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第4話:怪物の来訪、あるいは「鑑定」の刻

サンクチュアリ王国の謁見の間は、かつてない緊張感に包まれていた。


「……ヴォルテール帝国皇帝、アレクサンドル・フォン・ヴォルテール陛下。ならびに、グラウス公爵家前当主、**イライザ・フォン・グラウス卿**のご入場であります!」


衛兵の震える声と共に、二人の男が姿を現した。


一人は、若き覇王アレクサンドル。その身から放たれる圧倒的な威圧感は、居並ぶ貴族たちを蛇に睨まれた蛙のように硬直させる。


そしてもう一人。

白髪を完璧に整え、老いを感じさせない鋭い眼光を放つ老紳士――**イライザ・フォン・グラウス**。


彼はかつて、一介の地方貴族だったグラウス家を、その「相場師」としての才覚だけで公爵家まで押し上げた伝説の銀行家だ。

彼が動かした「数字」によって、過去に二つの小国が地図から消えたと言われている。


「……ルナ。久しぶりだな」


イライザの声は、掠れているが鐘の音のように響いた。

彼は孫娘の顔をじっと見つめ、その瞳の奥にある「疲弊」と「冷徹な計算」を一瞬で見抜いた。


「お久しぶりでございます、おじい様。……ご健勝そうで何よりですわ」


ルナが完璧な淑女の礼を捧げると、イライザの隣にいたアレクサンドルが、愉しげに口角を上げた。


「なるほど、卿が『我が帝国に匹敵する頭脳』と誇っていた孫娘か。……確かに、いい目をしている。金貨の輝きを知る者の目だ」


---


「……あ、あの! ようこそおいでくださいましたっ、陛下! それに、グラウス大公様!」


その重厚な空気を読まずに、フェルディナントの陰からコレットが飛び出した。

彼女はいつものように、あざとく首を傾げ、潤んだ瞳で二人を見上げる。


「わたくし、コレットと申します。……遠いところからお疲れではありませんか? よろしければ、わたくしが心を込めて淹れたハーブティーで、皆様を癒して差し上げたいなって……」


コレットの「無垢な少女」の演技。

愛らしく、守ってあげたくなるような、男性受けのする極致。


だが。


「…………」


イライザは、コレットを「人間」としてではなく、「価値のない不良債権」を見るような冷ややかな目で一瞥した。


「……フェルディナント殿下。……この、騒がしい小娘はどこのどなたかな?」


「な、……小娘!? 卿、失礼ではないか! 彼女は僕の……その、大切な友人であり、この国の『慈愛の象徴』だぞ!」


フェルディナントが色をなして抗議するが、イライザの視線はすでに彼を通り過ぎていた。


「『慈愛』、か。……数字の裏付けのない慈愛は、ただの『横領』だ。……殿下、貴公の代でグラウス家が築き上げた資産がどれほど溶けたか、理解しておいでか?」


「なっ……!?」


「……計算するまでもない。この男は、自分の財布に穴が開いていることすら気づいておらん」


イライザは、隣のアレクサンドルに向かって、淡々と言い放った。

アレクサンドルは、面白くてたまらないといった様子で、ルナを見つめている。


「どうやら、この国は私の想像以上に『腐敗』が進んでいるようだ。……ルナ・フォン・グラウス卿。君は、この沈みゆく泥舟をいつまで支えるつもりだ?」


皇帝の問いに、謁見の間が凍りつく。


ルナは、フェルディナントの怯えた顔と、無視された屈辱に震えるコレットの顔を横目に、静かに答えた。


「……私は財務卿ですので。……『回収』の目処が立たない限り、職務を全うするのみですわ」


「ははは! 『回収』か! いい響きだ!」


アレクサンドルは、ルナに歩み寄り、その手を取って恭しく口づけを落とした。

婚約者であるフェルディナントの目の前で、である。


「……近いうちに、私の元へ来い。……君のような『宝石』が、こんな豚小屋に転がっているのは忍びない」

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