蜂の一刺し
大陸に版図を広げる帝国、『帝政オリュンポス』。
多くの魔法使いが所属し、皇帝もまた強大な魔法使いであるこの国であるが……。
その中でも抜きんでて強い魔法使いには特別な称号が贈られる。
それが、マスターメイジ。
他の魔法使いが束になっても敵わない、圧倒的な実力者だけが名乗れる称号である。
そしてそのマスターメイジの中でも最も強い者には更に、グランドマスターメイジの称号が送られているのだ。
その時代最強の魔法使いには、絶大な権威と栄誉、そして富が与えられている。
グランドマスターメイジを輩出した家はそれだけで名家となり、子孫たちもまた名士として祭り上げられる。
そう、グランドマスターメイジとは、単に『この時代で一番強い』というだけのチャンピオンではない。
もはや生きた神、尊敬と崇拝の象徴であるのだ。
※
帝政オリュンポスの、とある田舎。
ワラ村というどこにでもある小さな村に、野良魔法使いの集団が現れた。
あるいは魔法を使える山賊団が、村へ襲撃を仕掛けた。
『おいおい、せっかく軍役を終えて帰って来たってのに……山賊と戦うことになるとはなあ』
『運がないな。まあもっとも、それはあいつらの方だけどな』
『元軍人の俺たちが、山賊なんぞに負けるかよ……!』
ワラ村には魔法こそつかえないものの、退役したばかりの軍人たちがいた。
彼らは山賊団へ果敢に挑んだが、結果惨敗。
敗北した退役軍人たちを連れて、近くのキノ村に逃げ込んだ。
キノ村はワラ村よりも大きく、警備兵が常駐している村だった。
ある程度年齢を重ねてから徴兵され、その後に訓練を受けた『一般兵』とはわけが違う。
幼少期から訓練を積んできた、魔法を使える警備兵たちは迎撃の構えを取っていた。
『先祖代々この町を守ってきた我等が、その刃を振るう時が来たとはな』
『戦いたいという欲求はあった。だが実際に戦火に巻き込まれると、心中複雑だな』
『なあに、戦火なんてもんにゃならねえよ。さっさとぶっ殺して、鎮圧、鎮火だぜ』
彼らもまた奮戦虚しく敗北し、キノ村もまた焼かれた。
多くの人々は希望を求めて、周辺で一番大きいレンガ町に逃れた。
彼らは一様に驚愕した。
自分たちと同じように、方々から避難民が押し寄せていたのだから。
レンガ町の領主は、重苦しい顔で決定を下した。
『この町にも戦力はいる、いる、が……キノ村や他の村々とそこまで大きな差はない。避難民たちからの情報を基にすると、我等では勝てないか、勝てたとしても多くの犠牲を伴ってしまう』
『山賊を皆殺しに使用が撃退しようが、周辺の村々の民や町の住民が大勢死んでは元も子もない』
『誠に遺憾だが、皇帝陛下に援軍を依頼しよう……マスターメイジの出動を要請する』
彼らは使者に手紙を託し、帝都へ送り出した。
使者は覚悟を決めてひた走った。
道中、不気味なほどトラブルはなく……帝都に到着。
皇帝に出動要請が届いた。
皇帝は速やかにマスターメイジの一人を派遣することを決定したのだった。
※
レンガ町。
使者を送り出した後、山賊から散発的に出される『要求』に耐えるしかなかった町に、一人の強大な男が現れた。
豪華な男だった。
まず、長身だった。長髪をなびかせ、タイトな服で肉体を固辞し、屈強な筋肉を胸襟からみせつけている。
全ての指に巨大な宝石付きの指輪をはめ、上質な毛皮や生地で拵えられたアクセサリーを身にまとっている。
表情は傲慢で大胆不敵。
まさに成金、ナルシスト。
とてもではないが、窮地への救援に来たとは思えない『準備』をしてきた男であった。
彼は町の真ん中、広場にて。
多くの人目がある中で、領主とあいさつをすることになった。
奇妙な緊張が空気を張り詰めさせていた。
彼の華美すぎる姿に驚いたのではない。
これについてはまったく噂通りだったのだ。
現在この国に五人しかいない、マスターメイジの一角。
その内の一人が目の前にいる。
皇帝の側近、最強の魔法使い。
間違いなく味方だが、本来は雲の上のヒトであり会うことはあり得ない。
だからこそ、緊張してしまっていた。
「どうも、皆さん初めまして。私はマスターメイジの一人、サムソンと申します。皇帝陛下からの命により、参上仕りました」
彼の見た目のせいで『慇懃無礼だな』と錯覚してしまうが普通のあいさつだった。
丁寧ではあるのだが、地の性格が見え隠れする所作だった。
高慢な性格の持ち主が、ビジネススマイルで接してくる。
相対している領主は当然ながら、周囲の人々にもそれがありありと伝わってきた。
間違っても正義のヒトではない。
仮に気まぐれを起こせば、この場で踵を返して帰りそうな……そんな不真面目さを感じさせていた。
もちろん、そんなことは誰も口にできなかった。する必要もなかった。
こちらも彼に対して真摯に対応して、彼に山賊を倒してもらえばいい。
その後お礼を言ってもてなしをすれば、それで終わる。
こちらは救援を依頼した側なのだから、心象が悪い程度のことは見て見ぬふりをすればいい。
これで余計なことを言えば、それこそこちらが無礼だ。
大人たちがそのように考えていたところで、とてとてと、十になるかならざるやの子供たちが走ってきた。
「ねえ、おじさん! マスターメイジって、本当?」
少年少女たちは悪気無しに質問を投げた。
この国の英雄であるマスターメイジが現れたということで、いてもたってもいられなかったのだろう。
周囲の大人はあまりのことに驚き、動けなくなる。
果たしてこの大男、マスターメイジ、サムソンは何を言うのか?
「うん、そうだよ。私はマスターメイジ、サムソンだ」
長身な彼は膝をつきながら視線の高さを合わせつつ、ビジネススマイルで応じていた。
「序列は?」
「私の序列は五位だよ」
割と失礼な質問にも、彼は笑って答える。
だがその言葉を聞いて、子供たちはバカにし始めた。
「え~~~? 序列、五位?」
「今のマスターメイジって、五人だよね?」
「それじゃあ一番の下っ端か~~」
「どうせなら序列一位、グランドマスターメイジに会いたかったな~!」
「この国で一番の魔法使いだもんね~~」
大人たちは泡を吹いて倒れそうになっていた。
これはもう、完全にケンカを売っている。
腹を立てたサムソンが帰っても引き止められないほどだ。
彼の性格云々ではない。
自分たちに置き換えて考えた場合、そう動くに決まっていたのだ。
「ははははは! そうなんだよ。私は一番の下っ端なのさ。グランドマスターメイジ様じゃなくて、申し訳ないねえ。でもあの人はお忙しいから、代わりに部下の私がここに来たんだよ。序列は最下位でも十分強いから、安心して任せてくれ」
「え~~? 本当かなあ? 大丈夫? グランドマスターメイジ様に交代しなくていい?」
「ああ、結果を出してみせるから、待っていてくれ」
サムソンはあくまでもビジネススマイルを崩さなかった。
少年少女の無礼にも、彼は寛大な心で応じていた。
その姿を見て、町の人々は一様に心の中で謝罪する。
もうしわけない、貴方はとても素晴らしい人です。 第一印象で勝手に下に見て申し訳ありませんでした!
※
火つけ山賊は、三日に一度レンガ町に訪れる。
忍び込むことなく堂々と正面門への道に立ち、壁に囲まれたレンガ町へ叫ぶのだ。
物資をよこせ、と。恥ずかしげもなく。まさに猛々しい盗人であった。
そうして一か月ほど搾取していた盗賊団であったが、この日は違った。
華美、豪奢を極めた姿の男が、すでに門の前で待っていたのである。
「……マスターメイジ、序列五位。サムソンか」
有名な男であり、わかりやすい見た目であった。
だからこそ今日までいくつもの村落を焼いてきた山賊団が固唾を呑む。
すでに周辺一帯を陥落させた、五十人からなる山賊がたった一人に怯えた。
序列五位、という数字を軽く見ていない証拠だ。
マスターメイジとしてみれば末席ではあるが、この男はこの国で五番目に強い男。
今まで倒した元兵士や木っ端魔法使いとは段違いの実力者である。
勝ち目があると思うこともおこがましい。
しかしすぐに気を取り直した。想定内、という顔であった。
「あああああああ、だりぃ」
その姿を見て、サムソンは心底から嫌そうな顔をする。
「使者がなんのトラブルもなく『先生』のところにたどり着いたことといい、わざわざこんなしみったれた田舎町を襲い続けたことといい……大方、俺様を含めたマスターメイジを倒して名を上げようってハラだったんだろ? 勘弁してくれよなあ……そういう記念受験、俺様はうんざりするほど仕掛けられてるの。ジャイアントキリングを成して勇者になりたいんだろうけどよお……雑魚は潰されて終わりなんだよなあ。雑魚を潰すために派遣されるこっちの身にもなってくれよ」
彼の顔は、苛立ちだた。
たとえるのなら、とんでもなく遠くの家に行って草むしりをしてくれと頼まれたかのような、易い仕事に時間をかけさせられていることへの苛立ち。
格下を見下す強者の仕草。
あまりにも「らしいしぐさ」であった。
彼の立ち姿、身につけているもの、地位、なによりも実力。
すべてがかみ合っている。
サムソンはありのままにふるまっている。
「おまけにこの田舎のクソガキからバカにされるし……ああ、むかむかする。警告するぜ、すぐに投降しろ。さもないと殺す。はい、時間切れ、ぶっ殺す」
マスターメイジの魔法が発動する。
サムソンの周囲の空間がゆがんだ。
透明なガラスの膜につつまれたように、わずかに光が屈折して『存在』が認識できる。
彼はそれを身にまといながら、悠然と山賊たちに近づいていく。
「う、うおおおおお! 弾、貫通弾!」
山賊の一人が手のひらから攻撃魔法を発射する。
遠距離攻撃の魔法を、貫通力に特化させて使用したのだ。
岩を貫くであろう弾丸は、高速回転しながらサムソンへ向かい、彼が身にまとっているガラスのような空間に衝突する。
硬いものを貫くようにデザインされた弾丸は、砕けてはじけ飛んでいた。
「弾。希少性は☆一つ、応用性は☆三つの魔法だな。ん、そのことをバカにしているわけじゃねえんだ。バカにしているのは魔法じゃなくてお前だから。貫通弾を使ってこの程度ってことは、お前自身の出力はせいぜい☆二つってところか。そんなんで俺様に勝てるとか、夢に思うんじゃねえよ」
「弾掃射!」
大量の弾丸がばらまかれる。だがすべての弾丸は『空間』に触れると砕け散る。
ゆうゆうと近づいてくるサムソンの足を遅くすることもできない。
やがて、雨あられと発射されていた弾丸は尽き、息が荒くなっていた。
「ぜぇ……ぜぇ」
「魔力量もしょぼいなあ。☆二つってところか? 本当に何のとりえもねえなあ、これで粋がってて恥ずかしくねえの?」
「うるせえよ!」
蔑むサムソンに応えたのは別の山賊たちだった。
手には斧、槍、剣を持っている。
それも、一つ一つが『普通の人間』には持てない大きさであった。
だがそれを彼らは武器として振るってくる。
「力!」
全員が同じ魔法を使用した。
重量級の武器が、まるで普通の棍棒のように振り下ろされる。
避けようともしないサムソンに攻撃が直撃した。だがその武器の一つ一つ……攻撃に使用された金属部が大きく砕け、太い木製の柄すらも折れる。
「なにが力だよ。はあ、本当に雑魚で困る」
苛立ちを隠さぬまま、サムソンは迎撃を開始した。
それは仮にもマスターと呼ばれている者にはふさわしくない『大暴れ』だった。
防御も回避もしない。
近づいて殴る、それしかしない。
技術も戦術もない。
圧倒的な身体スペックと無敵に任せた、捨て身ならざる特攻戦法。
自分の攻撃を避けられても気にしない。
当たるまで殴ればいいと雑に戦う。
それだけで実際に成果が上がっている。
これになんの意外性もない。
襲われる山賊たちもさることながら、攻勢のサムソンもまたなんの感慨もなかった。
「ずいぶんと希望のある顔で戦ってくれてるな。ああ、はいはい。どうせ俺様を倒す作戦とかそういうのがあるんだろ? ここに俺様を誘導したことも作戦の内なんだろ? いいからとっととヤレよ。俺様は暇じゃねえんだ」
このまま戦えば絶対に何も起きない。
順当に山賊が壊滅して終わる。
にもかかわらず山賊たちは逃げようとしていない。
何か作戦があるのは明らかだった。
サムソンはそれを想定したうえであおる。
「それなら……火、焼夷!」
前線に立つことなく、他の仲間に守られていた後列の山賊たちが『火付け』を行う。
燃え上がり続ける炎の塊が、いくつも宙を飛んでいく。
狙いは無敵のサムソンではない。彼の背後、レンガ町であった。
山賊側にとっての地の利。
サムソンはあくまでも公僕であり、レンガ町を守る義務がある。
少なくとも……山賊相手に町一つ守れませんでした、というのは彼のマスターメイジとしての立場を危ぶませる。
サムソンは広大な街を一人で守らなければならない。
「ああ、はいはい。やっぱりな……」
サムソンは全く驚かなかった。
己を守っていたガラスの膜を一気に膨張させ、沢山の人が暮らす町一つを覆ってみせた。
相手が攻撃魔法を撃つ前にあらかじめ展開していたのではない。相手が撃って、その弾道を見た後で展開したのだ。
速度、範囲、ともに異常である。
長時間燃え続けるよう調整された炎の魔法は分厚いガラスのような空間に推しとどめられ、しばらくの間燃えたのち消えていった。
「今だ、やっちまえ!」
このことも山賊たちからすれば想定内だった。
相手はマスターメイジなのだから、町一つ覆う防壁を展開できても当然。
だがそれでも、広範囲を守っていることに変わりはない。
自分一人を守っている時よりも、防御力は大幅に落ちている。
今ならばぶち抜けるはずだと、ほぼ全員で総攻撃を仕掛ける。
それも単に燃え続けるような魔法ではない。
強固な防御を突破するための、貫通力、破壊力に秀でた攻撃を仕掛けたのである。
もちろん、サムソンが自分だけを守るように魔法を変更すれば、また町を攻撃する準備をしたうえで。
しかし……。
「理屈は合ってるんだよ、理屈は。確かに俺様の魔法、防壁は応用性が☆二つしかない。単純に自分の前に盾や壁のように展開するのが本来の使い方で、それから離れる使い方をすればどうしても防御力が下がる。自分の体を守る鎧のように着込めば半分……町一つ覆うなんてマネをすれば、防御力は百分の一以下に落ちるだろうよ。その原理は俺様も変わらない。だけどなあ、それでもお前らから街を守るなんて余裕なんだよ」
ガラスのような空間、バリアは傷一つついていなかった。
「嘘だろ……」
山賊たちはここで想定外という顔をした。
彼らの想定では、撃ち抜けないとしても、傷ぐらいはつけられるはずだった。
正直、卑下しすぎだと思っていた。自分に課した目標や期待を下げすぎていた、と。
まさか、それすら『高望み』だったとは。
「今ので勝てるつもりだったんだろ? 今まで何度も倒してきたから、飽き飽きしてるんだ」
全員の心が折れたことを確認してから、うんざりした顔でサムソンはバリアを自分の体を守るサイズへ戻す。
「はああ……俺様だってな、お前たちの気持ちがまったく分からないわけじゃねえんだよ。誰だって頭の中では英雄だ。神話の英雄や怪物、過去の戦争や現在の英雄を相手に大活躍する自分に酔いしれたくもなるさ。俺ならもっとうまくやれる。怪物を倒して、英雄を倒して、俺が王様になって幸せな人生を送る。勝ち組になれる。そんな妄想をしたっていいんだよ。愚痴ってもいいし、紙に書いても、絵にしてもいい。夢に描いてもいい」
彼の顔は変わらない。
苛立ち。
高貴なる己が遠い田舎町まで派遣され、草むしり程度の雑魚掃除をする羽目になっている。
そんな状況に憤慨している。
目の前の犯罪者たちが村落を燃やしたことよりも、自分を煩わせたことに怒っている。
「でもよお、それで俺様に迷惑をかけるのは違うくねえ? 俺様はなんか変なこと言ってるか?」
「これが……マスターメイジ、序列五位、サムソン……!」
「所有している魔法は防壁だけだが、最高ランクの魔力量と最高出力を持つがゆえに、歴代のマスターメイジの中でも最高峰の防御力を誇る男」
「あまりにも硬すぎるために、そのバリアは……絶対防御と呼ばれているとか」
「ああ、そうだよ。わかったか? わかったならもう死ね。ああ、本当に面倒だ、こうなるってわかってたのによお……」
ーーーここまでは、サムソンも想定内だった。
だが山賊たちはここから一手先を用意していた。
今のサムソンは完全に油断している。
自分の絶対防御を町全体から自分一人に集中し直している。
これなら何をどうやっても自分がダメージを負うことは無い。
実力と実績に裏打ちされた自信ゆえの油断。
だがそれでも、『敵』を前に油断したのは慢心というほかない。
「とっておきの一発……!」
一人潜んでいた、山賊の一人がサムソンに、左手の人差し指を向けた。
その人差し指から、針よりも細い『閃光』が放たれた。
収束に収束を重ねた熱は超高速で絶対防御と称えられるサムソンの防壁に着弾する。
一点集中、一点突破の対防壁魔法。
理屈としては今までの対防壁魔法と変わらない。
だがその出力と精度は比較にならなかった。
それこそマスターメイジ級の魔法使いでしか成しえない、超高等な火の魔法。
視認できないほど細い閃光は、無敵であるはずのバリアを一瞬で貫き、サムソンの眉間を穿ち、そのまま後頭部から抜けていった。
ぐらり、どすん。
華美な服装をしていた大男は、悲鳴を上げることもなく地面に倒れて動かなくなった。
頭蓋骨の内側の脳を焼かれたことで、彼は即死したのである。
その死体を見たことで、山賊たちは喝采を上げた。
「おお、おおお! やった、やったぞ!」
「俺たちはやったんだ! 本物のマスターメイジをぶっ殺したんだ!」
「ざまあみろ! 俺たちは勇者だ! ジャイアントキリングを成し遂げたんだ!」
「雑魚の俺たちでも、作戦さえ立てれば大物を食える。そうだ、俺たちは雑魚なんかじゃない!」
傷ついている山賊たちも大いに喜んでいた。
骨が折れていても、出血していても、内臓がつぶれていても大騒ぎであった。
サムソンは本当に強かった。
だからこそ倒したことには喝采を上げられた。
「ふ、ふふ、ひひ、へへへへへ……」
まして実際にサムソンを撃った男は、感動に打ち震えていた。
彼はまだ若いが、髭の濃い男だった。
ファッションなのか、顔の上半分を隠すようにマスクをかぶっている。
そして彼の左腕には、宝石や鋼線が回路図のように埋め込まれていた。
「やりましたね、スティンガー!」
「つつつ……コイツ本当に強かったけどよ、でもそれをぶっ殺した俺たちは本当にすごいってことですよねえ!」
「こりゃ痛みも吹っ飛ぶってもんですよ!」
「いやまったくだ。お前たちも体を張って、良くやってくれたぜ。おかげで綺麗に一発決められた」
彼らはやはり、マスターメイジたるサムソンを殺すために計画を練っていた。
スティンガーなる男に至っては、自分の体を改造までしている。
それが如何なる目的で行われたのかはまだわからないが、この喜びようを見るに、マスターメイジを殺すこと自体が目的であることは確かだ。
国家が認める最高峰の魔法使いを、作戦と勇気、そして実力で殺して見せる。
それだけのことに、名誉があると彼らは信じていた。
自分たちの人生に意味があると、自己肯定できたのだ。
だからこそ、彼らは気づかなかった。
自分たちがまったく拍手をしていないのに、祝福と賞賛の拍手が聴こえていたことに、違和感を覚えなかったのだ。
「いや~~、すごいな。まさか殺されるとは思っていなかった」
極細とはいえ脳天を焼き貫かれたはずのサムソンは、地面に倒れた誇りまみれの体のまま、山賊たちに賞賛の拍手を送っていた。
その顔には先ほどまでとは違う、心からの笑顔があった。
見下していた格下が自分に『痛手』を負わせたことに感心し、裏表のない敬意をこめて賞賛していたのだ。
嫌味も皮肉もないが、かといって危機感もない。
ある意味では先ほどまで以上に油断し、慢心していた。
「殺るじゃないか、あ、ええっと、スティンガー? うん、ミスター・スティンガー。その腕が手品のタネだな。自分の体を外科的に改造して、生まれ持った火の魔法をムリヤリ収束専用に調整したのか。他の使い方ができなくなるぐらいに特化させて、な。そこまでやるとは大したもんだ」
「……!?」
何が起きたのかわからないが、スティンガーはとっさに左手の指を向けて、とっておきの一発を発射する。
五発の閃光が走り、サムソンの眉間へ確実に向かっていた。
今はサムソンもバリアを展開し直している。
それでもとっておきの一発なら、先ほどのように貫けるはずだった。
だが今は貫けなかった。
透明なバリアではない。黄金に輝くバリアが、閃光を打ち消したのである。
そしてそれ以上は、閃光が出ることは無かった。
「五発……さっきの一発を含めて六発だな。火の魔法を改造によって蓄積型魔法に改造したんだな? 本来なら才能の限界に阻まれる不可能な威力と精度の魔法を、何日もかけてチャージ、ストックする仕組みか。そうなると、命中させたのは純粋な腕だな。俺様の先生でも、そこまでの威力だとホーミングまではムリだろうしなあ。弾が小さい分、急所に当てないと意味がない。ぶっつけ本番でよく当てたもんだ」
サムソンは心からの笑顔で、先ほどまで蹴散らしていた山賊たちを称える。
「お前たちも、俺様を油断させるために体を張ったなあ。絶望したのも演技だったのか? さっきの魔法は俺様が歩いて動いているだけでも避けられそうだもんな。絶対に当てるために、少しでも確率を上げるために頑張った……涙ぐましい努力だ。ああ、感動した。お前たちは偉業を成し遂げた。この俺様を実際に殺したんだからな」
にこやかであるのに、山賊たちは先ほどよりもはるかに怯えていた。
今のサムソンが纏う黄金のバリアを見て、何が起きているのか理解したのだ。
「……その、黄金のバリア……ただの防壁じゃねえな」
「ああ。お察しの通り。コレが俺様の本当の絶対防御、強欲なる者への祝福とその完全発動真絶対防御だ」
「あらゆる魔法に高い耐性を持つ、伝説の魔法じゃねえかよ……!」
学があるとは言えない山賊たちも、彼が何をしてきたのかわかっていた。
彼の本来の魔法は強欲なる者への祝福であり、本来なら圧倒的な強度を持つうえで、あらゆる魔法攻撃に高い耐性を誇るはずだった。
今までの彼は魔力を節約するためなのか、堅いだけのバリアだけを展開し、耐性は発現させていなかったのである。
だが本気になってしまえば、耐性が発現する。そうなればとっておきの一発でも貫けない。
「だが……それでも、さっきまでは耐性を出していなかったはずだ! 確かに当たったはずだ! それなのになんで生きてやがる!」
「ああ? それはコレだ」
サムソンは得意げに腕を広げる。
黄金のバリアに守られた体から、黒い小さな魔力の塊が跳び出してきた。
それらは小さい人形のようであり、羊と山羊の二種類がいた。
これも、心当たりがあるのだろう。
山賊たちは絶望しながら納得する。
「伝説の魔法……無垢なる供物の群れじゃねえか!」
「そのとおり。魔力をストックして、生贄として消費できる魔法だ。黒い羊は俺様が死ねば発動し、全てのダメージを肩代わりしてくれる。俺様を殺したければ、この羊全部を殺しきらないとムリってわけだな。そして黒い山羊は……」
「や、やべえ!」
サムソンの体から出た小さな黒山羊たちは、飛び跳ねながら山賊たちのすぐそばにとりつく。
そのまま動かなくなったのだが、なんともかわいらしいはずのそれを見て、山賊たちは死の恐怖に震える。
「黒い山羊の力は呪殺。俺様の合図で自壊し、お前たちを道連れにする。回復魔法や上位の魔法使いならコレを消すこともできるが、お前たちにはムリみたいだな」
いったん取り付けば、相手をいつでも即死させられる魔法。
なんとも恐ろしいが、解決法は多くある。
鍛錬を積んでいれば、火の魔法でもノーリスクでかき消すことができる。
だが悲しいかな、この場の山賊たちにそれは不可能だった。
戦術も覚悟も勇気も実力も備わっている彼らだったが、高等技術は備えていなかった。
もう絶対に助からない。
体は震えているが、開き直ることはできていた。
「なるほど、その魔法のおかげで、脳天をぶち抜かれも助かったってわけか」
「その通り。間抜けな話だろ? 俺様は手抜きしていたせいで本当に殺されていたんだ。恥ずかしくて報告書にも書けないぜ」
「……究極の防御魔法である強欲なる者への祝福と、蘇生魔法である無垢なる供物の群れを併せ持つとはな。こりゃどうあっても殺せそうにない。それに見た感じだと、他にも隠し玉があるって感じだな」
「ああ。信じなくてもいいが、俺様は七つの伝説級魔法を持っているんだぜ。どうだ、凄いだろう?」
サムソンが笑顔で情報開示をするたびに、山賊たちは黒山羊による呪殺が、威嚇や脅しではないと理解していった。
目の前の魔法使いは本当に機嫌がいいし、自分たちをほめてくれている。
だが助かる道はない。今この場で殺すと決めているからこそ、冥途の土産に話してくれているのだ。
そしてこの話も、そう長く続かないのだろう。
だからこそ、一番気になっていることを聞いてみた。
「伝説の魔法を七つも持っているとは大したもんだ。現役のグランドマスターメイジ様でも三つしか魔法を持ってないってのにな。それなら、それならよう。アンタがその気になれば、グランドマスターメイジになることだってできるだろ。それどころか一人でクーデターだってできるはずだ。なんでマスターメイジの末席なんてやってるんだ?」
マスターメイジの末席も十分凄いが、最高位の方がいいに決まっている。
なんなら力づくで皇帝にもなれるはずだ。
そうしていない意味が分からなかった。
「は?」
サムソンはここでものすごく驚いた顔をしていた。
むしろ彼からすれば、目の前の山賊たちがそれを聞くことの方がわからなかった。
「そりゃ、俺様が七つの伝説級魔法を全部使えば、グランドマスターメイジにだってなれるさ。クーデターを起こして国を乗っ取ることだってできる。だが、そんなことしたら殺されるだろうが」
七つも伝説の魔法を持っている奴を殺せるわけないだろう。
そう言いかけたところで、山賊たちは自分たちの愚問に気付いた。
最初から彼の魔法を全部知っていれば、別のやり方で殺そうとしていたはずだからだ。
「伝説にゃ、たくさんの『不死身の怪物』やら『無敵の英雄』やらがいる。だけどそいつらは例外なく殺されている。なんでだと思う? 理由は二つしかねえ」
七つもの伝説の魔法を持つ男は、伝説の根底にある真理を説いた。
「『魔法を知られているから』と『標的にされているから』だ。俺様もそうさ。一対一なら誰にも負けないし、事前情報なしで奇襲をかける分にゃ、他のマスターメイジ四人を同時に相手取っても負けることはねえ。だが俺様がどんな魔法を持っているのか世間に知られたうえで俺様を狙う輩が大量に湧けばどうなる? どんな手段を使ってでも俺様を殺そうとしてきたらどうなる? そりゃ殺されるさ」
山賊たちも頭が冷えてきた。
彼らの脳内では、すでに開示された二つの伝説級魔法について攻略法が巡っている。
今の自分たちのやり方では無理というだけで、時間と人数が十分なら倒せないわけじゃない。
他の魔法もあるのだろうが、全部把握すればやはりガンメタを張れる。
自分たちでもそうなのだから、他にも倒そうとする者は現れる。
ほとんどの者が自分と同様に失敗するだろう。だがその中の誰かが成功すれば、無敵に思えるサムソンも死ぬのだ。成功率がどれだけ低くとも、達成率は100パーセントである。
「だから俺様は|防壁しか使えないってことにして、五位に甘んじてる。それでも十分いい暮らしができているんだぜ? デカい庭のあるデカい家、美味いメシに片付いている部屋、沢山のペットに若くてきれいな嫁さん。もちろん世話だの維持だの管理だのをしているのは俺様じゃねえ、他人にやらせてる。最高に贅沢だろう?」
「……なるほどな」
スティンガーはありとあらゆる意味で納得していた。
そして安堵していた。開き直って絶望した中での安堵であった。
「つまり、現職のグランドマスターメイジ様は、本気のアンタよりは弱いんだな?」
「ああ、それがどうした」
「気にすんな、時期に意味が分かる。それより、早く、ヤレよ」
「そうか、それなら、苦しまずに殺してやる」
追い詰められてなお不敵に笑う山賊たち。何か考えがあるようだった。
サムソンは聞いても無駄だと理解し、敬意をもって指を鳴らした。
それによってスティンガーをはじめとするすべての山賊たちのそばにいる黒山羊が一瞬で消滅し、同時に山賊たちも即死していた。
周辺の村落を焼き落とし、レンガ町を脅かしていた山賊は壊滅した。
大した敵だったとサムソンは内心で区切っていたが……。
むしろこの戦いは、まだ始まったばかりなのである。
※
周辺の村落を焼き討ちにし、レンガ町を襲っていた山賊たちは全滅した。
全員が黒山羊の呪いによって即死していたこともあり、レンガ町の人々は『確かにこいつらが山賊だ!』と判別できていた。
目立った傷がない者もいたが、骨折している者がいたし、なにより人々は狂騒していた。
人的被害があったことにより恨み骨髄。
半分暴徒となって死体を辱めた。
サムソンはそれを看過した。
彼にとって今の行動は良くない物だという認識があった。だがそれでも許した。
自分を実際に殺して見せた相手が辱められるのは気分が良くないが、そもそも山賊たちが悪いのだし、民衆は被害者だ。
少しは同情するが、あえて守ってやるほどでもない。
そのように考えながら、サムソンはレンガ町を離れた。
顔は緩く、そして充実感に浸っていた。
「くくく……ようやく、俺様を殺してくれる奴が現れたかよ」
自己申告通り。
サムソンは七つの伝説級魔法を生まれ持っている。
本気を公表すると狙われるので、強欲なる者への祝福の精度をあえて落として防壁もどきとして使用している。
今の生活に十分満足しているので、あえて出世する気は無い。
彼は山賊たちへ嘘をつかなかった。
彼の行動方針に嘘はない。
だがそれはそれとして、うっ憤が溜まっていたことも事実ではあった。
その気になればグランドマスターメイジになれること。
末席であるため舐められていること。
まじめに努力して七つの魔法を使いこなせるようになったのに、それを使う機会がなかったこと。
彼の性格上『保険は使わずに済むのが最善』だとか『死蔵でも無駄じゃない』とか考えられるわけではない。
どうせなら本気を出したかったし、圧倒的な力を固辞したくもあった。
それも、しかるべき相手、防壁を突破する実力の持ち主相手に。
その欲求は満たされた。
自分の準備は無駄ではなかったと救われた。
彼の足取りは軽かったのだが、その目前の空間がゆがんだ。
「ん?」
「マスターメイジ序列五位、サムソン様……ですね」
「ああ、伝令の騎士君か。名前は確か」
「ガラギャラと申します」
☆三つの魔法、大跳躍によるワープを用いて現れたのは、いかにも上級騎士という出で立ちの青年であった。
視認できないほど遠くから一瞬で出現したことを考えると彼もなかなかの魔法使いなのだろうが、それでもサムソンには礼を尽くしていた。
「ご無事で何よりです……!」
「何を大げさに、と言いたいが、そうでもなかった。ああ、実際、結構ヤバかったぜ。山賊どもは俺様を殺す準備をしていやがった、危うく殺されるところだったぜ」
欺瞞まみれの笑いをするサムソン。
ヤバい、危機的状況ではなかった。
危うく殺されるところではなく、実際に殺されていた。
それでも復活しているのだから、結果に差はないだろう。
「やはり……そうでしたか。本当にご無事で何よりです」
「おうおう、ずいぶんと大げさだな」
「……貴方を除く、マスターメイジ四名は……違法改造技術を持った賊によって討ち取られてしまいました!」
サムソンの眼が見開かれた。
仮にも自分の上位に置いていた四人の魔法使いたちが、全員殺されたなど、信じられるわけがなかった。
「んなバカな話があってたまるか! 四位や三位の二人ならともかく、二位や一位は殺されるようなタマじゃねえだろ!」
「四位、三位、二位は遺体が確認されています。一位は、その……人質を取られ、我が身を差し出して救出したと……」
「……!!!!!」
内心では下に観ていたが、実力者ではあると認めていた。
心のどこかで『ガチでやりあってみてえなあ』と思っていた四人だった。
その四人が、全員殺されている。
殺した者たちに少なからず敬意を抱く気持ちもあるが、それ以上に怒りがあふれた。
「アイツ等をぶっ殺すとはやるじゃねえか、賊ども……!」
スティンガーの最後の言葉の意味が分かった。
どうやら敵組織は、思った以上に強大だったらしい。
「それで、先生はなんて?」
「はい。皇帝陛下からの勅令をお伝えします。マスターメイジ四名を倒した賊どもを討ち取ってこい、と。私はその補佐をせよと」
「そうか、わかった」
「その……大丈夫なのでしょうか」
マスターメイジの力を良く知るからこそ、ガラギャラは震えていた。
これから戦う相手は、策を用いたとはいえマスターメイジを討ち取ったのだ。
それを末席一人で倒せるのだろうか。
「皇帝陛下の勅令に反する気はありませんが、それでも……サムソン様おひとりで、他の四人を討ち取った者たちに勝てるのでしょうか?」
「ぐだぐだ、うるせえんだよ。ぶっ殺すぞ」
七つの伝説級魔法を宿す男は、七つの光を発しながら圧する。
「お前は先生の命令通り、俺様を送ればいいんだ。わかったな?」
「は……はい、申し訳ありません」
敵以上にサムソンへの恐怖に震え、ガラギャラは彼の手を取り、瞬間移動をするのであった。
※
白金大鉱山。
帝政オリュンポスにおいて、最大の希少金属の産地たる鉱山。
ここで採掘される多くの希少金属が、麓の工房に供給されることで、様々なマジックアイテムへと加工されていく。
非常に重要な、国家の要所であった。
そこが工房や倉庫を含めて、テロリストに占拠されてしまった。
皇帝は速やかにマスターメイジ序列四位、バラニを送り込んだ。
彼には『短所』があったものの、それを補って余りあるほどの実力者であった。
特に家宝の魔剣を用いた剣術は極まっており、魔力を用いない純粋な白兵戦ではマスターメイジの中でも最強だと謳われていた。
だが、その彼もまた討ち取られてしまった。
テロリストたちは、今も白金大鉱山を占拠し続けている。
彼らは倉庫に保管されていたマジックアイテム、その中でも兵器とされるものをかき集めて、楽しんでいた。
使い捨ての爆弾のような安物もあれば、砲台のような高級品もある。毒ガスのような危険物もある。
彼らはそれをおもちゃのように触って楽しんでいる。
「これだけのマジックアイテムがそろうなんて、さすがは工房の倉庫。デカい街の店にだって、ここまでの量はないでしょうねえ」
「そりゃそうだろ、ここじゃ国中のマジックアイテムが作られているんだ。小売店どころか、問屋だってここまで扱ってねえよ」
「店に卸されないような危険物まである。これだけあれば、内側から国を落とせるかもな」
その中で、工房で作られたわけではない『魔剣』を弄っている男がいた。
背が高いが痩せている男だった。
彼には禍々しい雰囲気を持つ魔剣を手にしながら、うっとりとしている。
もうすでに本懐を遂げたような顔だった。
「国を攻め落とすとは、お前たちはずいぶんとデカい夢を見てるんだな。俺はそうはいかない。正直に言って、もう先のことが考えられないよ」
彼の言葉は、少しおかしかった。
今の彼らの手元には力と財があるが、それはまだ『換金』できていない。
現金にするという意味ではない。さらにその先、カネで何かを得るという事に達していない。
旨いメシを食うとか、デカい家に住むとか、イイ女を抱くとか、そういう『結果』に至っていない。
ここで満足するのは、本質から外れている気もする。
だがそれはおかしいと、周囲の仲間たちはそれを認めきれなかった。
マスターメイジ序列四位、バラニを討ち取り、彼をマスターメイジたらしめていた魔剣を手にしていた。
その上、彼らの他の仲間も別の場所でマスターメイジを討ち取っている。
もう十分満足できる、という気持ちもわからないでもない。
「俺の魔法はお前たちも知っているだろ? 俺の魔法は一つだけで、それは単品じゃ使いようがなかった。それなりに強いマジックアイテムが必要だった……欲を言えば、魔剣みたいな一品がな。だから俺は親にねだった……金出してくれってな。だけどウチの親は断ったよ。そんな金はねえってな! ははははは! ま、そりゃそうだ」
彼は大いに笑っていた。
何度も使えるようなマジックアイテムは高級だ。
まして魔剣のような超高級品は店売りすらされていない。
一般家庭が頑張っても買えるはずがない。
ねだった自分がバカだったと笑っていた。
もっとおかしいのは、成功するために必要だったはずの魔剣を手に入れただけで、満足している自分がおかしかった。
これでは本末転倒も甚だしい。
「マスターメイジを討ち取り、魔剣も手に入れた。十分自己実現できている。そのうえ、どうしても倒したかったサムソンもスティンガーが殺しに行った……。もうやりたいことがない。いっそ、スティンガーだけでも失敗してくれれば、その敵討ちという形でサムソンと戦えるんだが……」
ボスの計画は万全だった。
すでに他の三か所からは成功報告が届いている。
サムソンを殺したという報告もそのうち届くだろう。
「そんな縁起でもない……スティンガーさんが怒りますよ」
この場にいないとはいえ、命懸けで戦いに行っている仲間に向かって『失敗すればいいのに』というのは良くないだろう。
部下の一人がテロリストらしからぬ良識的なことを言ったのだが、これにはリーダー格が眉をひそめた。
「縁起? そういうボスみたいなことは言わないでくれ。虫唾が走る」
「あ、あ~~、そうですね、すみませんでした」
「気を付けてくれ。こう、ラッキーとか、今日の運勢とか、星の巡りがいいとか、追い風が吹いているとか、そういうのは聞きたくない。噂をすれば影が差すとかもダメだぞ」
「……意外と当たり判定デカいっすね。気を付けてもキツそうです」
「こっちはあのボスの戯言をずっと聞かされていて、本当にうんざりしているんだ。恩はあるが、それでもしんどい……」
リーダーは己の腕を見る。
外科的に、それも不細工に改造を施されている腕だった。
先天的な魔法へ手を加えるための処置である。
これがなければ、そう都合よくマスターメイジ相手にガンメタを張れるわけもない。
これを処置してくれたのがボスであり、つまり恩人なのだが、人間的にはまったく好ましくなかった。
「とはいえ、ボスの計画は完璧だった。グランドマスターメイジの体も確保している。占いだの運命だのとうるさいが、それを込みでもとんでもない人さ。これでマスターメイジは全滅……!?」
その時であった。
突如として強烈なプレッシャーが、彼らの過ごしている場所を満たした。
圧倒的な魔力の持ち主が、それを開放している。
魔力から感じ取れる感情は、圧倒的な不快感と怒り。
これは間違いなく、マスターメイジのものであった。
「これは……ははは、そうか。スティンガーはやられたのか」
テロリストたちは震えていたが、リーダーだけは強がりではなく、楽しそうにしていた。
「よかったよかった……これで、あの時の借りを返せる」
ガンメタを張ったはずのスティンガーを討ち取った格上が、一切油断なく攻め込んでくる。
それを分かったうえで、リーダーは勝算をもって迎え撃とうとしていた。
サムソン
魔力量 ☆☆☆☆☆
出力 ☆☆☆☆☆
建前
防壁 最大出力絶対防御
希少性 ☆☆
応用性 ☆☆
区分 通常魔法
防御魔法。
円盤形の盾をベースとしている。
自分の体を守る鎧型、町一つを覆う砦型など、応用が効く。
複雑な形、大きくするほど強度が下がる。
本当
強欲なる者への祝福 完全発動真絶対防御
希少性 ☆☆☆☆☆
応用性 ☆☆☆
区分 通常魔法
非常に高い防御力を持つうえで、魔法攻撃への高い耐性を誇る防御魔法。
通常の防壁は防御力と有効範囲を調整するだけだが、この魔法の場合は耐性の調整も追加される。
防御力、耐性、範囲を上げれば上げるほど消費が増える。
フルスペックで広範囲展開すると、よほどの術者でも数分で魔力が枯渇する。
無垢なる供物の群れ 呪殺個体道連れの山羊 防殺個体身代わりの羊
希少性 ☆☆☆☆☆
応用性 ☆☆
区分 蓄積、契約魔法
大量の魔力を消費して、山羊と羊を生産、ストックする。
自死することで相手に呪殺ダメージを与える黒山羊と、術者が致命傷受けたときに身代わりとなる黒羊がある。
スティンガー
魔力量 ☆☆
出力 ☆☆
火
希少性 ☆
応用性 ☆☆☆☆
区分 通常魔法(属性魔法)
火を発生させる。
他の属性魔法同様、応用性は高い。
瞬間的な『爆発』、持続的な『焼夷』、設置型の『地雷』など。
練度次第では契約魔法や蓄積魔法などすら燃やせる。
とっておきの一発
区分 蓄積 違法改造魔法
火の魔法を左手の人差し指から収束させて発射する。
高威力の炎を収束を維持したまま遠距離へ届かせる、すさまじく高精度の魔法。
本来ならマスターメイジ級の高等技術。
タネは腕に刻まれたタトゥー。
刻まれた術者の魔力を自動的に吸い上げて発射準備をしており、高精度の魔法を代替して実行している。
術者は対象に狙いを定めることと、発射のトリガーを引くだけでいい。
ただ……立ったまま動かない相手であっても実際に当てるのは難しい。
収束しているという事は当たり判定が小さいという事であるし、誘導などの命中率を上げる特殊効果もなく、一日に準備できる弾が一発が限度であるため発射の練習も難しい。




