第一話 COUNT ONE "Memory Module Overdrive"
月の光に照らされながら、ハンドルを1/6ほど右に切った瞬間、フロントグリルがキラリと光を放った時、何かが頭の隅にひっかかった。が、俺のセグウェイはそのままクラッチを踏み、ギヤを入れアクセルを踏みこんだところで、クラッチペダルを解放した。もうすっかりセグウェイは俺の体の一部だ。おそらく今、この世界で一番の俺はセグウェイ乗り。
車体が後ろでずるずると横にすべり始め、土くれと炭くずを弾き飛ばす賑やかな後輪の空回る音が俺の気持ちをあおる。はずみで開いたバックドアからローズの死体が転がり落ちた。が、それはそれ、軽くハンドルを左にあてて調子をとりながら、俺はさらにアクセルを踏み込んだ。
ギギィ~~~~~~~ィ~~ッ!
鼻歌まじりの俺はいっぱいにブレーキペダルを踏み込んだ。
おかしい。V型6気筒SOHCエンジンの律動よりも早く胸の鼓動が高鳴る。心臓と胃の中に大量のアドレナリンが放出されている気がする。不吉の源は、この光。月を見上げ、自分の手元を見つめ、再び月を見つめ、視線を落とした自分の手元から視線が剥がせない。
ない。ない。ない。恋がない!
ない! あのリングがない。生萌との約束のリング、俺とアイツを、この複雑な世界でたったひとつ結びつけてくれるあの銀のプロミスト・リングが。なぜ、どうして。
さっき頭の隅っこにひっかかった何か、そして、俺が今までたどってきた道筋のある一点が、俺の正気をぶん殴る。
我を失い、脊椎を冷え冷えとした鋭い不安の予感につきあげられる悪寒のまま、俺はアクセルペダルをベタ踏みし、叫び声をあげながら角川ん家の屋敷森の角を光速で直角に曲がった。
あとは一本道、この未舗装の泥道をたどればもうすぐ、もうすぐ俺の家が見えるはず。このぼた岡の向こうに、生まれ育ったあの遠く懐かしいボロ小屋が……。
(次回予告)
焔の灯りを映し、そこに立つ銀色の甲冑をまとった男は、背中までを覆う銀の髪を熱風になびかせ、美しく燦然と目に焼き付いた。細身の剣を右手に下げ、左腕には生気を失いもたれかかるように力ない生萌を抱え。タフネス大地に立つ!ウォータの口から力なく声が垂れる。
「グリフィ……」




