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巫女たちは深夜ひそかにおしゃべりをする

今回は話タイトルまんまですね。

楽しんでいただけたらうれしいです!


 あ、あったかい。

 ん? いま、あたし何してた?

 たしか、地神殿の礼拝堂で巫女長のオルナと建国祭の……? でもここは地神殿じゃない。


 真っ白な場所。何の匂いもしない。あったかくて心地は良い。風はない。なのに丸い泡のようなものがいくつもいくつも、たくさんフワフワと少しずつ動いている。


 そのうちの一つがあたしの前で止まったかと思ったらしばらくすると男と女の姿がゆらゆらと浮かび上がってきた。知らない人間だ。


『陛下、なぜこちらへ?』

『そなたに会いに来たのだ』


 男は騎士みたいで、女は本神殿の巫女装束だ。恋人、なのか? 寄り添って抱きしめ合っている。へーか、って女が言った気がするけど、じゃあこの女は?

 あたしが頭をかしげると二人の姿は消えて泡はフワフワと動いていった。

 あたしの目に焼きついたのは、女の髪の色。燃える炎のような真っ赤な。


 また別の泡があたしの前にきて、さっきのと同じように知らない男と女の姿を映し出した。


『約束しただろう? 次に会ったときにー……』

『ええ、覚えておりますわ!』


 こっちはなんか、白っぽい。髪とか肌の色とかわかりづらいな。なんだよ、こいつらも恋人とかなんかかぁ?

 泡の動きに合わせてまたそいつらの姿も揺らいで消えた。消える間際に男の目の色だけがくっきり見えた。あたしとよく似た紫だった。


 そんな風に泡は次々とあたしの前に来ては何かを映し出しながら動いて、あたしから離れていくことを何度も繰り返した。映し出したものは人の姿だけじゃなかった。よく見知った本神殿、城の派手な門、どこかの庭園だったり。もちろん知らないけど山とか川とかでかい船とか、人がたくさんいる中をゆっくりと動く豪華でデカい馬車とかもあった。


 なんなんだよ、意味わかんねぇ。


『……リア?』


 呼ばれた、と思って声の方をみたけど、どの泡だ? 


『そう、いずれ必ず現れる。光るような金の髪、藤色の瞳の生意気そうな小娘だよ』

『じゃあ、わたしの妹みたいな子だね?』


 聞き覚えのある声だった。

 ちゃんと見たかったけど、あたしの近くに何かを映してる泡はなかった。

 なんで今までのやつみたいに止まらなかったんだ? 意味わかんねぇ!!


 けど、あの声は間違いなくティナだった。


 ここはホントになんなんだ? あたしは今どこにいるんだ?

 あ、そうか。なんだ。


「これ、夢だ」


 声に出したつもりだった。けれど実際に声が出たかわからない。

 あたしの身体は急に落下をはじめた。

 叫ぼうとしても声がでない。白い場所から急に黒い、暗い中へあたしは落ちて落ちて落ちていく。


 オルナに落とされた時とはまた違う感覚。だからやっぱり、夢なんだ。

 


「……ア……ん、リ……」


 誰かがなんか言ってる。なんだ?


「リアさん、しっかりしてください!」


 あたしの身体を揺さぶりながら、必死なオルナの顔が目の前にあった。


「え、あたし……」


 何してたんだ?


「立ったまま目を開けてあらぬところを見ておられましたが、もしや眠ってらっしゃった?」


 寝てた覚えはない。けど、これ夢だって思った覚えがある。


「うん、そうみたいだ」


 あたしはへらっと笑った。怒られるかと思ったけど、オルナのすんごい心配そうだったのが少しだけほっとした顔に変わった。

 そばにある礼拝者用の長椅子にやんわりと座らされたからそっとオルナの袖を隣に座るように引くと躊躇いながらオルナも座る。


「終わったのか?」

「ええ、無事に。申し訳ありません。お疲れのところ無理をさせてしまいましたね」

「お互い様だろ?」


 疲れてるっちゃ疲れてるけど、それより。


「なんでそんな丁寧な言葉遣いな、んですか?」


 言葉遣いなんだよ、って言いかけて咄嗟に変えた。くく、オルナの眉がへにょってしてる。


「やっぱ、あたしはフツーに話してほしいんだ。あんたがなんであたしに対して丁寧なのかマジでわかんないから」


 むず痒いし、いたたまれないし。

 思ったままをオルナに話すと手を額に当てて少し考え込んでから。


「あなたのおかげで地神殿がとても助かっているから、つい、感謝で………ってダメね、言い訳でしかないわ。ごめんなさい、わたしが言い出したのに」

「そう! あんたは巫女長、あたしはちょっと変わった役目でここに来ただけのただの巫女なんだから!」

「に、しては態度がとっても大きいけれど?」


 その言葉にあたしが少しムッとしてみせると、オルナが軽く笑ってみせた。

 そう、これでいいんだ。


「でさ、あたしへの感謝って、なんなんだ? あたし、そんなありがたがられることしたか?」

「ん〜、そうねぇ」


 オルナは少し悩んでから話し出した。

 神殿の秘事ってやつで詳しいことは言えないけど、と前置きしたあと。


「わたしがリアさんの神力はとても強いと言ったこと、覚えているかしら?」


 そう言えば言われたなぁと思って、あたしは少し大きく頷く。


「ルクシラも、わりと強いんです。けれど今年はそこが抜けてしまうから不安だったの。けれどリアさんのおかげでその心配がなくなったのよ」


 どういうことだ? まったくわからないと率直に言えばオルナはイヤそうな顔ナシにさらに説明してくれた。


「ここで、昨日歌ったでしょう? それがルクシラの分を補ってさらに上乗せになった、と言えばなんとなくわかるかしら?」


 そういうことか。

 年に一度の大祭・建国祭は女神レヴィアータへ国民の祈りや願いを届けるためのもの。巫女が歌うことで本神殿・地神殿・水神殿・風神殿の四つの大神殿からそれらを女神レヴィアータへ届けることができる。

 どういう理屈かよくわからないけど、そういうものなんだって聞いた。


「あたしの歌が役に立ったのなら良かったよ」

「役に立ったどころか! 逆に本神殿が心配よ。あなたがいないことがどれだけ響くことか」


 本神殿、ね。知るかって言いたいとこだ。


「ま、なんとかなるんじゃねーの?」


 あたしは女神像を見上げた。

 月の光を浴びて、昼間見るより白く輝いているように見えた。

 ふと、本神殿の女神像を思い出す。ここの女神像とほとんど同じだ。


「どの神殿も女神像ってそっくりなんだなぁ」


 あたしがここまでの旅で見たどの女神像もほとんど同じだった。

 白くてベールを被ってて、顔の細かいところはあまりハッキリしない。巫女の式服とよく似た衣装を着ていて。


 そっか、そりゃそうだ。


「女神像はずっとずっと昔に本物の女神レヴィアータを見たことある人が作ったんだな」


 だって、女神レヴィアータは地上にいたんだから。式服も女神の衣装を真似てたっておかしくないしな。


「いいえ、四つの大神殿にある像は女神レヴィアータより賜ったと言われてるわ」

「たまわ? もらったってことか??」


 マジか?


 オルナは語る。

 女神レヴィアータの神託で巫女が選出され、王都と三つの領都にそれぞれ大神殿が完成した年のある日。各神殿の初代巫女長の前に女神レヴィアータが密かに降臨し、女神とよく似た像を神殿の礼拝堂へ据えたという。


〈朝に、夕にこれを我と思いここで歌うように。そなたらの歌はこの国を護る力となる〉


 巫女長たちは領主と国王にこのことを伝え、みんなで話し合った後にその日を建国記念日と定めたそうだ。


 マジか。あ、二回目だ。それくらい驚きの話だ。


「小神殿の女神像は腕に覚えのある技師が作ったものだそうだけど、どれほど年月が経っても劣化しないのは女神のお力かもしれないわね」


 三回目が出そうになる。


「女神レヴィアータって、自分大好きな人なんか?」


 違うー!って声がどっかから聞こえた気がしたけどきっと気のせいだ。うん。

 隣でオルナがクスクス笑ってる。


「どうしてそんな発想になるのかわからないけど、神殿もわたしたち巫女も女神像も、女神レヴィアータが困り迷う人々のためにこの地上へもたらしたものなのよ?」


 神殿で困ること、迷うことを祈り、願えば巫女が歌によって女神レヴィアータへ届けてくれる。それが邪なものや他人を傷つけるものでなければ。


 祈る場所がある。

 願いを向ける明確な対象がある。

 それを必ず届けてくれると、信頼できる相手がいる。


 それは人々に女神への信仰をさらに強くし、この国はさらに強く女神の守護を引き出せる。


「あたしたち巫女の役目は人と女神の間を取り持つこと……?」

「その通りよ」


 誰からも信頼されるべき、神殿の巫女。

 あたしは、できているだろうか。

 あたしを生まれ育ちで見下すようなやつらは論外だけど、巫女として信頼されるってのはどういうことだろう。


 しばらくあたしが考えている間、オルナも何か考え込んでいたけど、ふいにあたしを呼んだ。


「あの時、地下に落とした時は恐い思いをさせて本当にごめんなさい」

「な、なんだよ急に」

「本当はあの小屋で会えた時に謝るべきだったのに時機を逸してしまって」


 あー、それどころじゃなかったもんな。あの時は。あれからずっと走り回ってたし。走ってたのはスウォルだけど。


「スウォル様のいる地下へは執務室からが一番早いと教えられたの。けれど確かめたことはなかったわ。あんな恐ろしい落とし穴だなんて、知らなくて」


 地下道だと思いこんでいた。なのに底が全く見えない大きな穴だったことにオルナはあたしとティナの命の危険も考えたという。

 実際、底があんなデカい池じゃなかったらあたしたちは死んでたな。


「わたしは、あの歌を礼拝堂で歌った人をスウォル様のもとへ導くように、先代から伝えられたようにしただけ。って、これじゃあまた言い訳でしかないわね」


 そうか、オルナも自分の役目を果たしただけなんだ。


「あんたもやるべきことをした、それだけだろ」


 もし、あの時あの落とし穴を見せられていたとしても、それが近道なのだと言われたら最後には飛び込んだだろう。けど、飛び込むまでにどんだけ時間がかかったか、わかんねえ。だってどこまで続いてるかわかんない穴だぞ? すんげぇ勇気がいるわ!

 行くか、まだ行けないとか、うだうだしてるうちにオルナと一緒にルクシラに捕まった可能性もある。


「だから、堂々としてろよ」


 そう、どれだけあの時ああしたらこうしたらを話しても仕方ない。それが最善と思ってしたなら胸を張っていいと思う。失敗して怒りを買ったら謝る。話をしてひたすら謝る。


 それしかないんじゃねーの?


 クスリ、と誰かが笑った気がしたけど、きっといつもの気のせいだ。

 もう今日は建国祭だし、なぁ?




読んでいただきありがとうございました♪

次回更新は二週お休みして11/7頃の予定です。


10/21 本編には関係ない部分ですが、話の流れからおかしな部分が見つかったので頭抱えながら追記して辻褄合わせをしました。申し訳ありません。

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