「3歳児でも知ってるっすよ」


 くっ、会話を上手に流してくるぜ、アキルク……!


「なので、今日は提案なんだけど……」



 ゴブリン狩らない?







 と、いう訳でやって来ました一番近くの森!

 アキルクも俺達も十分強いからもうE級の依頼とか請けるの面倒くさい! ということで持ち込みするつもりでやって来ました!


「そういえば、迷宮でやって以来ゴブリンを倒したことないよね?」


「うん」


 巴も、そういえばといった調子で答えた。


「普通、みんなゴブリンから始めるんすけどねぇ……」


 アキルクがため息をつく。


「アキルクもゴブリン狩ったの?」


「故郷でやったっす。弱いのに沢山湧いてくるから絶対狩らなきゃなんないっすから、子供たちの獲物っす」


 ゴブリンは、成人しても人間の子供並みの強さしか持たない雑魚魔物だ。

 訓練した人間なら、多数を相手にするならばともかく、一対一だったら滅多に負けることがない。

 ちなみに、見た目は緑色のいかにもゴブリンといった感じのもので、額の魔石はちっちゃいという。


「そうなんだ」


「うん……あ、ゴブリン」


 気配を感じて視線を巡らせると、一匹のゴブリンが死んだ兎を片手に歩いていた。完全に、油断している。


「誰がやります?」


 俺達は遠いところにいる上に、気配を消して潜んでいる。ゴブリンは気付かない。奇襲をかけるなら今だろう。


「いや、泳がせる」


「?」


 その一言に、アキルクはきょとんとしている。


「ゴブリン一匹だと、安いもんね」


 巴は俺の意図に気づいたようだ。


「今日は三人で山分けな」


 せっかくやるなら、盛大にやらなくちゃ。






「なるほど、集落を一気にやる作戦っすか」


 アキルクが、目の前に広がるゴブリンの集落を見て言った。なんか諦めたような雰囲気が漂っている。

 ゴブリンの巣は出来損ないの、大きな竪穴式住居のようだ。


「うん。さっきも言ったけど、作戦は奇襲で全滅。結界だけ張ってるからこいつらは逃げられない。誰が何匹狩っても、報酬は山分けだ。

 ゴブリンを狩るときに気をつけなきゃいけないことって何?」


 作戦自体は、気を抜かない限り成功するだろう。しかし、ゴブリンなんて狩ったことないから、セオリーは聞いておかなくちゃならない。


「さっきチョコマカ動いてたのはそういう事っすか。

 そうっすね……まず、負けることは無いと思うっすけど、死体は適切に処理するっす。今回は魔石を取れば問題ないっすね。

 あと……ゴブリンの集落には…………女性が囚われている可能性があるっす……その……」


 言わなくても、アキルクの言いたいことは分かった。ゴブリンに乱暴されてしまった女性だろう。

 ゴブリンは、人間に非常に近い身体をしているため、人間の女性がゴブリンのオスの性の対象にたるのだ。


「見つけ次第、保護か」


「うっす。あと、基本的に集落は破壊っす」


「また、ゴブリンの集落を作らせないため?」


 それまで黙っていた巴が口を開いた。


「そうっすね。ゴブリン討伐の注意点はこれで以上っす」


「わかった」


「行くか──巴、一人で全部狩るなよ」


 油断すると、巴に全部取られかねない。


「おっけー」


「みんな、準備はいいか?」


「いいっす」


「ばっちり」


「じゃ、行くぞ!」



 そうして俺達は、走り出した。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー











 開戦の狼煙は巴の投げた投げナイフがゴブリンの頭を貫き、額の魔石が割れる微かな音だった。


「!?」


 自分が何をされたか理解できぬまま、ゴブリンは即死する。

 それと同時に飛び出した俺達は、ゴブリンの巣の蹂躙を始めた。


「出てこい! 相手してやる!」


 巣を破壊しながら、その場にいたゴブリンの腹を思いっきり蹴る。


「ガッ」


 ゴブリンは後ろへ吹っ飛び、巣の一部に大穴を開けた。


「次はお前だ!」


 得物として現在使用している鉄製の混紡を振り回す。

 怯んだのか、ゴブリン達は逃げるがその前に倒す。





 一匹、二匹、三匹……もう、数えることすら無くなってきた。それなのに、ゴブリンはどんどん湧いてくる。

 


「くふっ……」


 自分が興奮しているのが分かる。体中が熱い。変な笑い声が漏れる。

 戦いにより、このようになってしまうのは、死渉の特性だ。

 相手が強ければ強いほど、興奮する。

 今回は敵は弱いが数は多い。しかし、その分多く戦える。

 同じゴブリンでも、迷宮のときのように途切れ途切れに少数が迫ってくるのではない。ひっきりなしに、大勢だ。



 こういうのを待っていた!



 もっと来い、もっともっともっと、俺を楽しませろ。

 立てよ、相手になれよすぐに死にやがって……。




 ………いけない、落ち着け。


 興奮と喜びは原動力に、身体は燃やせ、しかし頭は冷静にしろ。

 死を悦ぶな。己の欲望に呑み込まれるな。そのままでは怪物になってしまう。


「ふぅ……」


 教えを思い出し、頭を冷静にする。一部だけでも、こういう冷静な部分がないといけない。


 死渉は特殊で、その力は強大だ。自制をしなければ、ただのバケモノとして世間から石を投げられる羽目になる。

 まだまだ修行不足だな。


 ふと、巴の方を見ると相変わらず電光石火の早技でゴブリンを殲滅していた。

 アキルクは、確実に自分の身を守りながらゴブリンを倒している。

 目立った外傷はなさそうだ……アキルクって本当にヒーラーだよな?


「グアッ!」


 おっといけない。よそ見をしていたら、ゴブリンに迫られてしまった。

 ゴブリンの持っていた質の悪い剣を左手でへし折り、それをゴブリンの首筋に射し込む。肉の裂ける、気持ちの良いものではない感触がする。

 錆びた剣を使ったせいでかなりの力技になってしまった。

 ついでに、後ろにいた奴のこめかみに、振り向きざま棍棒の石突を入れる。

 その近くにいた奴を棍棒で殴り、その隣のやつは蹴り倒す。

 そうして暫くの間、戦いに没頭していった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










「これで全部、か」


 もう、ここにはゴブリンの気配はない。


「あとは魔石を取って囚われた人がいないか探して、ここを壊すだけか」


「そうっすね。じゃ、自分は魔石取ってるっす」


 そう言って、アキルクがしゃがみ込みゴブリンから魔石を取り始めた。

 ゴブリンは肉も食えないし、素材になるところは無いから、魔石を取ったらおしまいだ。

 魔物は、魔石を取って暫くしたら消えてしまうから死体を燃やす必要もない。


「俺も手伝うよ。巴が人を探してくれ」


「わかった」


 もし、女性が囚われているのなら、同じ女の巴が行ったほうがいいだろう。


 巴が歩き始める。この場所は、なんと拙いながらも地下室があった。

 もし、人がいるならそこだろう。




 俺はしゃがみ込み、ナイフで魔石を取り外し始めた。


「すっごい多いっすね。ゴブリン」


「だな、大規模な集落だったのかな」


「かもしれないっすね。やっぱ、ゴブリンは定期的に討伐しないとすぐに増えちゃうっす」


 なお、その作業は非常に単純で飽きるものだった。







「みつるー。きてー!」


 ゴブリンの魔石採取に辟易としていると、下から巴の声がした。


「どうしたー?」


 下に行くと、巴が千切れた麻縄を片手に立っていた。


「もしや人でもいたか」


 そう言うと、巴が困ったような顔をした。


「よく分かったなゴザエモン。褒めてつかわす。褒美を与えよう。

 ついでにこの人起こして」


 そう言って千切れた麻縄を渡してくる。ハイハイ、いらないのね。


 なんでお前は困りながら殿様の真似をするんだ。そして誰だゴザエモンって。ゴザエモンて……。


「ハッ、お褒めに預かり光栄です」


 そう言いながら、巴の後ろを覗き込む。


「すぴー、すぴー」


「…………」


 そこには、こんなところに誘拐されたのにも関わらず呑気に眠りこける一人の少女の姿があった。よく寝れるな。

 服も、薄青の髪も乱れた様子はなく、乱暴はまだされていなかったのだろう。よかったな、幸運なこった。


「どうする? 私が縄を千切ったときも満を呼んだときもこの調子だったけど」


 ちょっと、起こすのは気が引けるほど気持ちよさそうに眠っている。


「とりあえず、外に運ぶか。で、魔石取り終わっても寝てるなら起こそう」


「わかった」


 俺は少女を横抱きに抱えた。冒険者ではないな。服が市民のものだ。


「アキルクー。なんか布とかある?」


「あ、いたんすね……寝てる⁉ あ、はい外套が一つ……大丈夫なんすか?」


 アキルクが驚きながらも外套を渡してくれた。


「うん。なんか無事。寝てるから寝かせてあげよう」


「了解っす」


 目が届く位置にある平たい地面に、少女を外套でくるんで置いておく。

 そうして、作業を再開した。





 結局、少女は魔石を全部取り終わっても目覚めなかった。


 いい加減起きろや。















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ