ding‐dong①
※注意
今日の投稿分は下ネタ盛り盛りなのでご注意を。
1.白黒つけようぜ
午後九時、何時もの埠頭。
開始五分前には全員、集まっていた。ヤンキーの姿か? これが……ってのはさておきだ。
今日の集会の仕切りは金銀コンビである。
「えー、我らが総長えっちゃんこと花咲笑顔氏は塵狼を結成するにあたってこう言いました」
「“なあなあ”ではいけないと。俺も銀角もその通りだと思い、しっかり決を採って塵狼が正式に立ち上げられたわけですが」
「そこは置いておこう。重要なのは“なあなあ”ではないけないという言葉であります」
「世の中には白黒つけずなあなあで済ましている問題が数多存在します。それではね、いかんと思うわけですよ」
いかんのか? ってのはともかくだ。
コイツら、ホント仲良いな。司会でも息ピッタリかよ。
「「つーわけで今夜は世の中に蔓延る“なあなあ”に白黒つけるべく塵狼大討論会“真剣十代べしゃり場”の開始だ馬鹿野郎!!!!」」
《いぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!!》
元気やのう。いや良いことではあるんだけどね。
つーか懐かしいなオイ!? 幾つだテメェ!! 中身オッサンの俺だから通じるけど今の子供わかんねえだろ!?
「ルールっつーか進行について説明するとだ。
これから出されるお題についてありかなしかを討論してもらって最終的にジャッジしてもらうことになる。
ジャッジ役は皆さんお馴染みのリーダー、花咲笑顔と特別ゲストの二人だ」
そう、今日の集会には特別ゲストが居るのだ。
「知ってると思うが一応、紹介させてもらうぜ。まずは一人目、闇璽ヱ羅総長獅子口雅義さん!!」
「どもども、獅子口で~す。よろしくー」
「二人目は黒笑総長鷲尾和久さん!!」
「生半な議論すんじゃねえぞ。やるんならトコトンまでだ!!」
獅子口さんと鷲尾さんである。
何でこの二人が俺らの地元に居るかっつーと今日、市内でお笑いのミニライブがあったらしく二人はそれを観に来ていたのだ。
その帰りに偶然、俺と出くわして世間話がてら集会の話をしたら興味を持って参加することになった流れである。
(興味があるってのも嘘じゃないけど、多分俺らを心配してくれたんだろうな)
ルーザーズとの戦いから十日ほどが経った。
あの戦いは不良達に多くのことを考えさせる象徴的なものだった。
自分達は弱者を虐げたりしていないと自己正当化することは簡単だが、それはただの思考停止だ。
光のヤンキー達なら余計、考え込んだだろう。タカミナはもとより塵狼は他の皆もちょっと元気がなかったからな。
(まあでもこの分だと大丈夫そうだな)
空元気な部分も多少はある。だが、本気で楽しんでいるのも事実だろう。
群れの頭としてはほっとしたよ。
「では最初のお題を発表するぜ。ずばり――――クラスメイトで“ヌク”のはありかなしか!?」
「なん……だと……?」
どよめきが広がる。この馬鹿ゴールドはいきなり何言ってんの? 馬鹿なの? という理由ではない。
まさか初っ端からそんな重い命題が来るとは、という理由だ。
(初っ端からフルスロットルじゃねえか……)
馬鹿のエンジンがオーバーヒートしちゃうよ。
「シンキングタイムは十分。よーく考えて“ありなしゾーン”に移動してくれ」
地面には一本の白線が引かれ、その左右にはあり、なしとペイントがなされている。
まずは色分け、その上で議論するという形だ。
「! トモくん!?」
誰もが動けずに居る中、真っ先に動いた男が一人。トモだ。
伊達にクラスメイトが水着を着てるだけで興奮するとのたまったわけじゃねえな。
迷いのない足取りで“あり”に行き腰を下ろしやがった。
「……彼、やるね。難しい議題だってのに。あの目を見なよ。驚くほどに澄んでる」
「フン……こんなもん難しくも何ともねえだろ。だが、あの迷いの無さは評価点だな」
そしてコイツらはコイツらでめっちゃ真剣。
何ならお化けボウリング場で対悪童七人隊について話し合ってる時より真剣顔だ。
「金ちゃん達はどっちなん?」
「あん? 俺らも意見はあるが今回は俺らが仕切りだからな。司会に徹するつもりよぅ」
「あと俺ら参加すっとぜってーコイツと意見分かれるじゃん? 殴り合い待ったなしになるからな」
あらやだ理性的。
「まあ銀二くん達だからなぁ」
「ああ、丸くなったけど……なあ?」
そしてわかりみの深い仲間達。
元々、塵狼の構成員は幹部以外は全員柚か桃の下に居たから当然っちゃ当然だが。
「さてそろそろ十分だ。皆さん答えをどうぞ!!」
促され、移動が始まった。
ふむ……なし、のがちょっと多い感じかな? いやまあ俺はどっちゃでもええんだが。
「結構。それじゃ、まずは多数派の意見から聞いてこうか。何でなしに?」
「いや、普通に気まずいっしょ」
そうねえ。
「あのー、ムラムラしてる時は……ねえ? まあまあまあ、気にしないかもっすけど」
「……男にはな、あるからな。一時的にIQが高くなる時間が」
「なっちゃうよな。賢者に」
「そうなると、途端に何かいけねえことをした気分になるっつーか……」
「心が沈むし、明日どんな顔で学校行けば良いのか分からなくなる」
実に御尤もな意見である。
ちなみに最高幹部ではテツと梅津がなし側である。
「なるほどなるほど。ではありの皆さん、何か反論はありますか?」
「じゃあ俺が」
手を挙げたのはダンスが特技の新垣 結だった。
……タカミナといい、ハシカンといい、深キョンといい、惜しい男多過ぎないこのチーム?
「どんな顔して学校行けばっつーけどさぁ。別に言わなきゃバレねえし気にする必要なくね?」
「ハーッ! これだから童貞はよぉ!!」
「ど、童貞ちゃうわ!!」
「おめー、女の鋭さ舐めんなや? 女はなー、殊更そういう視線や態度に敏感なんだよ!!」
「そうそう。お前あれだぞ。夏場とか透けブラをガン見してんのとかバレてっからな」
ああはいはい、確かに言うよねえ。
実際俺の元カノもその手の機微には敏かったような記憶がある。
俺もね、ブラック企業勤めで疲れてるとは言え……いや、だからこそか。疲れてると逆にムラムラっとしてんのよ。
でもほら、女性にはそういう気分があるじゃない? そういう気分じゃない時に求められても困るだろうからさ。バレないように取り繕ってたのよ。
だが元カノは見抜くんだわ。「へへへー」つって背中から抱き付いて来たりね。今思えばすっげえ気を遣わせたなぁ……。
「おっと、ここでトモの手が挙がった。別に挙手制じゃねえんだが……まあどうぞ」
出たよ。真面目系の振りして猥談になると強い男。
一体、何を語るというのか。
「俺も気まずいという点についての反論……というか持論を語ろうと思う」
「ほうほう」
「――――それも含めて、クラスメイトで抜く醍醐味なのではなかろうか」
おっと、ざわつき始めたぞ。ない陣営はもとより同じ陣営の連中まで。
両隣の獅子口さんと鷲尾さんとかも「ほう……」とか言っちゃってるしよぉ。
「女特有の鋭い嗅覚で勘付かれたとしよう。だが実際に言葉にしなければ限りなく黒に近い灰色止まりだ」
そうだね。
「しかし、女側はもう確信している。アイツ、私で……って腹の中で確信している。
かと言ってあんた私で抜いたでしょ? なんて普通は言えない。いや言える相手もそれはそれで興奮するけどな。
思春期の男にそんな距離感の女子は最早、猛毒だ。想像するだけでクラクラするな」
俺もこんな話題で過去イチ饒舌になる友達にクラクラしてるよ。
「……や、やべえあの人かなり気合の入った変態だ」
「ああ……総長にやたらとこき使われてるイメージしかなかったぜ……」
そんなイメージあったの? 俺、そんなに……頼ってるわ。
金銀、矢島もオールマイティに使える人材ではあるんだけどさ。
こっちは――特に金銀は武力面での仕事があるからテツトモ矢島に任せがちなんだよね。
でもしゃーないやん。期待通りの仕事してくれるんだもん。
(いや待て危険だぞ俺。信頼も過ぎれば毒となりブラックへの第一歩となる)
……とりあえずこれからは自制しよう。そして今もやってるけど、もっと労おう。
「話を戻そう。分かっていても言及出来ないジレンマを抱えた女子についてだ。
どこに興奮するか。そんなもん決まってる。俺がオカズにしたあの子はそれに気付いて、そのことについて悶々としている。
当然だな。考えないようにしても嫌なことほど頭から離れないものだからな。
そこに興奮する。オカズにするぐらいストライクな女の子が俺のチン●について考えてるんだぞ。興奮しない方がどうかしてる」
いや、お前の頭がどうかしてると思う。
……ああでも、皆は衝撃を受けたような顔だ。引いてるとかじゃなくそんな考え方が!? って驚愕だ。
参ったな。薄々気付いていたがどうやら俺はこの場においてマイノリティらしい。総長なのにね。
「い、いやだが……オカズにしてるって気付かれたら嫌われるか距離取られるか……」
「だから何だ? そこから挽回は不可能なのか?」
そんなことはないとトモは断言した。
「そちらに居るタカミナがその証左だ」
「え、俺?」
「皆も知っている通り、この男は多大な覚悟を以って死を選んだ男を翻意させた」
えぇ……? それ引き合いに出しちゃうの?
こんなクッソくだらねえシモトークで? いや変に気ィ遣うのもあれだけどさぁ。
「我が身を焦がすほどの情熱でぶつかれば、その想いは必ず届く。それを知った俺達に最早不可能はない」
何かコイツ、新興宗教の教祖みてえだな。
俺自身、箍がぶっ壊れてる自覚あるからやべえとは思ってたがある意味で誰より危険なのはトモなんじゃねえの?
「嫌いからの好きは、それこそ王道だろう? その嫌いを反転させた際のカタルシスは堪らんだろうな」
「ッ……」
反論した奴が冷や汗流してる。バトル漫画のキャラみてえなツラで冷や汗流してるよ。
「さあ、そこから更に想像の翼を広げよう」
うっそだろお前。まだ飛ぶの? もうそこまでにしとけよ。
何だこのイカロス。蝋の翼が溶けずにそのまま太陽まで突っ込んじゃってるよ。
「好意に反転させ付き合った後の初エッチ」
「はぅあ!?」
「かつての苦い思い出は興奮を掻き立てる刺激的なそれに変わるのではなかろうか」
「そ、それ……は……」
「これが●●くんの……ってガン見かちらちら見ちゃってる彼女の脳内には……言わずとも分かるな?」
「ちょ、待てよ! トモくんのそれは恋愛感情ありきの話じゃねえか!! 単にエロいからオカズに……」
「――――性欲から始まる恋もある」
何その真理を告げる賢者の如きツラ。
「愛と性欲は不可分だ。股間が反応したのなら愛が芽生える可能性が生まれたということだろう」
つーか場の熱気がすげえ。
始まった時は普通に寒かったんだがな。マフラー外そう……。
マフラーを外しテーブルに頬杖を突く。これ、何時まで続くんだろ? まだ一発目の御題だよねこれ?
「……海の時も思ったがトモ……お前、熱い……熱い男だぜ」
「議論はあり派、っつーかトモの独壇場だがここでゲストの話も伺おう。どうです、御三方?」
えぇ……困るぅ……。
「じゃあ、僕から。熱く実りのある議論、楽しませてもらってるよ。
どちらの言い分にも一理あると思う。僕個人としてはあり寄りのなしだね、今のところは」
「ふむ、その心は?」
何、何なのこの空間……怖いよ……。
「仮に僕がクラスメイトをオカズにするなら、だ。やっぱり関係性も込みなんだよ。
どんだけ美人でもまったく知らない相手ならほへー、で終わっちゃう。だからAVとかも性癖にマッチするのじゃなきゃ抜けないわけ」
多少なりとも情のある相手かそれを補うレベルで性癖に来るのじゃないと性欲が沸かないタイプ……ってコト?
「ある程度の関わりがある相手をオカズに使うなら、使った後。相手じゃなくて僕のその子を見る目が変わっちゃうのが嫌かな」
「なるほど。まあ確かに人によっちゃオカズに使う前と同じような心持ちで接するのは難しいっすねえ」
「ほいじゃあ次は鷲尾さん」
鷲尾さんは煙草の煙を深く吐き出し、言った。
「男は見た目じゃねえ! チン●じゃあ!!」
何言ってんのコイツ? チン●も外見の内じゃろがい。
「股間が反応したならそれはもうそういうこと! 反応せんかったらそこまで! うだうだ考えるんじゃねえ! 心の勃起を信じろい!!」
「ううむ、これまたシンプル且つ骨太な意見」
そう? 変態の勢いに誤魔化されてない?
「そいじゃあ、最後はえっちゃん」
「そうだね。議論を聞いてて率直に思ったことを言わせてもらうよ」
イチゴミルクキャンディを口に放り込み、もごもごさせながら言ってやる。
「――――コイツら、モテなさそうだなって」
一拍置いて、凄まじい大ブーイングが起こった。
 




