プロローグ
《幻鬼》とは、平安時代に誕生したとされる、鬼によく似た怪物のことである。
誕生した経緯、理由などは一切不明であり、古来より表の世界にこのことは広まっていない。よって、一般人は知る由もないであろう。
《幻鬼》の特徴としては毎月4日に姿を現すということ。最初は夢の中で数分程度、会う機会が増えるほど、夢を見る時間は増えてゆき、最終的に現実となる。これを《現鬼》と呼ぶ。
《現鬼》に会ってしまったら、追い掛け回され、食われて、この世から存在自体が消える。
インターネット掲示板に書いてある《幻鬼》と呼ばれる、化け物についての書き込みである。
傍から見れば、ただの厨二病を患った痛い中学生の妄想書き込みに見える。
しかし、私はこれを読んで足をガタガタ震わせている。
なぜなら、私は半年前から毎月4日にこの《幻鬼》と呼ばれている怪物に会う夢を見続けているのだ。
最初の夢は船の望遠鏡をのぞくと、遠くの島に角の生えた生物がうっすらと見えた。
次の夢は砂漠で行き倒れていると、少し遠くに角の生えた鬼のような生物が見えた。
その次の夢はさらに近くに、そのまた次はもっと近くに見えた。
そして、昨日見た夢で、《それ》は私の目の前にいた。皮膚は黒く、2本の雄々しい角、飢えた目付き、鮫のような鋭い牙。私の思っていた、幼少期に見た絵本の鬼とは似ても似つかないくらい恐ろしい。
夢であることが不幸中の幸いだった。
恐怖のせいか、夢のせいか、体が動かない私の目の前で《それ》はおぼつかない口調でしゃべり始めた。
(おでの・は・鬼・つ・で・・えをくっ・や・)
と言われたところで夢は終わった。
はっきりとは聞こえなかったが、間違えなく「鬼」という単語を口に出していた。
そして、最後に「くってやる」っと・・・
もし、この掲示板の書き込みが正しいのなら、間違えなく次の夢で私は殺される。
「私はどうしたらいいの・・・」
思わず声が出てしまう。
私はこのまま何も抵抗できず、殺されてしまうのか。もしかしたら、助かる方法があるのではないか。
頭の中はパニック状態だった。
そんな時、書き込みへのコメントで一つ気になったものがあった。
【名無しの僧兵】
とある山奥で僧兵をやってるもので~す o(≧∇≦o))))
もし、《幻鬼》の症状がある方いらっしゃいましたら、これから書く住所をお尋ねくださ~い
文章はどう考えても胡散臭い。
「いったいどこの誰なの?こんな不謹慎な書き込みをしたのは・・・」
私は頭を手で押さえながらぼそっと呟いた。
いや、待てよ。
この書き込みには住所と共に電話番号が書き込まれていた。
「はははは。って、私は何を考えているんだか」
繋がるはずがない。どう考えてもただのイタズラコメント。電話をかけようとした私はバカだ。
そもそも、この《幻鬼》の書き込み自体が嘘の可能性だってある。
しかし、私の体は考えと裏腹に手にスマホを握り、電話アプリを開き、ここに書いてある番号をフリック入力していた。
「まぁ、一応電話するだけしておくか」
ぷるるる、ぷるるる・・・
電話の呼び出し音が続く、少なくともこれで繋がらないということはなさそうだ。
私がそう思っていると、ちょうど10回目の呼び出し音の時だった。
がちゃ
「はい、もしもし。幻鬼討伐隊東北支部代表の瞬です」
つ、繋がった。
私はとても驚いた。電話が繋がったことはもちろんだが、何より、男性であろう声の主から発された「幻鬼討伐隊」という単語にだ。
「あの、もしもし。何か俺に用ですか?用ないなら切りますよ」
「す、すみません」
驚きのあまり肝心の要件を聞く前に電話を切られるところだった。
「じ、実は掲示板を見て電話したんですが」
「あ、4ちゃんからね。いや~よくあんな胡散臭いコメント見て電話したね~お姉さん」
「は、はい」
やっぱり自分でも胡散臭いと思ってたんだ。
「それで、聞きたいんですけど、《幻鬼》って本当に存在するんですか?実は私、半年前から―」
それから、私は半年前から《幻鬼》の夢を見続けていることや、昨日見た夢のことなどをすべて彼に述べた。
「なるほどね~。まぁ、《幻鬼》がいるか、いないかで言えば、いるよ。でも、ほとんどの場合は2回目か3回目くらいの夢でいなくなる。お姉さんみたいに次の月に《現鬼》になるかもしれない例なんて相当珍しいよ」
「え?どういうことですか?《幻鬼》って自然といなくなるものなんですか?なんで、私だけそんな珍しいことになっちゃったんですか?」
私は彼の言ったことがわからな過ぎて、散々質問をぶつけた。
「待った、待った。そんなに質問されちゃ答えられないよ。とりあえず、俺のとこ来て。話はそれからするよ。別にお姉さんに怖いことするわけでもないし、変な商品売りつけたりもしないから安心して」
「いや、待ってください!なんで、答えてくれないんですか。私はかなり危険ということなんですよね?」
「ま、まぁ、そんなに取り乱さないでよ。俺だってお姉さんみたいな例見たことないから、直に会って話を聞きたいだけなんだよ。旅費とか出すからさ、4ちゃんに書いてある住所尋ねてみてよ。それじゃあ」
がちゃ
電話が切れた。
結局何も聞けなかった。
わかったことは《幻鬼》は存在すること、私は相当珍しい《幻鬼》に取りつかれてしまったことくらいだ。
電話の後、私は少し考えた。住所の場所に彼はいるのだろうか。そもそも、この電話自体が私の夢なのではないだろうか。
私の頭の中は《幻鬼》といい「幻鬼討伐隊」といい、にわかに信じがたいことが一挙に現れて、混乱している。
1時間ほど、ベッドで仰向けになりながら考えていた。
「よっし、決めた。明日、彼の所へ行こう!」
私は明日、彼の所を尋ねる決心をした。
たとえ住所が嘘でも、私が電話したことが夢の中の幻であってもかまわない。すくなくとも、何もしないよりはマシだ。
決意を固めた私は今日のうちに支度を済ませ、明日、【名無しの僧兵】の住所の場所を尋ねることにした。




