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第八話「製薬工場回収作戦ー1」

マドゥル・シャンペンは物騒な街だ。殺し屋と賞金稼ぎのはびこる物騒な街だ。

小さな放火やグレネード並の爆発事件など、普通に毎日起こる。だが…

「流石に製薬会社のオフィスタワーが丸々吹き飛んだりはしませんでしたな…」

マイルロフはそう呟いた。

「あの会社の工場が、今レイノア達のいる廃工場だったのか?」

クレイスはマイルロフに訊いた。

「あぁ。廃工場になってまだ早い。中は相当物色されたので、月日がたっているようにみえますがね」

クレイス達が丁度廃工場跡に向かっている最中に、爆発は起きた。

中央区のオフィスタワーの一つがいきなり轟音とともに爆発したのだ。

だがクレイスには、そんなことに目を離している時間はないと思っていた。

「早く案内しろ!」

マイルロフを急かして

中央区の人通りを抜ける。

目の前に剥がれかかった立て看板に

【KEEP OUT】

と赤文字で書かれたのを見て、直感的に廃工場の地区に着いたと思った。

クレイスは周りを見渡した。

所々壊れたコンクリートで、奇跡的に建っている長めの三階建ての建物。

「あれか」

「…また気配ですか?」

「あぁ。人の気配がする。数は…3か」

「あぁ、きっとラムとレイノアさんと奴でしょう!急がなくては…!」

「…油断するなよ…」

クレイスはそう呟くと、乗り捨ててあるトラックや、瓦礫に隠れながら、慎重に建物に近づいていった。

「…」

入り口の扉の向こう、少しの所に血痕がある。まだ新しい…。

「どちらかが深手を負ったみたいだな」

クレイスはそう言うと、両手の銃を構えながら、エントランスへ飛び込んだ。

とてとてと、マイルロフも入ってくる。

「おい、マイルロフ…帰るなら今だ。…これから先は命の保証は出来ない」

「帰るものか。私も弟を助け出さなければならないからな」

マイルロフは緊張した面持ちで古い旧式のリボルバー銃を構えた。

「言っておくが…足手まといになるなら置いていくからな」

「せいぜい努力しますよ」

初老の男の目が光った。

…なるほど。戦闘は苦手だが、嫌いではないんだな。

「まずは一階を調べる。一応崩れやすくなってるからな、合図したら窓を破るなりして外に飛び出せる準備をしておけ」

クレイスはそう指示を出した。

「分かった。」「…行くぞ!」

瓦礫の散乱したエントランスを抜ける。

カウンターを飛び越え、奥の扉を開けると、倉庫のような部屋に出た。

大小様々な棚が倒され、とても人が歩いたようには見えない。足の踏み場さえない状況だった。

「どうするかね?」

マイルロフがこちらを見て言う。

そこでクレイスは嫌な気配を感じた。

いや、気のせいだと瞬時に自分に言い聞かせる。何故ならその気配は…

あまりにも大きすぎるからだ。

「なっ…」クレイスは戦慄する。

こんな気配は初めてだ。

かなりの手練れ…いや違う。

体自体、とてつもない大きさだろう。

そんなことを考えていると…

「うわっ!」マイルロフが叫んだ。

「どうした!」「…しっ…死体が…」

確かにマイルロフの指差した所には、女性と思われる死体があった。

まだあまり経っていない。

死因は胸を何かで一突き。即死だ。

「奴だ…また犠牲者を出すとは…」

「…っ!!!」

クレイスはその女性の近くに、軽機関銃の弾帯が落ちているのに気づいた。

ハッピーエンド製、特殊弾帯。

こんなあまり出回っていない物を好んで使うのは…しかも軽機関銃で…。

「マイルロフ!レイノアはここを通った!瓦礫を退けるのを手伝ってくれ!」

「なにっ…分かった!」

手始めにクレイスは目の前の大きな鉄製の掃除用具箱のようなものを退けた。

「あぁ…イーリス…好きなんだぁ…」

何かいた。

そっと重い箱を元に戻す。

「ぐえ」どうやら当たり所がよかったのか、この箱は男には当たっていなかった。

それをクレイスが男の上に置いたから…

「ぐはあっ…ギブ!ギブ!俺が悪かった!許してくれ…あれ?」

改めてみると、一瞬帝国兵だと思ったが違った。彼は群青に輝く甲冑を着け、大きな銀色の盾と長い片手剣で武装していた。

「…」男はクレイスを見て、一瞬辺りを見回した。「お前…クレイスか?」

「ロバート…何をしている…。」

「俺様は爆弾を回収に来たんだよ。」

「は?」言っている意味が分からない。

「イーリスの奴が仕掛けた爆弾を、これから回収に行くんだ!俺様を止めないでくれ!俺様はもう…もう決めたんだ!」

「あぁ、勝手に行け」

「うおぉぉ…!」

ロバートは瓦礫を飛び越え、全速力で走っていった…。

「…知り合いかね…?」

「…帝国に乗り込んだ時に…な」

あの自分を俺様と言う喋り方は変わっていない。だが少し様子がおかしかった。

爆弾回収…と言っていたが…。

「我々も進むとしようかね」

マイルロフはそう言うと瓦礫の1つにつまづいた。「おっと…」

まるでスローモーションの映像を見せられたようにクレイスは感じた。

マイルロフによって崩された瓦礫の1つが木製の本棚にかかり、さらに本棚が倒れた先には立て掛けてあるモップ…

モッブが倒れ、軽く瓦礫の1つに当たり、その瓦礫が滑り台を滑るように向こうの部屋へと消えていった…

ガッ!「ぐわあぁぁぁ!」

「助かったよ、クレイス」ロバートはまだ痛む頭をさすりながら微笑んだ。

「…で、その格好はなんだ」

「彼女の趣味」ロバートは即答する。

この青い甲冑を着け、盾と剣を持つことで真の騎士となるのだ。

ワシの為に忠誠を誓うのじゃ。

と言われて身に付けているものだ。

「その彼女は相当な騎士好きなんでしょうな…?」マイルロフが言う。

「あぁ!俺様も西洋文化は大好きだ!」

「…ひとついいか?」

「なんだい、クレイス」

「…表情が見えないと何か腹がたつから、その兜ぐらいは取ってくれないか」

青いボサボサ髪の青年の顔が出てきた所で、クレイスは話を変えた。

「爆弾回収…と言っていたな。具体的には何処にあるんだ?」

「イーリスが隠しそうな場所…としか言いようがないかな…」

ロバートは兜を背中の腰についたポケット【武器ケースなのだろう】にしまった。

「大体の目星はついていないのかね?」

「目星はついてる。ただ、イーリスが遊んでるだけなら爆発させないで自分から回収を始めてくれるんだが…」

ロバートは近くの掃除用具箱から何か小さな段ボール箱を取り出した。

「…うおっ!」クレイスは思わず叫ぶ。

赤い筆で【42】と書かれた箱の側面には、ありふれた発火装置がくっついていた。

「42…しに、だから致死性の高い毒粉をばらまく奴だ…」

「わ…分かるのか?」

クレイスは後退りしながら訊いた。

「そ…それよりどうするのかね…それを…」マイルロフは近くの倒れた棚の下に隠れてしまっている。

「持ってく」

「よしロバート、ここから別行動だ」

「待てい!彼女はレーダーを通じて爆弾の状態をモニターしてる。俺様が持ってる間はイーリスも作動させることはないよ」

「昔の戦友の頼みならとは思ったが…とんだことに巻き込まれてしまったみたいだな…」

【Sm:爆弾の座標をロバートから訊き、探しましょう。クレイスが触れるとGAMEOVERとなります】

「どうしてここを爆破しようとしているのかね?ただの廃工場だろう?」

マイルロフは奥の部屋に進みつつ言う。

「何か重要な資料でもあるんだろうと俺様は思う。帝国側のな。」

「…成る程、隠し場所には確かに最適かも知れないな…物も…人も」

「クレイス、ストップ。この座標だ」

トラックの搬入口と思われる場所だ。

外に通じているゲートは開いたままだ。

…いざという時の脱出路に使えそうだ。

「これですかな?」

マイルロフが軽トラックの二台の運転席にそれぞれ、【21】【33】と書かれた小包を見つけた。

「…郵便で小包が届いても、簡単には開けたく無くなったな」

「オッケー…よし、回収っと」

ロバートは2つを甲冑の背中のポケットにぶちこむとトラックから降りて言う。

「一階は後三台だ。頑張ろう!」

「…っ…」レイノアは薄目を開けた。

目の前に誰かいる。

「クレイス…?」

「何を寝ぼけておる」少女の声がした。

レイノアは固い地面に仰向けになり、その少女の膝の上に頭があるようだった。

「…だれだっけ…?」

「相変わらずじゃな…察しはついているのじゃろう?」

「イーリス…イーリス!」

レイノアは飛び起きた「いッ…!?」

「慌てすぎじゃ…さっきまで死んでいたのじゃから大人しくせい」

「死んでたって…あっ!」レイノアはどうしてこうなったかを思い出す。「え…ラムは…?ラムはどうなったの!?」

「…死んだ」イーリスは目をそらした。

「なんで…どうして…イーリス!何で助けなかったの!?」

レイノアはイーリスにつかみかかる。

「や…やめぃ!十二単は脱げやすいのじゃあぁ!話すから手を離せぃ!」

レイノアはイーリスから手を離す。

「…で?」

「お主が激怒するのも久しぶりじゃの…真剣に怒ったのは滅多にないことじゃが」

「大人しく質問に答えて。貴方の医療技術でも治らない深手だったの?」

「冷静になってよく考えてみるのじゃ。…お主はさっきまで死んでいたのじゃよ」

「…!まさか…」

「【命移し】を発動せざるを得なかった。丁度良いところに手負いの一般人が居たものじゃから…」

イーリスはまた目を反らす。

言いづらい事を言っている時の癖だ。

本人も苦渋の決断だったのだろう。

ここでレイノアはあることに気づく。

イーリスはクレイスの事を知らない。

もし今回一緒にいたのがラムではなくクレイスだったら…。

ぞっと背筋に嫌な汗をかいた。

「ところで…その格好はなに…?」

慌ててレイノアは話を反らす。

「殿の趣味じゃ。」イーリスにとって【殿】は【彼氏】に相当する。

「殿って…」レイノアは溜め息をつく。

「なんじゃ、羨ましいかの?」

「私だっているもん!…いるけど…」

「ほほう…」イーリスがニヤニヤしながらレイノアの頬をつついた。

「…なによ」

「お主は手が早いと思ったのじゃがなあ!まだ片想いとは…こは如何に!」

古い言い回しをしてイーリスは笑う。

「うるさいよ!私だってアピールぐらいしてるもん!でも気づいてくれないんだもん…うぅ…」

イーリスは膝の上のレイノアを撫でた。

「おーよしよし。ロバートぐらい分かりやすい奴じゃと良かったんじゃがなぁ」

「なによ…ジャガー」

「ワシはイーリスじゃ」

「マトモに返すなっ!」

「爆弾回収?」ようやく動けるようになったので、レイノアは地べたに座って服を着替えながら聞き返した。

「そうじゃ、ちょっとワシも頭に血が登ってしまっての。この施設に大量に撒いた爆弾を、小型の奴はともかく、レーダーに探知されるタイプのものは回収しておこうと思ったのじゃが…」

「頭に血が登ったって…一体何があったのよ…」レイノアはため息をついた。

「…帝国がワシらを追っておるのじゃ。だからワシらは見つからないようにしておった…細心の注意を払ってな。じゃが…」

「どういうわけか見つかったと…」

「うむ、ならば誘い込んで一網打尽にしてやろうとばらまいたんじゃがなぁ…」

「帝国の動きが変わった…とか?」

レイノアはアサルトの残弾を確認しながらイーリスに聞いた。

「うむ、追って来ているのは勘違いで、どうやら基地か何かに部隊を送っただけのようじゃった…」

イーリスはポリポリ頭を掻いた。

「その後始末に付き合えと?」

「怒るでない、生き返らせたのじゃから、そのくらい良いではないか?」

「…まぁ、仕方ないか…」

【sm:エネミーを倒しながら爆弾を探しましょう。爆弾はレイノアが触ると爆発するものもあります、注意!】

「さぁ、行こっか!」

【続く】


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