第二十八話 晩晴の答え
医務室には長くいたかもしれない。
それでも先生はちゃんと私の話を聞いてくれたし、ホシも側にいてくれた。
怪我はないけど、先生は心が疲れてるから無理しないことって診断を出してくれた。
「もうミサキの具合は壱番隊で共有したから、変に取り繕おうとしても無駄だから。ちゃんと辛い時は隊長やホシ、みんなに言うことだよ!」
「はぁい」
「あとしばらくは毎日診察に来るように! 寝つきが悪いとか食欲不振とか小さなことでもちゃんと申告するようにね!」
「え……毎日?」
「大丈夫、僕が連れて来るから」
「え?」
「頼むよホシ!」
「はい!」
「──え?」
なんだかよくわからないまま、勢いで毎日医務室に行かなきゃいけないことになっちゃった。
しかもホシが連れてくるって、なに?
そこまで大事にしなくても、寝たら大体のことは治ると思うけど。
「じゃあミサキは、伍番隊隊長と話をしたら今日はもう横になれるよ」
医務室を出てから、ホシに促されて温室に向かった。
中庭には白いローブを纏ったヒスリエが、陽の光を浴びて彫刻のように静かにたたずんでいた。
「答えは出ましたか?」
凛とした声と共に、私の方へ体を向き直したヒスリエの顔に影がさした。
「はい──私は、伍番隊には行きません。壱番隊にいます」
「つまり、療養は不用──ということですか」
「慣れてる壱番隊の方が休まるし、伍番隊でまた緊張しちゃうかもしれないんで……」
「……貴女は、そこまで壱番隊に馴染んでいるのですね」
陰ったヒスリエの目元は見えにくい。
それでも、口元は笑っていた。
「悉く、貴女はサユリとは違いますね」
「……サユリって人は伍番隊でどう過ごしたんですか」
「基本的に、伍番隊での療養は適度な運動や安静にすることが主となります。ですがサユリは……それが苦になる状態でした」
ヒスリエは少しだけ顔を上げて、すぐに首を横に振った。
「サユリは陽の光を浴びれば肌が赤く炎症を起こし、目は少しの灯火も受け付けませんでした。わずかな物音にも過剰に怯えるため、安静にすることすらままならない──それが寛解することなく、ずっと続いていました」
その原因が何かを言わないまま、ヒスリエは自分よりも背の低い花に視線を落とした。
「ずっと苦しんでいたってことですか」
「わたくしの目から見れば──そうなるでしょう」
「治らないままってことですもんね……」
「……弐番隊から保護したサユリは正常な判断ができないと、わたくしとワズの総意で伍番隊で療養させましたが──今にして思えば、サユリの声を少しでも聞く必要があったのかもしれません」
ヒスリエが花びらに添えた指先は細長く、花びらはわずかに揺れた。
「なので、今回は貴女の声が聞けて良かったです」
「私の?」
「貴女の意思を、わたくしは尊重します。アルマとしても、伍番隊隊長としても──貴女の意思を守りましょう」
ヒスリエはそう言って、ゆっくりと花びらから手を離した。
手を前にそろえて、背筋を伸ばしたヒスリエの姿は、陽の光を浴びているのに顔が陰っている。
背が高すぎるからだと、私はヒスリエを見上げながら頷いた。




