第19話 この人のために
1ヶ月も空いてすみません!
太平洋の荒波に浮かぶ、
1隻の小さな船。
今にも波にさらわれそうなくらいの。
その船には誰も乗っていない。
広い太平洋で俺はひとりだ。
食料も水も、もう底を尽きた。
だがその時、
目の前に大きな無人島を発見した。
そこには綺麗な水も、栄養満点の甘い果実も
山のようにあるだろう。
俺は船の発動機を回し、
島を目指した。
次の瞬間、
船の左側から不気味な雷跡が
6本迫ってきた。
とてもかわす余裕なんてない。
距離が近すぎる。
魚雷が直撃する。
俺は沈む船の渦に巻き込まれて、
そして・・・
「うわぁぁぁ!」
俺は目を覚ました。
スヴェントヴィトのベッドの上だ。
また、あの夢を見た。
日本からの帰路、バギーニャ艦隊は
ソ連の潜水艦からの攻撃を受けた。
大きな損害こそ出なかったものの、
スヴェントヴィトにも魚雷が直撃。
俺にとって初めての"実戦"だった。
死を覚悟した敵がこちらを三途の川に
引きずりこもうと襲ってくる。
それはゲームとは全く違う。
比べることすら烏滸がましい現実だった。
あれ以来、俺は海に出るのが怖くなってしまった。
海面を見るのが怖いのだ。
ソ連潜水艦が周囲にうようよいるかと
思うと、とても通常の精神では
いられない。
スヴェントヴィトは被雷箇所の修理を終え、
ペトロハバロフスクに停泊している。
1週間後には演習に出港するのだ。
それまでにはなんとか克服したいのだが、
どうにもならなかった。
平和な日本でなんの不自由もなく
育った俺がこの時代で、しかも軍隊で
やっていけると思っていたのが
間違いだったのかもしれない。
コンコン
ドアをノックする音が聞こえた。
「新浪中佐、入ってもいいかな?」
司令長官の声だ。
「はい、どうぞ・・・」
彼女は手に朝食を持っていた。
たぶん、俺の分だ。
「全然食事とってないみたいだね。
体壊しちゃうよ」
「すみません、ご迷惑おかけして・・」
彼女は朝食を机の上に置くと、
床に座り、ベッドに腰かけて膝を丸めた。
「私もね、最初は怖かった。
軍人になって、人を殺さないといけないこと。
でもね、私たちが戦わなかったら、
この国で暮らしている人たちはどうなるのかな?
上陸した時、町の人たちに
『いつもありがとう』『これからも頑張って』
っていわれて嬉しかった。
この国のために、この国で暮らす人たちのために
私たちが頑張らないと。
それができるのは、私たちだけだから。」
彼女は説得するでもなく、諭すようでもなく、
ただ一人言のように呟いた。
彼女だって人間なのだ。
19歳という若さで一国の国防の要である艦隊と
その乗員の命を預かる重圧は計り知れない。
彼女は、ずっとひとりでその重圧と戦ってきたのだ。
彼女を守ってやりたいと思った。
こんななさけない俺でも、彼女と苦しみを
分かち合うことはできるはずだ。
彼女が小さな体に抱えたプレッシャーを
少しでも和らげる。
俺はこの時代でやるべきこと、
生きる意味を見つけた気がしたのだった。