全てはあなたのために
お読みいただきありがとうございます。
昨日7/11は一話抜けての投稿をしてすいませんでした。
修正しました。
本当に申し訳ありませんでした。
城の召使か誰かが躊躇いがちに扉をノックする音が部屋に響き、私はその音によって微睡から目が冷めた。
「ああ、全く。昨夜よりも体力を失っている。」
起き上がろうにも体が重く、私は隣に寝ているはずの男に自分の全てを託すことにした。
「ねえ、オスカー。私は一日中ベッドにいたいわ。部屋の外の人との交渉事は全てあなたに任せていいかしら?」
……。
いやしねえ。
最初の夜の翌朝に私の隣にいなかった事を私が詰った時に、彼は絶対に私が起きるまで隣にいるという約束だったと言うのに、今朝も隣にいないとは!
彼は一体何をしているのか。
トントン。
ドントディスターブな札を作っておいて、部屋の扉に掛けておけばよかったのだろうか?
「遠見の癖に寝ている客人に召使いを差し向けやがって!いや、遠見だからこその嫌がらせか?これは?」
私はどうするべきか。
元は侯爵様だった私だ。
そしてここは敵か味方かわからない、能力値の高い魔人の懐である。
私は掛布団を頭にまで引き上げて包まった。
「寝直す。体力を回復せねば何もできやしないもの。」
とんとんとんとんとんとん。
「煩いなっ!」
私は布団の中で手を閃かせてモニター窓を作り、扉の前に立ってるだろう人物の様子をそこに映した。
「オスカー。」
脱力した私はそのままベッドに突っ伏した。
朝食用のカートを押してきてくれたのは最高だが、扉ぐらい自分で開けろよ、そんな脱力である。
いや、私を起こしたいからこそのノックかな?
寝ている私を起こすのは、起こされた私が確実に機嫌が悪くなると知っているからか、彼は苦手なのである。
また、ついこの間まで一緒のベッドに寝る事は無かった私達であるからして、私が献身的なオスカーに返せるものが飯しかなかった。
ので、私が自主的に早起きして朝ご飯を作っていたという数か月だったのだ。
それが一緒に寝る様になったら、いつまでも起きないくせに自分が起きた時は必ず横にいろとヒスるんだから、彼はとってもセンシティブになっているのかもしれない。
掛け布団を捲り上げると私は重たい体を持ち上げて、大きく溜息を吐きながらベッドから足を下ろした。
そこで自分がオスカーによってシミーズは着せられていた事に感謝しながら、ヨタヨタと扉に向かって足を運んだ。
大きな部屋を与えられたと喜ぶべきか、部屋が広すぎて移動が面倒だとロアストクを罵るべきか。
だが、あと一歩で扉の前、という所で私の足は止まった。
部屋の扉には蔦が這っていた。
室内に置かれていた花瓶が扉の前に置かれているのだが、それがあり得ない生長を遂げて扉の取っ手に絡みついているのである。
「なんじゃ?これは!」
「開けてください。あなたを守るためのものですから、あなたでないとその蔦は扉から剥がれないんです。」
「君は進化しているんだな。」
最初の夜は季節外れのブルーベリーの実をくれた。
獣のような昨夜のお返しが、眠りの森の姫を演出してくれるようないばらの蔦を扉に這わすという芸だったとは!
「いや。いばらの中を進むのは王子だった。ということは、オスカーは乙女か!そうだな。傷つきやすさは私よりも乙女だな。」
私が扉に手をかけると、蔦は蛇のような動きをしながら一気に扉から剥がれた。
そしてすぐに扉が開き、待ちに待ったというべき私の男が姿を見せた。
「おはよう。麗しのペルレ。」
「おはよう。私のハーゼさん。力自慢だったら私を背負って下さる?体がだるくてもう動きたくないのよ。」
オスカーは嬉しそうに喉を鳴らして笑うと、早速という風に私を抱き上げた。
お姫様抱っこではなく、父親が子供を抱くような抱き上げ方だったが、彼の唇は直ぐに私の唇を塞いで私を追い立ててきた。
「せっかくご飯を持って来たのですから、ちゃんと食べましょう。」
「人の口を貪っている人の言う事か!」
「寝とぼけていたあなたと違って、立ち働いていた俺は腹ペコなんですよ。」
「アハハ。ねえ、我儘していい?」
「もちろんです。」
わあ、本気で嬉しくて堪らない、というか、誇らしさで一杯、なんて声を出して来たとは!
「何がお望みですか?ペルレ。」
私はオスカーの頬を右手で包みこむように撫でると、彼の鼻の頭に軽くキスをしてから軽く齧った。
「私にご飯を食べさせて。私はベッドで横になったまま、あなたに赤ちゃんのようにしてご飯を食べさせてもらいたいの。」
私を抱くオスカーの腕にきゅっと力が籠った。
それから彼は私の喉元に唇を当てて、キスではなく、舐めた。
「きゃあ。」
「私は愛するあなたにご飯を与え、私は赤ん坊になったあなたを食べる。」
「まあ、いやらしい!」
私達は再び唇を重ね合った。
そして私のお腹は、ぐうと鳴った。
「きゃあ!」
私はオスカーによってベッドに放り込まれた。
悪戯な彼は笑いながらカートへと戻って行き、きっと私が彼に抗議する前に、彼は私の口に何かを放り込んでくれることだろう。
「五月二十八日のアルビーナ・バックハウスによるミザナ災厄。あの日からルビータは国力を衰え、隣人を憎み、家族がバラバラとなった。」
私とオスカーの時間は止まった。
だって、天から降って来たような声は、この声は、ジャンのものだ。
私はベッドから起き上がると、ベランダに向かって走っていた。
だって、今の声は空から聞こえた。
「アルビーナ!外に出てはいけない!」
オスカーは私を押さえられなかった。
だって、ジャンの声が空から聞こえた。
私はベランダの窓を開け放った。
「彼女はまだ生きている!北部、ロアストクの地にて生きている!」
青い空には、水蒸気を利用して作り出された大きなモニターが浮かんでいた。
画像は雲で作ったような白い影でしかなかったが、それはジャンだった。
ジャンでしかなかった。
「恥知らずな魔物。人の命を吸い取り破滅に導く魔物。我、ヤン・ヘルツォークが成敗し、民の安全と幸せを取り戻すことをここに誓おう。」
私は石造りのベランダに両膝をついていた。
恥知らず、その言葉だけが胸を抉っていた。
私はジャンを裏切っていた恥知らずだ。




