★第6.5話:覇王の独占欲、あるいは極上のポートフォリオ
旧サンクチュアリ王国の王宮、最上階。
かつてフェルディナントがコレットと共に甘い夜を過ごしていた豪奢な主寝室は、今やヴォルテール帝国の漆黒の軍旗が掲げられ、アレクサンドル・フォン・ヴォルテール皇帝の仮設の私室へと作り替えられていた。
窓の外では、不良債権と化した旧王国紙幣を燃やす焼却炉の赤い炎が、夜空を焦がすように揺らめいている。
「……んっ、ぁ……陛下……」
豪奢な天蓋付きのベッドの上で、ルナ・フォン・グラウスは甘い吐息を漏らした。
白銀のドレスはすでに床に脱ぎ捨てられ、月明かりに照らされた彼女の滑らかな白い肌を、アレクサンドルの大きくて熱い手が這わされている。
「陛下ではなく、アレクサンドルと呼べと言ったはずだが?」
覇王は低く響く声で囁きながら、ルナの首筋から鎖骨へと、独占欲を刻みつけるように深い口付けを落としていく。
「ぁ、アレク……サンドル様……っ。明日も早朝から、旧国営農地の再編会議が……」
「帝国の副総裁としては働き者で結構だが、今は私の腕の中だ。……あの愚かな元王太子のように、君の頭脳と価値を安売りするつもりはない。夜は十分に、私からの『配当』を受け取ってもらわねばな」
アレクサンドルはルナの抵抗を甘く封じ込めると、彼女の細い腰を引き寄せ、その熱い身体を密着させた。
冷徹に数字を弾き出し、一国の経済を容赦なく解体してみせた氷の令嬢が、今、覇王の腕の中ではただの愛らしい女として頬を染め、熱に浮かされている。
アレクサンドルにとって、これほど庇護欲と征服欲を満たされる至高の「資産」は他になかった。
「ルナ。君の計算は常に完璧だ。……だが、私の君に対するこの投資熱だけは、どんな予測モデルを使っても計算しきれないだろう?」
「……ええ。陛下の私への評価額は、少々、市場の適正価格を逸脱しておりますわ……っ、んぅ……」
ルナが愛らしい抗議の声を上げると、アレクサンドルは低く笑い、彼女の形の良い唇を深く塞いだ。
互いの舌が絡み合い、甘い唾液の音が静かな寝室に響く。帝国金貨の冷たい輝きも、国家の興亡も、今の二人には関係ない。あるのは、互いの能力と存在を極限まで求め合う、深く激しい情熱だけだった。
「君のすべては私のものだ。……頭脳も、その美しい声も、熱く濡れた肌も、すべて私が独占する。誰にも手放しはしない」
「……光栄ですわ、私の覇王様。……私も、あなたのすべてを、私だけの『最優良資産』として、一生涯保有し続けてさしあげます……」
ルナがアレクサンドルの広い背中に腕を回し、妖艶に微笑む。
窓の外で、フェルディナントの絶望と共に燃え上がる旧王国紙幣の炎を背景に。
覇王と冷徹な財務卿の姫は、夜の闇が白むまで、互いの愛と価値を深く、何度も確かめ合い続けたのだった。




