第四十三話 全力疾走する女子高生
レイナと撮ったプリクラを、私は捨てることはできなかった。
ポケットに押しこんで、せめて落とさないように奥に追いやった。
「ねぇミサキ、カフェ行かない? すっごく可愛い感じの作ったの! かためのプリンの上にスフレが乗ったパフェがおいしいんだよ!」
「……レイナ」
「なに?」
「カフェで、レイナが副隊長として知ってることを教えてほしいんだけど──いい?」
「いいよ! でもあたしが考えたパフェも食べてね!」
「うん……それはもちろん……楽しみにしてる」
元気よく跳ねたレイナは、また私の腕を引っ張って歩き出した。
小さな手は、私の腕を両手で一生懸命に引き寄せる。まるで自分の言うことを聞かせたいんだと言わんばかりに。
「レイナ、ホシ──壱番隊の副隊長も一緒でもいいかな? 一応私の護衛でついて来てもらってるから……」
「えー? 仕方ないなあ〜」
「レイナには護衛はいないの?」
「いるよ? メストが」
「え──」
思わず、どこにいるのか聞こうとした。
だってどこにも姿が見えないのに、護衛に隊長がついているって、どういうことかわからないじゃない。
でも、それを見透かすようにレイナはイタズラっぽく笑った。
「このタブレット端末を通して、メストがあたしのこと見守ってるんだって。まあ副隊長のあたしに何かあったら困るだろうし、巡回してるアルマもすぐ来てくれるよ」
胸を張ってタブレット端末を片手で持ち上げるレイナの指の隙間から、小さなカメラレンズがチラついた。
つい、私は視線を逸らした。違うってわかっているのに。
「じゃあ──レイナは怖くないんだね」
「ん〜……よく大人たちに言われるんだけどさあ、それってどう言う意味?」
「だって、人類が滅亡したとか、人型兵器が人間を保護するとか──ちょっと頭パンクしない?」
「そう? なっちゃったもんは仕方ないし、そういうのは大人が考えることじゃん。あたしたちは上手く立ち回る方が大事じゃない? 勉強とかダルいことしなくても副隊長になれるとか勝ち確だし」
難しいことは考えたくない。
それはレイナも同じみたいだった。ううん、私以上でちょっと引いた。
「レイナが副隊長になった話、カフェで聞かせてくれる?」
「いいよ! あたしの武勇伝聞かせたげる!」
レイナに手を引かれて外に出ると、ホシが待っていた。
「──ずいぶん楽しんでるね」
くすりと笑うホシに言われて、私はメイクやヘアアレンジそのままで来たことに気づいた。
いつもと違う感じに、何故か気恥ずかしくなって、ついレイナの手を振り解いてメイクルームへ走った。
慌ててクレンジングでメイクを落として、つけまもカラコンも外す。時短重視。肌へのダメージは今だけは無視する。
ヘアアレンジもヘアピンを外して、緩いウェーブになるように手で撫でつけた。
急いで外のホシとレイナの元へ全速力で駆けた。
「お──お待たせ!」
「え〜!? メイク落としちゃったの? 可愛いかったのに」
レイナは不満そうに唇を尖らせたけど、私はそれよりもバクバクとうるさい心臓を落ち着かせる方が重要で、それどころじゃない。
「大丈夫?」
「う、うん! 全然平気!」
苦笑いするホシに食い気味に返事した後、落ち着かなくて髪を手で整えた。
なぜだろう。息が整わない。
久しぶりに全速力で走ったからかな。
「……運動不足かも」
「壱番隊にスポーツできる施設ないの?」
「あるけど、壱番隊のはガチのやつだから……使ってない」
「肆番隊にはテニスコートとかあるよ?」
「壱番隊のは……ルームランナーとかなんだよね」
「うわぁ……」
「でも、真面目に体力落ちたのかも」
引くレイナの反応は無視して、私は真剣に考えた。
ちゃんとした運動って壱番隊に来てからしてないじゃん。体育の授業以外で運動とかしたことないんだけど。
帰ったらルームランナーの使い方を教えてもらおう。
そう思ってホシをチラリと見たら、また違う方向を向いていた。




