ding‐dong②
1.ちなみに俺が歌●師匠ポジション
「とまあ、昨日の集会はそんな感じで大盛り上がりだったよ」
翌日昼。俺は空き教室で八朔と二人、昼食をとっていた。
この時期はもう屋上で食べるのはしんどいからな。新たな憩いスポットを開拓したのだ。
テーブルと椅子以外にも勝手に持ち込んだソファや電気ストーブ、電気ケトルとかもあって中々充実してる。
使ってない教室を勝手に私物化するとか真面目な生徒とは口が裂けても言えないが今更だしな。
担任に暴力を振るっただけならまだしも、教師全員を脅し付けた時点でどうしようもねえ。
「乱闘は、大盛り上がりで括って良いの……?」
「良いんじゃない? どいつもこいつも無駄に血の気が多いんだし」
「というか……その、高梨くん達を含む百人ぐらいを一人でっていうのは……冗談、だよね?」
「マジだよ。そりゃ真正面から喧嘩するんなら分が悪いけど、そういうあれじゃなかったし」
埠頭全域を駆け回りながら色々な手を使ったよ。
三代目悪童七人隊から譲り受けた縄張りには、拠点に攻め込まれた時を想定して様々な準備がしてある。
それは昨日集会で使った埠頭も同じで、それらをフルに駆使して連中をシバキ回してやったわ。
シリアスなアレならともかくどう考えてもあれはギャグ展開。
あの局面において俺はトムとジェリーで言うところのジェリーだ。そりゃバフも盛り盛りよ。
「でもまあ男同士とは言え全力で猥談するのは確かにモテそうにないよね」
「だよね」
八朔もわりと辛辣である。
一皮剥けてから本当に良い方向に進め始めたよなコイツ。
「でも、うん。元気そうで良かったよ」
「……君にも心配かけたね。でもまあ、もう大丈夫さ」
「うん」
全部終わったし、改めて礼を言わないとな。
「ありがとう八朔。心配してくれたこともそうだけど、真実に辿り着けたのは君のお陰だ」
「よく分からないけど、感謝の気持ちは受け取っておくよ」
「うん」
深くは突っ込んで来ないのがありがたいよね。
綺麗な形にまとまったとは言え積極的に吹聴したいことでもないし。
「でも、十月の始めにやったって集会もそうだけど本当に楽しそうだ。今度お邪魔して良いかな?」
「勿論」
年明けまではもう何もなさそうだしな。
それだけルーザーズとの戦いは肉体的にも精神的にもハードだった。
見てる側だってストレス溜まるだろう。直前のエピソード……八朔リベンジは爽やかめだったけど……ねえ?
だもんで修学旅行までは日常回が続くと思う。
「ちなみに今度は何するの?」
「まだ決まってないんだよね。色々案が出てて話し合い中って感じ」
今、候補に挙がってるのは……五つだったかな?
一つ目は塵狼のど自慢。誰の歌唱力がナンバー1か決めようってことだ。
二つ目は2億5千万のモノマネメドレー選手権。
三つ目は塵狼料理大会。これは俺のイチオシだったりする。
四つ目は塵狼大富豪最強決定戦。これも中々楽しそうだよね。
「で、最後が大喜利大会」
「……大喜利?」
「うん。あのー、日曜の五時半にやってる番組あるでしょ?」
「う、うん。知ってるけど……」
「まんまあれ。俺らトップ連中がやってるの見たいんだって」
ちなみに俺が歌●師匠ポジション。つまりは司会者である。
「…………梅津くんも?」
「梅津くんもです」
選ばれたのなら逃げられない。梅津も回答者として強制参加である。
料理大会の次に気になるのはこれだ。梅津がどんな回答するのかひっじょーに気になる。
日和って置物に徹する可能性もあるが梅津の性格上、煽られたら絶対手を挙げるから問題なかろう。
「どうしよう、すっごく見たい……」
それから昼休み終了ギリギリまで駄弁って、俺達はそれぞれの教室に向かった。
午後の授業は可もなく不可もなく。さらーっと時間は流れていった。
これが授業を苦にするタイプならもっと長く感じたのかもしれないが、俺は特にそういうのはない。
中身がオッサンだからってわけじゃなく前世からだ。
そんなこんなで放課後。
掃除を済ませた俺は帰り支度をして、校門前で人を待っていた。
待ち人は柚と桃。今日はこの二人と会う約束をしているのだ。
「はぁ」
吐き出した息は白く、それだけで寒さを察せると思う。
スマホでニュースサイトを見ながら時間を潰していると、しばらくして聞き覚えのあるエンジン音が聞こえた。
「おまたー」
「今日もさみいなぁ……」
金銀コンビである。
この糞寒い中でも単車を乗り回すのがヤンキーという生き物で、彼らも例外ではない。
「じゃ、行こうか」
「「おう」」
位置的に近かった柚のケツに乗ると直ぐに発進した。
向かったのは駅前にある大型書店だ。
店に入った俺達は即座にレシピ本コーナーへと足を運んだ。
「おー……当然っちゃ当然だがケーキだけでも山ほどあるな」
「どれにすっぺか」
お菓子のレシピ本がある一角で足を止め、物色する俺達。
何でケーキのレシピ本なんかを漁ってるかと言うと来月、クリスマスへの備えだ。
二十五日。秘密基地でクリスマスパーティをする予定なんだが、
『折角だしケーキから何から全部、手作りしてみねえ?』
という提案がタカミナから出てくじ引きの結果、俺と金銀コンビがクリスマスケーキ担当になったのだ。
柚と桃は料理は出来るがお菓子系は未経験ってことで、こうしてレシピ本を買いに来たってわけだな。
ネットでもレシピは調べられるが、こういうレシピ本を読むのも面白いからな。
「あ、この本の著者テレビでよく見る料理研究家じゃん」
「おー、あのお姉さんな。別嬪さんだよな。んで尻がデケエんだ尻が」
「……そんな理由で選ぶわけ?」
「本として出版されてる以上、最低限のクオリティは保証されてるわけじゃん?」
「だったらもう、あとはフィーリングっしょ」
む、一理ある。
「とりま一人一冊選ばね?」
「三冊もありゃ十分っしょ」
「だね」
柚は件の美人料理研究家の本を選んだ。
俺は……どうしよっかな。目についたのを手に取りぱらぱらと中身をめくってみるが……。
(うん、どれも美味しそうだなぐらいの感想しか出て来ないや)
最低限のクオリティはってのはその通りだ。
基本どれも分かり易く説明文が書かれてるし、どれを選んでも問題はなさそう。
じゃあ俺も有名な料理研究家のをとも思ったが、全然分からん……。
(このままじゃ何時まで経っても決まらんし……よし、もう目を瞑ってテキトーに選ぼう)
目を閉じて、手を彷徨わせる。
これか……いやこっちか……よし、これにしよう。
「ニコちゃんも決まったか。んじゃ会計済ませようぜ」
レジで清算を済ませ、そのまま俺達は階段近くのベンチに陣取った。
今日は本を買って終わりではなく、実際に試作する予定なのだ。
ぶっつけ本番は流石に怖いからな。まずはお菓子作りがどんなものか体感してみたい。
「うぉー……やっべえ、どれもめっちゃ美味そう……」
「だなぁ……でも、どれもこれも砂糖とかバターとかの量えぐくね?」
それは思った。
いや、何か砂糖やら何やらを惜しまず使うのが美味しいお菓子を作るコツとか聞いたことはあったけどさ。
こうして実際に数値を見ると……ちょっと、いやかなり引く。大丈夫なのこれ? って心配になるレベルだ。
「そりゃカロリーも高くなるよね」
「「なぁ」」
2.皆はどんな大人になるんだろうな
ケーキ作りに必要な材料を大型スーパーで揃え帰宅。
ちなみに母も姉も居ない。姉は部活で母は仕事だ。少し前にようやく父が会社を辞め完全復帰を果たしたのだ。
「道具はあるんだよな?」
「うん。昨日の内に確認してる」
「そいじゃ早速、取り掛かるべ」
まずは手洗い、うがいだ。料理をするのだから当然だろう。
家庭科の授業で使ってるエプロンに袖を通し、準備完了。
ちなみに今日作るのは王道を往くシンプルなホールケーキだ。
ブッシュドノエルやダブルチョコレートチーズケーキなど心惹かれるレシピは他にもあったんだが最初だしね?
いきなり変わったのに挑戦して失敗したら目も当てられない。
「えーっと……何々? まずは卵と牛乳を常温に戻す……」
はい早速、躓きました。
「ねえねえ料理で常温に戻すとか言うけど常温って何? 意味わかんないんだけど」
「初っ端からキレるなや。常温ってのはあれだよ。触った時に冷たく感じないぐれえだ」
「そんなの個人個人の体温でまた変わるでしょ。数字、数字を教えて欲しいの」
「大体、15℃~25℃ぐらいだがお菓子作る時は23℃~25℃ぐらいとか聞いたような?」
「まあそこらは俺と銀角で判断するよ。あ、オーブンも予熱させとかにゃ」
とりあえず待つ間に苺のカッティングやらをやっておこうということになった。
「ちなみにえっちゃんはケーキで何が一番好きよ?」
「んー……基本、どれも美味しく食べられるけど強いて言うならチーズケーキ?」
「あー、らしい。めっちゃらしい。ニコちゃんってチーズケーキ好きって顔だもん」
どんな顔やねん。などと駄弁りつつ調理を進める。
俺は素人だが料理経験豊富な二人の補佐もあり、目立った失敗もなく工程を重ねていく。
「このかき混ぜる工程ってさ。ハンドミキサーなかったら地獄だよね」
「クッソかったるいのは確かだろうなぁ」
「でも昔の人らは便利な道具もなしに作ってたんだからすげえよな」
ケーキ作りに精を出しながらふと思った。
(不良の姿か? これが……)
いや、ギャップという意味ではありなのか?
あとヤンキーって括りで考えるからあれで中学生男子としては不思議でもない?
出来ることが増え始めて、興味あれば兎に角手を出したくなる年頃だし。
(思い出すなぁ、小学校から中学校に上がった頃……世界の見え方が違ったっけ)
前世の純正ティーン時代を思い出し、懐かしさが溢れる。
小学校から中学校でも凄かったが、高校で更にだもんな。
子供だけで遠出して、ホテルやら民宿に泊まった時は大興奮だった。
(特にビジホ。特別感が半端なかった記憶があるな)
だが高校生の感動すら実は序の口でしかないんだよな。本番はやっぱ社会人よ。
俺も最後こそああなったが、社会人一年目はブラックが気にならないほど楽しかったからな。
バイトで給料を得た経験はあるが、正社員としてのそれはまた別。初の給料日はめっちゃ浮かれたっけ。
そりゃ現実的には使える額に限度はあるさ。でもあの万能感は半端なかった。
他にも……そう、今正に作ってるケーキ。
(大人になったらホールケーキ丸々一つ独り占めにって夢は子供の七割強が抱くと思うんだ)
実際、クリスマスにやった。そして後悔した。
まだ身体も元気いっぱいの二十代だったが、カットしたの二個目ぐらいでもう良いやってなったな。
勿体無かったから二日かけて全部食べたが、普通にしんどかった。
でもそのしんどさ、現実を知るのもまた醍醐味っつーの?
(…………皆はどんな大人になるんだろうな)
柚と桃を見ていてふと思った。
俺にとっては最早、単なる通過儀礼でしかないが彼らは違う。
俺が語った大人の感動を噛み締めてくれると嬉しい。
(大人になったら皆、それぞれの道を行くんだろうけどさ)
正月とかに集まって、皆で昔を思い出してわいわいしたいな。
その時は俺も飲酒を解禁しても良いかもしれない。皆で飲む酒はさぞや美味かろう。
誰一人欠けずそんな未来に辿り着くには、
(……頑張ってヤンキー輪廻を解脱しなきゃな)
改めて、そう思った。
「――――っし、これで完成だ」
最後のデコレーションが終わり、ついに完成。
多少、不恰好ではあるが……まあまあ、初めて作ったにしては中々ではなかろうか。
「早速、味見……といきたいんだけど……」
「「……」」
ぶっちゃけるわ。作ってる段階でもうお腹いっぱいです。
めっちゃ良い匂いしてたし、すっごく美味しそうではあるんだよ?
でもねえ……こう、えげつない量の砂糖やバターをぶち込んでたらお腹いっぱいになっちゃった……。
それは俺だけじゃなく金銀コンビも同じで、どうしたものかと三人で顔を見合わせていると、
「たっだいまー♪」
陽気な声が聞こえた。姉の帰宅だ。
何時もより早いなと思っていると、ぱたぱたと姉がリビングに駆け込んで来た。
そして俺達の姿を見るやキッチンへ。
「ありゃ、柚くんに桃くんじゃん。こんにちは」
「「っす」」」
「え、何々? 男の子三人でエプロンつけて何やってんの?」
「来月のクリスマスパーティでケーキ作ることになったからその試作」
「ケーキ? あらやだ、美味しそう」
じゅるり、そんな擬音が聞こえてきそうだった。
何やら期待を込めた目でこっち見てるし……。
「ニコちゃん、丁度良いんじゃねえの?」
「麻美さんに試食してもらおうぜ」
「だね」
「えぇ!? 良いの? いやぁ、ごめんね。何か催促しちゃったみたいで」
実際催促してると思うが……まあ楽しそうだし別に良いか。
「とりあえず手洗いとうがいしてからね。あ、飲み物はどうする?」
「んー、じゃ牛乳で」
「分かった。用意しとく」
切り分けたケーキを皿に乗せてリビングのテーブルへ。牛乳とマグカップもだ。
少ししたら姉が戻って来て、いそいそと座りフォークに手を伸ばした。
「いただきまーす!!」
「「「召し上がれ」」」
さて、どんなもんか。そう悪くないと思うんだが……。
「んー! おーいしー♪」
「「「っし!」」」
思わずガッツポーズ。姉は三口ほどでぺろりと平らげてしまった。
「ねね、おかわり良いかな?」
「「もち!!」」
気を良くして更にケーキを追加するのだが、
「もう一個欲しいかなー?」
一つ、また一つとおかわりを所望される。
いや別に良いんだよ? 俺ら腹いっぱいだったし試作だからさ。
でも夕飯前に……結局、姉はホール一つ丸々平らげてしまう。
「「「はわわわ……」」」
俺達は心底から、戦慄した。




