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ママはたぶん、こう言うよ。 ― 私がいなくても、困ったときに開いてください ―  作者: わく


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今だけで、自分を決めないで

ある夜、ママは僕に泣きながら話した。


言葉はうまくまとまっていなかった。


怒って、泣いて、何度も同じことを言って。


それでも、止まらなかった。


「私がいなくなった方が、子どもたちは楽なんじゃないかって思うの」


僕は、その言葉を軽く扱えなかった。


ママは、


自分がいなければ。


自分にかかるお金もなくなる。家のローンもなくなるし、生命保険金だけで2人の子どもが大学までいける分までちゃんと契約している。


自分のことで子どもたちが傷つくこともなくなる。


家のことも、お金のことも、


全部、少し楽になるんじゃないか。


そんなふうにまで考えていた。


「私がいなくなれば、全部解決するんじゃないかって」


それは、


疲れたから少し休みたい、とか。


どこか遠くへ行きたい、とか。


そういう意味ではなかった。


本当に、


親をやめたい。


全部やめたい。


誰とも関わりたくない。


何もしたくない。


もう終わらせたい。


そこまで追い詰められていた。


でも同時に、


ママは子どもたちのことを考えていた。


いなくなった方が楽にしてあげられるんじゃないか、と考えながら、


いなくなったら、この子たちはどうなるんだろう、とも考えていた。


矛盾しているように見える。


でも、


追い詰められている時の人間の頭の中では、


その二つが一緒に存在することがある。


ママは昔、お兄ちゃんを自死で亡くしている。


だから、


残された家族が何を考えるかも知っていた。


「何かできたんじゃないか」


「気づけたんじゃないか」


「もっと話を聞けばよかったんじゃないか」


その問いが、


何年経っても消えないことも知っていた。


それなのに、


自分がその時のお兄ちゃんと同じ場所の近くまで来ていた。


僕は、


そこがこの話のいちばん苦しいところだと思った。


自死を選ぶ人が、


家族を嫌いだからそこへ行くとは限らない。


逆に、


「自分がいない方が、この人たちは幸せになる」


と、


家族を思う気持ちまで使って、


自分を消す理由を作ってしまうことがある。


でも。


それは、


苦しさの中で見えていた世界だった。


ママはあとから、


何度も僕に言った。


「命は大切ですって言いたいんじゃないの」


「今だけで、自分を決めてほしくないの」


その言葉には、


お兄ちゃんのことだけじゃなく、


あの夜の自分も入っていた。


あの時のママには、


「私がいなくなれば全部解決する」


という答えが、


本当に正しく見えていた。


でも、


時間が少し過ぎたら、


同じ答えには見えなくなった。


苦しい時に出した答えが、


未来の自分にとっても正しいとは限らない。


だからママは、


たった一年じゃなくてもいいと言った。


数か月でもいい。


数日でもいい。


数分でもいい。


今いる場所から、


ほんの少しだけ外を見てほしい。


今の自分を嫌っている人しか周りにいなくても、


別の場所には、


同じ自分を必要としてくれる人がいるかもしれない。


今の学校でうまくいかなくても、


学校が変われば出会う人は変わる。


今の仕事で評価されなくても、


場所を変えたら、


それまでの経験を持った人として見てもらえることがある。


ママ自身が、


それを経験した。


一つの場所の評価が、


人間そのものの評価ではない。


そして、


今つらい。


それと、


この先もずっとつらい。


は、


同じ文章ではない。




もし、いつか、


「自分自身ががいない方がみんな楽なんじゃないか」


と思う日が来たら。


その考えを、


一人で正解にしないでほしい。


ママも、


そこまで考えたことがある。


だからこそ言う。


今だけで、


自分を決めないで。


今見えている世界だけで、


これからの全部を決めないで。


ママに聞けるなら、


ママに言って。


言えないなら、


別の大人でもいい。


先生でもいい。


友達でもいい。


そして、


ママに聞きたいのに、


もう聞けない日だったら。


この本を開いて。


たぶんママは、


こう言うと思う。


「その答え、今日決めなくていいよ」

「またママもずっと悩んできた。でも答えは1ヶ月後に変わるんだよ、不思議なことに。適当に言ってるって思うでしょ???」



「場所と、周りの人が変わるだけで自分の価値がこんなにも違うんだってママは気づけたんだ。


その気づけたことが幸せだよね。きっとその数ヶ月に自分の価値を決めていくことは多いから」



「今、あなたは周りからどう思われてるかなって考えてる?一人でいることが恥ずかしいと思う?学校や会社には毎日行かなければいけないと思う?」



「そう感じているなら、その環境から抜け出して欲しい。

この広い世界に、あなたを『恥ずかしい』だけの言葉で表現出来る世界はないのだから。

あなたの好きなこと、得意なこと、一日中没頭できるとこ……それ自体が世界に誇れることだと、この狭い島国には知らない人が多すぎるの。」









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