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第一部 第二章 第ろく話 Chance is once.

「そのままゆっくりと立て」

 俺の背後からそう低く怒気を抑えた声が聞こえた。右のホルスターに下げた戦士の銃を抜き、右回りに体を転がしながら3発打てば、悪くとも後の襲撃者の機先を制し、大勢を優位に持ち込める。そう考えながら「いえいえ、あっしはめっそうもございません。これはこれはそのような…」

と時代を考慮した言い回しで下手に出ながら、そのままの態勢から右腕を一気に銃把に伸ばそうとしたが、「その腕ごと叩き落すぞ! 両手を上げて、言われたとおりに立て」

 声質からすると若い。若くて無鉄砲な質ではあるが、どこかその裏にそれなりの修羅場をくぐった者の腹の据わった自信が張り付いている。俺は言われるままに両手を上げ立ち上がる。といってもセグウェイの両輪でだが。


 こっちを向け、と言われ、向き合った男を見て、俺は自分の想像が当たっているのかいないのか、微妙な違和感を感じた。その感覚の詳細はわからない。


しかしこいつはまともな人間ではないだろう。


 男は、硬そうな髪を束ねて、紺地に碇のマークを白く抜いたような模様の織りの荒そうな着古したものを一重に羽織っている。片目を分けてたらした髪で隠し、開いている目の玉だけやたらにでかく、腕と足にぼろ布を巻きつけた性根の読めそうにない男。いや、青年未満だろう。どこか浮世が板についていない様子がある。


 男の手には午後の柔らかな光を、冷たくはねかえす大刀が握られている。幾多の修羅場をかいくぐってきた俺にはゾクリとわかるが、その太刀筋はきっと俺の想像を超えて軽々とこの首をはね飛ばすだろう。この距離で向き合って俺に勝ち目は十割、ない。喉が鳴る。


「おもえ、おもえっ!」

 だが男は両手を上げた俺に関心を示しもせず、俺をおしのけると娘に駆け寄っていった。

「どうした? この男に何をされた? 苦しいのか? 吐け!吐くんだ!」必死である。たかが小娘一人にこの大仰な言い様はどうしたことだ? 見苦しい。俺の見立ては間違っていたようだ。この男はその程度のカスなのだ。相手にしていられない。こっそりとセグウェイの車輪を後転させながら「では、バイなら」と、こそこそ逃げ失せようとした俺のセグウェイのアルミフェンダーとタイヤの間に小柄がシュッと飛んできて動きを止められた。


「貴様、何をおもえに食わせた? 何でおもえを殺した?」真っ赤に染まった男の顔、しかし目の周りは異様に青白い。ふりむく俺の目に映ったその男の正気の程は定かではなかった。


「俺は自分の弁当を生萌に譲っただけだ。生萌はコスプレで生地とか化粧品とかが要るっていうから、昼飯代を浮かしてつぎこんでた。だからきっと腹が減ってたんだ。俺は、俺はそんな生萌が可愛そうで可愛いから俺の弁当を渡したんだ。

俺だって腹が減ってた。だからかわりに、弁当の代わりに、納屋で生萌にちょっと…お願いした。したよ! しましたよっ!でもよ、ギブアンドテイクでしょうが! おいしい思いをしたなら、おいしい思いをさせてお返ししなきゃ。そうだろ、なあ?」


「畜生め!」男は刀を振りかぶろうとする動作から見る間に、一間(181.8センチメートル)の距離を飛び切りかかってきた。額からふたつに割られるところを、抜きざまの戦士の銃の銃身で受け止める。散った火花をはさんで互いに一間を飛び退る。

 見た目でなめてはかかれない男を前に、俺は身動きが取れなくなった。さっきの奴の一刀を受けはしたものの、流し跳ね上げる反動で戦士の銃を手放してしまった。しかし同じく、奴の刀も俺の銃のトリガーガードにひっかかったまま互いから一間半のところにころがっている。


 互いに空手で動けぬままもう半日近く、この野っぱらであの男とにらみあっている。陽はもう東の山の稜線に沈もうとしている。陽の温もりが失われると共に風向きが変わり、葦がサワサワとざわめきはじめる。ツいとトンボが水面をなでた瞬間、水面で魚が跳ねた。それと同時にふたりが動いた。


 スローモーショーンのように奴の動きが見える、一線にこちらに向かって飛んできながら奴は、右腕で左腕をひっこぬきやがった。そしてそこから生まれたような刃が一瞬きらめき、まっすぐにこちらを刺し貫こうとする。


 おれは落ち着いて右腕で左の腕を抜き、サイコガンを放つ。


 ズキューーーソ!


 なんとなく捨て台詞すら言うような気持ちになれなかった俺は、名も知らぬヤツと、おもえを埋めた土饅頭に一度手を合わせ、さあ、これからどこへ行こうかと夕闇を仰ぎ見た。ところで、 ドオーーーソ! という音と衝撃に全身をゆさぶられた。


 その次々とたたみかけるような出来事に気をとられ、ビックリでいっぱいだった俺。俺は左手の薬指にはめていた、生萌と俺を唯一繋いでいた、あの銀の指輪がいつのまにか消え失せていたことに気づくゆとりなどなかった。


(次回予告)時代を超え、はるか過去へと漂流していたタフネス大地に立つ!ウオーターだったが、偶然手に入れた未来へのワンウェイチケット。だがそれは……。

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