伊織side6
頼のマンションを出て、琉生の車に乗る。
車内は、会話が無くカーステレオから流れてくるDJの声が響く。
その静けさの中。
「琉生…。ごめんね」
沈黙に耐えられなくなって、私はそう口にしていた。
「何が?」
冷たい声音で、思わぬ返事が返ってきて戸惑う。
怒らせちゃった……。
それでも口にせずには要られなくて。
「勝手に行方を眩ませたこと…と逃げちゃったこと……」
始めのは、家を出て連絡しなかったことに対して、後のは今日の事に対してだった。
それと。
「ちゃんと事情を聞かなかった私が悪いね」
さっきの説明を聞いたら、仕方ないなって思ってしまったもの。琉生らしいって…。
私も、久し振りのデートが嬉しくて浮かれていたから、あの現場を見て頭に血が上ってしまっての行動だったから…。衝動的に動くのはよくないって、改めて勉強させてもらった。
「変な勘繰りをせずに、琉生に聞けば良かった…。そしたら、こんなにも胸を痛めることなかったのに、ね」
また、涙が浮かんで手の甲に落ちる。
本当に情けないな……。
琉生の手が延びてきて、頭に優しくポンポンする。
「伊織の泣き虫は、治りそうにないな」
優しい声で言ってくる琉生。
泣くのは、琉生の前だけだもん。
「…ヒック。私だって、泣きたくて泣いてるんじゃない…んだよ」
自分の感情がままならないんだもん。
「伊織…。ごめんな。今まで不安な思いさせて……。オレたちの事、話しても良いよな。何かあったら、オレが護から」
その言葉に琉生の方を見る。
真剣な横顔で前を見てる琉生に。
「う…うん」
って、返事をしていた。
琉生とすれ違うのはもう嫌だったから……。
二日間離れただけで、愛しさが募っただけだった。
それだったら、堂々と宣言した方がいいと思って頷いた。
家に着き、リビングのソファーに座らされた。
「ちょっと、待ってろ」
琉生はそれだけ言い残して、リビングを出ていく。
何を言われるんだろうと、そわそわして待ってると。
「伊織……。この間渡せなかった"モノ"今渡させて……」
って、いったい何の事やらさっぱりで、琉生の行動を見ているしか出来ない。
すると、目の前に琉生が来たと思ったら、膝間付いて。「今回の事で伊織には不安にさせてしまったかもしれない。だけど、オレは伊織とこれからの一生を一緒に生きていきたいと思う。不甲斐ないオレだけど結婚してください」
と、真剣な眼差しに少し甘くなってる目許が、私を見つめてくる。
これって、プロポーズ!!
琉生は、手にしていた小箱の蓋を開けて見せてくれる。
それは、前に雑誌で見つけていいなと思ってた指輪だった。
覚えててくれたんだ。
感激して、両手で口許を押さえてしまう。
そして、出てきた言葉は。
「私…でいいの?」
だった。
他の人とは違うと思っていても、愛されてる自信がないのだ。
「伊織しか要らない」
と堂々と宣言する琉生の言葉を聞き。
「…はい、……宜しくお願いします」
って、消えてしまいそうな声しか出なくて、彼にちゃんと伝わっているか不安になる。
その不安は、彼の行動で払拭された。
琉生は、私の左手を捕るとその薬指に指輪を嵌めてくれたから。
「伊織……。一緒に幸せになろうな」
って言葉と口付けが私の目許に落ちてきた。
その後、違う意味で啼かされたのは、ご愛敬。
これにて、完結です。
読んでいただいて、ありがとうございました。